概説 |
パーキンソン病のお薬です。 |
作用 |
- 【働き】
- パーキンソン病は、脳内のドパミンが不足し、手足がふるえたり体の動作が鈍くなる病気です。パーキンソン病の最も基本的な薬はドパミン補充薬の“レボドパ”です。このレボドパの問題点として、長期服用により効き目が落ちる ということがあげられます。効いている時間が短くなり、次の服薬前に症状があらわれてしまうのです。専門的にウェアリング・オフ現象(wearing-off)、日本語で減衰効果などと呼ばれています。
このお薬はドパミンの分解をおさえ、ドパミンの量を増やすことによりパーキンソン病の諸症状を改善します。単独療法として発症早期に用いた場合、レボドパによる治療の開始を遅らせ、将来的にレボドパ長期使用によって生じるウェアリング・オフ現象やすくみ足などの合併頻度の抑制が期待できます。また、病気が進みレボドパの効き目が悪くなった場合に追加すれば、ウェアリング・オフ現象が軽減され良い状態をより長く保てます。
- 【薬理】
- B型モノアミン酸化酵素(MAO-B)によるドパミン分解作用を抑制し、神経シナプス間隙のドパミン濃度を高めます。モノアミン類のうちドパミンの分解にかかわるB型酵素を選択的に阻害するのが特徴ですが、高用量ではその選択性が低下するとされます。そのほか、ドパミン再取り込み阻害作用についても推察されているようです。
- 【臨床試験】
- この薬の効果をプラセボ(にせ薬)と比較する試験が行われています。参加したのは、他の治療薬を服用していないパーキンソン病の患者さん279人です。そして、この薬を飲む人とプラセボ(にせ薬)を飲む人に分かれ、服薬3カ月後の効果を比較するのです。効果の判定は、精神症状をふくめ、日常生活の動作や運動能力を31項目ごとに医師が点数化(0〜4点)し、その合計点(0〜124点)の変化量でおこないます。点数が低ければ軽症、高いほど重症です。ちなみに、患者さんの服薬前の合計点の平均は26点くらいでした。試験の結果、この薬を飲んでいた人達は平均6.3点低下(26.5点→20.2点)、プラセボの人達は3.1点低下(26.6点→23.5点)しました。この薬のほうがプラセボより3点ほど下げ幅が大きく、プラセボを上回る有効性が確認できたわけです。
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特徴 |
- パーキンソン病治療薬のなかでは、ドパミン代謝酵素阻害薬または選択的B型モノアミン酸化酵素阻害薬(選択的MAO-B阻害薬)に分類されます。作用は緩やかで、安全性も比較的高いことから、単独療法またはレボドパ併用療法として広く用いられています。
- 軽度の運動障害があり認知障害がみられないとき、とくに若い人の発症早期に第一選択されることがあります。治療導入薬とすることにより、レボドパ開始時期の遅延、運動日内変動(ウェアリング・オフ現象等)の発現頻度減少、さらに神経保護作用が期待できるようです。
- 基本薬のレボドパ含有製剤と併用することも多いです。レボドパと併用することで、長期レボドパ治療中に生じる効き目の低下や日内変動を改善できます。また、レボドパ製剤で効果不十分な固縮や無動に有効なことがあります。
- 相互作用を起こしやすいのが難点です。抗うつ薬など飲み合わせの悪い薬がたくさんあります。
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注意 |
【診察で】
- 持病やアレルギーのある人、また妊娠中の人は、そのことを医師に伝えてください。病気によっては症状を悪化させるおそれがあります。
- 飲み合わせの悪い薬があります。2週間前から今現在まで飲んでいる薬を、医師に報告してください。
- 【注意する人】
- 精神症状が悪化するおそれがあるので、統合失調症の人には用いません。高齢の人は、副作用が出やすいので慎重に用いる必要があります。
