当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

 

オリンピック地下鉄線差止請求事件

 訴訟物の価額 金九五〇,○○○円也

 貼用印紙額  金  八,二〇〇円也

 

請求の趣旨

 別紙請求の趣旨記載のとおり

請求の原因

 別紙請求の原因記載のとおり

 

証拠方法

一、甲第一号証 監査請求書

二、甲第二号証 監査結果通知書

三、甲第三号証 声明(違法な大阪市の住民監査斉求の却下について)

 

添付書類

一、甲名号証  各一通

二、委任状  一〇九通

 

平成一二年五月一七日

右原告ら訴訟代理人

 弁護士 井上善雄

 弁護士 木村達也

 弁護士 笠松健一

 弁護士 大西裕子

 弁護士 岩本 朗

 弁護士 太田真美

 弁護士 山川元庸

 弁護士 辻 公雄

 弁護士 松尾直嗣

 

大阪地方裁判所 民事部御中

 

請求の原因

 

第一、当事者

一、原告らは、いずれも大阪市内に住む住民もしくは本部事務局を有する任意団体である。

二、被告磯村隆文大阪市長は、大阪市長の職にあって住民の負託の下に、住民福祉のために行政運営を行い、公金支出管理にあたる者である。

 

第二、地下鉄「北港テクノポート線」(オリンピック地下鉄線)建設事業の違法性

一、オリンピック地下鉄線

1.被告大阪市長は、二〇〇八年の夏期にオリンピックを大阪港の埋立地舞洲を中心とした競技場に誘致するとして、選手村を建設する予定で土地造成中の夢洲を経由する北港テクノポート線(「オリンピック地下鉄線、または単に「本線」と略称)を二〇〇七年度内に完成するとし、本年度内に着手するとしている。

2.本線は、大阪南港コスモスクェア駅から夢洲、舞洲を経て此花区北港二丁目までの七・三キロを咲洲-夢洲-舞洲-桜島それぞれを海底トンネルで結ぶというもので、建設事業費は一八七〇億円と試算されていたが、その後の予算では大阪市が一一四〇億円でトンネル本体を建設し、線路・駅などの鉄道施設は大阪市五一%出資の第三セクター椛蜊纃`トランスポートシステムが七三〇億円で整備・営業する予定といわれている。

3.なお、大阪市が二〇〇〇年度に本線着工のために直接予算化した金額は三三億円である。

 

二、オリンピック地下鉄線建設事業の違法性

 本線はゴミ等の埋立地で現在、舞洲・夢洲が無住区であるところ、舞洲にオリンピック用の巨大競技場、また夢洲に選手村を建設し、二〇〇八年の夏わずか一七日間の期間中に観客らを大量運送するために地下鉄がいるというものである。

 そのために、別途計画の夢洲地区の住宅開発と六万人の居住が見込まれているとし、運輸政策審議会での二〇〇五年までの着工を早めて本年度二〇〇〇年度内に着工するというのである。しかしながら、本線の建設事業及び公費支出は違法である。

 

1.公金支出の適法要件

 市民の税金をもって営む地方公共団体として大阪市の事業及び公金の支出には、次の条件が必要である。

(1)市の本来不可欠な目的のために必要なもので、内容・方法も地方自治の本旨に適合していること(憲法九二条、地方自治法一条、二条三項、一二項)。

(2)住民の福祉の増進に努め、最少の経費で最大の効果を挙げるものであること(地方自治法二条一三項)。

(3)住民の福祉サービスが公平平等であること(憲法一四条、地方自治法一〇条)。

(4)組織運営が合理化に努めたものであること(地方自治法二条一四項)。

(5)地方公共団体の経費は、その目的を達するための必要且つ最少限度を越えて支出してはならず(地方財政法四条一項)、予算の執行、支出の増加については当該年度のみならず、翌年度以降における財政状況を考慮して、その健全な運営を損なうことがないようにしなければならない(地方財政法四条の二)し、地方公共団体の財産は常に良好の状態において管理し、その所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない(地方財政法八条)こと。

(6)市の事業は市民の税金によって信託されるものであるから、本線の緊要度を含む目的を明確にし、事業目的を達する有効性、その手段・方法の効率性、そして最少の経費であることの経済性について満足することを含めた説明責任を果たす事も条件として必要である。

