概説 |
銅の吸収をおさえ、ウィルソン病を治療するお薬です。また、亜鉛補充療法として低亜鉛血症にも使います。 |
作用 | 
- 【働き-1】

- ウィルソン病は、先天的に銅の代謝・排泄がうまくできない病気です。治療しないでいると、肝臓や腎臓、脳などに銅がたまり、重い肝障害や脳障害を起こします。早期に発見し、きちんと治療を続けることが大事です。
このお薬は、食物からの銅の吸収をおさえます。そうすることで、銅の体内蓄積を防ぐことができます。効き方の違う別のキレート薬と併用することで、さらに効果が高まり、きびしい銅の摂取制限をゆるめることも可能です。

- 【働き-2】

- 亜鉛は、体内で酵素の活性化や細胞分裂などに重要な役割を果たしています。亜鉛が不足すると、味覚障害、食欲不振、下痢、皮膚炎、口内炎、貧血、抵抗力低下、創傷治癒遅延、さらには成長不良などさまざまな障害をもたらします。
このお薬には亜鉛が含まれます。通常、バランスよい食事で十分とれますが、糖尿病、腎臓病や肝臓病とりわけ肝硬変があると亜鉛欠乏症を合併しやすいです。また、ある種の薬剤の長期服用により欠乏症をきたすことがあります。このような場合、食事療法だけでは間に合いません。薬剤による亜鉛補充療法を積極的に行う必要があるのです。

- 【薬理】

- 有効成分は亜鉛です。亜鉛は、腸管細胞でメタロチオネインという一種の蛋白の生成を誘導します。このメタロチオネインは、腸管粘膜で食物や消化液中の銅を吸着し糞便中に排泄させます。さらに、肝臓など他の臓器においてもメタロチオネインを誘導し、作用を発揮するものとも考えられます。低亜鉛血症においては、亜鉛そのものを補うことができます。

- 【臨床試験-1】

- ウィルソン病の患者さん37人による試験で、この薬の服用により肝機能値ALT(GPT)が上昇することなく安定して推移しました。また、24時間尿中銅排泄量も管理値(125μg/24時間)以下に維持できました。

- 【臨床試験-2】

- 低亜鉛血症ではプラセボ(にせ薬)との比較試験が行われています。30人はこの薬で亜鉛を補充、別の26人はプラセボを服用し、2カ月後の血中亜鉛濃度(μg/dL)を調べるのです。その結果、この薬のグループでは平均23.7(59.3→83.0)上昇したのに対し、プラセボの上昇幅は1.2(61.3→60.1)とほとんど変わりませんでした。

- 【臨床試験-3】

- 低亜鉛血症と高アンモニア血症がある肝硬変の患者さん18人を対象に、亜鉛補充療法の有用性を検証するプラセボ対照比較試験が行われています。ごく少人数によるものですが、これによると亜鉛を補充した人は、プラセボの人に比べ血中亜鉛濃度が上がり、アンモニア値は30%低下したそうです。また、長期的に血中亜鉛濃度80μg/dL以上を維持した人は、肝臓がんの発症が有意に少なく、亜鉛濃度が低ければがんの再発が多かったと報告しています。
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特徴 |
- 亜鉛製剤になります。既存のキレート薬が体内の銅を尿中に排出するのに対し、亜鉛製剤はおもに食物からの銅吸収を阻害し糞便中に排泄させます。ウィルソン病に用いるほか、亜鉛補充療法として低亜鉛血症にも使えるようになりました。
- 安全性が高く長期服用も安心です。妊娠中においても、比較的安全に使用できます。ウィルソン病の治療で、他のキレート薬が副作用やアレルギーで継続できない場合でも、問題なく使用できると思います。
- ウィルソン病の症状が出ている場合には、初期治療として他のキレート薬と併用するのが一般的です。症状がない場合には、発症予防薬として単独で用いることがあります。なお、キレート薬には、強力なペニシラミン(メタルカプターゼ)と、おだやかな作用のトリエンチン(メタライト)があります。
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注意 |
 【診察で】
- 持病のある人は医師に伝えておきましょう。
- 妊娠中の人は申し出てください。

