脚本家 古谷壮志の
「わーるど・いず・のっといなふ」
「SO,SO.」


「カウボーイ・ビバップ天国への扉」を観た。


最近、映画づいているせいかこの書き出しの事が多いが、まあその辺はご愛嬌。 久しぶりのアニメ映画で私は結構期待していた。


というより、かなり期待していた。


というのも、この作品。知っている人も多いと思うが、元々はテレビシリーズで。これが、雰囲気重視のレイモンド・チャンドラー風のハードボイルドと、エルモア・レナードのポップな感じのパルプフィクションとをミックスしたような印象のSFアクションで、ミニシリーズにしては中々の秀作だったからで、音楽も良かった。

そう思ってたいのは勿論私だけではなく。世間での前評判も上々の作品だったのだ。


しかしながら、観てみてがっくり。実につまらない作品だったのだ。



まあアクションはふんだんに入っているし。主人公はかっこいい。作品全体に流れる雰囲気も、音楽も良かった。



だが、肝心の中身がすっからかんだったのである。物語は、人間を死に至らしめるナノマシンだかなんだか、を持ったテロリストが、無差別大量殺人テロを行う。最後に大規模なテロを計画しているのを知った主人公スパイクがそれを阻止すべく奔走する。



というごく単純な・・・というかありふれた・・・それよりも、使い古されたプロットで。その上、無差別テロを行うにしてはテロリストの動機付けが余りにもあいまいなのだ。その辺がどうも気になった。



なんでも、物語上ではそのテロリストは元軍人で、人体実験のモルモットにされた過去があるらしい。しかしながら、それが無差別殺人テロに至る動機かと言うと、どうもそうでもないらしく。ハッキリ言ってテロリストの行動が意味不明なのだ。



テロでやたらと人を殺す割にはさしたる要求がある訳でもなく。協力者が二人しかいないのに二人とも殺してしまうし、どこから調達したのか莫大な資金も持っている。あげくに記憶喪失だったらしく。最後に「記憶を失った自分が本当に現実の世界に生きているのか確証が持てず。それを確認したかった・・・」とかのたまうのである。



全編を通して「何言ってるんだこいつ?」という疑問符の連続な上に、主人公はそれに「お前の気持ち、解るぜ」とか言って乗っかって行くのである。もう訳わかりません。



エンドテロップで「Are you living in the real world?」とか出るのだ。なんじゃそりゃ?おまけにたいした複線もどんでん返しも無い。


もうお手上げだ。 以前の私なら、雰囲気だけで楽しめたのかもしれないし、アクションシーンもちゃんと作ってあるから、大画面で見ればそれだけで納得したのかも知れない。



だが、あの事件があった。例の世界同時多発テロである。 世界の目はテロの恐怖に釘付けになり、勿論私も例外ではない。そこで知ったのは、今まで漠然と捕らえていた「テロリスト」という者の実像である。


テロリストにはそれに至る背景と宗教や思想なんかの強力なイデオロギーが確実にある。誰も理由無く人を殺したりなどしないし、テロという行為はある種の宣伝、プロパガンダの筈であり、自分でも何故そんなことをするのか解らないテロリストなんて居よう筈もない。


アメリカでよくあるアホな銃乱射事件なんかも、やっている事は同じだがあくまで愉快犯の類が多く、テロとは報道されたり認識されたりしない。私からすれば「カウボーイ…」のテロリストはそのアホな愉快犯と変わりない。


恐らく、9月11日に起こったテロというのはある意味、テロリズムとしては究極だったのだろう。我々は現実にそれを目にしてしまったのだ。


「事実は小説より奇なり」とはよく言ったもので、トム・クランシーの小説でも。アメリカの国会議事堂に日本のジャンボジェットが突っ込み。自爆攻撃を行うというのがあったけれど。


これにしても現実はそれを超えている。現実の出来事がフィクションを遥かに上回っているのだから。ちょっとやそっとじゃ驚かなくなってしまったのだろうか?考えるとなんだか悲しくなってしまう。



とりあえず新作映画の「コラテラルダメージ」は当分観ない事にする。きっとあれも同じように大した事無いという印象を受けるからだ。




蛇足ではあるが「コラテラルダメージ」略して「コラダメ」だからって訳では無い。
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