■オリンピック地下鉄工事差止訴訟意見陳述書


原告代表  小西和人
大阪オリンピックいらない連代表
大阪湾会議代表



裁判の開始に当たり原告を代表して意見を述べます。

 「2008大阪オリンピックいらない連」は1997年10月10日に「大阪湾会議」の呼びかけで結成されました。その趣旨は、オリンピックそのものの是否ではなくて、日本の都市で最も借金が多く、財政危機のさ中の大阪市が、いまや商業化し、巨大な『金喰い虫』化したオリンピックを大阪市が開催するのは、財政面から見て無暴で、市民にバク大なツケを負わせるものとして大反対するものです。
 メンバーは、代表3人、大阪湾会議・小西和人、市民グループ見張り番・松浦米子、弁護士・全国クレジット・サラ金問題対策協議会・木村達也諸氏の3グループのメンバーを中心に大学教授、学者、住民運動グループ、近郊都市の無党派、市民派の市民会議員ら約200名で発足しました。当時日本共産党は大阪市議団が大阪オリンピックに賛成していましたが99年12月の大阪市長選挙の前に大阪オリンピック反対に回り、反対運動はさらに大きく広がっています。

 訴状では、オリンピック地下鉄線の着工差止めに焦点をしぼっていますが、大阪市は地下鉄だけでなく、オリンピックを口実にして、ウォーターフロントのムダな巨大開発を続々とやって、借金をふくらませ続けています。
 その最たるものが、此花区と舞洲を結ぶ2本目の橋の常吉橋と舞洲と夢洲を結ぶ世界で初というふれ込みの浮体式可動連絡橋です。

1.不急不用というより永久に無用の長物
 現在、舞洲にはスポーツ、レクリエーション施設がボツボツ点在するだけで、人は住んでいません。此花大橋という2車線の立派な此花-舞洲を結ぶ橋があり、土・日にスポーツ行事があれば多少にぎわいますが、決して混雑して橋がじゅう帯するようなことは起きていません。
 それなのに淀川河口部から舞洲へ「混雑緩和のため」として、2車線の常吉連絡橋が125億円もかけて99年4月に早々と開通しています。まさに『無用の長物』です。
 さらに最近、世界初の浮体式開閉橋の夢洲-舞洲連絡橋が完成しました。(添付の7月13日撮影の写真、新聞記事を参照)
 写真のように、まだ夢洲の大半は水面で、こんな所に橋をかけても、当分の間は無用です。この橋は当初予算は586億円でしたが、完成したときには664億4000万円にふえていました。
 大阪市は10万人収容のオリンピックメーンスタジアムは600億円で出来るとしています。それより、もっとお金のかかった橋を、ナゼあわてて無人どころか、まだ埋立中のゴミの島に建設したのでしょうか?。

2.開閉橋のムダは、ムダな新人工島のせい 
 なんでこんな所に大金を投じて開閉橋をと思われるのが当然ですが、それは夢洲の沖にさらに300ヘクタール(削られて205ヘクタールになり、着工も1年延期)の大阪新人工島の埋立のせいです。
 この新人工島も4600億近いムダ遣いで、一部がゴミの埋め立てのフェニックス計画、本来の目的は5万トンの巨大コンテナー船の専用バース4基を造るためです。大阪港の出入口をふさぐようなこの埋め立てに巨大タンカーバースを設けたら、船の出入りがじゃまされると港海関係者から反対され、夢洲-舞洲の水道を大阪港の北航路にするという約束で新人工島がやっとOKとなったのです。
 そのためフルに90度片側に開いてしまうという、浮体可動橋になり、高くついたのですが、でも事故などで主航路が使えなくなった時しか開かない『開かずの長物』になりそうです。
 オリンピック地下線は、夢洲-舞洲間も片側2車線の道路も併用のトンネルで結ばれるので、この橋は無くてもよいムダ遣い橋です。

