訴 状
平成15年11月14日
大阪地方裁判所 御中
原告ら訴訟代理人弁護士 辻 公 雄
同 弁護士 井 上 善 雄
同 弁護士 今 井 力
同 弁護士 赤 津 加奈美
同 弁護士 畠 田 健 治
同 弁護士 坂 本 団
同 弁護士 中 嶋 弘
同 弁護士 向 来 俊 彦
同 弁護士 海 川 直 毅
同 弁護士 豊 永 泰 雄
同 弁護士 石 橋 徹 也
同 弁護士 山 下 真
同 弁護士 奥 村 裕 和
同 弁護士 崎 原 卓
同 弁護士 掛 樋 美佐保
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
大阪市3K債権株式化・追加出資・補助金・損失補償等差止等請求事件
訴訟物の価額 金2,850,000 円(算定不能)
貼用印紙額 金 21,900 円
請 求 の 趣 旨
1 被告大阪市長は、株式会社湊町開発センター(以下、「MDC」という)に対し、以下のことをしてはならない。
a MDCへの貸付債権をMDCの株式に変えること
b 追加出資をすること
c 追加貸付をすること
d 補助金を支出すること
e MDCの金融機関に対する債務について保証又は損失補償すること
2 被告大阪市長は、株式会社大阪ワールドトレードセンタービルディング(以下、「WTC」という)に対し、以下のことをしてはならない。
a WTCへの貸付債権をWTCの株式に変えること
b 追加出資をすること
c 追加貸付をすること
d 補助金を支出すること
e WTCの金融機関に対する債務について保証又は損失補償すること
3 被告大阪市長は、アジア太平洋トレードセンター株式会社(以下、「ATC」という)に対し、以下のことをしてはならない。
a ATCへの貸付債権をATCの株式に変えること
b 追加出資をすること
c 追加貸付をすること
d 補助金を支出すること
e ATCの金融機関に対する債務について保証又は損失補償すること
4 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに第1項ないし3項につき仮執行の宣言を求める。
請 求 の 原 因
第1 当事者
1 原告破綻第三セクターの無責任を糾す市民の会(藤田隆代表)は大阪市において事務局を有し、3K等の無責任経営、破綻による市民への責任転嫁について是正等を求める市民団体である。
その余の原告はいずれも大阪市民である。
2 被告大阪市長は地方自治法(以下「法」という)242条の2に基づき、本訴の被告たる地位を有する者である。
第2 3Kの事業及び破綻状況
1 3Kは、いずれも大阪市が筆頭株主である株式会社であり、MDCは大阪市の計画調整局所管、WTCは港湾局所管、ATCは経済局所管であり、いずれも所管当局の頭文字のローマ字にKがつくところから3Kと呼ばれている。
2 MDC(大西凱人社長、元大阪市経済局長)、WTC(坂口英一社長、元大阪市助役)、ATC(石部勝社長、元大阪市衛生局長)の各会社概要と最近の財務状況は、別紙1ないし3のとおりである(いずれも3K公表分)。
3 3Kは、いずれも大阪市が多額の出資をし、同時に民間企業の銀行や不動産・建設会社らが出資をし、表向きは「公共目的」を掲げるも、実態は官と営利企業が加わって開発行為を行い、土地にビルを建て運営等をする会社であり、その開発とビル建設に多大な市民の税金を投入して参加関係企業が収益をあげようという会社である。
日本では純粋な官(行政、「第1セクター」といわれる)でも民間企業(私企業、「第2セクター」といわれる)でもない「第三セクター」(略して「三セク」)と呼ばれている(なお、欧米ではNPOなどの団体が第三セクターと呼ばれる)。
4 三セクは、日本的な官民出資企業であるが、自治体が不動産開発や本来民営部門の業務に進出し、市の役人やOBが天下りしたり、民間企業ではリスクの大きな事業等に行政も加わってもらうことにより責任分散を図れるなどの「狙い」から設立されることが多いものである。
そして、1990年代以降これら三セクの事業の無謀・無責任な設立と経営による事業の失敗が続出している。
