フリマの行方 完結編(2000.5.10) なんとか、予約販売は見つからず、捨て犬のように放り出されることだけは免れたのであった。相変わらず降り続く木の実との格闘を続けながら、ようやく出店の号令を聞いた。号令から12秒ほど、先ほどの女性が目の前に現れた。彼女も予約販売禁止の件をどこかで聞いたのであろう。さすがに「さっきのヤツ取っといてくれた?」などとは言わなかった。そんなことを言われては一巻の終わりである。何しろ現在、ブルマ将軍と私との距離は2〜3mである。発覚すれば、たちまちのうちにブルマを履かされてしまうのである。そんなのもちょっと悪くない。ブツの受け渡しが敢行された。セーフである。前ボタンが無事、留まるかどうかは知ったことではないが、大きな危険を乗り越えた男だけに許される最高の笑顔でもって、煙草をくゆらせる。
個人の所有している洋服という物は、当然のことながら持ち主の趣味を反映している。私と同じ趣味の人間がいれば、私の出品している洋服達は、すべてその人にとって「お気に入りの洋服」となる。はずである。こういう人間が店に近づいて来た場合、洋服は確実に売れる。一瞥をくれて立ち去る者もいるが、中には洋服を手に取る者もいる。こうなれば、こちらのものである。あらかじめ若干高めに設定しておいた価格から、さらに値引いた価格を提示する。それも、手に取った瞬間に、である。後は放っておいても雪崩式に購入していくものだ。何しろ1つ200円程度の品物である。大学生くらいの小遣いであれば10着くらいは楽々買えてしまう。私の店では平均5、6着購入していく者が多かった。その日の気温と季節はずれであるという理由が手伝って、さすがに冬物は売れなかったが、少し日が傾きかけた頃には、持ってきた洋服達はほとんど売れてしまった。
かくしてフリマは成功裡のうちに幕を閉じ、9000円ほどの収入を得ることとなった。これで、明日からの生活ができるというものである。いや、違った。押し入れの整理でがきるというものである。中には、ちょっぴり思い出の詰まった洋服もあったが、感じの良さそうなお兄ちゃんが買っていってくれたので、よしとしよう。大事に着てくれよ。似合ってたし。
閉店である。もう少し、ここに座っていたいなと思いつつも、後片付けをはじめることとなった。きっと車はハンドルが握れないほど熱くなっていることだろう。少しだけ西日がジワジワとTシャツを越えて背中に染み込んでくる。帰宅後のシャワーとビールに思いをはせながら車に荷物を積み込み、帰途につく。心地よい疲労感をシートに沈ませ、国道を北へ向かって車を走らせる頃には、既に紫色の夕日が空を埋めていた。ここいらでは、それを紫峰と呼ぶらしい。かくして我が家にたどり着いた。昼間の熱気とは、うって変わって涼しい風を運んでくる窓際を陣取り、ビールと枝豆で乾杯する。あのシャツ、やっぱり売らない方がよかったかなとか思いつつ、知らぬ間に寝入ってしまった。
〜完〜 いつの間に連載になったんだ