3.ゴミの島にオリンピックは浮かばない
 大阪市は「初の海上オリンピック」と唄っています。現在のオリンピックは、環境面でもずい分と厳しくなりました。
 ことし8月開催のシドニーオリンピックでも、有害物質が埋まっている会場では「環境五輪」とはいえないとして、五輪用地760ヘクタールのうち160ヘクタールが一般廃棄物や産業廃棄物の処分場だったため、ダイオキシンなどの汚染物質が発見され、900万立方メートルもの汚染土壌を118億円もかけて改良しています。
 大阪のメーン会場の舞洲、選手村、メディア村の夢洲は、すべて一般ゴミと産廃でうめられた100パーセントゴミの島です。その上に大阪市は一般ゴミ全量を焼却して灰にしたものを舞洲に290トン、夢洲に396トン(95年9月月末までに)を埋めています。焼却灰はダイオキシンの巣といわれています。
 舞洲には現在もステンレスのパイプがあちこちに地上に出ています。生ゴミをそのまま埋めたためメタンガスがまだ出ているのです。シドニーと比べると大阪オリンピックは、環境面では史上最低になりかねません。

4.巨大すぎての『赤字3セクご三家』
 ATC(アジア太平洋トレードセンター)WTC(大阪ワールドトレードセンター)OCAT(港町開発センター・MDC)が、大阪市の赤字3セクご三家といわれています。別表の99年決算書にあるようにこの三つで788億円もの累積赤字がふくらんでいます。
 この表の赤字だけでなく、最大口のテナントの三井物産が自社ビルを建てて出て行く穴埋めに、00年度に別表のように、すでにすでに入居している港湾局などに加え、建設局、水道局、下水道局のほか大阪市土地開発公社など市の外部3団体など市民の税金で家賃を払わねばならないところを入居させ、巨額の家賃、敷金を大阪市が負担しています。これで大阪市の部局、関連団体の入居率はなんと70%に達し、名称はWTCだが大阪市の分庁舎化しています。これだけなりふりかまわず税金をそそぎこんでも、なお大赤字。さらにこの赤字3セクに945億もの貸付金(0.25%の低利、20年据置の後30年で返済という超優遇)や補助金を大盤振舞いした上でのこれだけの赤字です。
 99年度に銀行に支払ったこの3セク三社分借入金の利息だけで74億円、1日当たり2000万円。これではいつまでたっても赤字はふくれ上がるだけです。さらにオリンピック地下鉄をまかせられるOTS(大阪港トランスポートシスティム)の赤字が急ピッチで増えはじめるはずです。

5.2023年で人口4万5千人では大赤字
 もし2008年に大阪にオリンピックが来たとしても17日間だけ。その選手村、メディア村(合計6150戸2万4000室)を改造した住宅を中心に、4万5000人(当初夢洲の常住人口を6万としていたが、最近大阪市は4万5000人と下方修正)に達するのは大阪市もオリンピック後10〜15年と予想しているようですが、もっと人口の多い咲洲へ走っているニュートラム線でも99年の1日平均6万7000人の乗客があっても大赤字です。
 神戸の第2ポートアイランドもほとんど売れ残っています。ATCやWTCのある咲洲のコスモスクエア2期の埋立地23ヘクタールは98年7月に分譲開始、シンガポール、台湾など海外まで売り込みに出かけ、価格も3回の値下げで30〜34%もダウンしましたが、それでも全く売れていません。
 夢洲にも住宅だけでなく業務、商業施設などハイテクタウン構想を画いていますが、かつてのバブル期の夢を今も夢見ての、そのためのオリンピックを錦の御旗にしての地下鉄着工は、ギャンブルというより、もっとリスクの高い暴挙で、市民の税金で行政を進める自治体としてやってはいけないことです。

