概説 |
前立腺がんを治療するお薬です。 |
作用 |
- 【働き】
- 前立腺がんは、男性ホルモンに依存して増殖します。切除を基本としますが、外に浸潤している進行がんに対しては、男性ホルモン除去療法として内科的または外科的去勢術をおこないます。内科的去勢術で使用されるのは、GnRHアゴニスト/アンタゴニストという部類の注射薬です。さらに、症状によってはドセタキセル(タキソテール注)による化学療法を試みることがあります。ただ、去勢術や化学療法にも限界があり、進行を完全に止めるのは困難です。
このお薬は、抗男性ホルモン薬です。男性ホルモンの働きを抑える作用から、前立腺がんに対するホルモン療法として用いられます。上記のような去勢術によっても男性ホルモンが多少残存してしまうのですが、この薬の併用によりその影響を最小化することが可能です。正式な適応症は「去勢抵抗性前立腺がん」および「遠隔転移を有する前立腺がん(去勢抵抗性と去勢感受性を含む)」になります(非転移性去勢感受性前立腺がんは適応外)。去勢術のあと病勢が進行した場合でも、二次ホルモン療法として用いれば、腫瘍縮小、PSA値改善、生存期間の延長が期待できるのです。
- 【薬理】
- 男性ホルモンの作用発現を抑えることにより、抗腫瘍効果を発揮します。その作用メカニズムは、前立腺組織の男性ホルモン受容体において、男性ホルモンのジヒドロテストステロンと拮抗し 受容体への結合を阻害することにもとづきます。すると、がん細胞の増殖をうながす伝達経路が断たれ、前立腺がんが増殖しにくくなるのです。男性ホルモン(アンドロゲン)に対抗する作用から、抗男性ホルモン薬または抗アンドロゲン薬と呼ばれています。
- 【臨床試験-1】
- 去勢抵抗性前立腺がんに対する効果と安全性を調べる臨床試験が海外でおこなわれています。参加したのは、内科的または外科的去勢術をおこない、さらに化学療法としてドセタキセル(タキソテール注)による治療を受けたにもかかわらず病勢進行が認められる去勢抵抗性前立腺がんの患者さん1199人です。このうち800人はこの薬を、別の399人はプラセボ(にせ薬)を服用し、それぞれの生存期間を比較します。
その結果、この薬を飲んでいた人達の生存期間の中央値は18.4カ月でした。一方、プラセボの人達は13.6カ月にとどまりました。この薬を飲んでいた人達のほうが生存期間が長く、プラセボを上回る延命効果が示されたわけです。安全性についても許容範囲内で、副作用の管理もほとんどの人で可能でした。なお、PSA倍加時間が10カ月以下の化学療法歴のない非転移性去勢抵抗性前立腺がん患者を対照とした別の試験でも、無転移生存期間の延長が認められています。
- 【臨床試験-2】
- 次は、遠隔転移のある前立腺がんを対象とした試験です。去勢抵抗性か去勢感受性かを問わず、去勢治療の併用を必須としたうえで、この薬を飲む人とプラセボを飲む人に分かれ、無増悪生存期間‘rPFS’を比較します。rPFSは新規骨転移がないなど画像診断上の病勢進行が認められない期間であり、その延長は骨転移に伴う関連症状の抑制、骨盤内転移に伴う尿管閉塞の抑制などにより、患者さんの身体機能や生活の質の維持につながると考えられます。その結果、rPFSの中央値は、、プラセボの人達が19カ月だったのに対し、この薬を飲んだ人達では試験期間中に中央値に到達せず、画像診断上の病勢進行リスクが61%低下したと推計されました。この薬により、rPFSが延長し、長期にわたり病状の安定が保てると期待できるわけです。なお、この試験では全生存期間(OS)が短縮する傾向は認められませんでしたが、別の海外試験(ENZAMET)においては全生存率の向上が示されています。
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特徴 |
- 非ステロイド性の強力な抗男性ホルモン薬(抗アンドロゲン薬)です。男性ホルモン受容体に対する親和性がとくに高く、第二世代の抗男性ホルモン薬とされます。前立腺がんに対するホルモン療法として用います。
- 比較的安全性が高く、同類薬のフルタミド(オダイン)やビカルタミド(カソデックス)にみられる肝障害のリスクも低いようです。けいれんを起こしやすい性質があるので、けいれんの発現には注意が必要です。
- 副腎由来の男性ホルモンも制御できます。このため、男性ホルモンの影響を最小化し、治療効果を高めることを目的として、去勢術との併用療法がおこなわれます。実際の臨床試験でも、去勢術だけよりも、生存期間が長くなることが確かめられています。
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注意 |
【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は医師に伝えておきましょう。
- 使用中の薬を医師に教えてください。
- 注意事項や副作用について十分説明を受けてください。
