マコチン(2000.5.28) 「あ、あ、あのう、ええと、あ、はあ、それがですね」
「んで、試験はいつなの?」
「えと、あ、赤、赤坂、赤坂さんがこっちの方に来るのが3日なので・・えと、その、赤坂さんが言うには・・えと」
ちなみに赤坂さんはうちの研究室の先輩である。大阪府警の採用試験とは些かの関係もない。
「で、試験は何日?」
「えっと、5日です。」
ちゃんと言えるではないか。
この男、178cmの長身、イタリア人の様な彫りの深い端整な顔立ちであり、黙っていれば相当の二枚目である。ただし、黙っていればの話だが。以上のような会話は、およそ常人より 1オクターブ半ほど高いと思われる声で行われる。そのデカい図体からはちょっと想像できない高い声である。さらに、会話の間、彼の両手は始終落ち着き無く空を彷徨っている。どうやらあの手が止まると彼は死に至るらしい。
彼がこの研究室にやってきたのは確か丁度、1年ほど前の今頃であった。うちの大学は3年生の時点で、卒業論文を書く際の専門領域、つまりは研究室と指導教官を決定するというシステムになっている。彼はあちこちの研究室をたらい回しにされたあげく、当時彼が所属していた部活動の顧問に、捨て猫のように首根っこを掴まれて、うちへとやってきた。
この男、仮にマコチンとしておこう。以上のように煮え切らないキャラクターを持つマコチンではあるが、頭の方はなかなか切れる。私との会話では始終顔を緊張にこわばらせ、卒論の相談に来る彼だが、こちらの指摘はきっちりと理解し、それに対する返答も、なかなか的を得ている。大学4年生くらいで、あれくらいの受け答えができる人間はそういない。しかし、いかんせんその明晰な頭脳から生み出されたアイデアを人に伝えたり、大勢の前で発表したりすることはどうも苦手らしい。天は二物を与えないものである。そんなマコチンは我が研究室で、格好のおもちゃとされてしまっている。
曰く「髪型が変だから切ってやろう。」
曰く「もう少し低い声で喋ればモテるから、オレが喉をつぶしてやろう」
曰く「そんな服装ではダメだ、オレのジーンズをやろう。」
曰く「田中レナのアイコラを作ってやる。」
曰く「今からラアメンを食べに行こう(平日午前3時)」。
などなど、このうち2つは既に実行済みである。マコチンは、そんなみんなの、はた迷惑な無理難題に答えるでもなく、少しだけ困った顔をして、それでもやはり嬉しそうにじゃれついてくるのである。そんなマコチンであったが、大阪府警採用一次試験、無事合格した。かなりの難関である。二次試験は5日だそうだが、がんばってくれたまへ。でも、面接だしなあ。