平成12年(行ウ)第41号 オリンピック地下鉄線差止請求事件
原 告  松 浦 米 子  外154名
被 告  大阪市

準 備 書 面



平成14年 5月28日

大阪地方裁判所 第7民事部 合議係  御中

上記原告ら訴訟代理人     

弁護士  井  上  善  雄  

弁護士  木  村  達  也  

弁護士  山  川  元  康  

弁護士  太  田  真  美  

弁護士  松  尾  直  嗣  

弁護士  辻     公  雄  

弁護士  大  西  裕  子  

弁護士  笠  松  健  一  

弁護士  岩  本     朗  


目        次

第1.はじめに 4
1.北港テクノポート線とは 4
2.本訴で問われているもの 5
第2.需要なき地下鉄計画 8
1.テクノポート計画で創られた交通計画 8
(1)テクノポート計画とは 8
(2)埋立計画と港湾開発計画 8
(3)バブル計画の「淡き夢」−住宅計画・オフィス計画 9
(4)創出需要と新交通システム(ニュートラム) 10
2.ニュートラム・地下鉄の計画条件と必要条件 11
(1)需要創設型の開発の場合の適法要件 11
(2)テクノポート大阪計画策定時点における需要予測の過大性 11
(3)「沿線概要」作成時の2000(平成12)年における需要予測の過大性 12
(4)「テクノポート大阪計画」の今後の進め方の再検討と需要予測の過大性 12
(5)路線バスなど代替手段の検討をしていない 13
(6)高すぎる運賃と利用の困難性 14
3.オリンピック招致トリックとバブル期「テクノポート大阪計画」復活 15
(1)幻の大阪五輪−日本で4度目の計画の無謀性 15
(2)不可能な準備状況−地下鉄 15
(3)オリンピックで地下鉄は正当化できない 16
4.港湾地区のバブル破綻の惨状 16
(1)WTC、ATCなど第三セクターの破綻 16
(2)港湾、コンテナバースの破綻と杜撰 18
(3)OTS経営の実態 18
5.大阪北港テクノポート線の無謀性と違法性 19
(1)不要需要見込と莫大投資、建設費 19
(2)経営見通し 21
(3)「経済効果」のデタラメ 22
6.被告も認めた北港テクノポート線の無謀 22
(1)「テクノポート大阪」計画の見直し検討最終報告書 22
(2)大阪市港湾局企画振興部計画課長の証言(2003年1月30日) 23
(3)被告の主張から見る事業計画の無謀さ 24
第3  「やりかけ工事」にさらに突入する違法 25
1.利用見通しのない地下鉄トンネル 25
2.国の道路工事も市民の税の無駄遣い 26
3.夢舞橋、此花大橋、常吉橋で十分すぎる 26
4.地下トンネルも今は緊急性なし−市の縮小案でも400億円のムダ 26
5.中止・凍結が最良 27
6.投資を続行すれば借金と利息が増え、使わないのに減価償却など経費倒れ 27
第4  まとめ・法律論 28
1.健全な財政の要求 28
2.無謀な建設・公金投入 29
(1)不健全な財政状況は市の全体をみても明らかである 29
(2)磯村市長らの不健全な財政運営の違法 29
(3)需要なき建設工事と公金支出の違法 29
(4)差し止めが回復困難な損害を避けられる必要かつ最良の方法である 30


第1.はじめに

1.北港テクノポート線とは

 訴状以下でも述べているが、まず、北港テクノポート線とは何かを改めて確認しておこう。
 原告らが建設を反対している北港テクノポート線とは、大阪南港咲洲(さきしま)の「コスモスクエア駅」から、大阪北港の夢洲(ゆめしま)、舞洲(まいしま)を経由し、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)近くの「新桜島駅」まで、大阪港の埋立地7.5kmを走る地下鉄である。開通すれば、株式会社大阪港トランスポートシステム(以下、「OTS」という)が営業する予定である。
 OTSは大阪市が51%を出資する第三セクターの会社で、現在「大阪港−コスモスクエア−中ふ頭」の3.7kmの区間で鉄道を運行している。「大阪港−コスモスクエア」間(南港テクノポート線)は地下鉄、「コスモスクエア−中ふ頭」間(ニュートラムテクノポート線)は新交通システムである。それぞれ大阪市交通局の地下鉄中央線、ニュートラムと相互乗り入れする路線である。この3.7kmの建設費は880億円だったが、うちトンネル構造物など基礎部分(520億円)は市が建設し、OTSが無償で利用している。にもかかわらず、開業以来、OTSは毎年10億円近くの赤字を出している。それほど乗客が少ない路線である。ここに1870億円と見積るフル規格地下鉄を建設するというのである。


北港テクノポート線建設予定図

2.本訴で問われているもの

(1) 需要−それは政治行政を実施する必須要件である。需要に応えるということだけでは政治行政の存在意義や役割を必ずしも十分に果たしたとはいえない。しかし、税の徴収という法の強制力、公権力の行使によって担われる行財政は、現在及び近未来の確実な需要に応えるのでなければならない。そうでなければ行政庁は適法と言う資格もない。需要のないところへの行政サービスや財政支出はその計画からして公共信託という行政の目的外行為で違法である。
 法の違反は、形式的な法条への違背の場合は理解されやすい。しかし、行政の有効性、効率性、経済性と行政行為の市民福利への適合性(適法性)を欠く場合は、より重大な違背の場合でも行政当局(長)の一定の裁量権が認められているために不明瞭にされやすい。そのため、財政資金を有効かつ緊要な課題に費消するために説明責任が問われる行政システムと司法審査がある。
 公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。本件はその大阪市長ら職員が公僕として真に必要な行財政を現在しているか、またこれからしようというのかを問うものである。

(2) 公営地下鉄は、都市交通の優れた手段、施設である。但し、そう言えるためには、当該地下鉄線が有効かつ適切な需要に応えていることが必須条件である。厳しい財政運営が求められる現在では、既設の鉄道ですら利用が少なくなり、「赤字」になった路線などは廃止されてもいる。鉄道の廃止は他に交通手段を持たない地域の特定住民にとっては非常に厳しいものである。それでも、鉄道という輸送力に見合うだけの需要があるかどうか全国津々浦々まで点検されているのである。需要の意味はかくも大きい。
 大都市大阪において、地下鉄は抽象的、一般的には必要な交通手段と思わされているところがある。それは、御堂筋線など中心部の地下鉄を誰もがまず思い浮かべるからである。
 しかし、大阪のような人口密集の大都市においてすら、地下鉄建設のための莫大なコストや維持費が利用者との関係でその存在意義が問われている。御堂筋線ですら市内中心部以外は実は「赤字」である。もとより、人件費も含めて100円以内の経費で100円を稼がなければ絶対にダメだとは決め付けられないであろう。地下鉄の交通網としての役割もあろうし、周辺部では少々の「赤字」はやむを得ない行政サービスであるということもあろう。しかし、既にそこに市民・住民がいて、地下鉄に見合う相応の需要がある場合でなければ、やはり不経済、非効率といわざるを得ない。その建設や存続意義は疑わしく、他の手段への選択肢も厳密にチェックされなければならない。

(3) 本件北港テクノポート線のコスモスクエアから夢洲、舞洲、桜島のルートは、その間において住民は全くいない。舞洲にスポーツ施設があり、またゴミ処理施設等が造られているが、それは地下鉄の交通需要に見合うものでは全くない。せいぜい必要時の業務用車両やマイカー、バス需要の対象でしかない。そして架橋を含む道路があり、十分対応できる。
 平成15年も半ばを過ぎ、夢洲はまだ埋立も終わらぬゴミの島と水溜りの地区である。ここにかつて大阪市は、高度経済成長どころかバブル経済の夢の実現をしようと6万人の住む町を考え、ビジネス需要や商業需要があるとして地下鉄を考えた。これがテクノポート大阪計画である。ここに、本件テクノポート線建設の無謀性の核心がある。
 すなわち、本件は大阪市民、既住民地区の一定の交通需要に地下鉄をもって対応しようとしたものではない。何もない埋立予定地に敢えて巨大な住宅街を造って、そこに地下鉄を建設するという構想である。
 現在の大阪市民が自らの住宅を持ち交通手段としてこの地域に地下鉄を求めているものではない。また、大阪市民がこの埋立地に住みたいと要望しているものでもない。夢洲に住みたいという人々が多数待機しているものでもない。むしろ、希望者は具体的にはゼロである。
 テクノポート大阪計画は、専ら大阪市港湾部門を中心にこの地を開発して、住宅地・商業地として需要を生み出したいというデベロッパー志向の職員の構想であり、この構想はプラスの「夢」の部分−開発事業や建設による利潤、大阪市人口増等による税収向上、有効需要創出による経済効果、天下りを含む市職員ら職務部門の拡大維持−を期待する者にのみ支えられている。しかし、開発が進まず借金による投資が仇となり、市民がここに居住したいと思わない、あるいはビジネス展開の場ともできないという姿(これが現状)はあえて無視したものである。
 テクノポート構想は、バブル破綻前の急成長、異常な不動産経済の拡大時に建てられ、4%以上の経済成長が続くことを前提にしており、バブル崩壊で根本的に見直されなければならなかった。しかし、行政の硬直性と政官業の癒着の下で修正すらされずにきた。

