天真楼霊奇譚



じぞう  様



「…お…おひゃよふ、おおふきへんへい」
「…あの、中川先生?」
「ひょふはあはひゃに…おへがいひゃあひひゃひへへえ…」
「先生…あの…」
「ひふは…」
「だから…」
「あひゃはもあのうあひゃひひへふへひょぉ〜?」
「いい加減にして下さい!!」
「へ?」
「口の中に物入れたまま喋らんで下さいっ!!」
「ひょお?」
「………蟹食いながら、ヒトに『お願い』する外科部長がどこにいるんですか」
「ひょふか…ひゃ、ひょへはほひほいへ…」
「「置いといて」じゃないわっ!! …だからその口の中の蟹を出せっ!!」
「ひゅ…ひゅるひひひゅるひひ…」
「モニターの前の皆さん♪ ちなみに、中川先生のセリフを解読しますと、上から順に、『おはよう、大槻先生』、『今日はあなたに…お願いがありましてね…』、『実は…』、『あなたもあの噂聞いてるでしょぉ〜?』、『へ?』、『そう?』、『そうか…ま、それは置いといて…』、『く…苦しい苦しい…』になります♪」
「…峰先生…誰と喋ってるの?」


口の端っこから、蟹の足をはみ出させたまま苦悶する中川。お構いなしに首を絞め続ける大槻。…傍から見たら、相当に馬鹿げた光景であろう。これが、日本の医学界を背負って立つ医師たちの姿だとは思いたくない。
大槻は、中川が口中の蟹を飲み下したところで、やっとのことで手を離す。


「あ〜…苦しかった…。大槻先生、あなた見かけによらずバイオレンスですねぇ」
「あんなことされりゃ、誰だって暴力的になります」
「それじゃ、気を取り直して本題に入りましょうか」
「…初めからそうしろよオッサン」
「…何かおっしゃいましたぁ〜?」
「…何でもないです」
「では………おはよう大槻君、さて、今回の君の任務だが」
「…へ?」
「1週間ほど前から、この病院で奇妙な出来事が発生しているのを知っているね?」
「あの…何の真似ですかその口調…」
「君の使命は、事が深刻化しないうちにこの事件の真相を暴く事である」
「だから、中川先生…」
「例によって、君もしくは君のメンバーが捕らえられ、または殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで」
「…物騒なこと言わないで下さい。『例によって』って何ですか。『当局』ってどこですか」
「なお、この…は自動的に消滅する。成功を祈る」
「…何が消滅するんですか」
「成功を祈る」
「…だから」
「…成功を祈る」
「人の質問に答えて下さい」
「………たったかうもっのの〜…」
「なんで歌うんですか」
「うたがきっこえっるか〜…」
「あの…」
「ああ、そうそう」
「突然正気に戻るんですか」
「この任務、あなた1人じゃ大変でしょうからねえ〜」
「いや、まだ、私それお引き受けしたつもりはないんですけど…」
「助手をつけるよ、ね」
「…ヒトの話を聞いて下さい」
「峰先生、大槻先生を手伝ってやって下さいね」
「はい!! まかせて下さい」
「………いらんわい…」
「何か言いましたぁ? 大槻先生?」
「いえ…」





「はぁ〜…」
「大槻先生、どうしたんですか? 元気ないですね」
海よりも深いため息をついて廊下を歩く大槻。その横で、峰は能天気なアホ面を晒し、間延びした声で問い掛ける。
大槻は、もう1つため息をつき、力なく首を横に振って、答えた。
「あのね、峰先生。…あんな無茶苦茶言われて、どうして元気が出るってのよ」
「無茶? 何がです?」
「何もかもに決まってるじゃないの!! あなたも知ってるでしょ? 中川先生の言うところの、『奇妙な出来事』っての」
「ええ、患者さんとかから聞いてます。…あれでしょ? 天真楼病院におばけが出るって話」
「そう、それ」
「それのどこが無茶なんです?」
峰はにっこり笑う。大槻は激しい眩暈を感じ、足を止めた。
「あ…あのねぇ…。あなた、ひょっとして信じてるの? この話」
「はい」
「…んな非科学的な…」
1週間くらい前からだろうか。天真楼病院の職員、患者の間に奇妙な噂が流れている。
…病院のあちこちに幽霊が出る、というのだ。確かに、人の生き死にに出くわす事の多い病院という場所柄、そういう話が発生する事自体はある意味自然なのかもしれない。しかし、それが事実かどうかという事となれば、話は別だ。
「出るわけないじゃないの。ただの、噂よ、噂。流言飛語って奴よ。…そんなのを調べろなんて、中川先生もアホなことを…」
「アホって…」
「ただでさえ仕事忙しいのに…。んな事してる暇なんて、ないじゃないのよ…」
「けど…」
「けど?」
峰は僅かに目を伏せる。しばらく考え込むような素振りを見せた後、顔を上げて、大槻に言う。
「普通の…おばけが出るとか、そういう話なら…私も信じなかったかもしれませんけど…」
「…」
「だって、あの人達でしょ?」
「…目撃証言を聞く限りじゃね」





