概説 |
副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を抑え、血清カルシウム濃度を低下させるお薬です。透析治療中の二次性副甲状腺機能亢進症などに用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- 副甲状腺は甲状腺の背面にある4つの米粒大の組織です。ここから分泌されるのが‘PTH’こと副甲状腺ホルモンです。このホルモンはカルシウムの代謝などにかかわります。骨から血液中へのカルシウム溶出をうながし、体内のカルシウムのバランスをはかっているのです。ふつう、血液中のカルシウムが増えると、副甲状腺に付いている受容体が感知しPTHの分泌は収まります。
二次性副甲状腺機能亢進症は、慢性腎臓病で長く透析治療を受けているときに多発する病態です。PTHが過剰に分泌されるため、骨からのカルシウム溶出が著しくなり、いわゆる透析骨症(繊維性骨炎)を起こします。さらに、血清カルシウムの増加により血管壁の石灰化(異所性石灰化)がすすみ、動脈硬化による重い心血管系合併症の原因になりかねません。
このお薬は、副甲状腺に直接働きかけ、過剰なPTHの分泌をおさえます。すると、骨からのカルシウム流出が止まり、血清カルシウムあるいはリン濃度が低下し正常化してきます。結果として、骨病変に伴う骨痛や関節痛が軽減し、長期的には心血管系合併症の予防にもなるのです。おもに維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症で、血清PTHやカルシウム濃度が高いときに用いられます。また、発症頻度はまれですが、副甲状腺がんや原発性副甲状腺機能亢進症における高カルシウム血症にも適用可能です。

- 【薬理】

- 副甲状腺の細胞表面にあるカルシウム受容体に作用し、カルシウムと同様の機序でPTHの分泌を抑制します。このような作用から、カルシウム受容体作動薬と呼ばれています。

- 【臨床試験-1】

- 維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症に対する有効性と安全性を、既存の類似薬シナカルセト(レグパラ)と比較する試験が行われています。シナカルセトは、二次性副甲状腺機能亢進症に対し国内外で標準的に使われている汎用薬です。
参加したのは血清PTH濃度が240pg/mL超かつカルシウム濃度が9.0mg/dL以上の患者さん519人です。このうち253人はこの薬を、別の266人はシナカルセトを7カ月間服用します。そして、最後の月のPTH濃度平均値が60pg/mL以上240pg/mL以下の治療目標値を達成した患者さんの割合を比較するのです。
その結果、この薬のグループで目標達成した患者さんは72.7%(184/253人)、シナカルセトのグループで76.7%(204/266人)でした。この薬のほうが低めでしたが、無視できる差であり、事前に規定した同等性の基準を満たしたため、シナカルセトに劣らない同程度の有効性が確かめられたのです。安全性についても特段の違いはなく、シナカルセトで問題となる吐き気や嘔吐など上部消化管障害の発現頻度はむしろ低い傾向でした。

- 【臨床試験-2】

- 次は、副甲状腺がんまたは原発性副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症のある患者さん18人を対象とした試験です。有効性をみる評価項目は、血清カルシウム濃度が規定の10.3mg/dL以下に低下し2週間維持した患者さんの割合です。その結果、その規定以下になった患者さんの割合は77.8%(14/18人)であり、事前に設定した割合(11%)を大きく上回りました。残念ながら比較試験ではありませんが、この薬の有効性が十分期待できると結論されました。
|
特徴 |
- シナカルセト(レグパラ)に次ぐ国内2番目のカルシウム受容体作動薬です。二次性副甲状腺機能亢進症に対する効力はさほど変わりませんが、シナカルセトで課題となっている上部消化管障害の軽減が期待されます。薬物間相互作用の心配もそれほどありません。
- カルシウム受容体作動薬は、慢性腎臓病によりPTH濃度が高くなっている場合、または血清リンまたはカルシウム濃度が高い場合に推奨されます。血清カルシウム濃度が低いときは、活性型ビタミンD製剤を用いるのが適当です。
|
注意 |
 【診察で】
- 肝臓病など持病のある人は医師に伝えてください。
- 妊娠中また妊娠している可能性のある人は医師に話しておきましょう。
- 服用中の薬を医師に教えてください。