- 【注意する人】

- 子供や高齢の人、妊娠中の人は服用量に注意するなど、慎重に用いるようにします。
 【飲み合わせ・食べ合わせ】
- キレート薬(メタルカプターゼ、メタライト)と同時に飲むと、両方の薬の吸収率が低下します。このため、1時間以上ずらして飲む必要があります。
- ウィルソン病の場合、食事と同時に飲むと、効果の発現が遅れます。食事の時間帯を避けて飲んでください。
 【使用にあたり】
- 病状、体質、年齢や体重によって飲みかたが違います。また、定期的に尿中銅排泄量または血中亜鉛濃度を検査し、必要に応じ用量を調節します。指示どおりに正しくお飲みください。
- ウィルソン病の場合、飲む時間は空腹時の食間です。食前1時間以上または食後2時間以上あけましょう。具体的には、たとえば午前11時、午後4時、夜10時頃といった時間帯になります。
- 症候性のウィルソン病では、他のキレート薬と併用する必要があります。この場合、1時間以上あけて飲んでください。
- 低亜鉛血症の場合は食後です。通常、大人は1日2回朝・夕食後、30kg未満の小児は1日1回食後に服用します。
 【検査】
- ウィルソン病の場合、尿中の銅と亜鉛の排泄量を調べ、必要に応じて服用量を調節します。定期的な肝機能検査も大事です。
- 低亜鉛血症では、血中亜鉛濃度を確認し適宜用量を増減します。
 【妊娠・授乳】
- ウィルソン病の場合、妊娠中に銅欠乏をきたさないよう、頻回に尿中銅排泄量検査をおこい、母子の安全をはかります。必要であれば、服用量を減らし様子をみます。
- 服用中は授乳を避けてください。
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効能 |

- 【効能A】

- ウィルソン病(肝レンズ核変性症)

- 【効能B】

- 低亜鉛血症
- [注意]食事等による亜鉛摂取で十分な効果が期待できない患者に使用すること。
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用法 |

- 【効能A】

- 成人は、亜鉛として、通常1回50mgを1日3回経口服用する。なお、年齢、症状に応じて適宜増減するが、最大服用量は1日250mg(1回50mgを1日5回服用)とする。
6歳以上の小児は、亜鉛として、通常1回25mgを1日3回経口服用する。1歳以上6歳未満の小児は、亜鉛として、通常1回25mgを1日2回経口服用する。
なお、いずれの場合も、食前1時間以上又は食後2時間以上あけて服用すること。

- 【効能B】

- 通常、成人及び体重30kg以上の小児では、亜鉛として、1回25〜50mgを開始用量とし1日2回経口服用する。
通常、体重30kg未満の小児では、亜鉛として、1回25mgを開始用量とし1日1回経口服用する。
血清亜鉛濃度や患者の状態により適宜増減するが、最大服用量は成人及び体重30kg以上の小児では1日150mg(1回50mgを1日3回)、体重30kg未満の小児では75mg(1回25mgを1日3回)とする。
なお、いずれの場合も、食後に服用すること。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
安全性が高く、副作用は少ないほうです。人によっては、胃の不快感や吐き気など胃腸症状がでるかもしれません。また、検査値の異常として、膵臓に関係するリパーゼとアミラーゼの増加がみられます。重症化することはまずありませんが、強い腹痛が続くときは受診してください。
重い副作用として念のため注意しておきたいのが銅欠乏症です。亜鉛により銅の吸収が阻害され、体内の銅が欠乏してしまうのです。銅欠乏により貧血や白血球減少をきたしたとの報告もあります。まれとはいえ、高用量・長期服用時など要注意です。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 銅欠乏症..疲れやすい、顔色が悪い、息切れ、立ちくらみ、ふらつき、歩きにくい
- 胃潰瘍..胃痛、下血(黒いタール状の血液便)、吐血(コーヒー色のものを吐く)。
 【その他】
- 胃の不快感、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢
- リパーゼ増加、アミラーゼ増加、急性膵炎
- 血中銅減少、血中鉄減少
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