それが、大槻が気乗りしない最大の原因だ。
「幽霊を見た」という人の話を総合すると次のようになる。
―――幽霊は、2人いる。
―――両方とも、若い男だ。
―――しかも、白衣を着ているから…医者だろう。
―――片方は…なんか、眉毛が太くて…お人よしそうな顔した、色白の男。
―――ボケたツラしてた。
―――うん、寸借詐欺とかに引っかかるタイプだな、あれは。
―――もう片方は…対照的に色黒で、目つきが悪い。
―――人の1人や2人殺してそうな顔で…。
―――カタギじゃないな。


「…だからって、こんな話をあの2人に結びつけるのは、あんまりにも短絡的でしょうが」
「けど、あの人達なら、出てきてもおかしくないでしょう?」
「そう?」
「あんな酷い死に方したんですよ?」
「…ひどいしにかたって…」
「無念とか、山ほど残ってたに決まってるじゃないですか。化けて出てきても不思議じゃないですよ」
「………あなた、一応好きだったんでしょ? 彼のこと…」
脱力したように問い掛ける大槻に、峰はにこにこ無邪気な笑いで答える。
「今でも好きですよ。だから、楽しみなんじゃないですか。だって、また会えるんですよ?」
「…また会える…って…」
「元気かな…石川先生…」
「…死人に元気もクソもあるわきゃないっつの…」
「何か言いました?」
「何でもない…」


頭痛はまだ治まらない。大槻は、それを無理矢理頭から追い払うと、再び歩き始める。
「とにかく、話聞いてみましょう。いろんな人に」
「はい!!」
「なんでそんなに元気なのよ…はあ」

確かに、その幽霊達が彼らだというのなら、大槻だって会ってみたい。だが、嫌な予感がするのだ。
噂を聞く限りでは、彼らは…。
「2人そろって」
行動しているというのだ。
あの、犬猿の仲だった、2人が。…あの、「歩く厄介ごと」とか、「2人トラブルメーカー」とか、「爆薬と火種」とかしか表現し様のなかった、2人が。





証言1 製薬会社社員(27歳・女)
「まあ、お久しぶりです…大槻先生、峰先生。…どうかされました? 顔色、悪いですよ。いけませんねぇ、医者の不養生って、昔から言うじゃないですか。あ、そうそう、…どうです? この薬、飲んでみません? ウチの新製品なんですよ、来月から市販される予定の。万能薬って言うんですか? マムシエキスですとか、朝鮮人参、あと、ヤモリの黒焼き、それから、めそ…ゲフッ、ゲフフン!! いえ、とにかく、色々配合されてるんです…それっぽいものが。…え? 「いい」? …そうですか…あ、峰先生!! この間の件、考えてくださいました? ええ、ええ。あの、『オットー印万能レーザーメス』ですよ。使っていただけませんか? 今ならこの『七福神開運財布』と、『高枝切りバサミ』もお付けしますよ。…「考えておきます」…。そうですか、よろしくお願いしますね、うふふ。え? 「それはいいから聞きたい事が」…はあ、何でしょう。………。…は? 今、何ておっしゃいました? い、いや…もう一度…お願いします。……………。…はあ……「司馬先生と石川先生を見ませんでした?」…って…。…あの…本気で言ってます? 大丈夫ですか、熱ありませんか、大槻先生。…やっぱ、この薬…飲んでみます? あっ…ああっ!! なんで逃げるんですっ!! 待って下さいよっ!!」





「…とんでもないもの飲まされるとこだった…はあ」
「やっぱり、彼女は何も知らないみたいですね」
「ま、外部の人間だし」
「病院内の人に聞いてみる方がいいんでしょうか」
「そうね…で、峰先生…」
「はい」
「…『めそ』って、何だと思う?」
「………さあ…」
「…『それっぽい』って、どれっぽいんだろ…」
「…さあ………」





証言2 天真楼病院放射線科医師(34歳・男)
「何やってんの、大槻先生に峰先生…お揃いで。こんなとこほっつき歩いてていいの? いくら今日はオペがないからって…往診とか、あるんじゃない? ………そうだ、この間の麻雀の支払い、大槻先生まだでしょ。…忘れてんじゃないだろうね、珍しく負けたからって。………。…ふうん……やっぱり、忘れてたんだ。…「それはいいから」って、よくないっつの。早く払ってよ、もう。…「あとで払うから」…はあ…本当かなあ…。…え? 「聞きたい事があるの」…って…。なに? …中川先生から調査を頼まれたって…? 何の? ………。…幽霊? どんな? ………。…ああ、あの噂か…。まさか…信じてないよね、大槻先生…。え? 僕? 僕が信じるわけないでしょ…そんなバカな話。…司馬先生と石川先生が化けて出るなんて、誰が言い出したんだか………けっ。あのね、死んでまで、あの人たちにここで好き放題されたらたまらんよ。傍迷惑もいいとこだ。………。…うわっ!! 峰先生!! 何怒ってんの? やっ、やめろって!! ひええええ落ち着いてっ!! な、何すんの!! 痛い痛い痛い痛いっ!! ぼっ…僕が何をしたってんだ〜〜〜…」





「もぉ〜、酷いですよね。あんな言い方ないじゃないですか」
ぷんすか怒る峰を宥めながら、大槻はぼそ、と言う。
「…彼の気持ちも分からないでもないけど…」
峰は、信じられない、といった様子で、声を高くする。
「大槻先生まで何言ってるんですか?」
「いや…ねえ…」
ごまかすように、愛想笑いを貼り付け、言う。
「…次、行ってみようか…」
「…」