(4) 抜本的見直しを必要とするのに、磯村大阪市長らはそれを誤魔化し、一部市民をも欺き、大阪オリンピックというスポーツの夢の中にいざなおうとした。すなわち「バブル破綻計画」から「五輪夢中計画」へのスリ替えがなされたのである。それが大阪五輪誘致計画であり、舞洲のスポーツ施設、夢洲の選手村構想とそれを繋ぐフル規格の地下鉄北港テクノポート線である。
 大阪五輪誘致計画は大阪市民に先の見えない夢を抱かせて誘致に50億を超える費用を浪費し、北港テクノポート線の延長に着手させた。
 しかし、大阪五輪の実現そのものが幻想であった。実は、2008年にオリンピックを舞洲・夢洲に誘致するというものの、そのための都市高速道路や地下鉄のアクセスなどの交通施設は2008年には供用不可能だったのである。例えば、供用できるという大阪・左岸線は、2003年現在ルートは決まってはいるものの未買収の用地も多く残し設計図もまだまだ先で、2008年供用など全く不可能であった。この点、IOCへ提出した大阪市の誘致企画書はゴマカシがあった。
 そして、北京やイスタンブール、パリ、トロントの全ての候補に負け、わずか6票という最低数しか確保できなかった。オリンピックが一度も開催されていない世界の大国である中国が国を挙げて誘致し、2000年大会で本命視されながらシドニーに惜敗した北京に、東京、札幌、長野と3度も五輪を開催している日本が誘致競争に勝てるという甘い夢で誤魔化し続けた。

(5) 大阪市の財政危機は1990(平成2)年以前からはっきり指摘されてきた。1988(昭和63)年に既に2兆円を超えていた大阪市の「借金」は、オリンピック誘致を決めた1995(平成7)年には約3.5兆円を超え、以降2000(平成12)年に向けて5兆円を超えようとした(現在は5.4兆円超)。しかし、市長以下幹部は大阪五輪という夢物語でテクノポート計画の破綻を繕い政府からも一定資金を引き出して、自ら1870億円という本件北港テクノポート線に着手して既成事実を作ろうとした。
 大阪市幹部らはバブル経済に自ら手を汚し、高い建設費や維持費のかかる大阪ワールドトレードセンター(WTC、港湾局)、アジア太平洋トレードセンター(ATC、経済局)、港町開発センター(MDC、計画調整局)を1989年に設立・推進したが(以上の市3部局の頭のKを取ってその3つの第三セクターを「3K」という)、みるみるうちに危機に陥った。
 磯村氏は1990年に助役に就任、1995年に市長に就任する。その下で、テクノポート大阪計画の表看板であるWTC、ATCの危機に対してしたことは、テナントの入らないATCビルに本来の目的外のテナントを入れたり、ついには大阪市役所の6つもの局をWTCに移して家賃収入を上げたり、市職員により高いOTSなど交通費を使わせたこと、そして1998年からは莫大な補助金と超低利貸付金を投入したことであった。
 2002年11月、磯村市長はようやく「財政非常事態」を自ら宣言した。2003年6月にも、3Kは特定調停を申立てにより市の公金の借金を棒引きにすることを準備している(甲135・136号証)。
 このように大阪市の港湾計画、テクノポート大阪計画は既に破綻しており抜本的見直しが必要で、今その計画の進行させることは必要ないのである。もとより、北港テクノポート線は供用の目途も全く立たず、建設を進める必要は全くない。

第2.需要なき地下鉄計画

1.テクノポート計画で創られた交通計画

(1)テクノポート計画とは
 1988(昭和63)年に大阪市が立案した「テクノポート大阪基本計画」は、北港地区の舞洲・夢洲に南港地区の咲洲コスモスクエアを加えた3区域から構成される北港と南港にまたがった開発計画である。面積は、舞洲が225ha、夢洲が390ha、咲洲(コスモスクエア地区)が160ha、合計775haとなっている。このテクノポート大阪計画で立地する機能は、先端技術開発機能、情報・通信機能、国際交易機能、文化・スポーツ・レクリエーション機能、居住機能などである。
 事業の完成時期は2010(平成22)年で、昼間人口20万人を想定していた。なお、昼間人口とは、昼間も地区内にとどまる住民と通勤・通学で昼間に地区へ流入する人を合計した人数で、買い物客や観光客は含まれない。
 そもそもテクノポート大阪計画という、もっともらしくて、何だかわかったような、わからないような名称はどこからきているのか。港湾(ポート)が従来から貨物や人の出入りする場所を意味するのに対し、テクノポートという言葉はコンピュータと通信の発達した高度情報化社会において情報の出入りする場所、情報の港をイメージしたものである。似たような言葉にテレポートというものがあり、衛星通信用のパラボラアンテナが林立する、例えばニューヨークの臨海部にあるような地区を手本にしている。大阪市もそのニューヨークの真似をしようとこのテクノポート大阪計画を立案したようである。
 通信技術の進歩によって、通信衛星との双方向通信は直径1mのパラボラアンテナで可能となったため、ビルの屋上にアンテナが置けるようになった。かつては直径数メートルの大きなパラボラアンテナが必要だったためテレポートのような場所が設けられたが、もはや通信機能におけるテクノポート計画の比較優位性は消滅した。例えば、CNNは世界中どこからでも通信衛星経由で映像を生中継できるポータブル機材を使っているし、世界中どこからでも通話できる衛星携帯電話が実用化されているご時勢である。

(2)埋立計画と港湾開発計画
 テクノポート大阪計画は、南港・北港の埋立地全体の利用計画である。しかし、埋立当初から現在のような利用を考えていたわけではない。いわば、行き当たりばったりに計画を変えてきたのが実情である。その埋立の経緯を簡単に説明する。
 1957(昭和32)年の港湾計画改訂により、翌1958(昭和33)年に着工した南港臨海工業用地造成事業は、当初第1・2区にアラビア石油の石油コンビナートの進出が予定されたものの、1964(昭和39)年にはアラビア石油が進出を断念し、埋立地の土地利用計画の変更を余儀なくされた。外周部に港湾機能用地、内陸部に住宅用地と都市再開発用地を配置し、コンテナ化やフェリー船の登場という海運の近代化に対応するために南港を商港化・コンテナ港化する大阪港整備第二次改訂計画が1967(昭和42)年に策定され、1969(昭和44)年にはコンテナ埠頭が開設された。南港(咲洲)埋立事業の埋立全体面積は現在までで計1048haに達する。
 南港埋立地は一部を除いて沖合人工島の形態をとっており、現在咲洲と呼ばれている地区の真ん中には南港ポートタウンという住宅地がつくられている。ここに、沖合人工島形式と、港湾機能とは無関係の住宅機能の配置という新しい形での港湾整備(埋立)のあり方が具体化したのであった。こうした埋立地のあり方は神戸港のポートアイランドが有名であるが、時代的には大阪港のほうが先行したことになる。また、港湾における環境アメニティ機能の好例として大阪港関係者がよく自慢する南港の海水浴場・野鳥園・海づり公園は、当初の土地利用計画の変更の結果としていわばやむを得ないものとして立地したものである。
 一方、北港地区では1973(昭和48)年から北港北地区(舞洲)への廃棄物による埋立が始まり、1987(昭和62)年度には埋立事業が完了している。
 前後して1985(昭和60)年度から北港南地区(夢洲)への廃棄物埋立処分が始まり、現在も埋立中である。埋立面積は北港北地区(舞洲)が225ha、北港南地区(夢洲)が390haとなっている。

