概説 |
皮膚や粘膜の炎症を抑えるお薬です。乾癬のほか、ベーチェット病による口腔潰瘍の治療に用います。 |
作用 | 
- 【働き-1】

- 乾癬は病状により、いくつかのタイプに分かれます。皮膚の紅斑と鱗屑(りんせつ)を特徴とする尋常性乾癬、皮膚症状に加え炎症性関節炎をともなう乾癬性関節炎、さらには膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症や滴状乾癬なども知られています。いずれも慢性に推移し、よくなったり悪くなったりを繰り返すことが多いです。
尋常性乾癬は普通にみられる皮膚病で、乾癬の約90%を占めるいわれます。はっきりした原因は不明ですが、皮膚の新陳代謝が亢進し、炎症とともに角質が増えてきます。見た目が悪く、皮膚にわずかに盛り上がった赤い斑‘紅斑’ができ、そこにフケのような垢や銀白色のカサブタ‘鱗屑’ができるのが特徴的です。
このお薬は、そのような乾癬の治療に用います。炎症を引き起こす体内物質‘炎症性サイトカイン’の産生をおさえ、過剰な炎症反応を抑制することにより、乾癬の諸症状を改善します。適応症は、尋常性乾癬と乾癬性関節炎です。通常、軽症例には使いません。外用剤による局所療法で効果不十分な中等症以上に用いられます。

- 【働き-2】

- ベーチェット病は、皮膚や粘膜に激しい炎症を起こす慢性再発性の全身性炎症性疾患です。主症状として口腔潰瘍(口内炎)、皮膚症状、外陰部潰瘍、眼症状がみられるほか、関節炎、副睾丸炎、消化器病変、血管病変や中枢神経病変などさまざまな症状を伴うことがあります。このお薬は、ベーチェット病による重い口腔潰瘍に有効です。治療により、潰瘍の数が減り、痛みも軽減します。通常、ステロイド外用薬などによる局所療法で効果不十分な場合に用いられます。

- 【薬理】

- PDE4ことホスホジエステラーゼ4は、免疫細胞内に分布している酵素の一種で、炎症の発現にかかわっています。その働きは、細胞内セカンドメッセンジャーであるcAMPの分解を促進しcAMPを減少させることです。cAMP濃度低下は、炎症性サイトカイン(IL-17、IL-23、TNF-α等)の産生を促し、逆に抗炎症性サイトカインの産生を減らします。
この薬は、そのようなPDE4酵素の働きをじゃまします。つまり、PDE4を阻害し細胞内cAMP濃度を上昇させることにより、炎症性サイトカインの産生を抑え、逆に抗炎症性サイトカインの産生を促すのです。結果として炎症反応が抑制され、乾癬にともなう諸症状の改善につながるわけです。

- 【臨床試験-1】

- この薬とプラセボ(にせ薬)との比較試験が海外でおこなわれています。参加したのは、中等症から重症の尋常性乾癬または乾癬性関節炎の患者さん844人。効果の判定は、皮膚症状をあらわすPASI点数が75%以上低下(改善)した人の割合‘PASI 75達成率’でおこないます。PASI は乾癬病変(紅斑、浸潤、落屑)の程度と範囲を点数化した評価指標で、点数が低ければ軽症、高いほど重症です。PASI 75は臨床的に意義のある改善として広く受け入れられています。
試験の結果、服薬4か月後のPASI 75達成率は、この薬を飲んでいた人達で33.1%(186/562人)、プラセボで5.3%(15/282人)でした。この薬のほうが達成率が明らかに高く、プラセボを上回る効果が証明されたわけです。安全性については、プラセボと比較し、悪心、嘔吐、下痢、頭痛、上気道感染の発現割合が高かったものの、その多くは一過性で、いずれも軽度から中等度でした。なお、少人数になりますが、日本人による試験でも同様の結果(28% vs 7%)が得られています。また、乾癬性関節炎の関節症状に対する有効性も別の試験で確かめられています。

- 【臨床試験-2】

- ベーチェット病の口腔潰瘍に対する試験もおこなわれています。局所療法で効果不十分な口腔潰瘍のある患者さん約200人を対象としたプラセボ対照比較試験です。その結果、この薬を用いた場合、口腔潰瘍数がおおよそ半減することが確かめられました。さらに、痛みの評価では、疼痛スコア(VAS)の低下が認められました(VAS:19vs44)。
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特徴 |
- PDE4阻害薬として世界初の乾癬治療薬です。既存の乾癬治療薬とは効きかたが違います。PDE4(ホスホジエステラーゼ4)を阻害し、炎症性サイトカインの産生を調節することで皮膚や関節での炎症反応を抑制します。
- 乾癬における臨床的位置付けは、エトレチナート(チガソン)やシクロスポリン(サンディミュン、ネオーラル)とほぼ同様と考えられます。外用剤による局所療法で効果不十分な中等症から重症の尋常性乾癬または乾癬性関節炎に対する全身療法の選択肢の一つになります。ただし、生物製剤(注射)には劣り、その代用にはなりません。
- ベーチェット病による口腔潰瘍に対する効能も追加取得しています。
- 重い副作用は少ないですが、飲み始めに吐き気や下痢など消化器症状を起こしやすいです。これを避けるため、スターターパックを使い徐々に増量する必要があります。
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注意 |
 【診察で】
- 持病のある人は医師に伝えておきましょう。
- 服用中の薬を医師に教えてください。
- 妊娠中もしくはその可能性のある人、また授乳中の人は医師に伝えてださい。妊娠中は使用できません。
- 注意事項や副作用を含め、医師から この薬の有効性や安全性について十分説明を受けてください。

