ぼぉるひろい そのじゅう






会議という名目で行われた話し合いはすぐに終わった。
というのも、本部からの連絡がない限り出来うることは少ないからだ。
シークが新しく入れてきた紅茶でクーンは喉を潤す。
ふわりと漂う香りと、その温かさは気持ちを落ち着かせてくれる。
ゆっくりと息を吐き出してカップを置くと同時に、シークが口を開けた。

「とりあえず、エンストとキリが担当してる方に、移動した方がいいんだろうな。」

そうね、と紅茶を冷ましているフラルが相槌を打つ。
キリがここに訪れる前に本部と連絡を取ったときに、そうしろという指示もあったのだから
今あまり動けない状況ではそれに従うしかない。
それを聞いたクーンが、控えめに4人を見上げた。

「あの・・・、移動って、どうやるんです・・・か?」

キリさんとエンストさんが、担当してる別の世界からわざわざここまで来てくれたのはわかったけれど
具体的にどうやって訪れたのかがわからない。
突然大きな音がしたと思ったら、扉を開けて現れただけで。

「あぁ、そんなことですか。どうせ今から貴方も一緒に移動するんですから、見ればわかりますよ。」

エンストは残りの紅茶を飲み干して平然と答える。
その言葉に、そ、そうですよね、とクーンは言葉を濁す。
実際にこれから移動するにしても、別の世界に行くということが非現実的で
どんなことが起こるのか、大変なことなのか、クーンの心には不安が湧き上がってきてしまう。
それでも、ついていくと決めたのだから出来るだけ弱音を吐きたくないとは思っているのだが。

「大丈夫だよ、クーにぃ。」

不安を押し殺しているクーンの裾を引っ張ってキリを覗き込む。

「移動はあっという間だから。」

覗き込んでくるキリに、はい、と言葉を返す。
自分よりも年下のキリに心配させてしまうことに、ちょっと自己嫌悪になりつつも気を持ち直そうとしたつかの間。

「ただちょっとたまに、ぐにゃっといくけど。」

「え、えええええええええええええええ!?」

ぐにゃってなんですかああああ!?と思わず涙目になりながらクーンは叫んだ。







「このカギを使うのよ。」

なんとか落ち着いたクーンを宥めながら、先ほど通った廊下へと繋がる扉の前で
フラルが懐から鎖で繋がれた一つの小さな鍵を取り出した。
見た目は何の変哲もない、金色の鍵に見える。

「あたしたちグロリオーサは、みんな首輪に鎖で繋がれたこの鍵を持ってるの。」

言わば、グロリオーサのメンバーとして認められた証よ、手に持つ鍵を揺らす。
その言葉にクーンが他の三人を見回すと、色や大きさは違えど、皆似たような首輪をしていて、それには鎖が繋がっていた。
鍵が繋がっているはずの部分は、それぞれポケットなどに閉まっているから見えないが。
周りを見回しているクーンの視線が、フラルに戻ると彼女は微笑みながらドアノブに鍵をやる。
すると、そこには存在していなかったはずの鍵穴が現れて、吸い込まれるように鍵が納まる。
そのまま回すと、カチャン、と音がした。

「この鍵は、空間の歪みを一時的に補正して道を作るようになっているんですよ。」

ちなみに、さっきシーくんたちがこっちに電話してきたときも、受話器にこの鍵を使ったんですよ、とエンストが説明する。
クーンが説明を飲み込もうと、思考をぐるぐるとさせている間にフラルが鍵を抜いて扉を開ける。
そこに広がるのは、まるで真っ暗な夜の空に広がる満天の星空にも似た、亜空間。
所々キラキラと輝いているそれに、そのまま吸い込まれて飲まれてしまうような錯覚をクーンは覚えた。

「こ、ここを、通るんです、か?」

「そうだよクーにぃ。」

「・・・少し歩けば、すぐに出口が見えるから大丈夫。」

目の前に広がる空間に、少し怯えている様子のクーンをキリとシークが宥める。
その声を聞きつつ、クーンは己を奮い立たせようと手を握り締めた。

「考えれば考えるほど進めなくなりますよ。」

だからさっさと進んでください、とエンストに背中を押されてクーンが一歩前に出る。
先に空間へと足を踏み入れていたフラルが、彼を見ながら歩を進めた。
それに続くようにゆっくりとクーンも己の意思で歩き始めると、後ろに残りの三人も続いた。
床が見えないのに存在するような感覚に、クーンが足元がふらつく。
手を差し伸べてくれたフラルの手を掴んだ。

「こ、これ、大丈夫、なんですよね・・・?」

今にも泣きそうな震えた声で、クーンが問いかける。

「大丈夫だよ。・・・・・・たぶん。」

「そうですねぇ、たぶん大丈夫ですねぇ。」

「たたたたたたたたぶんってなんですかああああああああ!!!?」

「二人ともからかってんじゃないわよ!」

クーンをからかうように述べるキリとエンストの言葉に、思わず情けない声をあげると
フラルは彼を宥めるようにし、シークは後ろの方でため息をついていた。
どうやら、クーンはからかわれる側に位置してしまったようだと。















ようやく動き始める。