5 いずれも大阪市が多大な出資金に加えて多大な補助金、実質無利息ともいえる長期間の超低金利の貸付を繰り返してきたが破綻状況となり、いずれも2003(平成15)年6月20日、大阪簡易裁判所に多重債務者同様の特定調停を申し出た。
第3 特定調停の申立と被告らの陰謀
1 3Kの特定調停の申立は、MDCが2002(平成14)年度末の借入金残高554億円で95億円の債務超過、WTCが同期に借入金残高982億円で236億円の債務超過、ATCが同期に借入金残高1263億円で253億円の債務超過という状況であり、自力更生の見通しが立たないからである。このうち、大阪市からの借入金は、MDCは203億円、WTCは200億円、ATCは187億円の合計590億円にのぼる。
3Kの特定調停は記者会見等で簡単に趣旨の説明はされているが、大阪市自体は市民の情報公開請求に対し、@3Kの特定調停の申立書、A3Kの「再建計画概要説明書」や添付資料、Bかつて大阪市が銀行の3Kへの融資にあたって依頼した文書などは非公開とし、公開を拒んでいる。
これは「特定調停中」を理由に非公開にするものであるが、大阪市民の税からなる財政から、資本金名下に計140億円8千万円、貸付金名下に1998(平成10)年度以降510億円、そして、毎年12億円以上の補助金を交付したものが失敗した上での再建案であるなど、市民に公開して解決すべきものを特定調停にしたもので、これを密室処理する陰謀が3Kと磯村市長以下、所管部門で進められていることを示すものである。
2 そして、伝えられるところによれば、市民に責任転嫁する計画はおよそ次のようなものである。
@ 銀行等への債務2062億円余のうち、817億円余を債務免除、146億円余を株式化(Dept Equity Swap=DES)することにより、1098億円余に減殺する。
そして大阪市へのMDCの債務203億7700万円、WTCの債務200億円、ATCの債務187億円のうち168億2200万円は、配当の余地もない「紙くず」とも言える株式に変える(株式化を「DES」と言っているが合計571億円以上の事実上の債務放棄)。
A 大阪市は新たに銀行への71億円余の債務弁済等のため平成15年度にMDCに24億3300万円、WTCに40億円、ATCに40億円(3K合計104億3300万円)を追加出資する(返済、配当の余地のない事実上の贈与)。
B 大阪市はこれから毎年、30年間の将来に向けてMDCには5億6000万円、ATCには6億800万円補助金交付を継続する(補助総額約350億4000万円)。
C 大阪市はATC駐車場を18億7800万円で代物弁済したことにする(しかし、その後、現実にはATCが市より管理委託収入を得て管理する)。
D そして、銀行への長期分割弁済を可能にする前提は、今後とも30〜40年間は3Kの所有ビルを大阪市及び外郭団体が高額家賃(民間部門の1.5〜2倍)で借り続ける。
ちなみに、WTCでは大阪市関係で毎年22〜25億円以上、40年間で925億円にのぼる賃料収入を見込んでいる。
現に、WTCではフロアーの8割強が、大阪市の港湾局、建設局、水道局、下水道局、都市環境局、ゆとりみどり振興局の6局と、市土地開発公社ら13外郭団体のオフィスで占められているという状況で、本来の貿易センタービルの目的を逸脱して、市民にとっては交通が極めて不便なWTCを第2庁舎化し、これを半永久化するというものである。
E かくして、銀行への借金を、MDCは2003(平成15)年度に17億8000万円を一括支払い、以降0.8〜4%の利息とも元本部分である73億7000万円を30年にわたり2億4600万円ずつ支払い、WTCは2003(平成15)年度に38億円3200万円を一括払い、将来40年間にわたり利息0.8〜5%を付して617億3600万円を40回(年18億6500万円〜13億8000万円)の分割で支払い、ATCは、2003(平成15)年度には15億5100万円を一括支払い、0.8〜4%の利息とも335億9585万円を30年にわたり30回の分割(年15億弱〜9億余円)で支払うという。
F 大阪市は、2003(平成15)年度内に銀行に71億円余返済した後の3K残債務約1027億円及び未払利息について銀行へ損失補償(保証)をし、3Kが支払えないときは保証債務を履行する。
