ぼぉるひろい そのきゅう






「キリっていうの。よろしくね。」

「僕はエルンストです。ヨロシクお願いしますね。あ、シーくんは僕のなんでそれは肝に銘じておいてくださ――」

「違うから。クーン、エンストのことは放っておいていい。」

「そんな!シーくぅーん!」

「自業自得だよエンにぃ。」

水色の髪をなびかせた少女キリと、浅蘇芳の髪の青年エルンストがそれぞれオドオドしているクーンに自己紹介をする。
目の前に急に現れた二人と、繰り広げられる会話についていけないクーンはとりあえずペコリと頭を下げた。

「あ、えと、よ、ヨロシクお願いします・・・!キリさん、と、エ、エル・・・エン・・・?」

「エンストでいいわよクーン。」

「違いますよ!僕の名前はエルンストです。変なことを吹き込まないでくださいフラル。」

「あんたのこと本名で呼んでるヤツ、ボスくらいしかいないじゃない。」

先ほどまでの暴力沙汰までとはいかないが、相変わらず険悪なムードを背負っているフラルとエルンスト、もといエンストを
クーンは一人また若干目を涙で滲ませながら困った表情で見上げる。
そんなクーンを見て、キリが近づいて彼の袖を引っ張った。

「いつものことだから、気にしなくていいよ。あと、エンにぃのことエンストって呼んでいいからね。」

「あ・・・は、はい・・・じゃあ、エンストさんで・・・。」

「ちょ、キリ!」

不機嫌な表情のエンストが反論をしようとするが、途中ではぁ、とため息をついてやめる。どうやら諦めたらしい。日常茶飯事のことなのだから。
それを見計らったように、フラルが本題へと入る。

「クーン、この二人にも妹探し手伝ってもらうわ。キリの能力は人探しに便利なのよ。・・・エンストはどうでもいいけど。」

「いちいちムカつきますね貴方は。」

「エンスト、話が進まない。」

「なんで僕に怒るんですかシーくんっ。」

また目の前で繰り広げられるコントに近い会話に、オドオドする。
どうやら、エンストさんという人物はよくからかわれたりするタイプみたいだ。
最初に見たときは、その勢いと随分高い背にびっくりしてしまったけど、今はそこまで恐ろしくは感じないかもしれない。
そんなことをクーンが思っていると、袖を掴んだままのキリがくんと引っ張った。

「キリとエンにぃがここに来たのは、この世界にクーにぃの妹が本当にいないのか確かめるためなの。」

「あ、は、はい・・・!でも、どうやって・・・?」

「えっとね、クーにぃ、妹がよく着けてた物とか、持ってる?貸してほしいの。」

「・・・えと・・・、」

少し考えてから、たしか一つあったはず、とクーンがポケットを探る。
ごそごそと中を探すと、そこはからは一つのリボンが出てきた。

「これ、ティルが消えた後に部屋に残ってたリボン・・・なんですけど・・・。」

「うん。借りていい?」

「はい。」

リボンを受け取ったキリが、ぱたぱたと足音をたてて少し4人から離れる。
その様子を、すでに口論を終えていたシークが心配そうに見つめる。

「・・・キリ、一人で大丈夫か?」

「うん、平気。この世界はよく知ってるから、本部と連結しなくても一人で出来るよ。」

足を止めたキリがスカートについているポケットから、小さな猫のマスコットを取り出す。
それとクーンから預かったリボンを一緒に両手に持って掲げると、ふわりとその二つは浮き始める。
淡い光を帯び始めたマスコットがその身体から大量の光で出来た糸を勢いよく噴き出した。

「ひゃゎ?!な、ななな、」

「落ち着いてください。ただの光ですから害はありませんよ。」

エンストの言うとおり、クーンの身体に触れた光の糸は、そのままなんの感触ももたらさずに彼の身体を貫通する。
小さな猫のマスコットから出るそれは、まるで蜘蛛の巣。
しばらくして、淡い光はゆっくりと消え始め、少しずつ糸の光も消えていった。
ぺたんと、クーンが座り込む。こんな力は初めて見た。

「ちょっと大丈夫クーン?」

心配したフラルが、膝を付いて心配そうにクーンの肩を支える。
それを見たエンストも、その長身を折り曲げてクーンを頭上から見下ろす。

「・・・ああいった『魔法』の分類を見るの、初めてだったんじゃないですか?」

「・・・・・・そういえば、クーンのいるこの世界には、こういった力はあまりないな。」

こくこくと、クーンが頷く。
彼にとっては本の中の出来事が今目の前で起こったことになる。
魔法といっても一口に多種多様のものがあるが、少なくともこの世界でそれに属するものはほとんどない。
腰が抜けたままのクーンの元に、いつのまにか猫のマスコットをしまったキリが走り寄る。その手にリボンを持って。