証言3 天真楼病院ケースワーカー(33歳・男)
「おや、いらっしゃい。珍しいね、お2人さんで。…あんな事があってからね、峰先生も、こっち、ご無沙汰だったでしょ? 寂しかったよ〜。いやいや、来てくれて嬉しいよ。…コーヒー、飲む? …え? いらない? …そっか…。あ、それから…こないだね、お土産もらったんだよ。ほら、バイクで事故ったっていう大学生がいたでしょ? その子の、実家のお母さんから。…北海道の人らしいんだけど。ええと…『富良野銘菓・ラベンダーまんじゅう』。…変わったお菓子だねえ…おいしいのかな。…どう? お1つ。…え? いらない? …そう…。じゃ、僕だけいただかせてもらうよ。どんな味なんだろ…。………。…う。…これは………。ちょっと…いかんともしがたい…うげ………まず…。………こ、コーヒー、コーヒー…。…口直ししなきゃ…ずずずず…。………ぎゃあっ。…じゃりじゃりする…う………気分わる…。内科行って、薬もらってこようかな…うげ…。…ん? 何だい? 「内科はいいから、ちょっとお聞きしたい事が」…うん? 何? ………。…ああ…あの噂か。…看護婦さんとか、患者さんとか、色々騒いでるみたいだね。…え? 僕? 変な事がなかったかって? …そういえば…あったなあ…。………うわっ!! 落ち着いて峰先生っ!! く、首、締まってるか…ら…。………。…げほげほ。…うん、その話、その話ね…言うから。…ええと…この間ね、入院中のおじいちゃんが、家族と喧嘩したとかで、トイレにこもっちゃった事があったんだ。で、家族から「どうにかしてくれ」って頼まれて、僕が様子を見に行ったんだよ。トイレのドアとか叩いて、「出てきましょうよ〜」とか言ってたら…その時さ…声がしたんだ。誰もいないはずの、背後から。…ぎゃああああっ!! だから、峰先生っ!! 落ち着いてって!! …はあああ…「で、なんて聞こえたんですか?」…って? 何て言ってたかなあ…ええと………確か…『苦しんでんだよ。分からないか?』って…言ってた…かな? …誰かの声に似てたなあ…。…うん、それで、振り向いたんだよ。誰かいるのかって…でも、やっぱり誰もいないんだ。…何だったんだろうね、あれは。…え? そのおじいちゃん? うん、しばらくしたら出てきたよ。…いや、確かにさ、喧嘩もしたらしいんだけど…トイレに行った理由ってのは、単に便意を催しただけだったらしいんだ。…便秘だったんだってさ。…個室から出てきたとき、やけにすっきりした顔してたなあ…」





大槻は、ふらり、と部屋を出る。後ろから峰が話しかけてきた。
「大槻先生…」
「うん…」
「今の稲村さんの話…本当なんでしょうか…」
「そんな嘘つくような人じゃない…と思うけど…」
「あのセリフって…」
「司馬君…なのかしら…」
「っぽいですけど…」
大槻は両手で頬を軽く叩く。
「ううん、違う、違うわよきっと。他の誰かよ」
「でも…誰もいなかったって…」
「気づかなかっただけ。そういうことって、よくあるでしょ?」
「ありますかねえ…」
首を捻る峰の腕を掴んで、促す。
「とにかく、他の人にも話、聞いてみましょう」
「はい…」





証言4 天真楼病院看護婦(24歳・女)
「大槻先生、峰先生っ!! 丁度よかった…大変なんですよ…。入院中の患者さんが暴れ出しちゃったんです。食事出したら、「こんなもんが食えるかあっ!!」って、テーブルひっくり返しちゃって…星飛雄馬のお父さんみたいで。…なんか、その患者さん、『白いアスパラ』が嫌いみたいなんです。…昨日、『緑のアスパラ』出した時は、にこにこ笑いながら食べてたのに…。何がいけないんでしょうね、同じアスパラなのに…。先生、どうにかして下さい。すっごい暴れちゃって、手がつけられないんです。…え? 幽霊? ………。…ああ…あの噂ですか…。いえ、私は見てません。…そういや、売店のおばちゃんが、何か見たって言ってたかな…。とにかく、私は何も知りませんから。それじゃ、失礼しま…え? …「そんなこと言わずに、もう少し話聞かせてよ」…って、勘弁してくださいよ〜。今はそれどころじゃないんですっ。ああ…どうしよう…。大槻先生、何かいい方法ありませんかね、落ち着かせるのに…。…は? 「…モルヒネでも打ってみたら?」…って、何てこと言うんですかぁ〜っ!! 峰先生、何とか言ってやってくださいっ!! 「…ペタロルファンでもいいんじゃないかな…」…ひっ…ひどいですっ!! うわあああああんっ!! ひとでなし〜〜〜〜っ!!」





「…泣いちゃった…冗談だったのに…」
   
「え? 大槻先生、冗談だったんですか?」
「…は? 峰先生…あなた、ひょっとして本気…」
「あ、売店に行ってみましょうか。おばちゃん、何か見たっていうし」
「…」
大槻は、スキップで歩く峰の後姿を呆然と眺める。…まるで、誰かがとり憑いたような…。
いや、気のせいだ。こんな事件を調べているから、そう思ってしまっただけだ。…たぶん。