(3)バブル計画の「淡き夢」−住宅計画・オフィス計画
 次に、立地特性や規模の面からテクノポート大阪計画の問題点を指摘する。
 テクノポート大阪計画は、開発面積186ha、総事業費2.2兆円、オフィス人口9.2万人、住宅人口6万人である。ちなみに、東京臨海副都心は442ha、2.4兆円、7万人、4.2万人で、千葉県の幕張新都市は552ha、3兆円、15万人、2.6万人であり、横浜市のみなとみらい21計画は186ha、2兆円、19万人、1万人となっている。JR京葉線海浜幕張駅前に立地する幕張新都市とJRの横浜駅・桜木町駅前に立地するみなとみらい21は、立地条件の良さを利用してオフィス人口の計画は10万人を超えている。これに対して新橋から新交通システムゆりかもめに乗り換える必要がある東京臨海副都心は、オフィス人口の計画が7万人にとどまっている。以上を比較すると次のとおりである。

計画名面 積事業費オフィス住 宅
テクノポート大阪計画186ha2.2兆円9.2万人6.0万人
東京臨海副都心442ha2.4兆円7.0万人4.2万人
千葉県幕張新都市552ha3.0兆円15.0万人2.6万人
横浜市みなとみらい21186ha2.0兆円19.0万人1.0万人

 OTSの開業によって地下鉄中央線から直通でコスモスクエアまで行けるようになったとは言え、テクノポート大阪計画のオフィス人口9.2万人は過大な計画であろう。また、他の3都市の埋立地開発計画と比較して住宅人口の6万人という数字も異様に多い。まわりを海に囲まれた埋立地の住宅地の災害に対する脆弱性は阪神淡路大震災の時の神戸ポートアイランドで実証されている。人口高齢化・減少時代を迎えてテクノポート大阪計画の住宅需要予測も過大である。
 大阪市は、北港テクノポート線運行の認可を受けるために運輸省(現在の国土交通省)に申請を行ったが、需要を過大に見ているとして下方修正を余儀なくされた。住宅4.5万人、オフィス4.25万人となっている。
 現在、コスモスクエア地区に既にあるWTCやATCでさえテナントが集まらず、多くの空きスペースを抱えている。これらの施設を所有・管理する大阪市の第三セクターは多額の赤字を累積し、市が第三セクターに無利子融資をする等して何とか延命させてきた状況である。バブル景気の崩壊という逆風にさらされているためもあるが、そもそも計画自体に無理があった。

(4)創出需要と新交通システム(ニュートラム)
 国の運輸政策審議会は、北港テクノポート線の建設について、新交通システムで建設することを妥当とする答申を出している。これは、夢洲の住宅やオフィスの需要を現実的に見積もった結果であろう。しかし、大阪市はみずから建設する住宅計画を過大に設定し、その過大な計画を前提に北港テクノポート線をフル規格の地下鉄建設に変更した。
 フル規格の地下鉄は、新交通システムに比べて、輸送力が2倍以上になるが、建設費も2倍以上になる。
 大阪市交通局が運行する地下鉄は、既に乗客需要が存在することを前提に新線建設の正当性を保証されている。しかし、北港テクノポート線はこれから需要自体をつくるので、交通局として建設することは許されなかった。そこで、大阪市港湾局の事業として、住宅・オフィスとともにセットして建設することにした。このように過大な乗客需要を正当化できるように、需要そのものを自分でつくるという「手前みそ」の計画に、大阪市は「需要創出型」の開発という名前をつけたにすぎない。

2.ニュートラム・地下鉄の計画条件と必要条件

(1)需要創設型の開発の場合の適法要件
 既にある需要に対して供給を行うための開発の場合とは異なり、需要を創設する場合は、創設されることについての高度の必要性と成功の蓋然性が適法要件である。また、自己資本と自己責任で終わる民間企業の投資と行政による投資は同列に議論できない。民間部門が行える投資は、本来行政としては必要性が低い。
 民間企業の投資では、「資産の償却→損失の計上→経営陣が責任をとる→無配→株式の減滅」という形で投資家や経営者の責任が問われる。要するに、自己責任で終わるのである。
 これに対し地方自治体の投資では、投資の失敗は全て市民に結果責任が及び、これによる地方自治体のダメージは民間企業よりもむしろ大きい。にもかかわらず、この点が全く曖昧にされている。失敗の責任が問われるときには投資を決めて実行した者や多くの幹部職員はいないし、いたとしても何の責任も取れず市民の負担だけが残される。

(2)テクノポート大阪計画策定時点における需要予測の過大性
 テクノポート大阪計画は、1983(昭和58)年に策定され、その後、これに基づき「テクノポート大阪基本計画」が1988(昭和63)年7月に策定された(乙1号証)。この中で、計画人口として、北港南地区(夢洲)については、常住人口6万人、従業人口4.5万人、北港北地区(舞洲)については、従業人口1万人、昼間人口2.2万人とされていた(乙1号証6頁)。
 テクノポート大阪計画及びこれに基づく基本計画は、いずれもバブル経済崩壊前の計画であり、日本経済が年4%以上の右肩上がりの経済成長を続けることを前提としたものである。バブル経済が崩壊し、経済が長期にわたって低迷している現在からみれば、明らかに過大で実現可能性のない計画と言わざるを得ない。策定当時の状況を前提としても、住宅需要については明らかに過大で実現可能性のないものであった。
 すなわち、大阪市の人口は、昭和58年時点で約262万人、昭和63年時点で約264万人と微増状態で、大幅な増加傾向にはなかった。このような中で、埋立地に6万人分もの住宅を確保すべき需要など存在しなかったし、将来的に創出できる目途も存在しなかったのである。

(3)「沿線概要」作成時の2000(平成12)年における需要予測の過大性
 このように、テクノポート大阪基本計画が実現可能性のないものであったため、本件地下鉄の鉄道事業認可申請の際に作成された「沿線の概要」(乙10号証)においては、需要予測が大きく下方修正された。すなわち、夢洲の夜間人口(=常住人口)は1万5000人削減されて4万5000人とされ、従業人口も1万3000人弱削減されて3万1900人とされている。また、舞洲の従業人口も400人削減されて9600人とされている。
 これらのことは、大阪市自身が、テクノポート大阪基本計画が過大であり実現可能性がないことを一部自ら認めたことを示す。この時点では、バブル経済は既に崩壊し、経済が低迷状態に陥っており、短期的に回復する見通しもなかったから、本来、夢洲及び舞洲の開発計画は、中止するか少なくとも凍結すべきであり、したがって、本件地下鉄線について鉄道事業認可申請も行うべきでなかった。
 それにもかかわらず大阪市は、この時点においても、「現状の大阪市内の人口は260万人程度であり、今後新たに20万人を受け入れる住宅施設を整備する必要がある。」とし、「都市部での住宅整備の限界や市内の各地区の特性を考慮すると、臨海部で約7、8万人程度を受け入れる必要がある」としていた。
 しかし、平成12年の大阪市の人口は約259万人と増加傾向どころか微減傾向になっており、新たに20万人を受け入れる住宅施設を整備する必要も臨海部で約7、8万人程度を受け入れる必要も既に無かったのである。実際、近畿圏についてみれば、平成12年のマンション発売戸数が約4万戸で、年間契約率が約88%、平均価格帯が3243万円となっている。近畿圏全体のマンション発売戸数の約37.5%に相当するような住宅需要が何ゆえ創設できるのか、全く明らかでなかった。
 また、企業の進出需要についても、先行して開発が進められた南港地区への企業の進出が進んでいなかったことから、既に夢洲・舞州への企業誘致が著しく困難であることは明らかになっていた。

(4)「テクノポート大阪計画」の今後の進め方の再検討と需要予測の過大性
 2001(平成13)年に至り、ついに大阪市はテクノポート大阪計画を再検討せざるを得なくなり、2002(平成14)年12月、「テクノポート大阪計画の今後の進め方について」と題する方針を発表した(乙23号証)。
 これによれば、「夢州まちづくりゾーンの開発については、住機能等のまちづくりへ向けた需要や、咲州コスモスクエア地区の開発熟度、さらには財政状況などを十分見極めた上で開発に着手する。」とされており(7頁)、住宅開発は、事実上凍結されている。
 大阪市は、この時点において、ようやく、本件地下鉄線の需要予測の根幹にしてきた住宅開発が実現可能性のないものであることを自認するに至ったのである。
 また、乙23号証においては、これ以外にも、乙10号証が前提とした需要に現実性がなく、いわば机上の空論だったことを大阪市自体が認める内容となっている。
 例えば、緑地の利用人数について、中止を決めたゴルフ場(216人)、ゴルフ練習場(300人)、人工スキー場(1880人)の3つの想定利用人数だけでも合計約2400人になり、この人数分だけ需要が消失することになる。
 また、同じく緑地の従業員数についても、人工スキー場、マリーナ、展望レストラン、ホテルを合計すると、約1200人となり、従業者数合計の1498人が300人程度に減少することになる。
 そもそもの緑地の利用形態の想定自体が、バブル期の発想そのものであった。ゴルフ場や人工スキー場の進出を想定していたことがその象徴である。

