ぼぉるひろい そのじゅうよん






運命の糸、なんてロマンチストな言葉が好きなわけじゃない。
けれど、縁っていうのは簡単に切れないものなんだと思った。
なんだかそれが、少し嬉しかった。

キシリと音を立てて、柔らかいベッドに腰をかける。
布団に包まって可愛い寝息を立てている女の子の額を撫でた。
少し癖のある、茶色の髪の間から見慣れない形の耳が覗く。
頬を少し見ると、涙の痕が乾いて残っていた。
きっと、ずっと泣いていたんだろう。
一人あの暗い森の中で、泣き疲れて眠ってしまうくらいに。

ここの世界とは違う匂いのするこの女の子を、森の中で見つけた。
すでにそのときは眠ってしまってて、名前も知らないけれど。
ふわりと香る異国の匂いは、この子がこの世界の子ではないと物語っていて。
なら、彼のいる組織が動いている可能性も低くない。
そう思って、連れて帰ってきた。


会いたいのかな、彼に。









「アスタ、アスタ、腹減った〜!」

ノックもなしに入ってきたがラナンがいつものようにお腹を抑えていた。
そのあとにルストロが続いて入ってくるのはお約束。

「ラナン、アスタ様、と呼べと何回言ったらわかる」

「いいだろう。アスタは呼び捨てでいいって言ってるんだ!」

眼鏡のずれを直しながら言うルストロに
ラナンが褐色の頬を膨らませる。
そんないつもの様子の二人に思わず笑みを零しながら、ベッドから腰を上げた。

「そうだよルストロ。僕は呼び捨ての方が好きなんだ」

「しかし、貴方は命の恩人・・・・」

「そう言ってくれるならなおさら、だよ。ルストロ」

「・・・・・・・・・」

押し黙ってしまったルストロに、ラナンが長い髪をなびかせながらざまぁみろと笑っている。
けど、きゅるるっとお腹が鳴ると、また切なそうな顔に戻った。

「あすたぁ〜」

「はいはい、ご飯つくろっか」

「オレ、そのガキンチョでもいいよ」

ラナンが目を輝かせながら、ベッドで眠っている女の子を指差した。

「ダメに決まってるだろ」

「え〜〜〜」

「ラナン」

「う〜・・・わかった・・・。もう人は食べないって、アスタと約束したもんな」

そう言って落ち込むラナンの姿は、子供に見える。
実際は僕よりも随分体つきのいい女の人なのに。胸あたりはちょっと羨ましかったりする。秘密だけど。
彼女の隣に立っていたルストロが眼鏡をあげた。

「そんなに食べることが好きならば、料理くらい出来るようになれ」

「だって手切るんだよ〜」

「注意力が散漫してるんだお前は」

ラナンを叱り付けるルストロは彼女のお兄さんのように見える。

「まぁまぁ、とりあえず部屋を変えようよ。ここで騒いでたらこの子起きちゃうよ」

二人の背中を押しながら部屋に出る。
泣き疲れて寝てる様子のこの子を、無理に起こしたくはないから。
それに、彼らと連絡を取る方法も調べたいし。見つかるかはわからないけど・・・。

でもその前に、ラナンのご飯からだね。