証言5 天真楼病院売店職員(58歳・女)
「いらっしゃ〜い。…おや? 先生方、どうしたのぉ? 珍しいねぇ。そうだぁ、あのね、昨日煮物作ったんだけどねぇ、作りすぎちゃって…食べる? かぼちゃの煮物なんだけどねぇ。…おや? いいのぉ? …若い子はこういうの、あんまり好きじゃないかもしんないけど、栄養あるのよぉ。それにね、おばちゃんの煮物、おいしいんだからぁ。もうねぇ、自分で言うのもなんだけど、絶品なの。…ん? 食べる? そぉ〜、じゃあね、このタッパーに入れたげるから。後で、外科と麻酔科のみんなにもね、あげてね。いいのいいの、いっぱいあるんだからぁ。…んしょ、んじゃあね、大槻先生は、ピンクのタッパー、峰先生は、黄色いのね。あはは、女の子らしい色でしょ? …え? 「ありがとうございます」…やだねぇ、水臭いったら。いいのいいの、気にしなくていいのよぉ〜。…ん? 「それはそうと…少しお話を聞かせていただいて、いいですか?」…うん、いいわよぉ。で、何の話? ………。…おばけ? ああ、あれねぇ…あれでしょ? あれ。…あれって…ああ、ごめんねぇ、トシ取るとねえ、どうも言葉が浮かんでこなくて…ええと、そうそう、石川先生と、司馬先生の、あれね。そうなの、おばちゃん、見たのよぉ。………こないだね、ちょっと遅くなって、1人で歩いてたのよ、廊下を。暗くって、誰もいなくて…生暖かい風が…ふっ…とかって吹いて…でね…霊安室の前あたりで…。……………わっ!! …あはは〜、驚いた? うん、うん、ごめんねぇ〜、あははは〜。…「それで、どうしたんです?」…ありゃ? 大槻先生、怒ってる? ごめんごめん。…うん…それでねぇ、おばちゃんも、怖いから…とっとと帰ろうと思ったのよ。…そしたら…声が……。どこか分からないけど、遠くの方から。姿は見えないのに、声だけするの。…え? …何て言ってたかって? えっとねぇ〜…確か…『ミトメナ〜イ』とかって、言ってたかねぇ」





ピンクと黄色のタッパー(かぼちゃの煮物がぎゅうぎゅうに詰め込まれている)を手に、売店を辞した。峰が、隣から声をかける。
「…思ったより、大した情報じゃなかったですね…」
「そうね…何の手がかりにも、なりゃしない…それに…」
「それに?」
「あれって、「見た」って言うの?」
「…「見た」っていうか、「聞いた」ですよねぇ」
大槻は、ため息をつく。今日は、普段の5倍以上のため息をついているであろう。
「…煮物も…どうしろってのよ…こんな、いっぱい…おいしそうだけど…」
「そうですね…邪魔…ですよね、はっきり言って…」





証言6 外科入院患者(22歳・男)
「ああん? 何だよ、おい。気安く声かけてんじゃね………うげっ!! お…大槻先生…な…何です? あはははは〜…。「機嫌、悪いみたいねぇ」…そ、そんなことないすよ。ほんと、ほんとですって…。さっき、ちょっと嫌いなものが…昼ご飯に出ただけで。はは。…え? 「それって、ひょっとして、白いアスパラ?」…げっ、なんで知ってんです? …「暴れてたの、あなたね」…い、いや…その…暴れてません、暴れてませんってっ!! 「看護婦さんに迷惑かけちゃだめでしょ〜」…ひ…ひぃ。ご…ごめんなさいいいい〜。…こ…こわ…相変わらず、すげえ迫力…。いっ、いえっ!! 何でもない、何でもないですっ!! …え? それはまあいいとして、聞きたい事がある? な、何でしょ…はは…。…はあ? おばけ? 何すか、それ。…司馬と石川? …誰? …はあ、昔ここにいたお医者さん…。…いやあ、俺、最近入院したんで、そんな人たち、知りませんけど…。…「そう…じゃあ、変な事なかった? 最近」…いや、ないっす。…変な事…中川先生が変…なのはいつものことっすね、そういや。…それ以外には…おかしな事なんて、ないなあ…。たぶん。…ん? 何すか、それ…何持ってんです? そのダッサいタッパー。…は? 「ああ…あなたにあげるわ、これ」…へ? い…いらない…うわっ!! うそっ、うそですっ!! ありがたくいただかせていただきます…だから殴らないで下さいぃぃぃぃぃ〜。…「分かればいいのよ」…へええええ…。「かぼちゃ、好きでしょ? あなた」…いや…どっちかってーときら…ぎゃああああっ!! うそうそうそっ!! 好きっ!! 大好きですぅ〜…あはははは…」





「なんだか…ちょっと気の毒ですねぇ」
「そう?」
「だって、彼、あんまりかぼちゃとか好きじゃなかったはず…」
大槻は、峰の呟きに、眉間に皺を寄せ、きっ、と睨む。
「…いいの。あの子、好き嫌いが激しすぎるのよ。ガキじゃないんだから」
「はあ…でも…」
「ちょっとは、緑黄色野菜もとった方がいいの」
吐き捨てるように言うと、峰が首を捻った。
「…かぼちゃって、緑黄色野菜…でしたっけ…」
「さあ…」
「私も、よく分からないですけど…どっちでしたっけねえ…」
「んなこたー、どうでもいいの。さ、次行くわよ」