(7)さらに、このような計画と事業について民主的な手続・審議を経て、市民的の合一意のあることが求められる。

(8)特に、一事業が他の行政目的を圧迫したり、またそれと均衡を欠くことは許されず、一度建設を始めると容易に変更できない巨大な事業、さらに自然的、社会的、環境上の不可避的変化をもたらすものについては、特に慎重さが求められ、厳しい財政事業の下でも緊要度の高いものであることについて合意形成の充分さが必要である。

(9)地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない(地方自治法2条15項)のであり、違反して行った行為は無効とされる(地方自治法2条16項)。しかるに、本線は右各条件を有せず違法である。

 

2.本線の計画・着手の虚構性

(1)二〇〇八年のオリンピック大阪誘致の実現は極めて困難である。

 二〇〇八年には、アジア四都市、北京・クアラルンプール・バンコク・イスタンブール、アフリカのカイロ、北米のトロント、中米のハバナ、南米のブエノスアイレス、ヨーロッパのセビリア・バリと誘致を申し出ている都市がある。その中で最有力視されている北京をはじめ多数の日本・ラランス以外の未開催国の都市が応募しており、これらを差し置いた日本で四度目のオリンピック開催は夢物語である。

(2)また、仮りに本年度に着工したとしても実際には本線の工事技術的要件、経済社会的条件かち二〇〇七年度内どころか二〇〇八年七月の完成も事実上困難であって、大阪オリンピックに役立たない。

(3)建設費は一八七〇億円と試算公表しているが、これまでの地下鉄建設の実績に照らし、三ケ所の海底トンネル、メーン競技場をつくる舞洲駅(仮名)の建設費を含め、総額は三八○○億円に達する。

(4)さらに、オリンピック開催後は選手村を改装し、住宅供給をなして夢洲に六万人を入居させ利用者が増大するというが、その「新住宅供給計画も二〇年も先の夢物語で、二〇〇八年に地下鉄を日常運行させる程の利用客は全くない。

 すなわち、建設をすれば工事費はもとより、その後の維持費を含め莫大な赤字を出すのである。

(5)右(3)(4)は現在、大阪港より中埠頭までの建設・運行をしている南港テクノポート線建設費やそれを運行している株式会社大阪港トランスボートシステム(以下「OTS」、大阪市が五一%の株式保有)の年一九億の鉄道営業損失の状況をみれば明白である。

(6)以上、虚構による本線の計画と着手は不法である。

 

3.公共交通事業計画としての非常識性

 現代の都市は、軌道と道路を骨格として計画的に整備される。都市内交通を荷なう公共交通は、整備予定地域の人口の集積と予測をもとに、その種類を選択される。

 地下鉄は、高速大量輸送機関に分類されるが、建設費が高額であることが特色であり、地下鉄を整備し運営するには、地下鉄の沿線地域に高密度な人口の集積が必要である。大阪市営地下鉄の路線別の経営収支でみれば、黒字であるのは御堂筋線だけであり、他の路線は赤字である。沿線に人口の集積のある大阪市内陸部の地下鉄の収支ですら、右の実情にある。

 人口密度の低い此花区と、現在は埋立中で造成後も地下鉄を必要とする程の人口の生じない夢洲・南港を結ぶ本線は、公共交通機関の整備の原則からも「採算の予測からも全く非常識という外はない。

 

4.本線着手の狙い 反公共性

 以上のような真相を隠した本線工事の二〇〇〇年着手の狙いは、第一にオリンピックの美名に名を借りた巨大建設事業によって利益を得る建設業業界やオリンピックを「興業」とする関係業界の利潤追及にある。オリンピックによるその景気浮揚もその美名を冠した宣伝文句である。第二に大阪市に余剰役人の天下り先を含む利権領域の拡大確保も狙いである。第三にオリンピックで利益を得ようとする政治家、現在の大阪市の幹部の、オリンピックを題目として夢をバラまく政治的支配の狙いである。

 