これら計画は3Kの単独案でなく、実は磯村大阪市長ら幹部と内通・結託しなければ提案しようのないものである。
3 上記のとおり、特定調停でまとめようという計画は、結局最初から最後まで市民の税金負担となる@貸付金(571億円強)の放棄、A2003(平成15)年度104億円強の追加出資(贈与)、B補助金継続(年間約12億円。30年間でMDCは約168億円、ATCは182億4000万円)、C高額家賃での借り続け(合計年23億円。WTC)というものにほかならず、3Kの無能無謀な経営と、それをさせてきた磯村市長以下幹部らの責任は何ら問わず、大阪市幹部職員らの天下り企業の体質を温存し、結局大阪市民の負担で銀行借入残高の一部を一括返済させ、その余の銀行債務を債務保証(損失補償)させるものである。
第4 3Kの計画と経営の杜撰さ並びに大阪市の職員らの無謀
1 MDC
MDCは1990(平成2)年3月に設立され、478億円を投じて湊町地区を開発し、関西国際空港のサポートをし、広域交通の接点として大阪シティーエアーターミナルビル(OCATビル、鹿島・大鉄工業JVが360億円で請負建設)を運営することを事業内容とした。大阪市は、資本金80億円のうち51%にあたる40億8000万円を出資している。
しかし、計画は杜撰で、建設当初からCAT機能は期待できないのに強行し、1996(平成8)年3月のスタート時から、計画では年1億円の黒字予想が初年度から37億円の大赤字を出し、2000(平成12)年にはメインの1階チェックインカウンターを2階のバス乗り場の奥に移動し、そこに100円ショップが入り、CAT機能に代えたCATバスも集客できず航空会社は撤退し、2002(平成14)年にはチェックイン業務も無期限停止となっている。
大阪市は1998(平成10)年に経営改善策を公表したが、これによると1996(平成8)年度の累積欠損は40億7200万円になったが、CAT経費削減と賃料収入の増収などで2003(平成15)年度には償却前黒字になるとしている。このように約束して1998(平成10)年から年24億3300万円の貸付をはじめ、2002(平成14)年度までに計121億5千万円を支出してきたが、これ自体市民を欺くものであった。かくして大阪市は追加貸付金121億5000万円を無駄遣いした。
大阪市は他よりも高い賃料で関係部局を入居させ、また補助金名下に2003(平成15)年4月までで117億9400万円を支出しているが、市民の税で破綻整理を先延ばしにしてきたものである。
2 WTC
WTCは「国際交易促進拠点」として貿易商社等の収入で経営できる会社として位置づけられ、1989(平成元)年設立時は、高さ150m、33階、床面積約11.1万u、事業費520億円で、銀行借入319億円の計画であった。大阪市は、資本金94億円のうち26.6%にあたる25億円を出資している。
しかし、抽象的一般的な事業目的だけで具体的に緻密な計画はなく、需要見込みも甘いものであり、投資家が全て自己責任で扱う民間企業ならば当然なされるべき、投資リスクを極小化するための入居予定企業リストなど、ニーズ、コスト、収益分析はろくになされていなかった。
ところが、その甘い計画を、さらに西日本一の高層ビルにしたいとして計画変更で拡大し、1995(平成7)年4月オープン時には高さ256m、地下3階、地上55階建て、床面積約15万uにし、事業費1193億円、資本金94億円に対し銀行借入金977億円となり、事業費は2.29倍、借金は3.06倍に膨らませた。
かくしてWTCのビルは三井不動産、三井物産ら三井グループが企画し、大林、鹿島、三井、鴻池等JVが885億円で請負建設したが、入居率は最初から33%という危機状況であった。その上、1996(平成8)年10月から日本電気、日立製作所、東京海上火災、住友海上火災の大手(2118u)が退去した。さらに1999(平成11)年にはフロアー面積の約6分の1を占めていた三井物産(7億5千万円の出資15000株、7.98%)が退去するなどした。
