概説 |
皮膚T細胞性リンパ腫を治療するお薬です。 |
作用 |
- 【働き】
- 皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)は、皮膚病変を特徴とする非ホジキンリンパ腫の一種です。リンパ球の一種“T細胞”ががん化し、いろいろな皮膚症状があらわれます。進行すると厚みをもった腫瘤が形成され、痛みやかゆみもでてきます。
このお薬は、新しい作用機序をもつ抗がん薬です。治療が難しいそのような皮膚T細胞性リンパ腫に対し一定の効果が期待できます。おおよそ3割くらいの人に有効で、皮膚症状の軽減がみこまれます。
- 【薬理】
- ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を阻害することでヒストンのアセチル化を増加させます。その結果として、DNA転写活性が増強、腫瘍細胞で抑えられていたがん抑制遺伝子の発現が増加するなどして、抗腫瘍効果を発揮します。
- 【臨床試験】
- 皮膚T細胞性リンパ腫がある程度進行した患者さん61人による臨床試験が海外でおこなわれています。効果の判定はmSWATと呼ばれる皮膚評価スコアでおこないます。有効とするのは、50%以上のスコア減少が4週間以上続いた場合です。
その結果、有効と判定されたのは61人中、18人でした。有効率(奏効率)は約30%(18人/61人)です。なお、国内6人による臨床試験でははっきり有効と判定される人はいませんでしたが、2人については有効に近い効果が得られています。
|
特徴 |
- 今までとは作用が違う新規抗がん薬です。その作用機序からヒストン脱アセチル化酵素阻害薬(HDAC阻害薬)と呼ばれています。
- 希少疾病用医薬品の指定を受けています。患者数は少ないのですが、医療上の必要性が高い医薬品として研究開発に公的援助がおこなわれる制度です。
|
注意 |
【診察で】
- 持病のある人は医師に伝えておきましょう。
- 妊娠中もしくはその可能性のある人、また授乳中の人は申し出てください。
- 服用中の薬を医師に教えてください。
- 注意事項や副作用について十分説明を受けてください。薬の性質をよく理解し、同意のうえで使用しましょう。
- 【注意する人】
- 重い肝臓病のある人は使用できないことがあります。また、静脈血栓塞栓症や糖尿病のある人は、病状の悪化に注意するなど慎重に用いるようにします。
- 適さないケース..重い肝臓病。
- 注意が必要なケース..肝臓病、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症)、糖尿病、妊娠中。
- 【飲み合わせ・食べ合わせ】
- 抗血栓薬のワルファリン(ワーファリン)や抗てんかん薬のバルプロ酸(デパケン)と相互作用を起こす可能性があります。併用のさいは注意が必要です。
【使用にあたり】
- 決められた数のカプセルを飲んでください。通常は1日1回4カプセル(400mg)です。肝臓が弱っている場合など少量とすることがあります。また、副作用のでかたによっては減量や休薬が必要です。
- カプセルを開けたり、すりつぶしたりしないで、多めの水でかまずに飲んでください。
- カプセル内の粉末が皮膚や粘膜に触れないように注意しましょう。万一、カプセルが破損し内容物が付着した場合には、流水で完全に洗い流してください。
- 下痢や嘔吐がひどい場合は、医師の診察を受けてください。
- 【検査】
- 処方に先立ち、血糖値を確認しておく必要があります。服用開始後も、血糖値をはじめ腎機能検査や血液検査を定期的におこないます。
【妊娠・授乳】
- 妊娠中はできるだけ避けます。とくに必要な場合でも、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に限ります。
- 服用中は妊娠しないよう適切な方法で避妊してください。
- 薬が母乳に移行する可能性がありますので、授乳は中止してください。
- 【食生活】
- 脱水症状を起こすことがありますので、ふだんから適度な水分補給をこころがけましょう。
|
効能 |
皮膚T細胞性リンパ腫 |
用法 |
通常、成人はボリノスタットとして1日1回400mgを食後経口服用する。なお、患者の状態により適宜減量する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
|
副作用 |
副作用でいちばん多いのが胃腸症状です。とくに下痢や嘔吐が続くと脱水症状を起こし、さらには血栓塞栓症のリスクが高まります。ひどいのなら点滴を受けたほうがいいですから、早めに医師の診察を受けてください。脱水を起こさないように、ふだんから適度な水分をとることも大事です。
重い副作用として第一にあげられるのが、血栓・塞栓症です。血管内で血液が固まるのが原因で、とくに重要なのが 足に生じる深部静脈血栓症と、肺に血塊が詰まる肺塞栓症です。足のふくらはぎの痛みやシビレ、突然の息切れ、胸の痛みといった症状が前触れとなります。このような症状があらわれたら、すぐ医師に連絡してください。
血液障害は検査でよくみつかります。血小板が減少したり、赤血球がこわれて貧血を起こすおそれがあるのです。また、白血球が極端に減少してしまうと、体の抵抗力がひどく落ちて感染症にかかりやすくなります。歯茎出血や皮下出血、鼻血や血尿など出血傾向、あるいは発熱やのどの痛み、口内炎などに注意しましょう。
人によっては高血糖があらわれます。もともと糖尿病のある人や血糖値が高めの人は要注意。定期的に血糖値の検査を受けるようにしてください。ほかにも重い副作用として腎不全の報告があるようです。下記のような初期症状をふまえ、いつもと違う異常を感じたら、医師と連絡をとり適切な指示を受けるようにしてください。早期対応が大切です。
【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 静脈血栓症、肺塞栓症..手足(特にふくらはぎ)の痛み・はれ・むくみ・しびれ、爪の色が紫、突然の息切れ・息苦しい、深呼吸で胸が痛い、急な視力低下、視野が欠ける、目が痛む。
- 血小板減少..鼻血、歯肉出血、血尿、皮下出血(血豆・青あざ)、血が止まりにくい。
- 血液障害、溶血性貧血..発熱、喉の痛み、だるい、出血傾向(血豆・青あざ、歯肉出血、鼻血、血尿)、息切れ、動悸、黄疸(皮膚や白目が黄色)、むくみ、尿量減少。
- 重い貧血..息切れ、動悸、疲労、めまい、顔色が悪い。
- 脱水症状..下痢や嘔吐が続く、飲食できない、のどが渇く、多尿、頻尿、さらに進むと尿が少ない・出ない、だるい、血圧低下、意識もうろう。
- 高血糖..異常にのどが渇く、多飲、多尿、食欲亢進、多食、脱力感。
- 腎不全..尿が少ない・出ない、むくみ、尿の濁り、血尿、だるい、吐き気、頭痛、のどが渇く、けいれん、血圧上昇。
【その他】
- 下痢、吐き気、吐く、食欲不振、便秘、口内乾燥、味覚異常
- 脱毛症、筋肉けいれん、疲労感
- 白血球減少、血中クレアチニン増加
|