ぼぉるひろい そのじゅうさん






「グロリオーサに入るにはね、条件があるのよ」

「条件・・・ですか?」

笑みの消えたフラルが、夕日を背にクーンを見つめる。
戸惑いがちに、そんな彼女を見つめ返すクーン。
そんな二人を止めることもなく、キリは静かに見上げていた。




「グロリオーサに入れる条件は、『居場所がないこと』・・・。
育ってきた場所も、家族と繋がる名前も、捨てること。
だから、例外もいけるけど、みんなファミリーネームは持ってないの。
ただでさえバラバラになってる世界を移動するんだから、簡単には帰れないもの」

フラルの瞳が、不安定に揺れているような気がしたけれど
夕日を背にしているせいでクーンがそれを確認することは出来ない。

「・・って言っても、逃げるように出てきて、本当に居場所がない人ばっかりなんだけどね」

それはフラルさんも、キリさんも、・・・あの二人も同じなんだろうか。
思いながらも、問うことができなくてクーンは抱えている紙袋を握り締める。

「そして、『居場所が出来た時』は、グロリオーサから抜ける。それが最低条件なの」

不意に吹いた風が、頬を撫でる。

「・・・みんなね、ここにいながら、自分の居場所を探したり
自分の目的を果たすために個人で色々やってたりするの。
ここでしか出来ないこととか、たくさんあるから」

「・・・・・・・・・・フラル・・さんも、何か、やらなきゃいけないこととか、あるんですか・・・?」

少し泣きそうな表情のクーンが、静かに問いかけると
町並みに視線を向けていたフラルが視線をゆっくりと戻した。
無言の中、遠くで鳥が鳴く声が聞こえる。
しばらくすると、フラルは静かに、口を開いた。

















「復讐」



















「良かったんですか?三人で出かけさせて」

少しばかり掃除を怠っていた書斎を片付けたエンストが
窓の外を眺めているシークに問いかける。
その問いに、シークはエンストに視線を向けた。

「余計なこと言うかもしれませんよ。特にフラルは」

喧嘩をする仲だが、彼女のことはシークに劣らないくらいにわかっている。
だからこそ、自分たちの目がないところで何か言うかもしれないと予想できた。

「・・・・今止めたって、先延ばしになるだけだろう」

「・・・そうかもしれませんけど、」

不満そうに返事をしながら、綺麗になった机に寄りかかる。

「・・・たしかにフラルは、自分から相手を遠ざけようとする傾向がある。
思ったことをすぐに口に出したりするせいもあるんだろうけれど」

「クーンに余計なこと吹き込んで、無駄に混乱させる必要はないでしょう」

「そうだな・・・でも・・・、」

視線を窓の外に戻したシークの髪を、風が撫でる。

「きっと、今のフラルにとっては必要なことなんだろう・・・」

自分を守るための防衛方法と言うには、また違うかもしれないけれど。

「それに、クーンとは長い付き合いになるかもしれないだろう?」

あの子が来たことで、少しでも何かの変化が訪れるなら、必要な過程なのかもしれないと
シークは小さく微笑んだ。

























「・・・・・・え・・・・・・・・?」

フラルの口から出た言葉に、クーンは混乱する。
どう返答したらいいのかわからなくて、俯いてしまうとため息をつく声が聞こえた。

「・・・・なーんて、うっそ」

「へ?」

急に明るい声で言われた言葉に、クーンは顔を上げる。
そこにはさっきまでの真剣な表情が嘘のように、明るい表情をしたフラルが立っていた。

「嘘よ。ま、グロリオーサに入る条件は本当だけど」

なーに真に受けてるのよ、とフラルにおでこを突付かれて
クーンはただ呆然と瞬きを繰り返す。

「ほら、お腹空いてから早く帰るわよ。二人とも、今日なに食べたいの?」

「キリ、パスタが食べたい」

「じゃああの変態どついて作らせなきゃね」

微笑みながら、ぱたぱたと足音を立てて駆け足で先に進むフラルを
クーンはまだ少し混乱しながらも、慌てて追いかけ始めた。

さっきの言葉も表情も嘘とは思えない。
でも、今はきっと聞いちゃいけないことなんだろうと思いながら。

足の速いフラルの後ろ姿がすっかり見えなくなってしまった頃。
突然クーンの腰にキリがしがみ付いた。

「?!き、キリさんっ?」

驚いて見下ろすが、後ろからしがみ付いているためキリの顔は見えない。
相手の意図がわからなくて困っていると、キリが小さく呟いた。

「クーにぃ、キリたちね、あんまり良くないことしてるときもあるの」

しがみ付いている腕にわずかに力が入る。

「でも、キリたちのこと、嫌いにならないでね」