ぼぉるひろい そのろく
――思ったより厄介かもしれない
そう言われて、ショックと混乱で頭がぐるぐるしているうちに
フラルさんは誰かに電話しに部屋を出て行ってしまった。
(変態が出ませんように変態が出ませんようにって呟いてたのが気になるけど)
どういうことなんだろう。どうして厄介になるんだろう。ティルは大丈夫なんだろうか。
そんな不安ばかりがグルグルと頭の中を回って、目頭が熱くなる。
不安をどうにか取り除こうと、周りに視線を動かすと、壁に寄りかかっているシークさんと目が合う。
「今フラルが調べてるから、大丈夫。きっと妹は無事だから」
ボクの不安を悟ったシークさんが、これでも舐めて落ち着いて、と言って飴を差し出してくれた。
シークさんの顔と飴を交互に見たあとに、素直に受け取ると頭を撫でられる。
それがなんだか少し恥ずかしくて、もらった飴を開けて口に含むと甘い味が広がって少し落ち着けたような気がした。
「フラルが戻る前に、少し今どういう状況なのか説明しておこうか?」
飴を舌で転がしていると、シークさんがボクを見て問いかけてきた。
たぶん、少しでも不安を和らげるためにボクに現状を説明してくれようとしているんだと思う。
「あ・・・はい。お願いしていいですか?」
そう答えると、シークさんは少し微笑んだ。
「クーンは世界の仕組みについては、もう習った?」
「はい。孤児院にはそういう本もたくさん置いてあったので、少しは知ってます」
自分より年上の孤児や、あそこを運営してくれてる人たちに読み聞かされたこともあったから
基本的なことは知っているはずだと思う。
そう思っていると、シークさんが飴が入った瓶を取り出して近くにあった小さな棚を
ボクの目の前に運んできた。(・・・テーブルはボクが壊しちゃったから・・・)
「うまく説明できるかわからないけど・・・とりあえず、世界は複数存在してる」
棚の上にころころと、瓶を傾けて入っていた飴を無造作に転がす。
「この飴一つ一つが、全部孤立している世界で。今までクーンが生まれて生きてきたこの世界は、この中のひとつの飴に過ぎない」
「本でも、ここ以外にもたくさんの世界が存在してて、全部同じ時の流れの中で生きているけど他の世界と交わることはないって書いてました」
「そう。同じ時間軸でここと同じように、共通した世界の仕組みについての内容の書物がすべての世界に同等に存在する。」
でも、とシークさんが続ける。
「それだけ同じものを共有しているのに、空間の捩れなのか、お互いの世界が接触することは出来ない」
ころんと、シークさんが指で飴をはじくと、別の飴とこつんとぶつかって止まる。
「ただ、昔はまれに何かの偶然で、その捩れに飲み込まれて他の世界に流れる人がいたんだ」
「それも本で読みました。でも今は、管理局・・・?みたいなところが空間の捩れを管理してて、そういうことはなくなったって聞きました」
「たしかに今は、空間を管理されていてそういったことは滅多に起きない。でも、」
なにか、イヤな予感がしてシークさんの顔を見ると、相手と目が合う。
「・・・嵐っていうのは、大抵空間の捩れが発生した時に起こるんだ」
ガタンッと棚が揺れて飴が転がる。無意識にソファーから立ち上がった自分の足が棚にぶつかったんだ。
「そんな・・・!じゃあ、ティルは別の世界に飛ばされたってことですか!?」
声を荒げる。無意識に強い口調で相手の目を見て言ってしまう。(シークさんじゃ悪いんじゃないってわかってるけど・・!)
「・・・まだそうと決まったわけじゃない。それを今、フラルが確認してる。でも・・・その可能性は高い」
心臓の鼓動が速い。どうしてそんなことに。この世界にいれば、見つけることが出来るけど
他の世界に飛ばされてしまったなんて、何も出来ないじゃないか・・・!
涙が溢れてくる。両手で熱い顔を覆う。ティルは今頃見知らぬ世界で一人泣いてるかもしれない。ボクの名前を呼んでるかもしれない。
そう考えると、涙が止まるどころかもっと溢れてきて、嗚咽が零れそうだった。
シークさんに宥められて、ゆっくりとソファーに腰を下ろす。
涙はまだ止まらない。きっと今のボクは、酷い顔をしていると思う。
顔を覆ったまま塞ぎこんでいると、頭を撫でられる。(シークさん困ってるだろうな。)(・・・ごめんなさい)
「お待たせ〜って、・・・どうしたの?」
塞ぎこんだままお互い無言で過ごしていると、電話を終えたらしいフラルさんが部屋に戻ってきた。
やっと止まってきた涙を拭って顔をあげると、気まずい空気に少し驚いている様子の彼女がいた。
「あぁ、うーん。あぁ・・・説明したんだシー」
シークさんがゆっくり頷く。
「そっか。まぁ、今まだ確認してる最中なんだけど大丈夫よ。だから元気だすの!」
たたたと駆け寄ってきたフラルさんに、頭をぐしゃぐしゃと掻き回される。
完全に気を使わせてしまってる・・・。自分が情けないと、思ってしまった。
「でも・・・もし他の世界にいってたら・・・(せっかく慰めようとしてくれてるのに、ボクの馬鹿)」
「そうだったらそうだったで、探しに行けばいいのよ」
フラルさんが言った言葉に一瞬思考が止まる。・・・何かの聞き間違いだろうか。
「・・・え・・・でも、他の世界に行くなんて無理じゃ・・・」
しかもどこの世界にいるかわからないから、渡り歩くなんてことは・・・。
「あれ?まだそこは説明してないんだ?」
「・・・説明しようと思ったんだが」
「え・・・?どういうこと・・・ですか?」
思わず二人の顔を交互に見回す。よく、言ってることが理解できない。
「えーっと、管理局の存在は話したのよね?」
フラルさんにじーっと見つめられながら、こくんと頷く。
「あたしたちの所属してる『グロリオーサ』は、普段何でも屋みたいなことしてるけど、管理局に認められた、いわば管理局の補佐をする組織なのよ」
グロリオーサ。そういえばこの事務所の名前はそんな名前だった気がする。
いろんなことが頭をぐるぐると回っていて、いまいちフラルさんの言ってることに追いつけない。
「だからね?あたしたちは世界を渡れるの。だから妹さん探しにいけるの。わかる?」
「ほ・・・本当・・・ですか?」
フラルさんがたしかに、力強く頷いた。
「言ったでしょ?妹探すの引き受けるって」
ティル。君を探しにいけるかもしれないから。だから、もうすこし我慢して待ってて。
世界観説明を書くのが難しい。
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