猫が居た…。俺の住んでいるマンションの前に。
通行人はダンボールに入ったその仔をまるで見えないとでも言う様に都会の喧騒に姿を消して行って。
不思議とその琥珀色の瞳に魅せられて……俺は子猫を拾って帰った。
「オーッス!!庵居る?」
「ああ…。」
何時もの様に京は下校時刻の4時ピッタリに俺の家の扉をあける。ズカズカとリビングにやってきて上着と鞄を投げ捨て、ソファーで座っていた俺の前に座るのだ。そして俺の足元で眠る子猫に気付いたようで。
「コイツ如何したの?」
真っ黒な黒猫。京の気配に気付いて静かに小さな躯を起こすとすかさず京に抱きかかえられて。
「捨ててあったんだ。夏とはいえ夜は冷えるしな、それにこのマンションは動物を飼えるから……。」
「ふーん…可愛いじゃん。――――あっ!!」
目の高さまで猫を抱え上げて瞳を覗き込んでいた京が声を上げる。
「コイツの目ってさ、庵に似てねぇ?」
俺は読んでいた本を置き京を見上げる。猫とじゃれている京はそこら辺に居る小さな子供と何ら変わりは無く。
まるで新しい玩具を与えられたみたいに猫を抱え上げて俺の横に座る。
「そうだな。…それより京。お前珍しく腹が減ったなど騒がないな。」
「あッ!!!忘れてたぜ、庵ぃ〜。今日って確か……」
「――作れば良いんだろう?白身魚のホイル蒸し。」
「そゆコト。それじゃよろしく!!」
まるで語尾にハートマークが付きそうな愛想の良い声で俺を促す。仕方無しに俺の足はキッチンへ向かった。
「あー旨かった。」
相変わらず傍らにいる猫を遊ばせながら京が嗤った。猫には取り敢えず温めのミルクを与えたが思いのほか直ぐ平らげてしまった。俺はキッチンから京に呼びかける。
「京、ちょっと食器持って来てくれ。」
「ん〜判った。」
かったるいとでも云うように、それでもキチンと食器と猫を連れ、キッチンに京が現れた。
「はいよ。アレ…?これ……」
「ん?猫も連れてきたのか?ちょうど良い。これを飲ませてやってくれ。」
暖めたばっかりのミルクを深めの皿に注ぐ。京は黙って猫を置いた。すると匂いで判ったのかおいしそうに舐め始める。
「…マジこいつって庵に似てるな。」
「何?」
「それに可愛いし?そんなにコイツが好きなのか…?」
食器を片付けていた俺の隣まで歩いてきて京は静かに呟いた。
「―――何を云っている?唯腹を空かせていたから作ってあげただけだろう?ソレをいきなり…」
「じゃあさ、庵はコイツとオレ…どっちが大切?――云えよ、簡単だろ?」
その京の顔を見て俺はゾッとした。感情をまるで失ったような、それでいてどこか哀しげな表情…。淡々と紡がれていく言葉があまりにも静か過ぎて、背筋に 何か寒いものを感じた。しかも京の方が好きに決まっている…なんて、如何しても云えないのを彼は知っているのに。
不意に京が乱暴に唇を押し付けてきた。頭が痺れそうになるのを感じたのは俺の気の所為では有るまい。息もまともに出来なくなってからやっと開放されると、京は静かに嗤った。気付くと口の中に咽るような感覚を覚えて…何時の間にか口の中が切れていた。
「きょ…う?」
「何で云えねぇの?ヤってるときは素直なのに素面だと云えないんだ…。そうだよなぁ、お前って淫乱だし。」
「ッ…そんなコト……!!」
「―――飲めよ。コレ全部さ。心配するなって、クスリなんて入れてないから。」
目の前に突き出されたロング缶のビール。何となくバツが悪くて俺は一気に冷えていたソレを飲み干す。
―――京がおかしい…。
何時もと何かが違う。
勝手な事を云って俺を困らせるのも一緒。
でも……………。
暫くそんな事を考えていると顎を強くつかまれた。
「…に考えてんだよ。庵はオレのコトだけ考えてればいいの。それに…」
口の端を微かに上げる。
「嘘付きにはお仕置きが必要だろ?動物に躾するようにさ。」
云うなり着ていたシャツを無理矢理引き剥がされる。ボタンが何個か跳んでその破片が飛び散った。
「…痛っ、ヤメロ!京!!」
「――話訊いて無かった?慰めてやるよ。自分で『犯して』なんて絶対云えないもんな。」
「クッ…ああァ……っん!」
耳元で卑猥な言葉を掛けながら手は胸の飾りを弄り始めた。もう片方の手で器用にバックルを外し、ズボンを一気に取り払われる。たったコレだけの愛撫で既に息づき始めた俺自身を見てそっと撫でられた。ソレだけで途端に大きく跳ねる躯…。お構い無しにその手に収まった俺自身を扱き始める。
