むき出しのコンクリートで出来た狭い部屋に、少女はいた。
外側から鍵をかけられ、こちらからは開けることの出来ない重い扉。
動きを阻むための、手足に付けられた冷たい枷。
変化のない狭い世界。寂しい空間。
ただ変化するのは、小さな窓から見える空だけ。
それが"空"と言われるものだということも
それが人工的に作られた大空だということも、少女は知らなかった。
届かない空に向けて手を伸ばす。狭い世界から開放されたいという想い。
あの大空へと飛び立ちたいという想い。
しかし、そんな己の気持ちを自覚せずに、ただ無意識に少女は手を伸ばし続ける。
その手は虚しく何も触れることも出来ずに膝へと落ちた。

少女は何も知らない。
世界は広いということを。
たくさんの人々がいるということを。
笑うということを。
心というものを。

願うことすらも知らない少女は、ただそこに佇んでいた。
彼が現れるまで――

「――ここから出たいか?」

突如差し伸べられた手を、少女は見つめた。
知らない手。知らない人。青年の後ろに見えるのは知らない世界。

少女は、静かに差し出された手に触れた。

青年の手は、ただ暖かかった。







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