概説 |
下痢や腹痛をおさえるお薬です。下痢型の過敏性腸症候群に用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- 過敏性腸症候群は、普段から腸の調子が悪く、頻繁に腹痛や排便異常を起こす機能性の病気です。症状は人それぞれですが、大きく 下痢型、便秘型、両方を繰り返す混合型の3つのタイプに分かれます。原因は特定されず、消化管運動の異常、内臓知覚過敏、心理社会的要因など さまざまな要因が関与していると考えらています。
このお薬の効能は、下痢型の過敏性腸症候群に対するものです。腸の運動を亢進させるセロトニン(5‐HT3)という神経伝達物質をおさえることで、下痢や腹痛、腹部不快感などの消化器症状を改善します。当初は男性に限りましたが、その後 女性に対する有効性が認められ、男女を問わず下痢型過敏性腸症候群に使用できるようになりました。

- 【薬理】

- セロトニン(5‐HT3)受容体を選択的に阻害します。消化管運動亢進を助長するセロトニンの伝達経路を遮断することで、大腸輸送能亢進あるいは大腸水分輸送異常にもとづく排便亢進や下痢症状を改善します。また、大腸痛覚伝達を抑制して、知覚過敏や腹痛をやわらげます。

- 【臨床試験】

- プラセボ(にせ薬)と比べる試験が男女別におこなわれています。参加したのは、下痢型過敏性腸症候群の患者さん約1000人です。そして、この薬を飲む人(男性5μg、女性2.5μg)と、プラセボを飲む人に半々に分かれ、3カ月後の効果を比較します。もちろん、本物かプラセボか患者さんには知らせません(プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験)。有効性を確認するための主要評価項目は、患者さん自身が判断する全般改善効果の点数をもとにした月間有効率です。この点数は「0=症状がなくなった、1=かなり改善した、2=やや改善した、3=変わらなかった、4=悪くなった」の5段階で評価され、0点または1点の週が月間2週以上を有効とします。
その結果、この薬を飲んだ男性の最終時点の月間有効率は46.9%(99/211人)、プラセボの男性で24.2%(54/223人)でした。また、別の臨床試験において、この薬を飲んだ女性の有効率は50.7%(148/292人)、プラセボの女性で32.0%(91/284人)でした。男女ともプラセボに比べ明らかに有効率が高く、プラセボに対する優越性が検証されたわけです。さらに、便形状正常化、腹痛・腹部不快感改善効果、便通状態改善効果、排便回数の週平均値、便意切迫感のなかった日数、残便感のなかった日数などの副評価項目についても、プラセボをしのぐ有効性が示されています。安全性については、硬便、便秘、腹部膨満の発現率がプラセボより高かったものの、いずれも軽度または中等度で休薬などの対応で回復しました。
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特徴 |
- 下痢型過敏性腸症候群治療薬です。便秘型に対する効能はありません。作用機序からは、セロトニン(5‐HT3)受容体拮抗薬に分類されます。この系統は化学療法における制吐薬としても広く用いられています。有効成分のラモセトロンは、既存の制吐薬のナゼアと同一です。イリボー錠は、過敏性腸症候群を新効能として新たに承認されました。
- 最初の臨床試験の時点では、女性における効果面と副作用の問題から、男性の下痢型過敏性腸症候群に限り承認されました。その後、女性を対象に用量を減らし再度試験したところ、一定の効果が認められ副作用も許容範囲だったことから女性への適用が追認されました。女性の用量が少ないのは、この薬の血中濃度が男性より高くなりやすいからです。また、女性ホルモンによるセロトニン濃度の変動が、有効性や副作用の出かたに影響している可能性があります。
- 男性の下痢型過敏性腸症候群に対してはこれまでの使用経験を経て、薬剤治療の第一選択薬の一つとして推奨されます。女性においては、まだ実績が少なく、また硬便や便秘の発現率が高いため、より慎重に用いる必要があります。
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注意 |
 【診察で】
- どのような症状があるのか、医師によく話してください。
- 市販薬を含め使用中の薬を医師に伝えてください。
 【注意する人】
- 便秘型や混合型の過敏性腸症候群には適応しません。便秘を起こすことのある人は医師に話しておきましょう。
- 腹部手術歴がある場合は、イレウスの発現に注意するなど慎重に用いる必要があります。
- 女性は男性に比べ硬便や便秘など副作用の発現率が高いことに留意してください。
 【飲み合わせ・食べ合わせ】
- 抗うつ薬のフルボキサミン(デプロメール、ルボックス)との併用により、この薬の血中濃度が上昇し副作用が増強するおそれがあります。
- 抗コリン作用をもつ薬剤、たとえば腹痛止めの胃腸薬、フェノチアジン系の安定剤、三環系抗うつ薬などといっしょに飲むと、便秘や硬便などの副作用が出やすくなるおそれがあります。
- 下痢止めのロペラミド(ロペミン)、あるいはコデインやモルヒネなどアヘンアルカロイド系薬剤との併用により、ひどい便秘を起こす可能性があります。アヘンアルカロイド系薬剤は、下痢止めとして用いるほか、咳止めや痛み止めとしても処方されますので注意してください。
 【使用にあたり】
- 指示どおりに正しくお飲みください。自分だけの判断で、用量を調整したり、飲むのを止めてはいけません。
- かえって腹痛が悪化したり、便秘になってしまう場合は、医師に連絡してください。
- 症状が安定している場合は、服用後3カ月を目安に、治療を続けるか終了するかを医師が決めます。漫然と続けるのは好ましくありません。
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効能 |
下痢型過敏性腸症候群 |
用法 |

- 【男性】

- 通常、成人男性はラモセトロン塩酸塩として5μgを1日1回経口服用する。なお、症状により適宜増減するが、1日最高服用量は10μgまでとする。

- 【女性】

- 通常、成人女性にはラモセトロン塩酸塩として2.5μgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分の場合には増量することができるが、1日最高投与量は5μgまでとする。
- [注意]用量調整を行う場合は1カ月程度の症状推移を確認してから実施すること。また、症状変化に応じた頻繁な用量調整を行わないようにすること。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
一番多いのは硬便と便秘です。女性の発現率は順に22%、14%で男性より高い傾向が示されています。海外では類似薬による重篤な便秘とその合併症(腸閉塞等)が報告されているようです。もし3日以上続けて便通がない場合には一時飲むをやめて、医師に相談してください。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- ショック、アナフィラキシー..気持ちが悪い、冷汗、顔面蒼白、手足の冷え・しびれ、じんま疹、全身発赤、顔や喉の腫れ、ゼーゼー息苦しい、めまい、血圧低下、目の前が暗くなり意識が薄れる。
- 重い便秘..便秘が続く、便が固い、排便できない、お腹が膨らむ、激しい腹痛、吐き気、吐く。
- 虚血性大腸炎..激しい腹痛、血液便。
 【その他】
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