証言7 通りすがり:都内某大手スーパーマーケット社長(36歳・男)
「…はい。私ですか? どうしました…? 「患者さんですか?」…ふ…患者なのか…そうでないのか…。…そもそも…それを、定義するものって、何なんでしょうね…。………単なるラベルなんですよ。…その人間自身とは、何の関係もないラベル。表面だけを飾ってる、どうでもいい…薄っぺらな、仮面に過ぎない。…あなただって、私が患者でなかったとしたら、こんなに丁重に扱ってくれますか? 医者とはいえ…ね。…おや、失礼。あなたが、医者というのも、同じですね。…あなたの本当の姿とは…別物だ。本当のあなたは、一体どんな女なのか…それとは、関係がない。…ふ…ふふふ…ふふふふふ………。…「大槻先生、この人変ですよ…『あっち側』に行っちゃってます」…「そうね…他の人にした方がいいかしらね…」。…聞こえてますよ。失礼な方達だ…ふっ…。…「あ…あの…変な人、見ませんでしたか?」…変な人? …「大槻先生、変な人に変な人のこと聞いても、しょうがないんじゃないですか?」…聞こえてますって。いけませんね…。陰口は、相手に聞こえないところで言わなきゃ…ふふ…。…「そ…それじゃ…あのですね、例えば…眉毛が太くて、坊ちゃんがりで、目が大きくて、胸毛で、いっつも「認めないっ!!」とか言ってたりするような人…見ませんでした?」…ほお。…知ってますよ。「認めない」と言ってたかどうかは、分かりませんがね…そういう男を、1人知ってます。…「どこで見られました?」…おや、性急な方だ…。どこで…それは、言えませんね。ふふ…。「そ…その人………幽霊、でしたか?」…幽霊? 幽霊か…。確かに…あいつが幽霊になって、私のところにやって来ても不思議じゃない…ふっ…ふふふ…ふふふふふふふふふ………」





「…声かける人、間違ったわね…」
「そうですね…完全にイっちゃってましたもんね…」
どっと疲れが押し寄せてきた。何だったんだ、あの男は。
「…不健康そうなツラしてたわよね…」
「そうですね…なんか、彼岸に片足突っ込んでるみたいな…」
「ビールのコマーシャルで、卓球してる人に似てたわね…ちょっとだけ」
「…そうですか?」
「…いや…気のせいかも…」
「次、行きましょうか…」





証言8 内科通院患者:警察庁勤務(33歳・男)
「…ん? ………。あ、私か。どういったご用件で。…「あの〜…あなたは、患者さんですよね?」…病院で歩いている人間は、たいていは医者か看護婦か患者かのどれかだと思うが。…ああ、私は患者…だ。「ほんとーに、ほんとーですか?」…私が、あなた達に嘘を言ってどうする。…少し体を壊して、内科の方に通っている。…仕事柄、ストレスが多くて…。「大槻先生、大丈夫みたいですよ。今度の人は、マトモっぽいです」…「そうね…眉間に皺寄せて、ちょっと…気難しそうだけど…。この人に聞いてみましょうか」…今度の人? 眉間に皺って………まあいい。で…? 話とは…はあ? 「あの、おばけ見ませんでした?」…何を言っている。…「えっとですねぇ、例えば…目つきが、こう…すっごく悪くって、色が黒くって、いっつも他人にガン飛ばしてる…お医者さん、なんですけど…」……いや、幽霊かどうかは知らないが…そういう医者なら、見たことがある。…一度だけ…手術室…か、…あっちの方に迷い込んだ事があるんだが…いや、私は方向音痴じゃない、たまたま、だ、たまたま………疲れていたから…。それで…その時…気分が悪くなって、少しふらついたら…後ろから、話しかけられた。『いつ血を吐くか分からない人間が現場にいたんじゃ、みんなが迷惑するんだよ』とか言われた。失礼な奴だ。…それに、血ならもう吐いたぞ、この間。…「威張ってどうするんですか、んなこと」…周囲の人間に迷惑はかけなかった。…たぶん。「…それだけですか?」…ああ…それで、振り返ったら、その…あなたたちが言うような…仏頂面の医者がいた。…すぐ、どこかへ行ってしまったが。「どこかへ行った、って…どんな感じで…ですか?」どんな感じ…? そうだな…確か…ふっ、と消えるように…いなくなったな。「それ…おかしい、とか思いませんでした?」…おかしい? …そうか…言われてみれば、おかしな出来事だったかもしれんな…。「…大槻先生。この人も、ちょっと変ですよ…やっぱ」…「そうね…」…聞こえてるぞ。「そ、それじゃ…ありがとうございました〜」…あっ!! 待ってくれ…そういえば、私の連れが…同じような事があったとか言っていた。「連れ? その方も患者さんなんですか?」…いや…ただの付き添いだ。私は、大丈夫だというのにいつもついて来て…子供じゃあるまいし。過保護なんだ、あいつは…入院しろ入院しろとうるさいし…ただの胃潰瘍だと言っているのに…ほんの1回や2回、倒れただけだろう、現場で。…ん? ああ、来たみたいだな。…あいつだ」