(5)路線バスなど代替手段の検討をしていない
 仮に夢洲の開発計画を前提にするとしても、フル規格地下鉄以外の輸送手段を比べてみる必要がある。その選択肢を列挙する。

 フル規格地下鉄 地下
 ミニ地下鉄(鶴見緑地線の方式) 地下
 新交通システム(ニュートラム) 地下
 路面電車 地上
 路線バス 地上

 まず、夢洲開発の初期には需要が少ないので、路線バスで十分である。現に舞洲には市バスが乗り入れている。既に完成している夢舞大橋を通れば、現在建設中の北港テクノポート線と道路を通す夢洲トンネル(咲洲−夢洲)がなくても運行が可能である。もう少し需要が伸びても、桜島から常吉大橋を通り、夢舞大橋を渡れば、路面電車の輸送力で十分である。橋の強度は、大型トレーラーも通行可能な設計なので、路面電車(10トン程度)の運行も可能である。
 もし、それでも輸送力が足りないときに初めて地下鉄を建設すれば、当初からの何千億円の投資というリスクは避けられる。路面電車の建設費は地下鉄の数十分の1である。また、地下鉄と言っても、上記のように主に3種類の規格があり、需要に見合ったものを選ぶことができる。しかし、既に大阪港からコスモスクエアまでの南港テクノポート線でフル規格地下鉄をつくってしまったために、ほかの方法を使うと乗り入れが難しいなどの問題がある。膨大なコストを考えると変則的な規格でも耐えるべきであるが、もともと南港テクノポート線をフル規格にしたこと自体が、不当な想定と既成事実の積み上げであった。南港テクノポート線も、運輸政策審議会の答申では新交通システムとなっていた。
 これらの合理的輸送手段の検討なくフル規格地下鉄を決めたのは、大型事業自体を目的としているからである。

(6)高すぎる運賃と利用の困難性
 南港テクノポート線は、運賃が非常に高額(地下鉄とは別に追加210円)である。延長予定の北港テクノポート線については、それ以上の額にするわけにいかないので、開業時には値上げをしない方針といわれている。初期投資に関して市や国から大きな財政支援を受けた上、このような高額運賃をとっても赤字経営になるというのでは、経営を建て直す方法がない。ちなみに、梅田からの運賃は以下のとおりとなる。

┌大阪市営地下鉄┐┌――――OTS――――┐
梅田―――――大阪港…コスモスクエア…(夢洲)
   270円        480円    480円

 現在の路線を大阪市営地下鉄(高速鉄道)の事業として行わなかった理由の一つに、別会社にしないと採算がとれないということがある。現在、南港テクノポート線の運賃は1区間230円(大阪市営地下鉄から乗り入れる場合は、210円追加)で、民営鉄道と比べて格段に高い設定である。梅田からコスモスクエアまで480円もかかり、梅田から阪急で京都へ行くよりも高いという異常さである。
 このように高い運賃を嫌って、咲洲にあるWTCに入居していた企業は相次いで大阪市内に移転した。現在、WTCには高額の運賃でも倒産する心配のない大阪市の部局が6局も入居しており、その交通費という形で大阪市の一般会計からOTSへの見えない補助金が補給されている。しかし、実勢にまかせれば、乗客数は激減しているはずである。このような状態で、なお路線を延長するということは、正常な感覚では考えられないことである。

3.オリンピック招致トリックとバブル期「テクノポート大阪計画」復活

(1)幻の大阪五輪−日本で4度目の計画の無謀性
 日本では、既に東京、札幌、長野と3回のオリンピックを開催しており、大阪市の立候補は日本としては4回目である。その上、初の開催をめざす北京が立候補したため、大阪市の当選は絶望的であった。その結果、2001年7月のモスクワでのIOC総会の投票で、北京はもとより、トロント、パリ、イスタンブールにも敗れ、102票中最下位の6票しか獲得できないという惨敗であった。
 当初、北京が立候補しないという情報を元に大阪市は立候補したと言い訳しているが、立候補期間内はどの都市でも立候補の可能性を考えるべきであり、最後までわからないのがオリンピック招致合戦であることは常識中の常識である。
 IOCとしては、オリンピック招致レースを盛り上げるために大阪市に立候補させたかったという事情もあるといわれる。しかし、客観的には、当選の見込みがなかったにもかかわらず立候補したのは見通しが甘かったのである。そして、別にもっと大きな理由があった。
 それは、オリンピック招致のためには、スポーツ施設や輸送手段の建設が必要であり、それを名目に本来は必要のない公共事業を正当化できるということである。しかも、開催都市に選ばれなくても、立候補するだけで招致競争のためにこれらの建設事業が必要だと主張できる。それが、オリンピック招致のトリックであった。
 北港テクノポート線の建設着手は2000年末であり、大阪が落選したのは翌年2001年7月である。

(2)不可能な準備状況−地下鉄
 仮に大阪市が開催都市に選ばれたとしても、2008年7月の開催までに地下鉄を運行することは不可能であった。大阪市は2002年秋に「テクノポート大阪計画」の見直し計画を発表したが、地下鉄の開通は早くて2010年とした。夢洲の埋立が遅れる見込みとなったためであるが、それは2000年末の北港テクノポート線着工時点でわかっていたことである。
 つまり、立候補によって公共事業推進の口実にはしたいが、当選すると間に合わないので当選すると困るということである。盛り上がりに欠けていたとはいえ、招致活動に金の不正・水増し利用とムダ遣いを繰り返し(甲63〜68号証、甲112・113号証など)、大阪オリンピックを信じていた市民を欺いたことになる。

(3)オリンピックで地下鉄は正当化できない
 仮に、大阪市がオリンピック開催都市に選ばれ地下鉄建設が間に合ったとしても、大きな問題がある。それは、オリンピック開催期間はわずか17日程度であり、その間にいくら乗客が多くても、その後運行を続ける地下鉄の経営改善にはほとんど役立たないということである。
 さらに具体的に検討すると、オリンピック開催時で最も輸送力を必要とするのは、開会式の帰りの輸送である。このとき、舞洲のメインスタジアムに集まる観客はおよそ8万人。ところが、この8万人をバスと地下鉄を使っても2時間以内に運び切れないのである。舞洲から北港テクノポート線で帰る乗客は、大阪港方面と桜島方面の2方向となるが、桜島方面は一駅目で乗り換える必要があるので、輸送力に限界がある。なぜ乗り換えるかというと、一駅目の新桜島駅で北港テクノポート線はJRと連絡するが、線路の幅が違うためにそのまま直通列車を走らせることはできないからである。
 オリンピック開催時には輸送力不足になるが、オリンピックが終われば過剰な輸送力を持て余すことになるのが北港テクノポート線である。オリンピックのために必要だと多くの人を欺くこのような計画はまさに「オリンピック招致トリック」というしかない。

