赤い風船

赤い風船が 一個 青空に飛んだ
小さな男の子が その風船を追いかけて走っていった
その子は途中で諦めて 家の方へと帰っていった

僕は丘の上から その風船を眺めていた
何時間も前から その子の腕に捕らわれている
あの赤い小さな風船

いや 僕はもっと昔から あの風船を眺めていた
木の枝に引っかかっていた あの赤い風船
僕は誰よりも早く見つけ 誰よりも早くそれを見つめ
誰よりも欲しがっていた

〜その赤い風船〜

でも僕は手を出さなかった 
丘の上から眺めていたから
木の枝に引っかかっているその風船が 美しく 大切なものだったから

〜いや 僕が弱かったから〜

小さな男の子が その赤い風船を見つけた
彼は見つけるなりそれを手の中に納め 楽しそうに遊んでいた

〜あの風船も揺れていた〜

そのとき その赤い風船が 青空に飛んでいった
広く 青い空の中へ どんどん 吸い込まれていった
晴れやかな目で 僕はその風船を見た
その風船は あの男の子の手の届かないところへ
僕の手の届かないところへ
どんどん どんどん 飛んでいく

その赤い風船の姿は見えなくなっても
僕の この晴れやかな目は 青い空から離れなかった