6.市民の熱意は薄く
 オリンピック招致には、立候補都市の市民の熱意が重要な条件になります。
 大阪市の場合は、まだ市議会で招致決議(94年3月30日)をした程度で大阪オリンピックが市民の話題にのぼっていない94年に「オリンピック招致に関するアンケート」を市民と企業に行ったのが唯一の市民への問いかけでした。

 公表されたその結果は
   賛成          52.5% 
   どちらかというと賛成  26.9% 
   反対           5.1% 
   わからない       12.2% 
   無回答          3.3% 
となっています。
 質問自体、賛成には「どちらかといえば賛成」があるのに反対には「どちらかといえば反対」の項目を意図的に外した、アンケート、世論調査ではやってはいけない誘導型の不公平なものでした。
 これ以後、一度も市民に対して直接アンケートをやらないのは、大阪オリンピックは財政難の大阪市にさらなる巨大な負担がかかることが、広く知られはじめ、反対の急増を恐れたためでしょう。
 IOCの立候補届けで、大阪市は99年12月の大阪市長選で磯村市長が43万3469票、得票率64.2%で当選したことも、大阪市民の大阪オリンピック招致への賛成票としていますが、大阪オリンピック反対を唱えて立候補した井上候補が20万3599票、得票率30.68%もとっています。投票率はわずか33.55%でした。つまり大阪オリンピックに必ずしも賛成でない市民がもっと数多くいるということでしょう。

7.オリンピック地下鉄は永久に赤字
 99年度の大阪市決算でニュートラムを含む高速鉄道事業(地下鉄)は00年度末には累積赤字が2709億円に達するとみられています。(別表)。現在でも年々赤字を重ねているのに、大阪市はオリンピック地下鉄のほかに地下鉄8号線(井高野〜今里間)も着工しています。
 現在の地下鉄では、「黒字は御堂筋線だけ」といわれています。新線は次第に人口の少ない地域に広がるので、赤字は必至です。人の住んでいない埋め立て途中の夢洲へのオリンピック地下鉄線は、大阪市のいうような4万5000人の常住人口が満たされ、オフィスビルや商業施設も生まれ昼間人口が9万人になっていても、まだまだ大赤字は続くでしょう。
 現在、海中トンネルで地下鉄大阪港北から咲洲のコスモスクエアを結ぶ南港テクノポート線も大阪市営ではなくOTSが運営していて、北港テクノポート線も経営はOTSがやることになっていますが、第3セクターのOTSだから、わずか2.4キロの南港テクノポート線、1駅で210円もの高い別料金をとっていて、梅田からコスモスクエアまで地下鉄-ニュートラムなら270円でいけるのですが、梅田-南港テクノポート線経由では480円(料金が阪急、阪神より高いJRでも大阪-神戸は390円)という高い料金でなおかつOTSは赤字です。
 これが夢洲までの北港テクノポート線では採算ベースに乗るには一体いくらの料金にするのでしょうか。
 最近の大阪市が進めている埋立て、ウォーターフロントの巨大開発のすべては、借金か市債でほとんどまかなわれています。借金づけでの巨大事業は関西国際空港の例と同じで黒字はムリな話です。



 大阪市の借金は遂に5兆円をこえ、00年度末5兆0597億円。これに日本国の645兆円。(うち市町村の債券の負担分を除く、純日本国の借金は約360兆円といわれる)大阪府も3兆8600億の府債残高をかかえて、財政危機は都道府県ワースト1です。大阪市民には当然日本国、大阪府の借金も肩にかかります。
その借金の額は

◇国   (1人当たり) 300万円
     (1世帯当たり)820万円
◇府   (1人当たり)  40万円
     (1世帯当たり)111万円
◇大阪市 (1人当たり) 194万円
     (1世帯当たり)550万円

つまり大阪市民は(1人当たり)534万円。1世帯当たりでは1426万円の借金を負わされています。金喰い虫のオリンピック招致どころではありません。

 以上、陳述したとおり、2008大阪オリンピックの準備のための北港テクノポート地下鉄着工を差止めて下さい。