この穴埋めに、1997(平成9)年度に大阪市港湾局が、1998(平成10)年度に建設局、水道局、下水道局など大阪市の3局と、大阪市土地開発公社が他のオフィスから1.5〜2倍高い賃料で入居した。そして、2002(平成14)年度に大阪市都市環境局、ゆとりみどり振興局が入居して、結局、大阪市関係でオフィス面積の約8割を占めるという状況になっている。
また、大阪市はWTCの設立時の資本出資金の10億円(全体の20%)から1995(平成7)年には25億円(全体の26.6%)まで拡大しただけでなく、1995(平成7)年以来、市の超低利貸付金200億円を投入して、銀行への借金の返済や赤字経営を穴埋めにしてきた。
WTCの経営危機に、大阪市は1998(平成10)年に経営改善策を公表した。これによると、1996(平成8)年度に113億円超の累積損失があり、債務超過となって、1997(平成9)年度には累積損失が169億円になると見込まれるが、WTCの入居率を1997(平成9)年度の63%予定から1999(平成11)年度には100%にする。そして2001(平成13)年度から2年ごとに賃料が6%アップの予定として、1999(平成11)年度から年40億円の貸付けを行うと、2022(平成34)年度には償却前黒字になるとしている。このように約束して、結局、2002(平成14)年度までの5年間で200億円を追い貸ししてきたが、これ自体市民を欺くものであった。
WTCは被告のいうところによれば国際交易促進の拠点としての「商業」「ビジネス」のビルであって「第2の市役所」ではないのに、磯村市長らは追加貸付金200億円を使い、破綻の顕在化を先送りするために使ったのである。
3 ATC
ATCは1989(平成元)年4月28日設立され国際交易促進のための卸売基地の建設運営等を事業内容とした。大阪市は、資本金221億円のうち33.9%にあたる75億円を出資している。ITM(国際トレードマート)と、レストラン、ショップ、アミューズメントのO’S(オズ)、そして大型展示場ATCホールの3施設が融合した2棟からなるビルである(敷地6.8万u、延床33.5万u)。この建物は、竹中・奥村・鴻池らJVと大林・前田らJVらが990億円で請負建設した。
しかし、これも無謀な甘い計画で、1465億円を投じ1994(平成6)年4月のオープン時、卸売基地28%に業者が入居したがその後は全く賑わず、保税地域としての許可を受けた業者はわずか5業者で、一般テナントである大塚家具(6〜8階)、アウトレットモール「マーレ」(2〜4階)、そして穴埋めに大阪市消費者相談センターまでが移転して入居するなど「雑居ビル」となっている。
大阪市は1998(平成10)年に経営改善策を公表した。これによると、オープン2年後の1996(平成8)年度末に累積損失が216億円となったが、当時64%の入居率を1998(平成10)年度には83%、2000(平成12)年度に95%に高めるとし、2004(平成16)年度には償却前黒字になるとしていた。このように約束して1998(平成10)年より毎年33億円を追加貸付、2002(平成14)年度までに合計187億円を超低利で貸し付けしたが、これ自体市民を欺いたものであった。
賃料も、大塚家具が坪6千円であるところ、大阪市関係は坪2万4千円以上という破格の高値で、大阪市は家賃により年25億円ものヤミ支援もしているといわれる。結局、追加貸付金187億円、さらには補助金名下に2003(平成15)年6月までに108億8300万円を支出して無駄遣いしたのである。
第5 債権放棄(株式化)、追加出資、補助金支出、債務保証(損失補償)の違法性と損害発生の予測相当性
1 3Kは、大阪市からの金で銀行等への返済もしてきたので、社会的・条理的にみれば、大阪市の3Kに対する1998(平成10)年以降の追加貸付については、3Kの土地建物に根抵当権(但し仮登記)を有する銀行への債権よりも優先して返済させて然るべきものである。
そのような債権を紙くず同様の株式に変えることは実質的な債務免除に等しく、大阪市民をごまかす手法である(健全企業の債務を株式と交換する「DES」(Debt Equity Swap)とは本質的に異なるものである)。3Kの株式は現在異論のない鑑定評価もなく、もし現在の3Kの株式1株が5万円の価値を有するというのであれば、磯村市長ら幹部職員や3K役員らはその値以上で買い取るというのであろうか。