4.港湾地区のバブル破綻の惨状

(1)WTC、ATCなど第三セクターの破綻
 本来、「官」の第一セクターと「民」の第二セクターが組んで第三セクターでやれば、少ない税金で大きな仕事が出来るはずであった。しかし、双方のもたれあいや責任転嫁で、第三セクターの失敗が続いている。
 大阪市は第三セクターや外郭団体づくりが日本の都市の中で際立って積極的である。市が20%以上出資し、市議会に決算報告書を提出している第三セクターや外郭団体は79もあるが、「民間活力」導入のつもりが、完全に逆目に出て、いまや際限なく巨大な赤字を増殖し続ける三セクはアリ地獄に落ちこんでしまった。
 つい数年前までは「三セク赤字3K」とか「三セク赤字御三家(K)」などといわれていた。「御三家」は、前述のとおりATC(アジア太平洋トレードセンター=経済局)、WTC(大阪ワールドトレードセンター=港湾局)、OCAT(湊町開発センター(MDC)=計画調整局)と局名の頭文字のKをとっての「3K」である。この3Kがさらに大阪シティドーム(交通局)とクリスタ長堀(建設局)が加わって“赤字5K”(五家)に増えた。
 この5Kの累積赤字は2001(平成13)年度決算で約1149億円に達し、債務超過は5K合計で約637億円に上っている。この中で、もっとも経営状態が悪いのが、咲洲にあるWTC、ATCなのである。
 これが普通の民間会社ならとっくに倒産している。三セクも株式会社であるから当然倒産のピンチにあるのだが、これを大阪市だけが補助金や0.25%の超低金利、20年間元本据置の30年払いという一般の株式会社では考えられないような特別待遇をし、空き部屋を埋めるために市の部局が大挙移住して税金で高い家賃を払うなどし、アノ手、コノ手で5Kに対して、なんと約988億円もの財政支援(甲134号証)をして倒産を必至にくい止めている。
 WTCは入居者の73%が大阪市と関連団体で、大阪市の“第二庁舎”と化した。その結果、入居率は96%になったが、巨額の赤字が続いている。
 どの5Kも、当初プランより規模をどんどん膨らませ、株主でもある銀行からの借入金を増大させ、5K合わせて2001年度決算で借入金約3652億円、支払った金利が約64億円である。2001年度の1年間で、5Kの大阪市からの借入金など財政支援は約190億円であるから、約33.6%が銀行に入ったことになる。銀行は2000年度には大阪府のりんくうゲートタワーへの貸付金金利2.7%を0.5%に下げたが、大阪市の三セクには、同じ株主でありながら金利(平均2.9%といわれている)の引き下げなど2001年度までは一切していない。これでは銀行はリスクを分担せず、出資金の何十倍もの利息を既にモノにしていることになる。
 ここまで赤字からの脱出が無理な情勢になっては、株主である銀行の融資も困難になり、はじめて「グループファイナンス」(自治体ノンバンク)という手まで使い始めた。三セクの大阪市開発公社が窓口になって、黒字の22団体から年0.6%程度の利息で出資を求めてスタートした。2001年度は92億5000万円を調達して、年1.075%〜1.3%の利息で大阪シティドームに46億円、クリスタ長堀に26億5000万円、WTCに20億円を無担保融資した。
 この融資の担保代わりに大阪市が現物出資した時価184億円の銀行・証券株が当初の半値以下に下落し、融資額を下回って担保割れを起こしている。
 市議会では、「三セク破綻のための赤字処理は市財政を大きく圧迫している。早く精算しないと大変なことになる」と追及されている。
 大阪市が1998(平成10)年に作成した「経営改善」計画によれば、支援を延々と続けても、累積赤字を解消するのはATCが2040年、WTCが2041年でいずれも21世紀半ばとなり、OCATに至っては「赤字解消の見込みはわからない」という。
 それまで大阪市の財政が持つのだろうか? 持つわけがないというのが識者である。
 ちなみに、この「赤字三セク5K」の社長は5人とも経営にはシロウトの大阪市の助役、局長、副収入役らからの天下りOBである。そして、彼らの高給、高退職金としてさらに公金が消えている。

(2)港湾、コンテナバースの破綻と杜撰
 大阪商工会議所は、2002(平成14)年10月に大阪市と神戸市に対して、異例の提言を行った。
 「コンテナバースの供給過剰によってバースの稼動率が低下し、国際港湾としての地位が低下し続けている。これを解消するためには民営化を図り、余剰バースを廃棄し、利用バースを集中化し、大阪港と神戸港がやっている無駄な競争をやめ、大阪湾各港の一体的展開を」という内容である。
 しかし、大阪市は夢洲とその沖合の埋立中の新島(しんとう)に、あわせて7つのコンテナバースをつくろうとしている。大阪市は、今までのバースでは水深が足りないので15mのものが必要だとしている。ところが、最も大きなコンテナ船でも、満載しない限り15mの水深は必要ない。世界の主要航路は、「東アジア−インド−ヨーロッパ−アメリカ」であり、日本は一番端にある。満載することは非常に少ない。このような素人だましによって、既にあり余っているバース新設を正当化しているのである。

(3)OTS経営の実態
 ここで、北港テクノポート線の運行をめざす第三セクターOTSの経営の実態を検証する。
 南港テクノポート線のランニングコストは膨大で、債務は膨らみ続けている。建設費がいかに安くできても、運賃収入が少なくては経営は安定しない。現に、南港テクノポート線は、毎年、減価償却費と同じくらいの赤字があり、債務は膨らみ続けている。
 現在運行している南港テクノポート線は毎年赤字を生み、市の財政的支援がなければ、OTSは北港テクノポート線ができる前に破産する。現在の路線は、地下鉄2.4km、新交通システム1.3kmのあわせて3.7kmだが、2001年度の収支は、以下の通りである。


*2001年度収支(OTSの鉄道部門)
 収入     23.6億円
 支出     30.8億円(うち減価償却費は約8.8億円)
 差し引き   −7.2億円

 OTSの2001年度決算で、「大阪港−中ふ頭」間を運行する鉄道部門の決算は、営業損失が7億2000万円であった。30億8000万円の支出のうち減価償却費は8億8000万円で、はじめて営業損失のほうが少なく運賃でランニングコストをまかなったことになる。しかし、費用のうち減価償却費の約8.8億円が赤字の額と同等ということは、運賃収入で人件費や電気代などの運転費(ランニングコスト)をまかなうのが精一杯だということである。鉄道部門の累積赤字は、50億円近くにのぼる。
 不動産管理部門の黒字のおかげで、全体としてはOTSの開業以来はじめて、黒字会計となった。営業内容の改善はイベント開催による乗客増加の効果もあるが、WTCに大阪市の6つの局が入居して通勤客を増やした、大阪市の内部移転に目をくらまされてはいけない。その分だけ、大阪市の一般会計の負担が増えているのである。

5.大阪北港テクノポート線の無謀性と違法性

(1)不要需要見込と莫大投資、建設費
 北港テクノポート線沿線となる舞洲、夢洲は、現在常住人口ゼロで、特に夢洲はまだ埋立自体が完了していない。ところが、OTSは2000(平成12)年7月19日、運輸省に事業許可申請を提出した。そして、大阪オリンピックに間に合わせるため、採算を度外視して2000年末に着工した。
 北港テクノポート線建設費は、3600億円にものぼると予想され、とてもその効用に見合ったものではない。その多くを大阪市や国が負担することになるが、そのリスクは計りしれない。このような大金を大阪市や国が負担することは、財政難のおりから許されない。
 大阪市と運輸省が行った事業化検証調査では、北港テクノポート線の建設費を1870億円と試算しているが、これまでの地下鉄の建設実績と、桜島との連絡線建設による追加を考えあわせると、3600億円程度になる。以下、個別に建設費を見積もった。

1) 海底トンネル部分以外(3km・600億円)
  かなり安く単価を設定して、200億円/kmとした。トンネル以外の埋立地を通る部分である。土壌汚染している場合の費用は含めていない。
2) 海底トンネル部分3カ所(5km・1536億円)
  南港テクノポート線建設費の実績などから、各々計算した。
i  夢洲トンネル(2km・636億円、地下鉄道路共用トンネルの鉄道部分)
  「大阪港咲洲トンネル工事誌」(1998、大阪市港湾局発行)によると、鉄道部分は2.4kmで310億円(道路との分担で総額の23.3%を想定)となっているが、これは地下鉄建設費を安く見せるように割合を低くしている。沈埋函の幅の外側の壁を共用しているとして分母から2.4mを差し引いて計算すると、地下鉄の分担費は28.0%になる。

  地下鉄の幅9.2m÷(沈埋函の幅35.2m−外側の両壁2.4m)
  =0.280

  これによって、咲洲トンネルの建設費1330億円の28%は436億円、キロメートル当たり181億円となる。従って、2kmでインフラ部分で約360億円が地下鉄の分担になる。
  インフラ外は、南港テクノポート線建設費の実績2.4kmで330億円であるから、キロメートル当たり138億円、2kmで276億円、インフラ・インフラ外を合計して636億円となる。
ii 夢洲−舞洲(1.5km・450億円)、舞洲−桜島(1.5km・450億円)
  両方のトンネルとも、シールド工法を想定しているが、海水の漏水対策などで追加負担があると想定して、キロメートルあたりの単価は都市部の平均値300億円とした。この部分に大阪市港湾局は、南港テクノポート線の単価を使っているが、南港テクノポート線の道路との共用部分をここでは全て鉄道の費用としなければいけないのをごまかしているので、不当に安く見積もる結果になっている。各トンネルとも長さは1.5kmと想定したので900億円とした。
3) 桜島連絡線(計1km・100億円)
  桜島側でJRと連絡するためにさらに建設費がかかる。1kmで100億円と予想。JRはパンタグラフ式なので、トンネル断面が大きくなり、建設単価を都市部なみに想定したが、駅部分を別に計算しているためこの額にした。

