羽  音2000.5.4


 シャワーを浴びた後、浴室を出ても、さほどその温度差が気にならないほど暖かくなった頃、そして、そのままTシャツを着たら少し湿った肌が心地よく感じられる頃、思い出すのはヘリコプターの羽音であったりする。

 どうして、そんな音をよく覚えているのか、そして、どうしてそんな音を心地よく感じるのかはよく分からないが、とにかく思い出すのは、夕暮れ時に姿は見えないヘリコプターが気だるそうに残していく羽音である。

 いや、正式に「羽音」と呼ぶのかどうかは分からないが、とにかく近代科学の産物であるヘリコプターという機械は妙に生暖かく、そして気だるい、やる気のない音をどんよりとした薄雲の中腹に残していくのである。

 その音で思い出す風景は小さい頃、私が眠っていたベッドだったり、壊れたシーソーの板をバンバンと踏んづけている子供たちだったり、路面電車の踏切の向こう側で真っ赤な顔をして、こっちをじっと見ている女の子だったりする。

 いつの間にか、うるさいとしか思えなくなったヘリコプターの羽音であるが、それでも時々、昼下がりに遠くから聞こえる羽音を聞くと、なぜか、ほっとするような、そんな気がする時もある。奥田さんの昔所属していたバンドのアルバムには、そういう懐かしい羽音が録音されていたりする。


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