「あんっ…!!はっん…きょ…」
「うるせー口!」
云うなり舌が割り込んできて言葉すら封じられる。羞恥心ともどかしさに涙が頬を伝って落ちた。
キッチンでいきなり犯されて…尚且つ立たされたままの状態はかなり辛いものがある。足が震えて仕方ないのに後ろから抱きかかえられて、両足の間に京の足が挟まれているから座る事すら出来ない。
やっとキスから開放されたと思うのも束の間、京の舌がさっきボタンが跳んだときに出来た傷痕にふれた。舌のざらついた感覚が容赦なく俺を責めたてるのに加え、まだ血が絶えず出ているそこに吸い付いたりして。
「ちょ……京、痛ッ…!!」
「黙ってろって。お前が素直じゃないからシテ欲しいコトやってあげてるだけだぜ…ホントはもっと酷い事して欲しいんだろ?」
「ちが…う……ッ、ああぁ!」
痛いくらいに自身を握られて瞳から新たな涙が溢れ出る。何時もみたいに理性を溶かすような事もしない。俺を嬲り続ける手は唯快楽の底に堕とすための凶器と化していた。強弱を付けて躯を弄られて、それでいてたまにとても優しい愛撫に変わる。
―――京の考えてる事が判らない。
ソレが怖くて仕方が無かった。
「うあ!……はっ…ん」
「綺麗だよ、庵。もっとめちゃくちゃにしたくなる…」
それまで傷を舐めていた京がクスッと嗤って俺自身を口に含んだ。
「なにっ……ああん!!…はァ」
「イイだろ?」
話すたびに京の息が掛かってより快楽を増長させていく。俺のもっとも弱い先端を舌で割られてしつこくソコを突かれる。そのたびに自分でも判る位に自身から涙が溢れ出して………京は快楽に喘ぐ俺の顔をずっと見ているのに。それがとても寂しくて。
「あ…ッふ……ううん!!も…駄目、きょお!!」
―――驚くほど擦れた甘い声…それに満足したのか京は俺自身を深く銜えて愛撫を激しくする。その速さについて行けずに俺はイかされてしまった…。
「きょ…ッあああああああ!!!!」
溢れ出る白濁した液体を京は1滴も残さず嚥下した。そのどこか恍惚とした表情に俺は戦慄いた。滅多に京の口に出してしまう事はないから、それがとてつもなく切なくて…
「何で泣くんだよ、庵。すげ―綺麗だったのに…」
哀しそうに話し掛けてくる。もう理性なんて如何でも良くて。頼むから優しくしないでくれ。
何時もどおりにめちゃくちゃに、シテ?
卑猥な言葉で俺を堕として?
死にたくなる位の快楽に溺れさせて?
―――もっと君を感じさせて…?
自分から京にキスをした。真っ直ぐに彼の瞳を見てキスをせがむ。
「いお…り?」
「―――京…。」
只管京の名前だけを呼んで…俺に出来るせめてものコト…
「庵、シテ欲しいの?」
情事のときの取って置きの低い声。嬉しそうに話し掛ける彼が愛しくて…俺は素直に小さく頷いた。
「上出来…。よく出来たな、庵。」
「きょう…きょ……ッん…」
両足の間に挟まっていた京の足を外されると力の抜けきった躯が重力に従ってずるずると落ちた。座らされて、なお京は俺の足を大きく開かせた。厭でも目に入ってくる。京の視線に犯されて硬く張り詰めた俺自身…。一度イったばかリだというのにもう立ち上がりはじめている。
「いおり、すげー可愛い…。」
鎖骨から胸の突起へとゆっくりと舌が這い回る。片方の手が胸の突起を弄び、もう片方は俺自身に緩い刺激を与えつづける。京の髪がさらさらと触れて、焦らされる感じがなんとも厭で身を捩ると胸を弄っていた指を口内へと差し入れられる。俺はその指を躊躇いもせず舐めた。
「もっと音立てて舐めろよ。」
「んん…」
その言葉に逆らう事無くぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てて一心に舐めた。口の端から唾液が滑り落ちたときに京は指を引きぬき、おもむろに俺の後蕾に突き刺した。
「アゥ……くあっ!!!」
ビクン!と跳ねる躯。お構い無しに京はくねくねと指を動かし始める。ワザと良いところを外しながら施される愛撫に理性を手放そうとしたときだった。そのとき子猫がトコトコと歩いてくるのが視界に入る。京もその気配に気付いたようで、猫を近くに呼び寄せた。
床に置いてあったミルク入りの皿を同時に引っ張って来て、何も云わずにソレを俺自身に塗りたくる。
