カリブの海賊
「…闇主!!ここはいったいどこなんだ?!」
そう問う彼女の声に、呼ばれた男はふと振り返った。
見慣れない風景に女は声を荒げる。これは「見慣れない」どころの問題ではない。
彼らの周囲を今彩る風景は、ラエスリールが普段いる風景とは根本的に何かが違っていた。
カラフルな賑わいを見せる街……街?……はたして、これは街なのだろうか。
確かにたくさんの店が犇めき合っている。そこに群がる人の数も膨大である。
しかし、どこか作り物めいていた。すべてが、現実ではない…、そんな感じだ。
「闇主?!」
振り向いた男は少々思案した後、ぽつりと呟いた。
「…少々、転移する場所を間違えたな。」
ラエスリールの頭をパニックが襲った。
闇主の説明によると、どうやらここは異世界らしい。
何の間違いか、闇主は場所、時間のみでなく、次元まで飛び越えてしまったのだ。
だから、この世界は今まで自分がいた世界と全く違う雰囲気を放っているのか、とラエスリールはなんとなく納得した。
「ラス…それは違う。この世界においても、ここは特異な空間らしい。でなきゃ、俺達はとっくに排除されてるぞ。」
「は?」
闇主にそう言われ、ラエスリールは再び辺りを見まわした。
作り物めいた街…作り物の山に、作り物の川、作り物の城に機械仕掛けで動く乗り物たち。
そして、この街に熱狂する人々…。確かに普通じゃない。
「…何なんだ?ここは?」
「この世界の奴らにとって、ここは娯楽らしいな…。見ろ。ねずみが歩いてる。」
「?!」
そう言われて闇主が指差す方向へ振り向くと、ねずみの着ぐるみを大人も子供も追い駆けている最中であった。
「ディズニーランドと言うらしい。」
そう闇主が説明する。
なんだかよく分からないが、ここは異世界な所でも特別らしい。
我々の衣装が周囲と少々違うというのに、誰も気にしないのはそういう訳か、とラエスリールは妙に納得した。
せっかく迷い込んだのだから楽しんでいこうという闇主の提案にラエスリールは振り回されていた。
この世界に通じる金銭を全く持ち合わせていない癖に、ここでは、あっさり乗り物に乗れる。闇主が、「パスポート」というものを偽造したせいもあるが。
ふらりと入った乗り物に、ラエスリールは面食らっていた。
真っ暗である。
何なんだ、ここは!こんな真っ暗で何に乗るんだ?!
慌てふためくラエスリールの手を闇主がそっと握った。
ラエスリールの心臓が跳ねる。
「はぐれるなよ。」
そう囁く闇主にラエスリールはドキドキする鼓動を押さえずにはいられなかった。
二人が案内されたのは船だった。
川の向こう側では、妖しげな光の中、人々が食事をしている。本当に変わった処だな、とラエスリールは改めて実感した。
船は静かに暗闇を抜ける。
隣にいる闇主の顔まで見えないとは、いったい何のための乗り物なのだろうか?
ラエスリールが一人悩んでいると、ふと闇主の指がラエスリールの手に触れた。
「?」
何も見えない暗闇で、闇主の指がラエスリールの肌を滑る。
「あ、闇主!」
そう非難めいた声を上げたラエスリールの耳元に熱い吐息が吹きかけられた。
「し、他の人の迷惑になるだろ?」
それなら、こんな事するんじゃない。
そう思うラエスリールを完全に無視し、闇主の指はゆっくりと彼女の身体を滑る。手から腕へ、腕から肩へ。
「…あ、闇主?」
小声で問いかけると、闇主の指がふと首筋に触れた。
「あ!」
身体が、思わず反応する。指の動きがふと止まった。
やっと解放されると、ほっとした途端、突然、荒々しく顎を捕らえられた。
「?!」
そのまま何かが、唇へ覆い被さる。
「!!」
闇主だった。
闇主の唇が自分の唇に重ねられている。荒々しいその動きに息が出来なくなる。
しかし、ここで騒ぐと周囲に迷惑であると考え、ラエスリールはおとなしく彼の動きに従った。
だんだん頭の芯がぼーっとしてくる。
闇主の腕がラエスリールの身体をきつく抱きしめた。
視覚情報がない分、感覚だけがラエスリールの身体を支配する。
闇主の動きが心地よい。ラエスリールが思わず意識を手放しそうになった途端。
落ちた。
船が突然、急降下した。
これが、この乗り物の見せ場だったのだろうか。
短い降下であったが、ラエスリールの心臓を止めるには、それで充分だった。そうして、彼女は意識を手放した。
目が覚めると、そこはいつもの風景であった。木々の隙間から洩れる光が目に染みる。
「…ここは?私は…どうしたんだ?」
そう呟いて起きあがるラエスリールの隣に闇主が座り込んでいた。
彼は後ろを向いている。そんな闇主にラエスリールは訝しげに問いかけた。
「闇主?」
「…悪かったな。」
闇主がぽつりと呟く。彼の全面的な謝罪の言葉をラエスリールは初めて聞いた気がした。
それと同時に、意識を手放す前の出来事を思い出す。思わず、顔が赤面する。
「…私は、あれからどうしたんだ?」
後ろを向いたままの闇主に問い掛ける。
「降下のショックで気を失ったらしい。そのまま、こっちの世界に戻ってきた。
どうせ、あの状態で出口に出たって、厄介なことに変わりはないからな。店員が少し驚くくらいだろ?」
そういう闇主に、ラエスリールは苦笑した。
確かに、突然いなくなった乗客に店員が迷惑するかもしれない、しかし、それは少し大目に見てもらうしかないだろう。どっちにしろ、自分たちは戻ってこなければいけない。こっちの世界に。
「あの世界も楽しかったが、やっぱりこっちの方が落ちつくな。戻って来れて良かった。」
そう言うラエスリールに闇主が静かに振り向いた。
「そうだな…。追手もいるが、あいつらもいるしな。」
そう言って、闇主が不敵に笑う。どうやら、いつもの彼に戻ったらしい。
「久々に見に行ってやるか?会いたいだろ?」
ラエスリールは少々考えて、言った。
「…そうだな、元気かどうか見るくらいなら…。」
そう呟くのと同時に、二人の姿はそこから消えた。
残されたのは、そよそよとそよぐ木々のざわめきと揺れる木漏れ日だけだった。
END
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結構前に、「ガーネット発掘所」のHP完成祝いとして、管理人ゆきさんに差し上げた小説でございます。
読んだことあるかな?
ゆきさんが、ディズニーランドねたで、小説を書かれてたので、それにあやかってディズニーネタを書いてみました。
ちょっと行った事がない人には分かりにくいかな?
ディズニーランドにある「カリブの海賊」というアトラクションが舞台です。
8人乗りくらいのボートに乗って、動く海賊人形を鑑賞する、というアトラクションなのですが、レンはこれが好きだ。
なんかボーっとできて、気が楽である。ボーっとしてても誰にもバレないし〜vv
それくらい暗いです!!!
ラスが気絶した場所が、唯一の絶叫場所です。これは、かなりびっくりする。何回乗っても心臓止まる!!
イチャつきながらこれが来たら、気ぃくらい失うよ?多分!
ま、皆さん、「カリブの海賊」に乗りましたら、是非この話を思い出して下さいvそれではv