概説 |
血糖を下げるお薬です。糖尿病の治療に用います。 |
作用 |
- 【働き】
- 血液中の糖分「血糖」は、膵臓から分泌されるインスリン・ホルモンで調節されます。糖尿病は、そのインスリンの量が不足したり、働きが悪くなることで血糖値が上がってしまう病気です。そのまま放置すると、手足のしびれ(神経障害)、目の病気(網膜症)、腎臓病(腎症)などいろいろな合併症を引き起こします。さらには動脈硬化が進行し、心臓病や脳卒中をまねくおそれもあるのです。
このお薬には、2種類の血糖降下薬が配合されています。1つは、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬)のビルダグリプチン(エクア)。インクレチンという消化管ホルモンの分解を防ぎ、その濃度を高めてインスリン分泌を促します。血糖依存性なので、血糖値が高いときによく効くのが特徴です。もう1つは、ビグアナイド系のメトホルミン(メトグルコ)です。こちらは、インスリン抵抗性改善薬の部類になります。肝臓での糖生成を抑えたり、筋肉の糖利用を増やして血糖値を下げます。
作用機序が違うこれら2成分の併用により、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性の2つの病因が改善され、単独療法を上回る血糖改善効果が得られるのです。このため、適応となるのは2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)で、単独療法では血糖コントロールが不十分な場合です。日々の血糖値を適切に保つことは、将来起こるかもしれないさまざまな合併症の予防につながります。
- 【臨床試験】
- ビルダグリプチンとメトホルミンの併用効果を検証する2つの試験が行われています。1つめの試験に参加したのはメトホルミン単独では効果不十分な患者さん138人、2つめの試験に参加したのはビルダグリプチン単独療法で効果不十分な2型糖尿病の患者さん171人です。そして、そのまま単独療法を続ける人と、ビルダグリプチンとメトホルミンによる併用療法を行う人に分かれ、3カ月後のHbA1c(%)の変化量を比較するのです。HbA1cは糖化ヘモグロビンの割合で、一定期間の血糖の状態を示す重要な指標です。合併症予防のための目標値は7.0未満とされます。
その結果、1つめの試験でメトホルミン単独療法を続けた人達のHbA1cは平均0.1低下(8.0→7.9)、併用療法としてビルダグリプチンとメトホルミンの両方を飲んでいた人達では1.1低下(8.0→6.9)しました。また、2つめの試験でビルダグリプチン単独療法を続けた人達のHbA1cは平均0.1上昇(8.0→8.1)、併用療法としてビルダグリプチンとメトホルミンを含むこの薬を飲んでいた人達では0.8低下(7.9→7.1)しました。単独療法ではほとんどHbA1cの変化がなく高いままだったのに対し、併用療法では明らかに低下しより良好な血糖コントロールが達成できたわけです。
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特徴 |
- インスリン分泌促進系のDPP-4阻害薬‘ビルダグリプチン’とインスリン抵抗性改善系のビグアナイド薬‘メトホルミン’を配合した2型糖尿病治療薬です。作用機序が異なるこれらの併用により、血糖降下作用のいっそうの増強が見込めます。DPP-4阻害薬によるインスリン分泌促進作用は血糖依存性なので、低血糖の発現リスクも比較的低いです。この組み合わせは、実際の医療現場でも汎用されています。
- 原則として、第一選択薬とはしません。まずは、単剤での治療を優先します。処方対象となるのは、いずれか1剤で効果不十分な場合、あるいは2剤以上の多剤併用をすでに行っている場合などです。
- メトホルミンの配合量が異なるLD(50mg/250mg)とHD(50mg/500mg)の2種類の製剤が販売されています。ビルダグリプチンはどちらも50mgでいっしょです。配合剤ですので、2剤による併用療法が1錠で済みます。以前のように、別々に飲む必要がありません。
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注意 |
【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は医師に伝えておきましょう。
- 妊娠中または妊娠している可能性のある人は申し出てください。
- もし、体調が悪ければ、そのことも伝えてください(発熱、食欲がない、下痢をしている・・など)
- 飲み合わせに注意する薬がたくさんあります。服用中の薬は、すべて報告しておきましょう。
- 注意事項や副作用について十分説明を受けてください。とくに乳酸アシドーシスと低血糖症の対処法については、ご家族を含めよく心得ておくことが大事です。
- 体調が悪いときの飲み方「シックデイルール」を確認してください。
- 治療中に低血糖症を起こした場合は、必ず医師に報告してください。