しかるに、3Kは磯村市長ら幹部と内通・談合して、貸付金の株式化を強行しようというものである。そして、磯村大阪市長、現在の大阪市助役をはじめ幹部職員らはこれに応じる準備をしている。
大阪市は、3K全ての筆頭株主である。筆頭株主である大阪市の意向・同意なくして、このような提案はあり得ない。磯村市長らには、市民の利益を守るためにこのような調停申立を阻止できるし、逆にさせることもできるのである。
2 571億円もの貸付金の株式化に加え、3Kは2003(平成15)年度内にこれまた磯村市長らと内通・談合して合計104億余円の追加出資を求め、磯村市長らはこれに応じる準備をしている。しかし、これは名目こそ追加出資であるものの返還の見込みのない事実上の寄付ないし贈与であって、しかもこれは3Kの銀行債務の返済が主たる理由というのであるから、公益性など全くない。これは、地方自治法232条の2に直接違反する。
3 加えて、大阪市が将来にわたり30年間、MDCに対し5億6000万円、ATCに対し6億800万円の補助金(無償提供)をすることを予定した調停案を示している。これも磯村大阪市長ら幹部との内通・談合したものであるが、地方自治法、地方財政法上の単年度予算主義の原則を著しく踏みはずし、合計365億円余を将来の議会・市民の決定権をも事実上奪って負担させる違法な債務負担行為をなそうとするものであり違法である。
4 それどころか3Kは、「再建」計画においていずれも大阪市が現在3Kの家賃収入増加対策のために民間より高い家賃で入居しているビル賃借部分を今後とも継続することで賃貸率を維持し、WTCに至っては大阪市関係だけで今後40年間も「第2庁舎」化という本来の目的から完全に逸脱した状態を継続し、その賃料負担が年間22〜25億円以上、40年間で合計925億円以上という負担の継続を約束させる案となっている。このような30年〜40年の債務負担継続という計画案は、磯村市長ら幹部との内通・談合の下でなければ「計画呈示」すらできないものであるし、市が多大な債務負担までして市民や勤務職員にとっては極めて不便な場所に庁舎を置き、将来の市民・議会の権限まで事実上奪う形で決めることは地方自治法、地方財政法上違法である。
5 さらに3Kは、銀行に対しそれぞれ債務免除等を求めているが、MDCの91億5000万円の残債務とその金利、ATCの351億4600万円の残債務とその金利、WTCの655億6800万円の残債務とその金利について、大阪市が「損失補償」をすることを求めている。これも磯村市長ら幹部との内通・談合の下に案として提示されているが、このような合計1098億6400万円の銀行への3K債務を「補償」ないし「保証」することは、磯村市長らが法を潜脱して銀行の3K融資にあたって約束していても違法無効である。
もとより、このような約束は「法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律」3条に違反し、大阪市民を将来30〜40年にわたり束縛し、議会の予算議決権をも奪うもので、地方自治法、地方財政法上も違法なものである。
6 ところで、仮に特定調停がまとめられたとしても、3Kは実質再建される保証もなく、さら再度破綻に陥るリスクは大きい。それは、次の点からもいえる。
a 3Kの経営責任・破綻の理由が明らかにされておらず、それら破綻原因を除去した抜本的な再建計画ではない
b 3Kの本来の目的から逸脱した「貸しビル経営」の継続が前提
c 将来の経営環境の不確定・不安定要素を30〜40年にわたり一定のものと想定するリスク
d 現在の0歳児に40歳になるまで債務を負担させ、まだ生まれていない未来の市民に将来の約束を守らせることは法的にも事実上も困難
e 財政困難で負担の高まる大阪市民にさらに総額2000億円(ちなみに大阪市民は現在262万人であり0歳児も含め1人あたり7万6000円となる)の負担を負わせる限界とリスク