- 【注意する人】

- 血液のカルシウム濃度が低い場合、処方を控えることがあります。服薬の目安は、血清カルシウム値8.4mg/dL以上です。妊娠中は使用できません。
- 適さないケース..妊娠中。
- 注意が必要なケース..低カルシウム血症、肝臓病のある人など。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- 骨粗しょう症などに用いるビスホスフォネート系薬と併用すると、カルシウム低下作用が強まる可能性があります。
- 食べ合わせに注意..ビスホスフォネート系薬(ダイドロネル、フォサマック、ボナロン、ベネット、アクトネル、ボノテオ、リカルボン、ボンビバ等)、ステロイド薬(プレドニゾロ、プレドニン、リンデロン、デキサメタゾン、デカドロン、レナデックス等)、テオフィリン(テオドール)、ジアゼパム(セルシン)、ジギトキシンなど。
 【使用にあたり】
- 少量で開始します。通常は1日1回1mgからです。病状によっては2mgで始めることもあります。増量は1mgずつとし、2週間以上の間隔をあけておこないます。食事に関係なく飲めますが、時間は指示どおりにしてください。
- 定期的にPTHとカルシウム濃度を調べ、1日1回1〜8mgの間で調節します。上限は12mgです。
- 血清カルシウム値が8.4mg/dL未満に低下した場合は、減量または休薬を考慮しますす。必要に応じて、ビタミンD製剤やカルシウム薬が処方されます。
- 飲み忘れたら、気付いたときに飲んでください。ただし、翌日に気付き、次の時間が近ければ、忘れた分は抜かし、次の通常の時間に1回分服用してください。2回分を一度に飲んではいけません。

- 【検査】

- PTHが管理目標値に維持されるよう、定期的なPTH測定が必要です。また、血清カルシウム値を頻繁に検査し、カルシウム濃度が必要以上に下がり過ぎていないかチェックします。
 【妊娠・授乳】
- 妊娠や出産に影響をするおそれがあるため、妊娠中は禁止です。服薬中に妊娠したら、直ちに休止する必要があります。
- 授乳中は控えます。やむを得ず使用する場合は、授乳を中止してください。母乳に薬が移行する可能性があるためです。
|
効能 |

- 【効能A】

- 維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症

- 【効能B】

- 下記疾患における高カルシウム血症
- 副甲状腺癌
- 副甲状腺摘出術不能又は術後再発の原発性副甲状腺機能亢進症
|
用法 |

- 【効能A】

- 通常、成人は、エボカルセトとして1回1mgを開始用量とし、1日1回経口服用する。患者の状態に応じて開始用量として1日1回2mgを経口服用することができる。以後は、患者の副甲状腺ホルモン(PTH)及び血清カルシウム濃度の十分な観察のもと、1日1回1〜8mgの間で適宜用量を調整し、経口服用するが、効果不十分な場合には適宜用量を調整し、1日1回12mgまで経口服用することができる。

- 【効能B】

- 通常、成人は、エボカルセトとして1回2mgを開始用量とし、1日1回経口服用する。患者の血清カルシウム濃度に応じて開始用量として1回2mgを1日2回経口服用することができる。以後は、患者の血清カルシウム濃度により服用量及び服用回数を適宜増減するが、服用量は1回6mgまで、服用回数は1日4回までとする。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
|
副作用 |
比較的多いのは、吐き気など上部消化器症状と低カルシウム血症です。カルシウム濃度が著しく低下すると、しびれや筋けいれん、気分不良、不整脈(QT延長)、さらには血圧低下や全身けいれんを引き起こすおそれがあります。検査でチェックできますので、ひどくなることは少ないと思いますが、気になるときは医師と相談してください。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 低カルシウム血症..手足のふるえ、しびれ、ピリピリ感、ぴくつき、筋肉の脱力感、筋肉けいれん、気分変調、動悸、血圧低下、全身けいれん、意識もうろう。
- 心電図QT延長..動悸、胸の痛みや違和感、脈が遅いまたは速い、脈の乱れ、めまい、ふらつき、気を失う。
 【その他】
- 吐き気、嘔吐、腹部不快感、食欲不振、腹痛、下痢
- かゆみ、しびれ、筋けいれん、手足の痛み
- めまい、動悸、不整脈
|