- CT検査や心臓カテーテル検査をふくめX線造影検査(レントゲン)を行うさいは、服薬の継続について相談しておきましょう。
- 【注意する人】
- インスリン注射が適用となる1型糖尿病や、インスリン分泌能力が著しく低下している重い糖尿病には向きません。また、乳酸アシドーシスや低血糖を起こす可能性が高い場合は処方を控えることがあります。たとえば、重い腎臓病や肝臓病または心臓病のある人、あるいは下痢が続くなど体調がひどく悪いときなどです。中等度までの腎障害であれば使用可能ですが、最初は低用量の各単剤を併用し様子をみるなど慎重に用いる必要があります。造影剤を用いて検査を行うさいは、一時休薬しなければなりません。
- 適さないケース..乳酸アシドーシスになったことのある人、重い腎臓病、重い肝臓病、重い心臓病、肺に重い病気がある人、アルコール摂取量の多い人、脱水症のある人、脱水症が心配される激しい下痢や嘔吐、重症ケトーシス、糖尿病性昏睡、1型糖尿病、重い外傷や感染症、手術前後,、脳下垂体機能不全、副腎機能不全、栄養不良状態、衰弱状態、妊娠中、ヨード造影剤使用時など。
- 注意が必要なケース..腎臓病、肝臓病、感染症のある人、高齢の人、不規則な食事や食事摂取量の不足、激しい筋肉運動をおこなう場合など。
- 【飲み合わせ・食べ合わせ】
- 飲み合わせによっては、この薬の作用が強まり、低血糖や乳酸アシドーシスの副作用がでやすくなります。逆に効果が弱くなってしまうこともあります。他の薬との併用は、医師の判断で慎重に行わなければなりません。使用中の薬を忘れず報告しましょう。
- 他の血糖降下薬といっしょに飲むときは、低血糖に注意が必要です。とくにスルホニルウレア薬(SU薬)、またはインスリン注射薬と併用するさいは、それらの減量を考慮しなければなりません。よく使われるスルホニルウレア系薬剤には、グリベンクラミド(オイグルコン、ダオニール)、グリクラジド(グリミクロン)、グリメピリド(アマリール)などがあります。
- ほかにも、血糖降下作用を強める薬剤があります。たとえば、高血圧や心臓の病気に用いるβ遮断薬やACE阻害薬、解熱鎮痛薬としての高用量アスピリン、胃薬のシメチジン(タガメット)などです。
- 逆に、血糖降下作用を弱める薬剤として、ステロイド薬(プレドニン等)、甲状腺ホルモン薬(チラーヂン等)、女性ホルモン薬、利尿薬、結核の薬のイソニアジド(イスコチン)、フェノチアジン系の安定薬などがあげられます。
- 利尿薬や利尿作用をもつ血糖降下薬のSGLT2阻害薬と併用する場合は、脱水症の発現に注意が必要です。脱水は乳酸アシドーシスを起こしやすくします。
- 緊急時は別として、ヨード造影剤を使用して造影検査(レントゲン)を行うさいは、一時的に服薬を中止することになります。とくに大量の造影剤を用いる心臓カテーテル検査などにおいては適切な対応が必要です。服用再開は検査後2日目以降にします。
- 過度のアルコール摂取は避けなければなりません。アルコールは乳酸アシドーシスの危険要因です。また、血糖値を乱し、ときに低血糖発作を誘発します。飲酒を希望するなら、医師とよく相談のうえにしましょう。
【使用にあたり】
- 1回1錠を、1日2回朝・夕に服用します。食前、食後は問いませんが、どちらかに決めたほうがよいでしょう。
- 体調が悪く食事がとれていないとき、下痢や嘔吐、発熱時、あるいは激しい運動の前後、疲労のひどいときなどは、薬の量を減らしたり休薬したほうがよいことがあります。このようなときの飲み方や対処法(シックデイルール)をしっかり守りましょう。
- 低血糖症に注意してください。症状は副作用の項にあります。症状があらわれたら、すぐ糖分をとってください。吸収のいい砂糖がおすすめです。10〜20gをとりましょう。そのほか甘いジュースでもかまいませんが、アメ玉は溶けるのに時間がかかるので向きません。なお、αグルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン、セイブル等)を併用している場合は、病院から渡されるステイックシュガー(ブドウ糖)にしてください。糖分を十分とれば15分くらいで治ってきます。外出のさいも持ち歩きましょう。
- 低血糖には注意が必要ですが、こわがりすぎて血糖値を高いままにしてはいけません。
【検査】
- 血糖値やHbA1cをはじめ、必要な検査を定期におこない、効果や副作用をチェックします。
- とくに肝機能検査と腎機能検査が大事です。肝機能検査については、まず服用前に実施し、さらに服用開始後1年間は少なくとも3カ月毎におこなう必要があります。
- 【妊娠授乳】
- 妊娠中は使用できません。乳酸アシドーシスを起こしやすいうえ、動物実験で催奇形作用が報告されているためです。飲み薬ではなく、インスリン注射薬による治療を優先します。
【食生活】
- この薬を飲みはじめても、食事療法や運動療法をきちんと続けるようにしてください。
- 過度な飲酒はよくありません。できるだけ控えましょう。