7 このように、特定調停は3Kの無謀な設立・経営の責任をその実行者に問うことなく、今年度(平成15年度)から40年間の将来にわたり市民の自主決定権を奪い、既出資の140億8000万円を除いても、これからさらに総額約2000億円にのぼる債務負担を市民の現在及び将来の税のうちから負担させる内容の調停を2003(平成15)年度内に成立・発効させ、年度内にも104億余円を支出しようという極めて切迫したものであるから、これによる大阪市民の損害発生は明白な緊急課題である。したがって、早急に差止めの必要があるものといわねばならない。
第6 監査請求及び不法な却下と本訴
1 原告らは、これまで述べたような事情が報道されるなどしたので調査したところ、「特定調停」を利用した大阪市民の財産侵害とその緊急性に鑑み、2003(平成15)年9月26日、職員措置請求をし、同日受理された。その際、請求人と代理人は意見陳述、及び監査委員の陳述聴取の機会に立会いし、また証拠提出の機会を与えられるよう申し入れた。
2 しかし監査委員らは、意見陳述はおろか原告らの請求について何の問合せもなく2003(平成15)年10月24日付で、「住民監査請求の対象とならない」として却下通知した。
それによると、@違法不当な財務会計上の行為が「相当の確実さをもって予想される場合」でない、A具体的な理由によって法令違反があり又は行政目的上不適当であることが必要であるところ、
a 3Kへの貸付金・減額・株式化は調停条項が提示されていないし議会の議決がなければ受諾できないから相当の確実さがない。
b 今後の貸付金の支出については予算に計上しなければならず、まだ予算計上されていない。補助金は15年度予算に計上されているがそれぞれの違法性、不当性を具体的に理由を摘示していない。賃料も単に高額というだけで具体的でない。
c 銀行への債務の保証・損失補償については地方自治法214条による予算に計上されていない。
d 市長ら幹部への給与・退職金の支払ないし追加貸付の損害責任は3社への債権放棄と関係がないし、現在大阪市には追加貸付による損害は発生していない。
などというものである。
しかし、秘密裡に進められ情報非開示で情報を制限している大阪市の対応に加え、監査請求は事実上制限された紙幅で監査請求せざるを得ないのに詳細な記述を全て監査請求書に記載すべきというもので、監査請求時の書面一本で全てを判断することは、致命的ともいえる誤った決定である。
3 およそ監査委員たるものは、監査請求書で十分でないと考えればその点の釈明を求めるとか意見陳述や証拠提出の機会を与えることなどは初歩的な責務であって、この点を無視した一方的な断定は軽挙というよりは害意に満ちたやり方で、法律で認められた市民の住民監査請求権を冒涜するものである。
本却下の本当の狙いは、問答無用式に却下することで磯村市長ら幹部の行為の調査を放棄することにあり、今回の「特定調停」とそれによる市民への財政的責任転嫁に監査委員までが加担するものである。監査委員らはその職責を果たさない点で失格というだけでなく、財務会計行為へのお目付け役という立場を自ら放棄する点で職務怠慢も甚だしいというべきである。
このような監査委員であれば、特定調停が電撃的に成立し、2003(平成15)年度内の公金支出が予定されている問題さえも真に公金支出する直前でなければ受け付けないというに等しい。そして、再度監査請求をすると60日の監査結果期限までに支出も終わってしまったという別の理由で、再び差止請求を門前払いにするという職務逃避をすることは目に見えているのである(今回の却下決定は市民の監査請求という公民権行使の機会を実質奪う不法行為であり、原告らに対して違法な公権力を行使した者というべきものである。この点の法的責任は別途時を見て追及するが、今後のこともあるので付言する)。
4 以上のとおり、本却下は意見陳述・証拠提出の機会を与えず抜き打ち却下をすることにより、いかに不法却下でもその日より30日以内に提訴するのでなければ提訴期間さえ失われるという最高裁判例を逆用して原告らの準備期間さえ妨害するものであった。
しかし、原告らはこのような卑劣な監査結果をもたらす磯村市長以下の構造的腐敗が大阪市の監査委員に及んでいることを肝に銘じ本訴に及ぶこととした。
大阪市長ら幹部や監査委員らは、3Kだけで大阪市民に将来約2000億円もの損害を与えることになる3Kの処理について責任を取らねばならない。
