概説 |
肺高血圧症のお薬です。おもに肺動脈性肺高血圧症の治療に用います。 |
作用 |
- 【働き】
- 肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、心臓から肺に血液を送る肺動脈が狭くなり、肺動脈の血圧が高くなる病気です。肺動脈の血流悪化から、息切れ、呼吸困難、疲労、運動能力低下などがあらわれ、日常生活にも支障がでてきます。進行すると心不全を引き起こし、予後も好ましくありません。
このお薬は、そのような症状を改善する肺動脈性肺高血圧症治療薬です。血管拡張物質(cGMP)を増やして肺動脈を広げ、肺動脈圧を低下させます。肺の血流が改善すると、息切れや呼吸困難がやわらぎ、運動耐容能の向上にもつながるのです。また、病気の進行を遅らせ、より長生きできる可能性があります。
- 【薬理】
- サイクリックGMP(cGMP)は、血管平滑筋をゆるめ血管拡張をもたらす体内物質です。この薬には、サイクリックGMPを分解するホスホジエステラーゼ5(PDE5)という酵素をじゃまする作用があります。サイクリックGMPの分解が抑えられるぶん、その作用が増強し肺動脈の拡張につながるわけです。このような作用機序かホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)と呼ばれています。
- 【臨床試験】
- この薬の有効性をプラセボ(にせ薬)と比較する国際共同試験が行われています。有効性を評価するための主要評価項目は、服薬4カ月後の6分間歩行距離の平均変化量です。6分間歩行距離は運動耐容能を検査するために行なわれますが、将来的な生命予後とも相関があるのではと推察されています。
その結果、この薬を飲んでいた人達76人の4カ月後の6分間歩行距離の平均変化量は+41m(353→394m)、プラセボの人達79人では+9m(348→357m)でした。この薬により6分間歩行距離が明らかに増加し、運動耐容能が向上できたわけです。さらに、副次的評価項目として平均肺動脈圧や肺血管抵抗の改善効果も認められています。また、臨床症状が悪化した人の割合は、この薬で5%、プラセボで16%でした。
|
特徴 |
- ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)に分類される肺高血圧症治療薬です。肺高血圧症の発現機序とのひとつ一酸化窒素経路(NO-sGC-cGMP)に着目して開発されました。なお、同一成分のタダラフィルは、勃起不全治療薬(シアリス)としても販売されています。
- この系統は、中等度からやや重い肺動脈性肺高血圧症(WHO機能分類クラスU〜V)に対して最も推奨度の高い治療薬として位置付けられます。単剤で効果不十分な場合は、作用機序が異なる別系統の薬剤(ERA、PGI2誘導体)と併用可能です。重症例においては、プロスタグランジン系のエポプロステノール(静注用フローラン)との併用効果も期待できます。
- 持続性があるので、服用回数は1日1回だけです。また、食事の影響を受けないので、食事と関係なく飲めます。
|
注意 |
【診察で】
- 持病のある人は、医師に報告しておきましょう。
- 使用中の薬を、必ず医師に伝えてください。
- 【注意する人】
- 重い腎臓病や肝臓病のある人は使用できないことがあります。また、脳卒中を起こしてまもない人や、出血しやすい病気のある人は慎重に用いるようにします。
- 適さないケース..重い腎臓病、重い肝臓病
- 注意が必要なケース..脳卒中、出血性疾患、消化性潰瘍、肝臓病、腎臓病、不整脈、低血圧、目の網膜の病気(網膜色素変性症)、高齢の人など
- 【飲み合わせ・食べ合わせ】
- 狭心症や心不全の治療に使う硝酸薬、いわゆる「ニトロ」と呼ばれる薬とは併用できません。併用により急激に血圧が下がることがあり、非常に危険です。硝酸薬には飲み薬のほか、貼り薬(テープ)や口内スプレー、注射剤などさまざまなタイプがありますので注意が必要です。また、肺高血圧症治療薬のうち同様の作用をもつsGC刺激薬(アデムパス)とは併用しません。ほかにも、抗真菌薬のイトラコナゾール(イトリゾール)、抗生物質のクラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)、一部の抗イズウイルス薬や抗コロナウイルス薬(パキロビッド、ゾコーバ)など 併用できない薬がいろいろあります。禁止ではありませんが、心不全治療薬のベルイシグアト(ベリキューボ)との併用は慎重に判断しなければなりません。使用中の薬を忘れずに報告しておきましょう。