- 低血糖によるめまいやふらつきを起こすおそれがあります。車の運転をふくめ危険をともなう機械の操作や高所作業のさいは十分注意してください。
- 万一の重い低血糖症にそなえ、糖尿病手帳やカードを身に付けるとよいでしょう。
【備考】
- 2型糖尿病では、食事療法や運動療法がとても大切です。アメリカでおこなわれた「糖尿病予防プログラム(DPP)」でも、その重要性が示されています。糖尿病の一歩手前の人(IGT)約3200人を、@プラセボ(にせ薬)を飲む人、A糖尿病治療薬のメトホルミンを飲む人、B食生活を改善する人(強化食事・運動療法)の3つのグループに分け、糖尿病の発症予防効果を比較した試験です。試験の結果、もっとも予防効果があったのはBの「食生活を改善するグループ」でした。
- 2型糖尿病や境界型の人は、まず食事療法や運動療法からはじめます。医師や栄養士とよく相談のうえ、自分に適したやりかたで日々続けることが大切です。このような基本療法だけで血糖値が十分に下がれば薬を使う必要はありません。けれど不十分な場合は、飲み薬やインスリン注射による薬物治療が必要となってきます。基本療法は、薬を飲みはじめても続けるようにしてください。
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効能 |
2型糖尿病。ただし、ビルダグリプチン及びメトホルミン塩酸塩の併用による治療が適切と判断される場合に限る。 |
用法 |
通常、成人は1回1錠(ビルダグリプチン/メトホルミン塩酸塩として50mg/250mg又は50mg/500mg)を1日2回朝、夕に経口服用する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
とくに他の血糖降下薬と併用する場合は、低血糖症の発現に十分注意してください。低血糖とは、必要以上に血糖値が下がってしまう状態です。おおよそ血糖値が50mg/dl以下になると低血糖特有の症状があらわれてきます。ふるえ、さむけ、動悸、冷や汗、強い空腹感、力の抜けた感じ、目のちらつき、イライラ、ぼんやり・・といった症状です。さらに重くなると、けいれんしたり、意識を失うこともあります。すぐに糖分を補給しましょう。
ビグアナイド系のメトホルミンで多いのは、下痢、吐き気、食欲不振や腹痛などです。このような胃腸症状は脱水症につながりますし、以下のような重篤な乳酸アシドーシスの初期症状としてあらわれることもあります。症状が強い場合は医師と連絡をとり、継続の可否を含めて指示をあおいでください。
乳酸アシドーシスはビグアナイド系に特有な副作用で、血液中に乳酸がたまり血液が酸性になった状態です。もともと肝臓病や腎臓病、心臓病などの持病のある人、体の弱っている人、高齢の人、下痢や嘔吐で脱水状態にある場合、また薬の飲み始めや量を増やしたときに起こりやすいものです。胃腸症状をはじめ、けん怠感、筋肉痛、息苦しさ、過呼吸などを伴うことが多いです。
そのほか、DPP-4阻害薬のビルダグリプチンの副作用として、重い肝機能障害の報告があります。発現頻度はまれですが、とくに飲み始めの1年間間は要注意です。重症化しないように、定期的に肝機能検査をおこなう必要があります。疑わしい症状は、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色、吐き気、全身けん怠感などです。このような症状があらわれたら直ちに受診してください。
【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 低血糖..力の抜けた感じ、ふるえ、さむけ、動悸、冷や汗、強い空腹感、頭痛、不安感、吐き気、目のちらつき、イライラ、眠気、ぼんやり。さらに重くなると、異常な言動、けいれん、昏睡(意識がなくなる)。
- 乳酸アシドーシス..吐き気、吐く、腹痛、下痢、けん怠感、筋肉痛、手足の震え・脱力、歩けない、動悸、急激な体重減少、息苦しい、息が荒い、深く大きい呼吸、意識低下。
- 肝臓の障害..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色。
- 横紋筋融解症..手足のしびれ・こわばり、脱力、筋力低下、筋肉痛、歩行困難、赤褐色の尿。
- 膵炎..吐き気、吐く、持続的な激しい腹痛、上腹部または腰から背中の激痛、発熱。
- 腸閉塞..お腹が張る・膨れる、吐き気、吐く、便秘、腹痛。
- 間質性肺炎..から咳、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱。
- 血管浮腫(ACE阻害薬と併用時)..顔や唇、舌、喉がひどく腫れる、息がしにくい。
- 類天疱瘡..水ぶくれ、びらん、紅斑、かゆみ。
【その他】
- 下痢、便秘、食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛
- 乳酸上昇、肝機能異常
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