記憶が無い(2000.8.18)



 以前にも書いたが、私はほとんど毎日の飲酒を怠らない。精進の賜物である。しかしながらアルコール中毒かと言われると、そうでもないと言いたいところだが、実のところ端から見れば立派な患者らしく、日本アルコール中毒協会、略して「日アル協」から準2級の資格をいただいたほどである。別に略す必要もないし、そもそもそんな協会など無いのであるが、とにかくそれほど丹念に毎日アルコールを摂取しているということが言いたかったのである。ごめんなさい。本題に移ります。

 聞いた話によるとアルコールという物質は脳の細胞を溶かすとのことであるが、通常、つまりは保健の教科書に書いてあるような適度な摂取量なら、脳の溶ける量はそれほどでもなく、充分に新しい細胞が生まれることでそれに追いつくらしい。

 その前に、本当にアルコールが脳細胞を溶かすのかという命題を調べる必要がありそうだが、いつもの如く面倒くさいという正当な理由があるためここでは割愛させていただく。もしかすると以前流行った、コーラを飲むと歯が溶ける。とか、ドリフを見るとバカになる。とか、そういった都市伝説めいた迷信かも知れない。

 ところで、コーラを飲むと歯が溶けるというのは一体全体、どこから流布された噂であろうか。あのシュワシュワとした泡が歯を溶かすもののように連想されたのであろうか、それとも、コーラばかりを飲む我が子の下っ腹が日に日に出てくることを懸念した母親が「夜に爪を切ると親の死に目にあえない」的な発想でもって脅し半分、躾半分の迷信を生み出したのだろうか。全く以て謎である。それにしても「夜に爪を切ると親の死に目にあえない」と言われて、「へへん、じゃあ切る」と宣い、パチパチと爪を切った時にはこっぴどく怒られたものである。

 いや、話がそれた。この駄文の題目は、そうであった。「記憶が無い」である。そもそも、このような題目を付けて文章を書き始めたことすら危うく忘れかけるほど、私の記憶力は著しく低下しているのである。

 以前は、と言っても4年ほど前ではあるが、私の記憶力はキクエおばちゃんをして「頭の中に伝票が入っとるごたぁ」と言わしめるほど優れたものであった。キクエおばちゃんについてはもはや誰一人としてその名を知らない人間は居ないとは思われるが、一応説明しておくと私が4年前までアルバイトをしていた焼鳥屋の女将さんの妹である。ちなみに姉はヤスコと言う。これ、テストに出るから覚えておくように。

 とまあ、とまあ、これくらい私の記憶力は凄まじかったのであるが今となっては「とまあ」と打ったことを忘れて、「とまあ」ともう一度打ってしまうくらい大変なことになっている。気づいたら直せよオレ。

 しかしながら記憶には2種類あって、これもうろ覚え知識なので申し訳ないが短期記憶と長期記憶、だったかなあ、ええと、まあ、要するに「明日、何時集合ね」とかそういう情報を記憶しておくのが短期記憶である。この手の情報は「待ち合わせ」という目的が達成されれば意識から消えて忘れ去られるものである。その他に「4番テーブルに生5丁と枝豆2皿」とか「原稿の締切」とかも例に挙げることができるが今は思い出したくないのでそっとしていて欲しい。

 一方、短期記憶と違って長期記憶はいつ何時でも取り出しうる情報として深く頭の中にとどまっている。銀行の暗証番号とか自分の名前とか、日本語とか君の顔とか。オホン。本題に戻す。

 まあ、長期短期というのはあくまで便宜上の区別であって、お互いは相互に関係しあっていると考えられる。短期記憶であったものが印象に残る出来事によって長期記憶になったりすることだってあるだろう。例えば、大ファンであるバンドのコンサートチケットの座席番号。S46-9とかだと恐らくコンサート終了後にはすっかり忘れ去られると思われるが、もしS77-7だった場合などは、いつまでもその番号を忘れないだろう。

 短期と長期の記憶。私の場合、最近いかれ始めたのが短期記憶である。これは飲酒のなせる業なのだろうか。長期記憶の方はなんとか持ちこたえてくれているようである。ほら日本語もしっかひ掛けているしま、をふ前々大丈夫なのらひぃ。

 冗談はさておき、今、貴方が読んでいるこの雑文。これをアップロードするべくディレクトリ変更などをゴチャゴチャとやっている間に、どこに保存したか不明になったのは実話である。結局そのファイルは見つからずじまいであった。

 一体、このTextはどのようにして書かれたものであろうか。思い出すも忌々しい。わずかばかりの短期記憶を頼りにもう一度書き直したのであった。涙。


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