峰は通院患者だという男から目を離し、ちらり、と大槻を見る。
「…少し、核心に近づいてきたみたいですね」
「うん。…おかしな人だけどね…大の男に、付き添いって…」
「血ィ吐いたとか、倒れたとか言ってるし、顔色もよくないし…眉間に皺寄ってるし」
「ま、それは置いておこうか。…えっと…その、連れって人は…」
大槻は、通院患者の視線を追うように振り返った。
背の高い若い男が、手を振りながら駆けて来る。スーツの上に、よれよれの緑色のフード付きコートを羽織っている。そして、その顔は…。
「げっ」
「…あの人…」
「あのさあ、司馬君の幽霊って…あの人のことなんじゃない?」
「いえ…確かに、顔は似てますけど…」
「表情とか、全然違うわね…」
「司馬先生、あんなに愛想よくなかったです」
「それに、幽霊の正体があの人だとしたら、石川先生の方の説明がつかなくなるしね…」
「そうですよね」
困惑する大槻と峰を尻目に、若い男は、にこにこ笑いながら、こちらへ寄ってきた。





証言9 付き添い:警視庁勤務(29歳・男)
「室井さ〜ん!! もぉ、勝手にどっか行っちゃうんだから。心配したじゃないすか。ん? あれ…こっちの人たちは…へ? ああ、先生なんすね、この病院の。初めまして〜、青島と言います。都知事と、同じ名前の青島。あ、これ、名刺です。…「刑事さん、なんですか?」…へへへ…そうなんすよ。こっちのね、室井さんって人もなんです。俺より、ずっと、ずーーーーっと偉いんですけど。あっ…そうそうっ!! 先生達、お医者さんなら、きっつく言ってやって下さいよっ!! この人に。…無理するなって、入院した方がいいって。胃潰瘍だからって、馬鹿にしてちゃいけませんよね。現場で血ィ吐いたり、倒れたりするだけならまだしも…そのうち、命に関わるよーなことになりますって、絶対。………ねえ…室井さん………俺との約束守ってくれるって、言ったじゃないですか………それなのに…そんなことになったら…俺…。「心配するな、私は大丈夫だ」…どっこが大丈夫なんすかっ!! そんなに顔色悪いのに…。「青島、お前は俺が信じられないのか?」…そういうことじゃないです…俺は…室井さんが…心配で…。「…大槻先生、この人たち、なんだか怪しいです…」…「そうねえ…完全に自分達の世界に入っちゃってるわよね…」。…何か言いました? …「ああ、それはそうと…あの、あなた、変な男を見たとか…ここで」…あっ!! その話っすか? そうそう、そうなんすよ〜。こないだね、室井さんが診察してる間…暇だったんで、病院の中、探検してたんです。んで、手術室っていうのかなあ…そういうとこの前に行ったら、背後から…頭、どつかれたんすよ。「どついた?」…ええ。んで、俺もむかっ腹立って、何すんだよっ、って振り向いたら…誰もいないんすよね。で、きょろきょろしてたら…声がしたんです。…吐き捨てるように、『勝手にヒトと同じ顔してんじゃねえ。…バカが』って…よく分かんない事、言うんすよ。何なんだろ、って、もっかいその辺ぐるりと見回したら…そしたら…いつの間にか………いたんです。人が。…うわっ!! な、なんすか? お…落ち着いて…首、絞めないでくだ…さ…げほげほ…。ふ〜………。…へ? 「どんな人でした?」…ええとね…廊下の向こうの方に、2人。…「…2人?」…ええ、2人です。なんか、言い争ってました。『シバくんっ!! どうして君はそうなんだっ!! 見知らぬ人に因縁つけて!!』、『むかつくんだよ…あんなアホ面見てると…』、『アホ面って…同じ顔じゃないか』、『だから余計に腹が立つんだ』…って。…シバって、どんな字、書くんでしょう。芝生の芝っすか? …けど、失礼な話っすよね。アホ面って…。え? 「その男の顔…」。…顔? 「あなたに、似てませんでした?」…えっと〜…似てた…かなあ…。う〜ん…言われてみれば、似てたような…。いや、自分の顔、じーっと見ることなんて、そんなにないでしょ? よく分かんないっすねぇ…。…「はあ…それじゃ、その人たち、その後どうしたんです?」…ええ、どっか行っちゃいました。…「どこへ?」。分かんないっす。だって、ふーって、消えちゃったんですもの」







2人の男に、愛想笑いと形式的な礼をして、逃げるようにその場を立ち去る。
よろめきながら、峰が言った。
「…よく喋る人でしたね…」
「やっぱり、司馬君とは…違うわね…ありゃ…」
大槻も、同じく、よろよろとその辺の壁やら柱やらゴミ箱やらにぶつかりながら歩く。
峰が、ぽそ、と呟いた。
「…普通…怪しみますよね、人が…「ふーって、消えちゃった」ら…」
「そうね…でも…もう…どうでもいいや…」
「そうですね…」


ほんの数時間で、1日分以上に疲れたような気がする。だが、一応引き受けた(いつの間にか引き受けることになっていた、と言った方が正しいかもしれない)以上、ここで調査を止めるわけにもいかない。…気は進まないが、やはり、彼らの正体を突き止めるしかないだろう。
正体…もう、98%くらいは判明しているような気もするのだが。
「…ほんとーに…幽霊…なんだ…」
「ですねぇ…」
今までの話をまとめてみる。彼らが出現した(らしい)という場所は…。