5.本線強行をめぐる弊害

(1) 被告大阪市長は、誘致運動中の大阪オリンピックで、「『夢』や『感動』や『希望』を」と乱発し、まるでオリンピック興業主のごとく広報宣伝するが、オリンピックは大阪でなくとも開催され、選手はこれに参加し、一般市民は外国の競技場に行くこともでき、もちろんほとんどの市民はテレビしか観戦できない。そのオリンピック参加の選手の夢やこれを視る市民の感動はオリンピック競技そのもので生れるもので、大阪市の主催によって生まれるものでない。むしろ、一七日間の主催によって外国も含む集客の恩恵を受ける者は一部であり、大阪市民が得る利益はほんのわずかである。一方、多くの市民は、APECの時以上の交通規制その他で不自由や被害さえ受ける。

(2) それだけでなく、本件工事に莫大な市民の税が投入され、その分福祉、教育、環境などの市民生活への配分が少なくなることはいうまでもない。大阪市は、平成一〇年度末に四兆六〇〇〇億円の累積債務(赤字)があり、オリンピック誘致にかこつけた投入費用は、公表データの五三二一億円ところか、その二倍以上の一兆三一九〇億円と見込まれ、財政危機を一層深めるものである。

(3) 本線についてみても、一八七〇億円(実際は三八○○億円)を投じるというが、その「回収」はもとより本線の維持費すら赤字となる。かかる赤字路線を現在の無人地帯に先行投資することは、大阪市の地方公営交通の危機を増大させ、また第三セクター、OTSの破綻をもたらし、結局、大阪市民にその尻拭いをさせることになる。

(4) さらに、夢洲・舞洲の埋立地の浚渫土砂中のPCB・ダイオキシン等汚染問題などの危険性について解消した保障がない見切り着工は、将来に取返しのつかない事態を招く危険がある。

 

6.被告磯村大阪市長の著しい裁量権逸脱

 被告磯村市長に一定の裁量権があるとしても、本件は裁量権を逸脱し、濫用するものである。すなわち、前記のとおり要約すれば、

(1)二〇〇八年の大阪オリンピックを口実に着工を急ぎ、また真実は予算の範囲内で不可能であり、二〇〇七年度内に完成させ、オリンピックに間に合わせることもできず、居住者のいない地区に無謀な建設工事を行なうものである。

(2)そして、その建設による公費支出は大阪市の財政危機を深め、市の公営交通上の危機を促進し、環境保全対策も不十分であり、仮りに、オリンピックに間に合ってもわずかな一七日間の輸送に過ぎず、全く非効率・非経済的であり、赤字の山を築くものとなり、市民はその尻拭いをさせられ、そのため市民サービスも切り下げられる。

(3)むしろ、本線事業はオリンピックの名を借りた建設関係、興業関係の経済利益と市の役人らの天下り、職域利権の拡大保持と政治家の政治支配のためになされるものであって市民不在のものである。

 

三、建設工事による公金の違法支出の必至性

 よって、本件事業は違法であり、これらの建設による莫大な公金の支出は必至である。

 そして、本線着工と工事が進むほどに、その中止や回復は困難となるのであり、差止めが必要である。

 

第三、監査請求と却下

 よって、原告らは平成一二年三月一三日(一部は四月二一日)に同旨を一〇〇〇字以内にまとめ、住民監査請求したところ、同日受理したものの、監査委員らは地方自治法二四二条第五項で義務付けられた証拠の提出及び陳述の機会も与えず、何らの釈明さえ求めず、四月二〇日付で却下した旨通知してきた。

 これによると、住民監査請求内容を調べもせず、「客観的な真実に基づくものでなく」とか、建設着工が「重大かつ明白な違法があるという主張が含まれていない」と断定して、適法な請求でないとしたものである。

 しかし、監査委員が内容に入る前に請求を「客観的な真実に基づくものでなく」と決めっけたのでは、原告らの主張するその違法性についての重大さや明白性の主張も読みとろうとしないことになる。措置請求書は一〇〇〇字の文字制限がされ、それでは不足するために、法は陳述の機会や証拠提出の機会も与えることを監査委員に義務づけているのであるから、監査委員らこそ重大かつ明白な違法を犯したものという他ない。

 結局、監査委員らは被告大阪市長と一体であって、その職責を放棄したのである。

 

第四、本訴

 かかる監査結果に原告らは承認できず、健全財政を求める市民を代表して、嘘で塗り固めたオリンピック地下鉄線建設事業の違法性と、これによって必至である公金支出の差止めを求めて本訴請求の趣旨のとおり本訴に及んだ。