証 拠 方 法
1 甲第1号証 監査請求書
2 甲第2号証 監査結果
附 属 書 類
1 委任状 5通
2 規約及び代表者証明書 1通
3 甲号証(写) 各1通
当事者目録
〒530−0047
大阪市北区西天満4−6−3 プロボノセンター気付
原 告 破綻第三セクターの無責任を糾す市民の会
代 表 者 藤 田 隆
〒551−0002
大阪市大正区三軒家東二丁目2番23号 502
原 告 北 村 武 幸
〒555−0025
大阪市西淀川区姫里2−2−21
原 告 小 西 昌
〒559−0033
大阪市住之江区南港中4−2−14−702
原 告 重 本 健 治
〒540−6591
大阪市中央区大手前一丁目7番31号 OMMビル5階
大手前法律事務所
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 辻 公 雄
〒530−0047
大阪市北区西天満四丁目6番3号 第五大阪弁護士ビル1階
大阪こうせつ法律事務所(送達場所)
電 話 06−6130−9360
FAX 06−6130−9363
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 井 上 善 雄
〒530−0047
大阪市北区西天満二丁目8番1号 大江ビル505
秋田仁志法律事務所
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 今 井 力
〒530−0047
大阪市北区西天満二丁目6番8号 堂ビル618
赤津法律事務所
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 赤 津 加奈美
〒530−0047
大阪市北区西天満五丁目1番9号 南森町東洋ビル9階
ミネルヴァ法律事務所
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 畠 田 健 治
〒530−0047
大阪市北区西天満四丁目3番25号 梅田プラザビル9階
大川・村松・坂本法律事務所
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 坂 本 団
〒530−0054
大阪市北区南森町一丁目2番25号 南森町isビル4階
太平洋法律事務所
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 中 嶋 弘
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 向 来 俊 彦
〒530−0047
大阪市北区西天満二丁目3番15号
なにわ共同法律事務所
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 海 川 直 毅
〒530−0047
大阪市北区西天満六丁目7番4号 大阪弁護士ビル2階
池田綜合法律事務所
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 豊 永 泰 雄
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 石 橋 徹 也
〒530−0054
大阪市北区南森町一丁目3番27号 南森町丸井ビル8階
まこと法律事務所
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 山 下 真
〒530−0047
大阪市北区西天満二丁目8番1号
長野法律事務所
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 奥 村 裕 和
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 崎 原 卓
〒530−0047
大阪市北区西天満四丁目6番19号 北ビル2号館3階
前田春樹法律事務所
上記原告ら訴訟代理人 弁護士 掛 樋 美佐保
〒530−8201
大阪市北区中之島一丁目3番20号
被 告 大阪市長 磯 村 隆 文