- 適さないケース..統合失調症、三環系抗うつ薬など飲み合わせの悪い薬を飲んでいる人。
- 注意が必要なケース..重い肝臓病、重い腎臓病、心臓病、高齢の人など。
- 【飲み合わせ・食べ合わせ】
- 同じMAO-B阻害薬のラサギリンとは併用できません。切り替えるなら 少なくとも14日間の間隔を置く必要があります。飲み合わせで特に注意が必要なのが抗うつ薬です。その多くは併用禁止です。三環系、四環系、SSRI、S-RIM、SNRIおよびNaSSA系抗うつ薬が該当します。この薬を中止後に、それらを服用する場合は少なくとも14日間あける必要があります。ほかにも オピオイド鎮痛薬のトラマドールやタペンタドールなど飲み合わせの悪い薬がいろいろあります。今現在および最近まで飲んでいた薬を必ず医師に伝えてください。
- 禁止されるのは、同系のラサギリン(アジレクト)とサフィナミド(エクフィナ)、三環系抗うつ薬(トリプタノール、アモキサン、トフラニール、アナフラニール、プロチアデン、スルモンチール、ノリトレン、アンプリット等)、四環系抗うつ薬(ルジオミール、テトラミド、テシプール等)、SSRI(ルボックス、デプロメール、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロ)、S-RIM(トリンテリックス)、SNRI(トレドミン、サインバルタ、イフェクサー)、NaSSA(リフレックス、レメロン)、NRI(ストラテラ)、オピオイド鎮痛薬のトラマドール(トラマール)、タペンタドール(タペンタ)、ペチジン(ペチロルファン)、中枢神経刺激薬(AD・HD治療薬)のリスデキサンフェタミン(ビバンセ)、食欲抑制薬のマジンドール(サノレックス)などです。併用するとセロトニン症候群や高血圧クリーゼをはじめとする副作用の危険性が高まります。
- この薬の作用を増強する薬剤として、胃薬のシメチジン(タガメット)、マクロライド系抗生物質のエリスロマイシン(エリスロシン)やクラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)、アゾール系抗真菌薬のイトラコナゾール(イトリゾール)、高血圧・不整脈治療薬のジルチアゼム(ヘルベッサー)やベラパミル(ワソラン)などがあげられます。これらと併用する場合は、副作用の発現に十分な注意が必要です。また、併用のさいは、チーズ、レバー、にしん、酵母、そら豆、バナナ、ビール、ワインなどの大量摂取は控えたほうがよいかもしれません。
- 逆に、スルピリド(ドグマチール)など一部の安定薬(フェノチアジン系、ブチロフェノン系)、吐き気止めのメトクロプラミド(プリンペラン)は、この薬の作用を弱める可能性があります。
- 交感神経興奮薬のエフェドリン、メチルエフェドリン、あるいはプソイドエフェドリン(ディレグラ)の交感神経刺激作用が増強する可能性があります。併用する場合は、血圧上昇や頻脈の副作用に注意が必要です。
【使用にあたり】
- ふつう、少量から開始し、医師が効果や副作用をチェックしながら2週ごとに増量します。よい効果がでるまでに数週間かかるかもしれません。
- 1日1回の場合は朝食後に、1日2回の場合は朝食後と昼食後に服用します。夕刻以降ですと、寝つきが悪くなるおそれがあります。
- 口腔内崩壊錠(OD錠)は、水なしでも飲めます。この場合、舌の上で唾液をしみこませ、舌で軽くつぶしてから、飲み込んでください。ただし、寝たままの状態では、水なしで飲まないようにしましょう。
- 単独で用いるほか、レボドパと併用することも多いです。レボドパ含有製剤には、ドパストン、ドパゾール、マドパー、イーシー・ドパール、ネオドパゾール、ネオドパストン、メネシットなどがあります。
- レボドパ使用中に追加すると、レボドパの副作用が強まるおそれがあります。もし、幻覚、興奮、手足の異常な運動、また動悸や脈の乱れ、胸の痛み、手足の麻痺やしびれなどが現れたら医師に連絡してください。
