マンハッタン(2000.5.17)


 マンハッタンという街をご存じだろうか?ニューヨーク市の島であり、もっとも繁華な地区として知られている。5番街の一角にあるバーで出されるギムレットはちょっとしたものである。店の親爺は、いかにもニューヨーカー然とした無愛想さでもって客に接するのではあるが、私にはむしろ、その方が気が楽であった。あの頃が懐かしい気もするが、よく考えてみれば、ニューヨークなど行った覚えは無い。

 海外になど出たことがない私ではあるが、国内に関してはこれでもちょっとした旅行者である。例えば京都とか京都とか京都だ。京都が実家であるというのはこの際、関係ないが、先日、所用で友人達4人とともに金沢に赴いた。

 金沢といえば、ジャイアンツの松井選手を排出したことで知られているが、あまつさえトランポリンで全国優勝したりして有名であることも加えておくべきであろう。ポヨヨオン。果たして、松井とトランポリンで成り立っている金沢であった。あ、いや、嘘です。金沢の人ごめんなさい。お魚、美味しうございました。かぶら寿司、美味しうございました。じぶ煮も食いました。ホタルイカなどは絶品でした。兼六園は素晴らしうございました。ヤセの断崖はサスペンスに巻き込まれそうでした。首相は問題発言でした。

 とまあ、このくらい金沢は素晴らしい街なのである。本来、金沢へは、ある重要な任務を遂行するために赴いたのであるが4人ともに本来の目的よりも、その後のアルコールの方に興味があったため、所用をそそくさと済ませると繁華街へと赴いたのであった。人口60万人とはいえ、なかなかの活気である。4人は心ゆくまでアルコールを摂取し生の魚を貪り食い散らかした。久々の大量飲酒で一行はヘロヘロのプウとなり、追い打ちをかけるように折から雨が降り始めた。どこかノンアルコールで休憩できる場所をという隊員たちの声に独りの男が立ち上がった。その男は、偶然、サウナの無料入浴券を5枚も所持していたのである。一行は「サウナ・オーロラ」へと向かうこととなった。「オーロラ」という名前もどうかとは思うが、「戦う男の休息所」というキャッチコピーも舌を巻くセンスである。

 とにもかくにも、一行はオーロラで行水を敢行し、アルコールを体より排出することに見事成功したのであった。入浴後、ロビーのようなところで一服していると、ある広告が目に留まった。「足裏マッサージ1時間2000円より」。あの罰ゲームによく使われる例のアレである。お金を払ってまで痛めつけられるのはちょっとどうかと思い、視線はすぐにビールの自販機を探そうと彷徨っていたが、その広告の下に、ふと気になる文句を発見した。

「新登場マンハッタン!」「足裏マッサージと併せて、是非おためしください!」

堂々たるクウォーテーションマークに飾られ、画用紙に書かれたその朱色の文字列は私の心をとらえて離さなかった。マンハッタン?その時の私を端から見れば、頭の上にクエスチョンマークが6つほど浮いていたに違いない。何しろ「足裏マッサージと併せて」利用できるマンハッタンである。私はあらん限りの知識と想像力を総動員してこのマンハッタン事件の真相を追求すべく考察を試みた。

 マンハッタンといえば島の名前の他にカクテルの名前が思い出される。私はダブルのスーツがよく似合う初老の紳士が、カウンターに付き、マンハッタンを飲み干しつつ、うにょーんと自らの足裏をマッサージ師に差し出している姿を想像した。違う。では何か?きっとマッサージの時のからだの姿勢であるとかそういうものになぞらえているのであろう。マンハッタンといえばその綴りは「M」で始まる。きっとM字開脚をさせられてマッサージを受けるのである。「ま、ま、まっ、マンハッタン〜ひぃ」とか言いながら。

 このような愚かな想像を1時間弱続けながらビールを飲み干し、雨上がりの金沢の街へと再び繰り出す我々であった。真相は謎に包まれたままである。恐るべし金沢。


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