- 【注意する人】

- 腎臓が悪いと、薬の排泄が遅れ、血中濃度が上昇しやすいです。腎機能がひどく低下している場合は、減量を考慮するとともに、副作用の発現に注意しなければなりません。また、感染症を悪化させるおそれがあるため、感染症のある人は慎重に用います。高齢の人も副作用が出やすいので要注意です。妊婦中またはその可能性のある女性は使用できません。
- 適さないケース..妊娠中。
- 注意が必要なケース..重い腎臓病、感染症のある人、B型肝炎や結核など再発性感染症の既往歴、うつ病の既往歴のある人、高齢の人など。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- 飲み合わせによっては、薬の血中濃度が低下するかもしれません。たとえば、結核・抗酸菌症治療薬のリファンピシン(リファジン)とリファブチン(ミコブティン)、抗けいれん薬のフェノバルビタール(フェノバール)やフェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、カルバマゼピン(テグレトール)などです。さらに、健康食品やハーブティーとして販売されているセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)にも同様の性質があることが知られています。併用する場合には、効果の減弱に注意が必要です。
 【使用にあたり】
- スターターパックには、10mg、20mg、30mgの3書類の錠剤が2週間分入っています。説明書にならって服用してください。
- 最少量より開始し徐々に増量します。通常、1日目は、10mgの錠剤を朝に1錠だけです。1日毎に増量し、6日目以降は1回に30mgを1日2回、朝夕に飲みます。食事の影響はないです。
- 腎機能が著しく低下している場合、減量することがあります。1日1回30mgを服用する場合、服用開始時は朝の用量のみとします。必ず医師の指示どおりにしてください。
- 飲み忘れた場合、気づいたときにすぐ飲んでください。ただし、次に飲む時間が近ければ、その分は抜かし次の通常の時間に1回分を飲んでください。2回分を一度に飲んではいけません。
 【妊娠・授乳】
- おなかの赤ちゃんに悪影響するおそれがあります。このため、妊娠していないことを確認してから使用します。服薬中は妊娠しないよう適切な方法で避妊してください。
- 授乳は中止してください。母乳に薬が移行する可能性があります。
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効能 |
- 局所療法で効果不十分な尋常性乾癬
- 乾癬性関節炎
- 局所療法で効果不十分なベーチェット病による口腔潰瘍
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用法 |
通常、成人はアプレミラストとして以下のとおり経口服用し、6日目以降はアプレミラストとして1回30mgを1日2回、朝夕に経口服用する。
- 1日目:朝 10mg
- 2日目:朝 10mg、夕10mg
- 3日目:朝 10mg、夕20mg
- 4日目:朝 20mg、夕20mg
- 5日目:朝 20mg、夕30mg
- 6日目以降: 朝 30mg、夕30mg
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
比較的多いのは、吐き気、嘔吐、下痢や腹痛など胃腸症状です。飲み始めにあらわれ、多くは一過性ですが、下痢が続くときは早めに受診してください。指示どおり徐々に増量することが大事です。
長期服用時に注意したいのは感染症です。抵抗力が低下し、感染症にかかりやすくなる可能性があるのです。かぜを含め、発熱、のどの痛み、咳、けん怠感など、いつもと違う症状があらわれたら受診してください。また、関連性は不明ですが、うつ症状など精神的変調が気になるときは医師と相談してください。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 重い感染症..発熱、寒気、だるさ、食欲不振、のどの痛み、咳や痰、息苦しい、嘔吐、下痢、皮膚発赤・小水疱・ピリピリ痛い、水ぶくれ、できもの。
- 重い過敏症..発疹、じんま疹、全身発赤、顔や口・喉や舌の腫れ、咳き込む、ゼーゼー息苦しい。
- 重度の下痢..水のような便、頻回な下痢、下痢が数日続く、嘔吐をともなう下痢。
 【その他】
- 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、食欲減退
- 感染症(上気道感染、鼻咽頭炎、気管支炎、副鼻腔炎など)
- 頭痛、体重減少、うつ
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