「これ、ありがとう。返すね。」

「は、はぃ・・・。」

差し出されたリボンを受け取る。まだどこか放心状態のクーン。
そんな彼を尻目にシークが身を屈めてキリに視線を合わせる。

「わかったのか?」

「うん。やっぱり、この世界にはクーにぃの妹はいないみたい。」

改めた事実を突きつけるのを躊躇ったのか、普段より小声でキリは告げた。
それ聞いたクーンは放心状態から戻るも、影を落とすように俯く。
この世界にティルはいない。なら、どこに、いったいどんな所に、安全な場所に落ちてくれたのだろうか。
くしゃりと、髪を撫でられる感覚にクーンが顔をあげる。
クーンを覗き込むようにしたシークが、優しく頭を撫でていた。

「大丈夫。見つけるから、絶対。」

微笑みながら、力強く断言した。
落ちていった気分がゆっくりと浮上するのを感じる。少しだけ、元気をわけてもらえたような気がする。
まるでお兄さんのような存在だと、思った。安心させてくれる人だと。
クーンが小さく笑った。今は、落ち込んでいる場合ではない。
大丈夫ですと、クーンが告げると、シークは微笑んだまま一度頷いて手を離した。
起き上がろうとすると、心配そうに見ていたフラルが手を引いて手伝う。

「さて、じゃあそろそろ本格的にこれからのことを計画しましょうか。」

その様子を静かに見ていたエンストが話を切り出す。これからが重要なのだ。

「そうね。世界を移動するにも、適当にまわってたんじゃきり無いわ。本部の解析はまだなの?」

「来る前にリィにぃに電話したけど、まだ時間かかるって。とりあえず、キリたちが担当してた世界に移動してくださいって言ってた。」

そこならここみたいに、キリ一人で調べることが出来るから、と続ける。
詳しいことはわからないけれど、ティルを探すキリの力は、その世界のことを一定条件以上知り尽くしていないと
きちんと調べられない。それだけはクーンにもなんとなく理解できた。

「じゃあ、一旦会議もしたいですし、部屋を移動しましょう。何故かテーブル壊れてますし。あ、シーくん。」

「何?」

「僕に頭なでなではしてくれないですか?」

「しない。」

「くだらないこと言ってないでさっさと行くわよド変態!」

騒ぎ出す4人を追いかけるようにクーンが駆け寄る。

「あ、あの、」

「どうしたの?クーにぃ。」

クーンが声をかけると、部屋から出ようとしていた4人が止まって振り返る。
キリは少し近寄って心配そうに覗き込んだ。
そんなキリに、大丈夫と告げるように微笑んでから、クーンは言葉を続ける。

「ボクも、ついて行っていいですか?」

微笑みを消して、真剣な表情で4人の顔を見上げる。

「クーン、それは、会議に?・・・探しに行くのに?」

「・・・・・・探しに、行くことです。」

シークの問いかけに、クーンは若干間をおきながらも、しっかりと答えた。その声に迷いはない。

「依頼主だからあたしたちはそれでもかまわないんだけど・・・。クーン、たぶん、すぐには戻ってこれないわよ?途中、危ない時だってあるかもしれないし。」

「はい、でも、ティルを探したいんです。見つけたらすぐに抱きしめてあげたいんです。大事な妹だから・・・。」

フラルの問いにも、まっすぐと答える。
世界を渡るというのは、たぶん簡単なことではない。それは、クーンにもなんとなくわかっていた。
それでも、ティルのいない世界で一人で待っている方が、寂しくて心細くて、精神が崩れ落ちてしまいそうなのだ。

「クーにぃ・・・。」

「・・・いいんじゃないですか?本人がこう言ってますし。」

「でも、エンスト、」

「お願いしますシークさん。」

「・・・・・・・・・。」

「一応リィンの方に電話して、許可が下りたら連れていけばいいと思いますよ。ただし、下りなかったら大人しく待っていてもらいますが。」

「はい、ありがとうございます。エンストさん。」

ぺこりと、頭を下げる。無謀なことはわかっていたけれど、迷惑をかけてしまうだろうけれど、これだけは譲りたくはなかった。
渋々と、心配しながらも納得した様子のほかの三人を見て、クーンはエンストに心から感謝をした。

見たこともない、本の中だった別世界へと飛び立つのは、とても怖い。それでも、ティルを探すためならきっと、頑張れる。
それに、この人たちなら、信頼していいような気がした。
どこか緊張感が抜けているけれど。温かいものを感じるから・・・。













書き方が安定していなさすぎる。