「…ッ……きょ、う。ああッ……ク」
「ホラ、お前も舐めてやれよ。」
「何?うっ…あああんッ!!!」
ミルクの香りに誘われて猫が俺にチロチロと舌を伸ばす。
その瞬間を見計らって指を一気に3本まで増やされる。それより俺は、仔猫の人間よりざらついた舌に嬲られる感覚に戸惑い、それでもいきなり性感帯を直に刺激し始めた京に何も考えられなくなる。
「庵ぃーどんな感じ?教えてよ。」
「や……そ…んな、こと…」
「云わないとコレあげないぜ?それとも一回イきたい?」
嗤いながら京は己の前を寛げさせて、大きく育ったソレを俺に見せつけた。
「ア…イヤ、だ……っ欲し…い!きょぉ……!!」
余りにも強い快楽に涙が止まらない。それでも京が欲しくて。涙目で精一杯彼に訴える。
その瞬間京の喉がゴクリと鳴った。今まで俺の中を蹂躙していた指をゆっくり引き抜いて見せ付けるように舐めた。
「欲しいんだ?……なら云って見ろよ、京が好きってさ。」
「な…っ!?」
「大丈夫。云ってくれたらちゃんと挿入れてやるよ。オレのを、さ。」
胸の突起を強く潰される。未だに猫は俺を舐めたままで、それでいてまだ焦らされて…そのとき既に意識は半分跳んでいたのかも知れない。俺の口から零れ落ちる嘘の無い言葉…
「……き。」
「―――えっ?」
「ッ…好きだ、きょう。ッんん!!」
云わせた本人である京が驚いたような視線を投げかけてきて今更ながらに恥ずかしくて瞳を伏せる。
「此処に…欲しいの?俺のコレ。」
「う…っん、早…く……!!」
「いおり――――…っ!」
指から開放されて物足りなさげにヒクつくソコに奮った京が埋め込まれた。
「あ、あああああああ…ァン!!!」
指とは程遠い位の質量に貫かれて…灼熱の塊が最奥を刺激して呼吸が止まるような錯覚を覚えた。強弱をつけて思うが侭に京は俺の中を荒らす。俺自身から止め処なく溢れる蜜すら猫に舐められて…先端をチラつく猫の紅い舌に加え、正面からのしかかってくる京に躯中を支配されて…
知らずのうちに俺は京の背中に爪を突き立てていた。
「すげーよ庵…めっちゃくちゃ熱い…お前のナカ。サイコーに気持ちいいぜ…。」
「あ…はぁッ……ん!!きょ…う、もう…」
「限界?………良いぜ、イけよ。」
そう云うと京は猫を自分の傍らに静かに置いて、変わりに大きなその手で激しく俺自身を扱き出した。同時に激しく腰を揺らす動きに耐えられる訳は無く、欲望が一気に弾け跳んだ。
「だ…めぇ、きょう……ッ、アあああああああ…!!!!!!」
「クッ…いおり!!」
全く同じ瞬間に京も俺のナカに自分の精を吐き出した。
達したときの京は何時もの京と変わりは無くて…たくさんのキスを降らせてきた。ナカに渦巻く京のソレを感じながら俺の意識は完全に消えた。
気絶してしまった庵を見詰めて京は静かに自身を引き抜く。そして彼の涙の跡にそっとキスをした。
「―――オレも…庵が一番好きなんだからな?」
聴こえていないとは判っていてもその寝顔があまりにも幼くて…。
そのときニャーと鳴いた猫の頭を撫でて、自分の視線の高さまで抱え上げる。
「オレが庵のコト一番愛してるってことはオレとお前だけの秘密だぞ?」
それから京は庵を寝室まで運び、自分もその隣に寝付くのだ。
手にしたのは独りぼっちのココロ。
琥珀色の宝石よ、その輝きを絶やさないで…?
―――オレが救ってあげるから……。
END
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<黒刃さまのコメント>
いい加減シリアスしか書けない体質を如何にかしたいよ…(遠い目)
しかもエロの描写が長い!!ある意味後味悪いブツになってしまった!!!(死)
でも誤解の無いように云っておくけど俺は京と庵が大好きなんです。…カナリ。
はぁぁ〜やっぱり書くの難しいです。精進します(・−・;)
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しらす:シリアスがかけるなんていいじゃないですか!!!!かなりイイと思うんですけど!???きゃー、もう、また師匠が増えた感じ!黒刃さまの京庵、イイですわ…。かなりイイですわ……。ツボですわ…。
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