1. 男子トイレ
2. 霊安室の前
3. どこか(「それは言えませんね」と、教えてもらえなかった)
4. 手術室の前



「…手術室、かな。一番遭遇確率が高そうなのは…」
「そうですかねえ」
「…行ってみようか」
「はい」
本当は、あまり行きたくないのだが。





「…誰も、いないわね」
手術室の前に着いた。今日の午後は、珍しく手術の予定が入っていないせいか、人影はない。生きている人間も、…死人も。
別に、びくびくする必要はないのだが、何故か自然と忍び足になってしまう。息を殺して、そろそろと…扉へ近づいた。
人気のないその場所は、しん、とした奇妙な静寂に包まれている。…幽霊が出た場所とは思えないくらい、穏やかで、静かだった。だが、どことなく、無気味な感じもする。…先入観のせいだろう。
峰が、声をひそめて言う。
「…やっぱり、そう簡単に会えたりは…しないみたいですね」
「うん…」
それもそうだ。今まで、見た人間がいるからといって、自分達まで運良く、ここで彼らに会う事ができるはずもない。なんせ、相手は神出鬼没の…幽霊なのだ。
がっかりしたような、ほっとしたような、複雑な気持ちで、大槻は踵を返す。
「…帰ろっか」
「そうしましょう」
「…仕事しなきゃ…書類も溜まってたし」

「まだ書いてなかったんですか?」
「うるさいわねえ…」
その時。





   
『…な〜い』





「…峰先生…何か、言った?」
「言ってません…大槻先生こそ、何か言ったでしょ?」
「い…言ってないわよ…」
「え…? じゃあ…今の…声って…」
嫌な予感が、どこからか湧き上がるのを感じつつ、大槻と峰はゆっくりと振り返る。


人影はない。
「き…気のせい…」
「でも…今の声…」
「さ…さっさと、帰りましょ…」





『…とめな〜…い…』









「声…」
「気のせい…気のせい…」
必死で自分と峰に言い聞かせる。
「気のせい…ですか? …今の…いしかわせ」
「気のせいよっ!! 帰るっ!! もう帰るっ!!!」
…が。





『認めないっ!! 僕は認めな〜い〜〜〜〜〜』





大槻は、がっくりとその場に膝をつく。対照的に、峰はこれ以上ないくらい嬉しそうな顔で、ドアを見る。
「やっぱり石川先生だあ」
「…」
「ほらっ!! 行きましょ、大槻先生!!」
「…帰るぅ…」
「何言ってんですかぁ。ほら、早く」


満面の笑みの峰に、無理矢理手術室のドアまで引きずられる。ここまで来たら、引き下がれない。大槻は、しぶしぶ、扉を細く開き、中を伺い見た。
人影が見える。
2人の男。
両方とも白衣を着ている。
自分達が、よく知る男達。
向かい合って、何やら口論している。…必要以上に顔を近づけて。
…見慣れた…いや、どちらかと言うと、見飽きた光景だ。





「君は一体どういうつもりだっ!!」
「うるせえ」
「質問に答えろっ!! …どうして、こんなことをする?」
「こんなこと?」

「病院内をうろうろして…人を脅かして回って…タチが悪いったら…」
「…お前、俺達は何だと思っている?」
「…僕達? …医者だ。今更何を言っているんだ?」
「フン…バカが」
「…おいっ!!」
「医者………ケッ。…違うね。俺達はもう、医者であって、医者じゃない」
「医者じゃなかったら、何だってんだ」
「………幽霊だ」
「…」
「…」
「…あっ…」
「…あ?」
「アホーーーーーーっ!! そういう事を言ってるんじゃないだろうっ!!」
「同じ事だ」
「全然違うわっ!!」
「…同じだよ。医者は医者の仕事をする。…幽霊は幽霊の仕事をする」
「幽霊は仕事じゃないっ!!」
「仕事だ」
「どこがっ!!」
「…いいか? 俺達が今すべき事は…」
「人の話を聞けぇっ!!」
「今すべき事は………幽霊だ」
「………頭大丈夫か、君」
「幽霊は何をするのか」
「…だから…人の…話を…聞けと…」
「………人を、脅かすんだよ」
「…」
「俺は、俺の仕事をしているだけだ。お前にどうのこうの言われる筋合いはないね」
「…い…」
「い?」
「いい加減にしろおおおおおおっ!! 君は何を考えてる君の思考回路はどうなってるんだ君はどうしていつまでたってもそうなんだとっとと成仏しろこのアホ幽霊っ!!」
「うるさい奴だ…」
「こ…こんな事が許されると思ってるのか?」
「許されるんだよ、それがさ」
「んなわけないだろうがっ!! これは問題だっ!!」
「どこが」
「…どこがって…問題だったら問題だっ!! 大事になるぞ、そのうち」
「…ならねえよ、お前と俺が、黙ってりゃな」





