ぼぉるひろい そのご






「(・・・また備品修理でお金が消える・・・)」

久しぶりに(半強制的に)招き入れたお客によって
真っ二つに割られたテーブルを見て、密かに心の中で涙を流す。
叩き割った張本人を横目でちらりと一見すると
当の本人は、ここに来たときと同じように肩身狭そうにソファーに腰を下ろしていた。
それを確認して、視線をもどすとそこにあるのはさっきも見たが無残な姿になったテーブルで。

「・・・はぁ・・・(弁償しろ!って言いたいけど、怖くて言えない・・・)」

さっき突如変貌して目の前のテーブルを拳ひとつで叩き割った姿と
現在の気弱そうにおどおどしている姿とのギャップが酷すぎて、余計に恐怖を煽る。
下手に文句を言おうならば、今度は自分自身がただでは済まないかもしれない。

今月は完全に赤字だろうか、と頭の中で修理代の計算をする。
ただでさえ、たまに現れるどっかの変態吸血鬼のせいで暴力騒ぎになって備品が壊れることが多いというのに
今回のテーブルの負傷は完全な痛手だった。(・・・暴力振るってるのは、殆どあたしなんだけど・・・)
だって、顔を見るだけで殴りたくなるからしかたないじゃない と理不尽な言い訳を自分に言い聞かせる。(あの変態が悪いのよ・・・!)

とりあえず、まだ登場すらしていない相手への文句を考えるのはやめて
目の前のことをどうにかしようと、現実に思考をもどすと
割られたテーブルの破片を片付けに行っていた、相方のエルフの青年のシークが
良い香りを漂わせながら、入れたばかりの紅茶を三つ運んできて、ひとつを差し出してくれた。
それを黙って受け取って、相変わらず無残なテーブルを見ながら飲んでいる自分に
シー(わたしの呼び方)が苦笑しながら、お客の少年にも紅茶を差し出している。(渡された子はあわあわしてた)(ひょっとして二重人格かなんか・・・?)

「えーっと・・・妹を探してほしいんだっけ・・・?」

ほどよく甘い紅茶を喉に流して、お客の少年に向きなおしてそう聞くと
いきなり本題にもどられて驚いたらしい少年が、紅茶を思わず零しそうになる。

「あ・・・はい。ティルって言うんですけど、急に姿が見えなくなって・・・孤児院の中も町の中も探したんですが・・・」

見つからなくて・・・と続ける少年の目はすこし潤んでいて、本当に大切な妹なんだとわかる。
それなのに、代金が足りないからといって、色々言ってしまった自分に心の中で反省した。

「・・・孤児院?」

「はい、ボクもティルも親がいなくてそこで育ったんです・・・だからお金もあんまり持ってなくて・・・ごめんなさい」

孤児院という言葉に引っかかったシーが聞き返すと、少年が小さい声でそう返した。
余計にさっき自分で言ってしまった言葉が、胸に突き刺さる。

「えと・・・さっきはごめん。酷いこと言っちゃって・・・」

素直に謝罪できないほど頑固な性格ではないので、素直に少年に謝罪の言葉を述べると
相手は驚いたような顔をしてこっちを見た。謝られると思ってなかったんだろうか(ちょっとそれ失礼じゃない・・・?)

「い、いえ・・・、ボクの方こそテーブル壊してごめんなさい・・・」

「(壊した自覚はあるのね)ううん。あー、お金のことも別に気にしなくていいから」

そう言うと、少年がきょとんとした顔をして、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
シーは自分の意図に気づいたらしい。紅茶を飲みながらすこし微笑んでいた。(笑わないでよ・・・!)

「妹さん探すの、引き受けるからお金のことは気にしなくていいって言ってんのよ」

「・・・え・・・?・・・・・ええ!?」

本当ですか!?と少年が大きい声をあげた。
その拍子に零れそうになった紅茶に気づいて、少年が慌ててカップを抑えた。

「うん。お詫び・・・っていうのはちょっと変かもしれないけど、今他の仕事ないし大丈夫」

「でも・・・お金ないのに・・・」

「気にしなくていいって言ったでしょ」

そう言うと、少年が嬉しそうに子供らしい顔で笑った。(あ、結構かわいいかも) 特に異存もないらしい
(というより、あたしがこう言うってわかってたらしい)シーもその笑顔を見て静かに微笑んでた。

「そうと決まれば・・・まずは自己紹介からかな?」

紅茶を飲み干したカップを近くにあった棚の上に置いて、少年とシーの方に近づく。

「あたしはフラル。そっちのはシーク。とりあえずよろしくね」

「よろしく」

「あ、はい!ボクはクーンって言います。よろしくお願いします」

一通り笑顔で簡単に自己紹介を終えると、メモを取れるように小さなメモ帳をポケットから取り出す。

「で、さっそくなんだけど、いつ妹さんがいなくなったの?気づいた時のことでいいから教えて」

カチカチとメモ帳に備え付けていたシャーペンを鳴らせる。
ただの迷子ならいいんだけど、最悪の場合誘拐の可能性もある。
そういう事態になっていなければいいけれど、と思っていると、まったく予期していなかった方向へと話は進む。

「えっと・・・妹が部屋にいないのに気づいたのは、昨日の嵐の晩が最初です・・・」

ピタリと、今まさにメモを取ろうとペン先を紙の上に当てようとした動きが止まる。
どうしよう。まさかとは思うけど、と頭の中に嫌な予感が過ぎる。
クーンはそれに気づいた様子もなく、言葉を続ける。

「夕方にはいたんですけど、すごい嵐で小さい子たちが泣くのを慰めてる間に・・・」

「・・・・・・いなくなったの?」

「・・・はい」

「・・・・・・昨日の嵐が吹き荒れてる間に?」

「・・・・・・は、はい、そうです・・・」

「「・・・・・・・・・」」

シーを見ると、彼もあたしと同じ考えに行き着いたらしい。深刻な表情と目が合う。
そんなあたしたち二人を見て、何か感じ取ったらしいクーンは泣きそうな表情でおどおどしている。
引き受けるって言ったけれど、今更それを訂正する気はないけれども。

「・・・クーン、思ったより厄介かもしれないわそれ・・・」

言葉と共に落ちていきそうな気力を無理矢理止まらせて、そう告げると
クーンがええ!?と泣きそうな顔で叫んだ。











フラル視点。