『ティル』






酷く強い豪雨と風が窓に叩きつけられて、ガタガタと音を鳴らす。
それを隠すように、少しでも音をなくすように小さなティルは手を伸ばしてカーテンを閉めた。
ぱたぱたと足音をたてて他の窓のカーテンも閉めていく。
時々鳴る雷にびくりと身体を震わせても、出来てそうな涙を堪えて走り回る。



「おにーちゃんっ。」

手の届くところにある窓のカーテンをすべて閉め終えたティルは
この嵐に怯えて泣いてしまっている幼い子たちを慰めている兄、クーンへと駆け寄った。

「ぜんぶしめおわったよ!」

さっきまで雷に怯えていたのが嘘のような笑顔でクーンに伝えると、頭を撫でられて嬉しそうに目を細める。

「ありがとう、ティル。」
「ううんっ。」

おにいちゃんのためなら、ティルもっともっとできるよ。と笑う。
その笑顔に釣られるようにクーンも微笑むが、大きく鳴った雷によって
泣き止みかけていた子がまた泣き出してしまい、慌てて優しく抱きしめた。
そんな兄の姿を見ながら、ティルも雷の音で思わず出そうになった涙を引っ込める。

ティルはがまんしなきゃ、おにいちゃんにしんぱいかけたらいけないもの。
ほかのこみたいにないちゃったら、おにいちゃんこまっちゃうから。

ぎゅうっとスカートを握り締めて、恐怖を握りつぶす。甘えたい想いも一緒に。
すると、ふわりと前髪を撫でられる感触にティルは顔をあげた。

「ティル、大丈夫?」

怖かったら甘えていいんだよ?と心配そうに覗き込むクーンに
ティルはだいじょうぶだよ、と笑顔を作った。

「ティル、おへやにいっておふとんだしてくるね。」

そしたら、おにいちゃんもティルもすぐにねむれるもの、とクーンの返事を待たずに駆け出す。
軽い足音を立てて部屋へと向かう。途中、また鳴った雷にティルは小さく悲鳴をあげた。

「う、ぅ〜・・・っ、」

目尻に浮かんできた涙を拭って、部屋への扉を開ける。
古びたタンスを開けて、枕から取り出し、それをぽとぽと床に放る。
一層強い風に壊れてしまうんじゃないかというくらいの窓の音しかしない部屋で。

ティルはいいこだから、いまないちゃったらだめなの。
おにいちゃんは、ティルだけのおにいちゃんだけど、いまはがまんしなきゃだめなの。

ずずっと、鼻水を啜る。小さな身体では少しばかり持ち上げるのには重い布団を、引き摺るように出す。

でもあしたになったら、あらしがやんだら、いっぱいいっぱいあまえて、いっぱいいっぱいほめてもらうんだ。
よくがんばったねってなでてもらうの。よくなかないでいられたねってだっこしてもらうの。
そしたらね、ティルね、もっとがんばれるから。おにいちゃんのために。



突如、バリンッとガラスの割れる音がしてティルが振り向く。
















闇が、彼女を包んだ。












本編が始まる前夜のお話。