Flower…―――――黒刃狂介様


夏の風物詩は数多くも、俺は一番花火が好きだ。火が付いて、唯一瞬だけ主役になって散る…。その様が何とも儚くて、まるで君の様だと思ったから。正直ハデな花火も嫌いでは無い。でもたまには良いんじゃないかな、と思って俺はその花火を手にした。


しかし俺が向かった先にはまだ君が帰って居なかった。



―――随分遅くなってしまった。

庵は後悔していた。時計を見ると既に
p.m.11時を過ぎていて。


『今日は面白いモノ買ってくるからなるべく早く帰ってこいよ?』


今朝バンドのリハがある、といった庵に対して京が云った台詞。同時に京も少し遅くなると云っていたが、流石にこの時間まで待っているとは思えない。一応彼にはスペアキーを渡してあるが何と言っても飽きっぽいから……。

それでもバイクを飛ばして自宅へ付く。外から見た様子では電気も付いてない。当然か、と思いつつもキーを差し込んで家のドアを開ける。カチャ…という音と共に開いた扉に持っていたベースを立てかけて家の中に入ろうとするとふと何かが当たった気がして。何かと思いながらも電気を手探りで探して漸く付けると、彼の靴が脱ぎ捨ててあって……。何時と同じで絶対に自分では揃えない。

―――ずっと居たと云うのか?

そう思うと居ても立ってもいられず、庵はリビングの扉を静かに開けた。そこに何処からか引っ張り出してきたタオルケットを被り猫と共に寝ている京が居て。それが何だかとても嬉しくて。

手に持っていた荷物を降ろして傍に寄ると、猫が起きたみたいでにゃう〜と一鳴きして京の元にトコトコと歩いていった。

「…寝てるのか、京?」

癖のないその髪を撫でる。すると微かに身を捩って京が目をあける。

「いおり……?帰ってきたんだ。」
「ああ。済まないな、遅くなってしまった。」
「いいよ、そんな事。それより…」

そう云うと胸倉をいきなりつかまれて。何かと思うと強く抱きしめられる。

まるで不意打ちの様にされるキスに庵は戸惑いながらも素直に応えた。

「おかえり、庵。」

笑みを満面に浮かべて京がそんな事を云うから。庵は唯小さくああ…とだけ返した。

何となくバツが悪くて庵が遅めの夕食を作りにいく、と立ち上がろうとしたがそれを再び後ろから京に引っ張られるから。

「ちょっ…京、離せ!!」
「メシなんかいーよ。それよりさぁ、コレやんねぇ?折角貰ってきたんだからさ。」

「―――…花火?」

京が手にしたそれを目にして思わず呟く。よく店で見るたくさんの種類が一まとめに入っているタイプと、線香花火の束があった。普通の花火は良いとしてその線香花火の量が尋常ではない。

「そ。前々から紅丸が花火やるなら俺の所に来なよとか云っててさ。それに偶にはいいだろ?2人でこーゆーのやるのって。」

「しかし…こんなもの何処でやるんだ?」

「大丈夫。それもちゃーんと宛があるから。」

喜色満面とはこのことを云うのか…。京はいそいそと上着を背負いバイクのキーを持って出て行った。

しかもワザと花火を残して…。

庵は仕方無しにため息をつきながら京の忘れ物を持って後を追った。別に今更盆を過ぎてまで花火をやりたいとは思わないが京が待っていてくれた事が嬉しくて…死んでもこんなことは口にしないが。外に出ると既に京はバイクに乗っていて。

「いおりー早くしろよ!!」
「判っている。」

そんな他愛の無い会話を交えながら、京の云う場所に向かったのだった。



「少し冷えてきた?やっぱこの格好やばかったかも。」
「ここは……」

東京にもこんな処があるのか…と思える程綺麗な星が見える小高い丘だった。

いい所だろう?と京が嬉しそうに話しながらセロテープで繋がれた花火を一本ずつ器用に分けはじめた。

庵はというと、その場に立ち尽くしたまま唯空を見上げていった。それに焦れたのか京が腕を引っ張って自分の横に彼を座らせた。

「ここも教えてもらったんだぜ?っていうか紅丸の親父さんの私有地なんだってさ。なんでも痛くココがお気に入りなんだと。」
「…そう、か……。」
「なんだよ庵、もしかして花火嫌い…とか?」
「そんなことは無いが…」
「なら楽しもうぜー。ほら、コレ持って。」