- 自分だけの判断で飲むのをやめてはいけません。急にやめると、その反動で具合が悪くなることがあります。
【食生活】
- めまいを起こしたり、注意力や集中力が低下することがあります。車の運転をふくめ危険をともなう機械の操作や高所作業は避けてください。
- 急に立ち上がると、強い立ちくらみを起こすおそれがあります。急な動きはしないで、ゆっくり動作するようにしましょう。とくに飲み始めに注意してください。
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効能 |
パーキンソン病(レボドパ含有製剤を併用する場合:Yahr 重症度ステージI〜IV、レボドパ含有製剤を併用しない場合:Yahr 重症度ステージI〜III) |
用法 |
- 【レボドパ含有製剤を併用する場合】
- 通常、成人にセレギリン塩酸塩として1日1回2.5mgを朝食後服用から始め、2週ごとに1日量として2.5mgずつ増量し、最適服用量を定めて、維持量とする(標準維持量1日7.5mg)。1日量がセレギリン塩酸塩として5.0mg以上の場合は朝食及び昼食後に分服する。ただし、7.5mgの場合は朝食後5.0mg及び昼食後2.5mgを服用する。なお、年齢、症状に応じて適宜増減するが1日10mgを超えないこととする。
- 【レボドパ含有製剤を併用しない場合】
- 通常、成人にセレギリン塩酸塩として1日1回2.5mgを朝食後服用から始め、2週ごとに1日量として2.5mgずつ増量し、1日10mgとする。1日量がセレギリン塩酸塩として5.0mg以上の場合は朝食及び昼食後に分服する。ただし、7.5mgの場合は朝食後5.0mg及び昼食後2.5mgを服用する。なお、年齢、症状に応じて適宜増減するが1日10mgを超えないこととする。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
比較的多いのは、吐き気や嘔吐、食欲不振、便秘、めまい・ふらつき、不眠などです。併用薬のレボドパによるものを含め、ジスキネジアまたはジスキネジーと呼ばれる不随意運動があらわれることもあります。手足や首、顔などが意志とは関係なく勝手に動いて困ります。つらいときは早めに受診し医師とよく相談してください。
幻覚や妄想など精神症状もパーキンソン病治療薬にみられる特徴的な副作用です。たとえば現実にはいない不快な虫や小動物が見えたりします。とくに高齢の人では、精神症状をはじめいろいろな副作用がでやすいです。ご家族や介護の方も十分に注意してください。副作用が強い場合は、この薬または併用薬のレボドパ製剤の減量を考慮します。
【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 幻覚、妄想、錯乱..本当ではない声や音が聞こえる、実際にいない虫や動物・人が見える、誤った思い込み、非現実な体験、興奮・混乱、取り乱す。
- 狭心症..胸の痛み・違和感・圧迫感
- 悪性症候群(Syndrome malin)..動かず黙り込む、体の硬直、飲み込めない、急激な体温上昇、発汗、頻脈、ふるえ、精神変調、意識障害。
- 低血糖..脱力感、ふるえ、さむけ、動悸、冷や汗、強い空腹感、頭痛、不安感、吐き気、目のちらつき、イライラ、眠気、ぼんやり、異常な言動、けいれん、昏睡(意識がなくなる)。
- 胃潰瘍..胃痛、下血(黒いタール状の血液便)、吐血(コーヒー色のものを吐く)。
【その他】
- 吐き気、吐く、食欲不振、便秘、口の乾き。
- 不随意運動..顔、口、舌、首、手足などが勝手に動く。
- 興奮、不安感、不眠、眠気。
- 起立性低血圧(立ちくらみ)、めまい、動悸、不整脈、血圧変動。
- 発疹、尿が出にくい、肝機能異常。
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