4) JR線との巨大乗換駅(200億円)
  単に1kmの区間をつなぐだけでなく、線路の幅、集電方式が異なるため、大規模乗換駅が必要であり、200億円の追加投資が必要である。コスモスクエア駅は130億円だったが、地下鉄との乗換相手がJRになると駅の大型化は避けられないので、この程度とした。
5) 舞洲の車庫建設(200億円)
  舞洲に地下車庫を建設することになっている。14編成が入庫可能なので、かなり大きな空間になる。

 以上、1)〜5)の合計金額は約3600億円である。単純に合計すると2636億円だが、これは1994年完成の平均単価である。営団地下鉄の建設費用一覧から最小二乗法で、完成予定年であった2007年の単価を計算するとキロメートル単価398億円となる。1994年(営団地下鉄南北線)は289億円なので、37.7%の価格上昇が見込まれる。
 よって、2636億円の37.7%上昇で3630億円となる。

(2)経営見通し
 北港テクノポート線の経営見通しについて、主な問題点は以下の3つである。
1) 償却対象資産(インフラ外)に係る減価償却費については現在と比例して大きくなる
2) 距離に比例した運賃をとることは困難(費用は距離に比例する部分が多い)
3) 夢洲の住宅が順調に売却できなければ常住人口=乗客が極端に少なくなる(最悪ゼロに近い)
 先に述べたように、現在の路線についてOTSは建設費880億円のうち22%(190億円)しか自社負担していない。減価償却、固定資産税の支払いについても、自社資産部分120億円について行えばいいだけである。市や国の大きな財政支援を受け、さらに高額の運賃をとっても赤字が出るという状況では経営を建て直す手段がない。OTSの破産回避のために、市がイベントの開催や新規の開発などさらなる追加の財政支出を強いられるようでは本末転倒である。
 以上のことから北港テクノポート線開業後、毎年の赤字額は、距離に比例する程度としても50億円以上にのぼるであろう。そうなると数年でOTSの経営が破綻する。
 大阪市港湾局の計画でも、住宅人口を6万人から4万5000人に下方修正している。運賃収入は25%減ることが予想され、経営は苦しくなる。港湾局は、その分職場を確保すると言っているが、鉄道運賃の高いこのような場所に進出してくる企業がそんなにあるのだろうか。
 大阪市は、夢洲の埋立完了後、開発できるようになる時期を2010年以後に延長した。2002年末に発表したテクノポート大阪計画の見直しで、開発時期を遅らせ、北港テクノポート線建設も「夢洲−桜島」間を当分の間見合わせるとしている。それでも、開業時期が遅れると減価償却だけでも負担が大きくなるのである。

(3)「経済効果」のデタラメ
 大阪市は、1998(平成10)年10月にこのトンネルの事業検証を行って、3兆円の効果があるとしているが、夢洲に住宅をつくらなければ、もともとこのような交通手段は必要がない。この検証のような方法を使うなら、できるだけ不便な場所を開発して、新しい交通手段がないとこれだけ不便であるということから、どんな交通投資でも可能となり、検証の名に値しない(この点について、甲131号証54〜55頁参照)。

6.被告も認めた北港テクノポート線の無謀

(1)「テクノポート大阪」計画の見直し検討最終報告書
 上記のように、北港テクノポート線計画が無謀であり、それゆえ現在において建設の根拠を欠いていることは、次に述べるように被告側も認めていることである。
 大阪市は2001年9月よりプロジェクトチームを結成し、北港テクノポート線の必要性の根拠となっている「テクノポート大阪」計画の見直し検討を進めてきた。その結果は、「『テクノポート大阪』計画の今後の進め方について」最終取りまとめ(乙23号証)として2002年12月に公表された。見直し検討が行われた理由は、「社会経済環境の大きな変化や長引く景気低迷の影響等から、咲洲コスモスクエア2期地区や舞洲の土地利用については民間セクターによる投資が進まず、多くの未利用地が生じている」と述べられているように、同計画の策定時とは社会情勢が大きく変わったためである。
 特に、需要を大きく左右する夢洲の開発については、「経済性や施工性を考慮した埋立を行い、今後の社会経済環境の変化を的確に把握しながら中長期の需要を見極めつつ、開発を進める」、「住機能等のまちづくりへ向けた需要や、咲洲コスモスクエア地区の開発熟度、さらには財政状況などを十分見極めた上で開発に着手する」としている。さらに、「夢洲まちづくりゾーンの開発は、埋立地盤改良後に放置期間等を要し、概ね平成22〜23年頃に開発可能になると見込まれる」と述べている。すなわち、テクノポート大阪計画が予定通り進んでいない現状を認識した上で、少なくとも短期的には夢洲の開発を行うべき社会的状況にないことを認めている。また、技術的にも平成22〜23(2010〜2011)年までは夢洲は開発可能でないとしている。
 さらに、舞洲のスポーツ・レクリエーション施設については、「現状の市民ニーズや市場動向から実現困難な計画施設として、ゴルフ場、ゴルフ練習場、人工スキー場を中止する。また、マリーナ、展望レストランやリゾートホテルについては、今のところ需要が見込めないので、需要が出てくるまでの間は凍結することとする」としている。代わりに「市民ニーズの高い施設を含めた中長期的な観点からの新たな施設配置計画を検討作成する」としているが、これらの施設はこれから検討を始めるものであって計画に具体性はない。ここでも北港テクノポート線建設の根拠は崩れている。

(2)大阪市港湾局企画振興部計画課長の証言(2003年1月30日)
 大阪市港湾局企画振興部計画課長である吉松邦明証人の証言からも、(1)の報告書と同じく北港テクノポート線計画の無謀性と現在における不必要性を言うことができる。
 証人は、夢洲の開発時期について確認したところ、現在から10年以上先になることを認めている(証人調書29頁、以下同じ)。また、技術的な問題を確認したところ、着工してから供用開始まで最速でもまる8年かかると証言している(65頁)。北港テクノポート線は平成12(2000)年12月に着工した(7頁)ため、この証言は北港テクノポート線の供用が2008年夏のオリンピックに間に合わないという無謀な計画であったことを示しているが、逆に10年以上先の開発(10年先に開発を開始するのであって、北港テクノポート線に見合う需要が生じるのではない)のために、いま着工する必要性がないことも示している。
 北港テクノポート線の建設工事を行う必要性については、「道路部分の整備が必要だった。それに伴い、その一体化構造であるので鉄道も同じく平成12年12月に着工した」(7頁)ことを認めているが、鉄道整備の必要性については証言を通じて全く説明できていない。
 夢洲トンネルに接続する部分の工事を進めていることについては、証人は道路部分と地下鉄部分は一体でないと工事できないと述べているが、「普通で考えたらちょっと難しい」、「知識・・・・情報がそこまでない」(43頁)という個人の感想程度のレベルで、具体的に検討したものであるとの証言はしていない。
 「いま工事を行ったほうが後からやるよりは安くできる」という証言についても、「損益分析まできちっとしたものがあるか」と問えば、「資料も含めて検討します」「確認します」(67頁)というのみで、具体的に検討を行った証拠は全く示していない。
 証人は、「乗客需要が最大になったときにフル規格地下鉄でないと輸送できないという計算結果を得た」と証言した。しかし、原告側が、ラッシュ時など一日の一定時間だけなら定員を超えて輸送することは通常あり得ることを指摘した。車両の定員とは、座席数と吊り革・手すりの数の合計であり、ラッシュ時にはそれ以上の人員を輸送するのは日常的である。大阪市の需要予測でも新交通システムとした場合、定員を超える時間帯は一日の一部としている。その間だけ許容範囲で定員を上回るなら、膨大なコストをかけてフル規格地下鉄は必要ないと指摘した。
 これに対して証人は、「通常車両の定員で計算することになっているので、そうした」というばかりで、現実的な想定をせずにフル規格地下鉄という結論に達したことが判明した。
 しかも、この計算の前提となっている乗客需要は、大阪市が計画どおり住宅やオフィスを建設できた場合であり、その実現性が低いことは既に述べたとおりである。
 高度経済成長期に、住宅が次々にできて鉄道の利用者が増えることが常識であった時代は、車両定員程度を想定して、将来の乗客増加に適応するというのは常識であった。しかし、1990年代以後、関西の大手私鉄の乗客は毎年1%程度減少しているのである。夢洲の開発初期には、バス輸送などで対応して、需要動向を見た上で交通機関を選ぶことができることは既に述べたとおりである。
 このように、被告側は現在における北港テクノポート線の必要性を一切説明せず、工事に着工することの有効性も具体的に示さないまま、現在も建設工事を続行しているのである。