庵に花火を一本握らせ、京は自分の炎でそれに火を付ける。何色にも変わりながら燃えていく花火に次から次に火を足して…何処からかキチンとボロの水を張ったバケツを持ってきていて。

―――もしかして京は初めから…

実に鮮やかなその手口。用意周到な彼は御丁寧にもそのつもりで今朝声を掛けたと言うのか…?

目に飛び込んでくる赤や黄色に燃え上がる炎。パチパチと火が飛び散るモノもあれば、初めから時化ていたモノも有った。何処からか“懐かしい”という感情が起こり始めていた。

「市販も捨てたモンじゃねぇな。結構綺麗じゃん。」
「そうだな。もう何年もやった記憶が無い。」

楽しそうに話し掛けてくる。子供のようだと思うのは何時も一緒。最後の打ち上げ花火が2つ入っていて、それが風に揺れながら掻き消されていくのを二人して見詰めていた。暫くココだけが時間が止まったように思える。珍しく庵から声を掛けるまでは。

「京、コレは…?」

手にしたのは一束の線香花火。コレを束ねるテープは剥がすのが難しいからなのか束のまま地面に置いてあったのだ。再び口を開こうと思ったとき、京の指が唇に伸びてきて言葉を封じられた。そして照れくさそうに一言ポツリと呟いた。

「俺さ、コレ一番好きなんだよな。」
「ん…―――それは良いが…」

なぜ照れる必要がある?そう訊ねると開き直ったのかこう言い放った。

「だってよ…こんなに綺麗なのに直ぐ消えちゃうんだぜ?――なんだか庵みたいでさ。たまに予告も無しにどっか行っちゃうし。」

「…………京。」
「あ〜あ…何か莫迦みてぇ。俺だけがいつも庵のコトしか考えているみたいでさ。庵、それ貸して?」

不貞腐れたようにそう云うから…。思わず嗤ってしまった。それに実際にお前に溺れているのは………。

花火を手渡すときに強く京の手を引き、庵は自分からライトキスを彼に贈った。

「―――庵?」

「…好きだ、京。」

真っ直ぐに見詰められて。今度は京からお返しのディープキス。

「なんか俺、今すげー幸せかも。」
「ッ…、花火やるんだろう?」

あ、照れてる照れてる。月明かりだけでも紅くなっていると判るくらい庵の顔が染まっていて。

そんな彼に大人しく線香花火に火を付けて手渡す。

「な?綺麗だろ。」

小さい炎から勢いを増して燃えていく花火を見詰めながら庵がポツリと呟く。

「ああ……俺も好きになりそうだ、線香花火。」
「でも一番綺麗なのは庵だからな!?」

真顔でそんな事を云われてしまい…それでも庵は小さく答えを囁いた。

次の瞬間、パァン!と音を立てて散った花火しかその言葉は知らない。

紅く燃え上がって、パチパチと音を立てて落ちていく。

そんな生き方もあっていいと思う。

華々しく輝く夏の太陽と静かな月の様だ。

―――――真夏の妖精の小さな悪戯。



END

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<黒刃さまのコメント>

…如何しよう!!!訳判らない……(汗)
『真夏の夜の夢』ってシェイクスピアのアレじゃん(撲殺)
何か昨日諏訪湖の花火のニュース見ていて、『あ…コレじゃん。』とか思ってみたり。
取り敢えず京庵の異様に甘ったるいお話になっちゃった…というワケですι
コレは今夜自棄酒だな!!ウン!!!

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しらす:ああ、勝手に手直ししてしまってすいませんでした!!せっかくの雰囲気がーー!!絵も小説も上手いなんて羨ましいかぎりです!!見習いたいな…。
し、し、しかも、
ラブラブ!!???ぎゃーー!!(歓喜)