ひとかけらのひとせつな 三度目に会った日 僕らは真夏 京都、高山寺の長い石段を登っていた もみじの大木の葉は青く 苔むした林道に涼やかな風が吹く その時、彼女の靴底がめくれ 私は手を差し伸べて 二人は初めて手を握り合った 六度目に会った日 僕らは初秋 神戸、六甲山の頂から夜景を眺めていた 昼間に降った雨が大気を洗い 目にしみるほど溢れ輝く街の灯たち その時、ある動物の鳴き声に誘われて 迷い込んだ展望レストランのバルコニーで 二人は初めて唇を交わした それは、もしや 天が与えた幸運なのか 私たちは 人生の最も幸せな一瞬を 今過ごしているのだ、と思う 寄り添う身体は一層と近づいて 心がこんなにも近づいている それは二人の故郷で綴られた とてもときめいて美しい ひとかけらのひとせつな