(3)被告の主張から見る事業計画の無謀さ
 北港テクノポート線事業計画はもともと無謀であったため、被告側の主張の中にも自己矛盾が表れている。
 乙23号証では、見直しの結果、北港テクノポート線の建設計画について「北港テクノポート線の整備区間については、当面、咲洲コスモスクエア地区から夢洲までの区間の整備」としている。しかし吉松証人は、舞洲から新桜島間の整備について、「既設のルートとの連続性というものが非常に重要」であり、「そういうことを前提に需要予測を行って検討したところ、そういう需要が十分成り立つという結果を得たということがその決定要因になって」いると証言している(証人調書8頁)。すなわち、既存ルートとの連続性を前提としてはじめて北港テクノポート線の需要が成り立つと主張しながら、需要の根拠を示さないまま咲洲から夢洲止まりの整備を進めようとしているのである。
 また、事業の採算性について、「資金収支見積書」(乙6号証の1)では、現在、大阪港から230円(梅田からだと520円)の高い運賃を5年ごとに12%の値上げを行い、その上で熟成時にようやく単年度収支がとれるという計画を示している。しかし、現実には乙23号証で「民間投資を誘発する方策として、・・・・OTS線料金の見直しについても、・・・・引き続き検討していく。」としているように、OTS線の高い運賃が開発のネックになっていることは被告側も認識していることである。
 北港テクノポート線は、もともと過大な需要を設定した上で、開発のネックになるほどの高い運賃でも十分な利用者があるという身勝手な仮定をおかないと机上の計算さえあわないような無謀な計画なのである。
 被告は、平成15年4月18日付準備書面で、北港テクノポート線に関して当面工事を行う予定にしているのは、乙18号証添付の線路一般縦断面図記載の「コスモスクエア駅西端2k49m000」から西へ19.9m離れた地点から「4k672m000」までの地点であるとしている。
 被告側は、その区間の工事をいま行う理由を、「道路工事と一体としてでないと工事ができないため」(吉松証言)と主張しているが、1)そもそも被告側が現在において鉄道の必要性を全く説明できていないこと、2)将来における鉄道の必要性が全く具体的でないこと、3)需要の仮定や事業の採算性など鉄道事業計画自体に合理性がないことから、鉄道は将来においても不要である可能性が極めて高い。アプリオリに地下鉄を前提としたり、いまとは事情の異なる旧想定での一体工事下の技術問題で地下鉄を建設しようというのは、本末転倒である。いま鉄道を建設する根拠は全くない。


第3  「やりかけ工事」にさらに突入する違法

1.利用見通しのない地下鉄トンネル

 嘘と誤魔化しで着工した北港テクノポート線であるが、五輪の夢は破れ、夢洲の住民計画も完全に崩れている。今の計画では一駅目の夢洲駅(仮称)まで到達しないので、大阪市当局も今や駅の建設もしないし供用の見通しもないことを認めている。それにもかかわらず、咲洲から夢洲への海底トンネルの地下鉄トンネルと夢洲上陸部分への工事はやり続けるという。オリンピックに間に合わせるといって無理矢理2000(平成12)年度に着工した工事は、2001年7月13日のIOCモスクワ総会で完敗してもやめなかった。これは既成事実づくり以外の何ものでもない。

2.国の道路工事も市民の税の無駄遣い

 磯村大阪市長は、2002年末になってようやく深刻な財政難を認めた。オリンピック招致で言い出せなくなっている間に、取戻しがきかないレベルになった。2003(平成15)年度予算では、OTSなどの第三セクターへの支援は盛り込めない事態となっている。地下鉄はできたが経営主体のOTSは倒産した、では話にならない。
 2002年秋のテクノポート大阪計画の見直しで、大阪市は北港テクノポート線の建設の大幅縮小を発表した。咲洲のコスモスクエア駅から夢洲へのトンネルを抜けて道路と一体工事をする部分だけをつくり、そこから先は未定としている。国の事業で行っている夢洲トンネル工事と一体の部分だけをつくっておこうという考えである。
 だが、国の財政も厳しく、このトンネルは公共事業削減の対象たるべきである。国のほうがストップしてしまえば、仮に大阪市が夢洲駅まで一駅開通させたいと思っても不可能である。さらに、結局夢洲の住宅と職場づくりが中止となれば、永久に路線を使うときは来ない。
 夢洲トンネルの道路トンネルは国が経費を出すのだから一緒に地下鉄トンネルも作ったほうが大阪としては「得」だという地域エゴもある。しかし、国も700兆円を超える「借金地獄」にある。国の経費も大阪市民を含む国民の税負担の対象である。国であろうと市であろうと、市民の税の無駄遣いは違法である。

3.夢舞橋、此花大橋、常吉橋で十分すぎる

 夢洲に行くルートがないのではない。出来上がったからいかに莫大な早すぎるムダ投資といえども元には戻せない夢舞橋(総工費635億円)がある。これによって無人島の夢洲にも、巨費を投じた此花大橋に加えて常吉大橋(総工費125億円)もあり、これらを通って舞洲から車で容易に行くことができる。咲洲から1330億円を超える地下鉄と道路の共用海底トンネルなど今は不必要である。咲洲−夢洲間の通行が可能になるとしても建設コストと比較するとその効果は非常に小さい。全ては建設のための建設、ゼネコン、マリコンのための建設である。

4.地下トンネルも今は緊急性なし−市の縮小案でも400億円のムダ

 仮に、咲洲−夢洲間だけの建設として計算すると、400億円ほどが市の負担となる。咲洲−夢洲間のトンネルは、国の事業として道路トンネルをつくっていて、大阪市はそれに便乗して後で使えばいいと考えている。しかし、そのような見通しでは400億円は不良資産になるだけである。5.5兆円以上の債務がある大阪市にとって、さらにお荷物が増える以外の何物にもならない。OTSは開業まで駅などの建設投資ができない。永久にそのままになり、成田新幹線の二の舞いになるのは目に見えている。

5.中止・凍結が最良

 道路建設・計画の中止・凍結は、全国の地方自治体が求めてきた高速道路についてですら実行されようとしている。建設中のものを中止・凍結すれば過去の投資がムダになる! というのが止まらない拡大一本槍の公共事業観であった。しかし今は、完成率が50%を超え90%に達していたとしても中止にして考え直すべき時代である。なぜなら、需要が見込めず、仮に完成・供用してもその後も赤字が増えるばかりであることが目に見えているからである。本件は、既住民が待っている地方を結ぶ道路ではない。夢洲は埋立地の無人島であり、交通整備を待つ人はいない。中止が最良でありこれしかない。

6.投資を続行すれば借金と利息が増え、使わないのに減価償却など経費倒れ

 建設続行は追加投資で借金とその支払利息を増やす。供用されないとしても莫大な投資により減価償却が始まる。その負担は、大阪市であれ国であれ、税金の無駄である。もちろん、造った部分の維持にも金がいる。すなわち、供用されざる施設は完全に利用されるまで全くの無駄である。
 前述のように、400億円の投資でも夢洲駅まで開通しない限り回収できない。投資は、例えば20年間使えるとして、毎年その20分の1を各年の費用として割り振ることになる。減価償却費である。収入がゼロであっても、存在するだけで毎年20億円の赤字(損失)となる。
 また、使わないトンネルでも海底トンネルであるため、維持費もばかにならない。国が道路部分を管理するので、全て国の負担にしてもらえる可能性はあるが、市民は国税も負担しているのであり、負担から逃れられるわけではない。大阪市の港営会計(港湾局の会計)も積立金がほとんどゼロであるため、建設資金は借金をせざるを得ないが、その利息も小さくない。
 税金を使って、このように有効利用できない可能性がある事業に手を出すことは許されない。近未来に発生が必至の東南海地震などの震災(液状化現象・高潮等)対策すら全くなされていない夢洲地区に、ただ施設を作っておいて、未確定な将来の需要に備えるなど笑止千万であり、犯罪的な無駄遣いである。やりかけ工事だから突入せざるを得ないというのは、全く誤った行政であり、公金乱脈支出である。