- 飲み合わせの悪い薬..ニトログリセリン(ニトロペン、その他)、硝酸イソソルビド(ニトロール、その他)、ニコランジル(シグマート)、ニプラジロール(ハイパジールコーワ)、リオシグアト(アデムパス)、イトラコナゾール(イトリゾール)、クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)、リトナビル(ノービア、カレトラ、パキロビッド)、アタザナビル(レイアタッツ)、ダルナビル(プリジスタ、プレジコビックス)、コビシスタット(スタリビルド、ゲンボイヤ、プレジコビックス)、エンシトレルビル(ゾコーバ)、リファンピシン(リファジン)、フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、カルバマゼピン(テグレトール)、フェノバルビタール(フェノバール)など。
- 飲み合わせに注意..α遮断薬(ハルナール等)、エリスロマイシン(エリスロシン)、ジルチアゼム(ヘルベッサー)、ベラパミル(ワソラン)、フルコナゾール(ジフルカン)、ボセンタン(トラクリア)、ベルイシグアト(ベリキューボ)、降圧薬
- グレープフルーツジュースは控えたほうが無難です。この薬の血中濃度が上昇するおそれがあります。
【使用にあたり】
- 指示どおりに正しくお飲みください。通常量は、1日1回、1回に2錠です。腎臓や肝臓の悪い人は1錠になるかもしれません。食事と関係なく飲めますが、飲み忘れないよう 時間を決めておきましょう。
- 万一のことですが、勃起が4時間以上続くときは、直ちに受診してください。また、急に視力が低下した場合には眼科専門医の診察を、急激な聴力低下または突発性難聴(耳鳴り、めまいを)があらわれた場合には、すみやかに耳鼻科専門医の診察を受けてください。
【食生活】
- 視野がかすんだり、物の色が異常に見えることがあります。また、めまいを起こすこともありますので、車の運転や高所での危険作業には十分注意してください。
- タバコは病状を悪化させますし、この薬の作用を弱めます。医師と相談のうえ、できるだけ禁煙してください。
- 【備考】
- 肺動脈性肺高血圧の発現機序としてエンドセリン(ET)経路、プロスタサイクリン(PGI2)経路、一酸化窒素(NO)経路の3つが重要な役割をしています。この3経路に対する薬剤として、それぞれエンドセリン受容体拮抗薬(ERA)、プロスタサイクリン薬(PGI2誘導体)、PDE5阻害薬(この薬)とsGC刺激薬が開発されています。病態や重症度から適切な薬剤を選び、単薬治療で効果不十分な場合は異なる系統を組み合わせる併用療法をおこないます。
|
効能 |
肺動脈性肺高血圧症 |
用法 |
通常、成人は1日1回タダラフィルとして40mgを経口服用する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
|
副作用 |
比較的多いのは、血管拡張作用にもとづく頭痛やほてり、潮紅、めまいなどです。また、消化不良や吐き気、下痢や腹痛などの胃腸症状もみられます。重症化することはまずありませんが、気になるときは医師とよく相談してください。
そのほか、視覚が異常になることがあります。「まぶしい」「かすむ」「青いめがねをしているよう」「青と緑の区別がつかない」といった異常な見え方がするようです。多くは一過性ですが、自動車の運転や機械の操作には十分注意する必要があります。万一、急激な視力の低下や、聴力低下が現れた場合には、すぐに受診してください。
【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 重い過敏症..発疹、じんま疹、全身発赤、顔や口・喉や舌の腫れ、咳き込む、ゼーゼー息苦しい。
- 重い皮膚・粘膜障害..発疹、発赤、水ぶくれ、うみ、皮がむける、皮膚の熱感や痛み、かゆみ、唇や口内のただれ、のどの痛み、目の充血、発熱、全身けん怠感。
【その他】
- 頭痛、潮紅、ほてり、めまい、鼻づまり
- 消化不良、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛
- 動悸、低血圧
- 筋肉痛、手足の痛み、背部痛
- 視覚異常、彩視症、光視症..まぶしい、かすむ、青くみえる
|