- 【注意する人】
- この薬には、けいれんを起こしやすくする性質があります。このため、てんかんなど けいれん性疾患のある人は、慎重に用いる必要があります。
- 注意が必要なケース..てんかん、けいれん性疾患、脳卒中や脳の病気でけいれん発作を起こしやすい人、間質性肺疾患またはその既往歴のある人。
【飲み合わせ・食べ合わせ】
- 禁止されるのは抗エスズウイルス薬のドラビリン(ピフェルトロ)と抗コロナウイルス薬のエンシトレルビル(ゾコーバ)の2種類す。これらの血中濃度を低下させ、薬の作用を弱めてしまうためです。
- けいれんのリスクがある薬剤との飲み合わせに注意が必要です。たとえば、ニューキノロン系抗菌薬、三環系抗うつ薬、フェノチアジン系抗精神病薬などです。併用により、重いけいれん発作を誘発するおそれがあります。
- 結核治療薬のリファンピシン(リファジン)や抗けいれん薬のカルバマゼピン(テグレトール)と飲み合わせると、この薬の血中濃度が低下し作用が減弱する可能性があります。
- 併用薬に影響する例として、抗血栓薬のワルファリン(ワーファリン)や胃酸分泌抑制薬のオメプラゾール(オメプラール、オメプラゾン)などがあげられます。併用により、これらの血中濃度が低下し作用が減弱するおそれがあります。
【使用にあたり】
- 通常、1日1回160mg(錠40mg4錠、錠80mg2錠)を飲みます。時間は指示通りにしてください。とくに指示がなければ、朝食後でよいと思います。
- 原則単独ではなく、内科的去勢術または外科的去勢術(精巣摘除術)と併用します。併用療法により、治療効果がいっそう高まります(備考参照)。
- 【食生活】
- まれなケースですが、けいれん発作を起こすことがあります。車の運転をふくめ危険をともなう機械の操作、高所作業のさいは念のため注意してください。
- 【備考】
- 前立腺がんの治療は、ホルモン療法(内分泌療法)を中心におこないます。男性ホルモンの影響を低減させることにより、前立腺がんの増殖を抑制しようとする治療法です。これには大きく2つの方法があります。男性ホルモンそのものの分泌を抑える「去勢術」と、男性ホルモンの働きを抑える「抗男性ホルモン療法」です。
単に去勢術といえば、外科的精巣摘除術(除睾術)を指すことが多いのですが、内科的な薬物療法でも同等の治療効果が得られます。このため、外科的去勢術に対して、後者を内科的去勢術とすることがあります。内科的去勢術で使用される薬剤は、GnRH(LH-RH)アゴニストまたはアンタゴニストと呼ばれる注射薬(リュープリン、ゾラデックス、ゴナックス)です。
一方、抗男性ホルモン療法として用いるのが、抗男性ホルモン薬(抗アンドロゲン薬)の部類です。この薬のほかにもフルタミド(オダイン)やビカルタミド(カソデックス)などがあります。去勢術と抗男性ホルモン療法はそれぞれ単独でもおこないますが、男性ホルモンの影響を最小化するために両者の併用療法(CAB、MAB)も広くおこなわれています。実際の臨床試験でも併用療法による延命効果が認められています。
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効能 |
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用法 |
通常、成人はエンザルタミドとして160mgを1日1回経口服用する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
吐き気や嘔吐、高血圧、ほてり、疲労、下痢または便秘などがみられます。重症化することはほとんどなく、たいていは継続可能です。気になる症状があれば、医師と相談してください。
重い副作用として、けいれん発作を起こす可能性があります。てんかんなど けいれん性疾患のある人や、別のけいれんを起こしやすい薬と併用する場合など十分な注意が必要です。
そのほか、間質性肺疾患が報告されています。初期症状は、息切れ、咳、呼吸困難、発熱などです。発現頻度は低いのですが、このような症状があらわれたら直ちに受診してください。
【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- けいれん..筋肉のぴくつき、ふるえ、白目、硬直、全身けいれん、意識低下・消失。
- 血小板減少..鼻血、歯肉出血、血尿、皮下出血(血豆・青あざ)、血が止まりにくい。
- 間質性肺疾患..息切れ、咳、息苦しい、息が荒い、呼吸困難、血痰、発熱。
【その他】
- 吐き気、食欲減退、嘔吐、下痢、便秘
- 関節痛、筋肉痛、背中や手足の痛み
- 乳房が大きくなる
- ほてり、高血圧、潮紅、疲労、頭痛、体重減少
- ぼんやりする、もの忘れ、不安
- 皮膚乾燥、発疹、かゆみ
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