第4  まとめ・法律論

1.健全な財政の要求

 憲法の定める地方自治の本旨は、地方自治法、地方財政法等により具体化されている。
 まず、地方自治法1条は「・・・地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする」とし、第2条の基本原則条項には「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」(14項)、「地方公共団体は、常にその組織及び運営の合理化に努めるとともに、他の地方公共団体に協力を求めてその規模の適正化を図らなければならない」(15項)、「地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない」(16項)とし、「違反して行った地方公共団体の行為は、これを無効とする」(17項)と定めている。
 地方財政法1条は、「地方公共団体の財政(地方財政)の運営、国の財政と地方財政との関係に関する基本原則を定め、もって地方財政の健全性を確保し、地方自治の発達に資することを目的とする」とし、第2条の地方財政運営の基本は「地方公共団体は、その財政の健全な運営に努め、いやしくも国の政策に反し、又は国の財政若しくは他の地方公共団体の財政に累を及ぼすような施策を行ってはならない」とする。そして、3条の予算の編成では「法令の定めるところに従い、且つ、経済の現実に即応してその収入を算定し、これを予算に計上しなければならない」と定める。さらに第4条の予算の執行では、「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要か津最小の限度を超えてこれを支出してはならない」(1項)、「地方公共団体の収入は、適実且つ厳正に、これを確保しなければならない」(2項)と定める。さらに4条の2で地方公共団体における年度間の財政運営の考慮を定め、「地方公共団体は、予算を編成し、若しくは執行し、又は支出の増加若しくは収入の減少の原因となる行為をしようとする場合においては、当該年度のみならず、翌年度以降における財政の状況をも考慮して、その健全な運営をそこなうことがないようにしなければならない」とし、現時点での健全財政のみならず将来の健全財政を十分考慮することを特に定めているのである。これによれば、地方自治体の赤字や債務がどんどん拡大していくような財政運営が許されないことは明白である。さらに8条には「地方公共団体の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない」と定めるなど、地方財政法は地方財政の健全性の確保を絶対的ともいえるほど要求しているのである。
 したがって、地方自治体の市長以下職員が、これらの法旨に反する行為がないように最大限努力することは、地方公務員法30条の服務基準「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、その職務の遂行に当っては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」との規定をいうまでもなく明白である。

2.無謀な建設・公金投入

 本件北港テクノポート線についてみると、既に述べたように、需要なき無謀な計画の強行である。それは、裁量権があるといえども著しく逸脱するものである。

(1)不健全な財政状況は市の全体をみても明らかである
1) 磯村現市長は、市の重職に就いてからだけでも2兆円を超えていた市債務残高を2002年には5兆円を超えるまでに拡大させた(甲131号証58頁)。
2) また、大阪港営事業会計に絞っても、過去の港湾埋立地の売却利益による「都市整備事業基金」から1992年度に1140億円を取り崩し、2000年には0.6億円にした。一方、企業債は1992年以降増大させ、2001年度には1508億円に達している(同60、61頁)。
3) 地下鉄事業は、2001年には市の前企業債の残高の2兆円超中の第1位を占めるに至っている。もちろん、第三セクター方式のOTS線は「赤字」で、累積赤字を重ねている。市が大阪港とコスモスクエアとの間の南港トンネルをタダで貸してもこの惨状である(同46、47頁)。
4) 咲洲地区の2K赤字(WTC、ATC)については、もはや破綻状況となり、借金棒引で市の税金をドブに捨てさせた形になろうとしている。

(2)磯村市長らの不健全な財政運営の違法
 このような不健全な運営の代表例がテクノポート大阪計画の強行であり、大阪オリンピック誘致計画に絡めた北港テクノポート線の2000年着工であった。
 ここで改めてその無謀性は再述しないが、需要のないところに莫大な投資をすることは、不健全どころか背任的な行財政というべきである。北港テクノポート線供用のためには、実際は3600億円は要するが、こんな高価な地下鉄を無住人地帯に7.5kmも建設すること自体が狂気といえる。
 それによってどのような事態になるかは言うまでもない。借金地獄と財政破綻への加速である。そして、それは確実に大阪市民への税負担と市政の緊要目的である福祉サービスの切り捨てに直結する。

(3)需要なき建設工事と公金支出の違法
 本件原告らは、単に磯村市政の政策批判をしているのではない。磯村市政であろうとなかろうと、需要なき地下鉄建設工事はムダであり、「ドブに公金を捨てる」ことの差止を求めているのである。ドブに公金を捨てても誰かがドブさらいをして拾うのであれば、誰かが利得をする。建設工事によってゼネコン、マリコンの仕事にはなる。しかし、市は土建業者の仕事をつくるためにあるのではない。建設工事至上主義の下での公金支出は絶対に許されない。
 既に述べたように、現在と近未来の確実な需要が建設工事には要求される。長期計画そのものはプランとして妥当であっても、それを実行し、公金を支出する工事を行うためにはその工事を行う適切な時期がある。あり余る公金はない。長期見通しで楽観的観測にもとづいて公金を使うような行財政は違法である。必要最小限度の費用で最大の効果を挙げなければならない。市長の裁量権もその範囲内にある。緊要の需要もないのにデベロッパーになることは地方自治体の適法な事務ではない。
 本件では、もはや夢洲トンネルの地下鉄工事もコスモスクエアから夢洲へ上陸したコスモスクエア駅西端「2k449m000」から西へ19.9m離れた地点から「4k672m000」までを念頭に置いた工事としても建設をする必要はない。今後さらに公金を支出し、さらに予算を立てて使うことは全く不必要である。
 道路工事と一体として工事をしておく必要というのも詭弁である。結局、フル規格の地下鉄を旧計画通り建設することがいま必要であるかどうかであって、将来の計画が確定できず、地下鉄計画も見直すべきものを一応やっておこうというのでは、公金支出の要件を満たさない。もちろん、過去の建設契約の見直しも当然できるし、将来分の発注については市長には何の制約もなく、発注停止にすべきである。
 予算の執行に市長の裁量が一定あるとしても、テクノポート計画の下での地下鉄北港テクノポート線の建設を進めることは職権の濫用である。また、平成15年度以降の予算化をすることも、もちろん止めるべきである。

(4)差し止めが回復困難な損害を避けられる必要かつ最良の方法である
 住民訴訟について定める地方自治法242条の2の旧規定は、差止請求においては「地方公共団体に回復困難な損害を生ずるおそれのある場合に限る」という要件があった。平成14年の法改正ではこの要件がなくなった。したがって、本訴でこの要件が問題になるかどうかは別であるが、本件は公金が被告の認める範囲でも平成14年度末まででも70億7965万円を費消し、さらに15年度は57億7330万円の予算であり、これで完了するものでもなく、16年度以降も少なくとも数十億ベースで契約と公金支出が強行されようとしているのである。このような莫大な公金支出は磯村市長ら市幹部の賠償責任で償えるものではない。無駄になり、また本来供用されるときから考えても不必要な先行投資による公金支出による経費増を市民に押し付けることになる。
 磯村市長、助役、港湾局長らをはじめ、誰もこの支出が無駄になった場合の責任を負うとはいわないのである。むしろ、磯村市長は朝日新聞のインタビューで、自ら1000億円近い公金を投入した赤字三セクに対する市や三セク会社の責任について、ずばりこう述べている。「これは議会で議論してもらいたい。逃げるわけではないが、計画は僕の任期前に始まったことで僕は後始末をやっている立場なんです。各社の社長も雇われ経営者で、今の社長はこの数年必死に会社を支えてきたが、その前は関係ない。その人たちに責任を負わすのもどうかと思う」と(甲134号証)。市長以下助役らが天下った3Kの社長らは、前社長にも今の社長にも責任を負わすことはできないというのである。自らの高給も高額退職金も責任とは関係がない。このような経営体制、仕組みに問題があると言っているが、自らはやはり「仕組み」の問題にして逃げてしまうのである。それで終わらないのが市民の税負担であり、市の第一の目的である福祉サービスの低下である。大阪オリンピックも北港テクノポート線も西尾前市長のとき(磯村氏は助役)に始まったことで、自ら「後始末をやっている」というのであろうか。
 今絶対に必要でない莫大な建設と公金支出は中止する。そして、よく検討を重ね、もし必要になったらまた建設すればよい。議会でもよく審議し市民の声を聞き、この点をじっくり検討すればよいのである。事情が変わっても突進するのは狂気以外のなにものでもない。
 アメリカの愛国者、民衆の権利の擁護者であるトーマス・ペインは、「コモンセンス」の中でこう述べている。「社会はどんな状態においても有難いものであるが、政府はたとえ最良の状態においても必要悪である。そして、最悪の状態においては耐え難いものとなる」と。北港テクノポート線建設強行は「必要悪」ではない。「不必要悪」なのである。磯村現市政の本件公金投入は、地方自治法、地方財政法に違反し、市民の公共信託への背任である。