詩を解説するなんて蛇足といわれても仕方がないと思います。しかし、これらの、たわいない詩を読んで下さった方々に少しでも理解していただければと、それぞれの作品についての思い出を書き記しておきたいと思います。

@朝
 高校時代、生まれて初めて徹夜したとき、自分の部屋からじょじょに朝が開けてくるのを見た。冬か春先だったと思う。なんとも言えない「青い」匂いがしていたのをおぼえている。空を見ると、西の空はまだ全くの夜なのに東の空は明るくなっていた。その間の微妙なグラデーションが面白かった。

A曇天
 高校の国語の宿題で詩を書かされた。これはその作品に続いて、生まれて2番目に書いた作品である。自分でも意味が分からない。半分何かにとりつかれたように書いたのをおぼえている。高校時代は微妙な年代。何かから逃れたいという思いがこのような作品を書かせたのだろう。

B部屋にいて
 大学一年のときの作品だと思う。古下宿の部屋の中で将来自分の妻になる人にあてて書いたもの。リンゴジュースは透明な金色のジュース。昔よく牛乳瓶に入れて売られていた。そこにいるはずのない人が、その瓶を透けて見えたような気がした。

C蒼
 この作品は具体的に説明するのは難しい。思春期、青年期の独特な感性をうたったもの。幼児期の自分と今の自分。そして将来の自分がその題材である。

D亀裂
 この亀裂とは、あくまでも精神的なものである。人の心の中には、その人も知り得ないまったく異質な宇宙が広がっている。自分は思考と思考の狭間からその宇宙に入り込んでしまったのだ。

E瞳
 大学の時の作品。自分が見えるものはすべてその人にも見える。そんな近い距離に二人はいる。

F彼
 彼とは幼い日の自分である。友達の父親が山好きで、僕は友達と良く山に連れていってもらっていた。断片的な郷愁が今も時々胸を締め付けることがある。

G存在
 大学2年の一年間。自分の存在とは何か。人は何のために生まれてきたのか、などという哲学的なことをよく考えていた。これは、その思考の過程で作られたもの。

H一枚の古びた写真に寄せて
 家にあった昔の写真を見ていたとき。ある一枚の写真に美しい少女が写っていた。この人は?と母親に聞いてみると、これは戦前の写真で、その人はその写真を撮って幾年もしないうちに結核でなくなったのだという。彼女には将来を約束した人がいた。その人は自分も知っている、もうボケてしまった80を過ぎたおじいさんだった。

Iミッドナイト
 下宿で一人いたときに作ったもの。みかんを手で削くほんの数秒に、その匂いに触発されて思い出が吹き出す。

J偉人
原子レベルで物事を考えると、草も木も人間もその配列の違いでしかない。人は死んでも、その細胞は何らかのものに形を変えて、つながっているといえるのではないか。そして人間は義務で生きているのではなく、生きるために必要なものごとは快楽を媒介として脳にインプリントされている。しかし、そうすると人間の心とはいったい何者なんだろうか?

K敗北者
 告白とは、まるでこういったものじゃないのか?そのかけに僕は破れてばかりいる。

L心の流れ
 大学生時代、嬉しがってタバコを吸っていた期間があった。体に合わずにすぐ止めたが、そのけむりにすごく神秘性を感じた。これは、サンリオの「詩とメルヘン」という本に紹介された。

M印象
 この詩も説明が難しい。心の中にうごめく感情を文章にした。まるでそれは印象派の絵画のような世界だ。

N一葉
 一葉とはハガキのことである。大学一年のとき、年下の彼女に告白し、ハガキでふられたことがあった。その他にも受験の合否発表や就職試験の結果など、こんな紙切れ一枚の文面で人は喜怒哀楽を感じるのだ。

O風景画
 ふと見た風景画に心をとらわれた。とても優しい絵だった。

P何よりも
 受験を終えて大学に入学してから、僕は勉強もそっちのけで仲間と飲んでばかりした。生まれて初めての放蕩ともいえる。そこでいままで持ち続けてきた何かを失ったような気がしたる

Q偽りなきもの
 大学時代、とても好きな人がいた。その人はとてもきれいな大きな黒目をしていた。その人の目に自分が映るほど近い距離で話し合える間柄だったのに、色々な理由で結局僕は彼女に告白できずじまいだった。

R偶然を願い運命を信じる
 本当に好きな人の前で男は、とても小心で消極的になってしまう。言葉を交わすひと言ひと言が何より大切に感じる。そして何かに祈る。そんな一瞬があるものだ。

S恋
 ある人へのラブレターに添えて送った詩。まったくの若さだろう。今では恥ずかしさで寒くなるような内容だけど、その時は真剣だから何とも思わなかった。

21心
 勉強でも仕事でも本当に忙しくて走りまくっている時にふと空く時間がある。そんなときに書いた詩

22キラメキ
 一方的に憧れた高嶺の花のような女性がいた。ほとんど面識がないのだけれど、すれ違ったとき何かの弾みでふと言葉を交わした。

23僕だけのストーリー
 天の川のことを英語でミルキーウエー(牛乳の道)と呼ぶ。黒塗りのテーブルに牛乳をこぼしたとき、これはまるで夜空じゃないかと思った。

24カミナリ
 夜空にカミナリが轟く。一瞬あたりは昼間のように明るくなる。しかし、明るくなるのはわずか何十分の一秒でしかない。夜ストロボをたいてシャッターを切る。写真は明るく写るが、それもその明るさはわずか60分の一秒でしかないのだ。世の中偽りが多い、世の中錯覚が多いと思った。