「うっわ〜…相変わらずですねぇ」
ドアの隙間から、中を伺いながら、峰が小さく言った。
「司馬先生は無茶苦茶だし、石川先生は…うふふ…かっこいい…」
「…本気で言ってる? それ…」
「もちろん、本気ですよ」
「…」
峰は、にこにこと無邪気な笑みを浮かべ、問いかける。
「どうします?」
「………………帰る」
「へ? 会ってかないんですか?」
「あったりまえでしょっ!!」
「けど…司馬先生…いますよ、目の前に」
「いたら何だってのよっ!! 死んでまであんなバカやってる連中にこれ以上付き合ってられるかっ!!」
「え…でも…」
「「でも」じゃないっ!! もうやめ、やめやめっ!! 私は下りたからねっ!!」
その場から逃れようとする大槻の腕にしがみつく峰。逃げ出そうと必死な大槻の(火事場の馬鹿)力に、じりじりと、少しずつその場から引きずられていく。
「あ」
「…「あ」、じゃないっ!! 帰るんだったら帰るのっ!!」
「…石川先生…司馬先生…」
峰の言葉に、大槻はぴたり、と足を止める。絶望感にも近い不安を感じながら、ぎりぎりと首を捻って、後ろ―――手術室の中―――を伺った。





2人が、こちらを見ていた。
石川は、目を見開いた驚きの表情。対照的に…司馬は、ほぼ無表情。
だが…。
こちらの存在を確かめるように、司馬の…その、鋼鉄のような表情が、ゆっくりと変化する。
唇の端を吊り上げ…頬を緩めて…。


笑った。
だが、目だけは笑っていない。
そして…こちらを背筋が凍りつくような目で見つめ、低い声で、言う。





「み〜〜〜た〜〜〜な〜〜〜〜〜〜………」





その後の大槻と峰の運命を知るものは、誰もいない。
…が、その日の夕方、手術室を訪れた看護婦が、何故か床にぽつり、と転がっている『黄色のタッパー(かぼちゃの煮物入り)』を発見したという。





「室井さん、そういや、最近あの人達、見ませんねぇ」
「あの人達?」
「ほら、こないだ会った…女医さん達ですよ」
「そういえば…見ないな」
「どしたんすかねえ…ここのお医者さんじゃ、なかったのかも…」
「いくら何でも、それはないだろう」
「そっすか?」
「…ま、それはどうでもいい。帰るぞ、青島」
「はい〜。あ、帰り、夕飯、食べて行きます?」
「そうだな、たまにはいいか」
「あんまり、胃に悪そうなメニューは、ナシですよぉ」
「…分かってる」





天真楼病院の噂。
…病院のあちこちに、2人の若い医者の幽霊が出没するという、噂。
その後も、この噂が絶える事は、久しくなかったという…。




♪作者様からのコメント♪
すっ…すみませぬ。浮いてませんか、私。周囲をシリアスな文章とか小説に囲まれて、こんなアホな小噺…。いいんすか、こんなんで。私のたわ言とはいえ、あの話の後日談をこんなふーにしちゃって…いろーんな人に、いろーんなカンジでびしばし怒られちゃいそうっす。
司馬先生、アホっすね。石川先生も、アホですね。大槻先生と峰先生がその後どうなったか、私も知りません。『捕らえられ、または殺されても、当局は一切関知しない』らしいし(酷)。で…日本警察が誇るバカップル(友情出演)は………勝手にしてくれ、もーいいよあんたたちゃあ(本音)。けど、室井さん、血を吐くほど頑張らないで下さい(笑)。あと、いろいろリンクしてますけど、これは一体いつの話なのか、自分でもよく分かってないので、突っ込まないで下され。
最後に。「富良野銘菓・ラベンダーまんじゅう」は実在しません(たぶん)。
あ、最後の最後に。…かぼちゃが緑黄色野菜だったか、誰か私に教えて下さい(本気で忘れている)。


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『愚者の楽園』の管理人、じぞう様からありがたくいただきました『振り奴』幽霊話です♪♪♪
昨年つまり
1999年のことですが、とあるビデオを見て私がとある話を書き、それをじぞうさんのHPへ献上する代わりのお品として『振り奴』話を書いていただく約束をメールでしたんですねぇ。で、その時の条件が『司馬幽霊vs石川幽霊+中川カニ食いジャンバルジャン(命名は、じぞうさんです)』ということだったんです←アンタ、メールにナニ書いてんだよ…
自分の方の話が書けてないにも拘わらず、いただいてしまったこのお話―――もう、読みながら大笑いさせていただきました〜 これだけ沢山のキャラをちゃんと書き分けてらっしゃるところがお上手で、いつも感心してしまいます。もう、山村先生も稲村さんも出てますし(私、この二人、結構好きなんですよ〜)天真楼病院看護婦(
24歳・女)っていうと千代ちゃんかな?とか、都内某大手スーパーマーケット社長(36歳・男)はアノはらたいら氏ソックリさんなお方でしょうか等等……
しかし―――あの世でもそんなに一緒にいたいか、あんたたち(笑) まあ、いろいろ心残りを抱えたまま死んでしまったので絶対幽霊になって本当にこんなケンカしそうですよね、こいつら。それにしても「幽霊は幽霊の仕事をする」と言う司馬と、それを止めさせようとする石川と……一応、司馬の発言には筋が通ってる(?)んだけど、石川の言うことの方が他の登場人物達の感情に響く状況というのは、『振り奴』本編でもよくありましたっけ(苦笑)
ところで『振り奴』および『振り奴
SP』の脚本書いた三谷幸喜氏ですが、本当はこういう話を書きたかったでしょうねぇ。これぞまさに『最後の戦い』(笑)、『スペシャル』に相応しかったりして(大爆笑)
じぞう様、本当に本当に、どうもありがとうございました!!!!!