狂乱―――――めそ様






 あれは自分の物だから。
 決して他人には渡さない。
 それが例え、奴の意志であったとしても。
 離れて行くなら、殺してやる。
 助けなんて呼ばせない。
 お前の世界には。
 自分だけで充分だ。


 広く静かな佇まい。
 古くから伝わる旧家の一室に案内されて。
 行った先には、見知った女。
 宿命だなんだとうるさい。
 神楽。
「八神がオロチに…?」
 囚われている。
 夜が来るたび。
 奴はオロチの物になる。
「何とかできないか?」
 そう問えば神楽は。
 何故そんなに彼を気にするのか。
 そう聞いてきた。
 今まで散々いがみ合ってきたのに。
「本気の本気で向き合えるのって、八神だけだから」
 これは本当。
 本気を出して挑めるのは、彼だけ。
 格闘も、セックスも。
「そうですか…」
 神楽が。
 少し安心したような表情を。
「ならば、教えましょう」
 オロチは、実体がない。
 だから。
「貴方の力だけで、払えるはずです」
 払う者の血。
「これを持って行きなさい」
 割れた鏡のカケラ。
 八咫の鏡。
「元の鏡と比べれば、力は落ちますが」
 邪気を退ける力が。
 少しは残っているから。
 そのカケラを。
 掌に収まりきるくらいに小さなカケラを。
 ポケットに仕舞いこんで。
 屋敷を後にした。


「すげえの…」
 夜に。
 夢で悶える彼は。
 現実の世界でも喘ぎを零す。
 寝間着の下は。
 汗と精液でぐしょぐしょで。
 顔は。
 唾液と涙に塗れている。
「っあっ…ああっ!!」
 びくんと体が跳ねて。
 何度目かも分からない射精に。
 八神が新たな涙を零す。

(始めるか…)
 汗に濡れた額に手を当て。
 静かに気を。
 草薙の気を送りこむ。
「……っ…、…―――っう」
 八神の。
 八神の意識が。
 ゆっくりと浮上しているのが。
 分かった。
 オロチの残留思念とでも言える物は。
 少しずつ払われて。
 八咫の鏡の力も借りて。
 夜に。

 夜に八神が目を覚ます。

「…くさな………?」
 まだ夜なのに気付いて。
 目を見開いて驚いて。
 声にならない安堵を洩らす。


「安心するのは、まだ早いぜ?」
 体に巣食ったオロチの気は。
 まだ、完全に払われてはいない。
 今日は去っても。
 また明日来るだろう。
 そんなことは。
 許されていいことじゃない。
 これは。
 自分の物なのだから。
「ちゃんと払わないとな」
 笑って。
 怯えを隠さない彼に。
 接吻ける。


「っん…アッ…、はぁっ」
 奥を抉ってやれば。
 濡れた声を返す。
 その声に気を良くして。
 胸の尖りに唇を寄せ。
 犬歯を立てて噛む。
 ブツ、という音と共に。
 赤い花が咲いて。
「も…もおっ……いっや……ぁ、だっ…」
 痛みと快感に。
 八神が震える。
 もっと奥に。
 もっと奥に入りたい。
 欲求を抑えることもできず。
 抑えることもせず。
 八神の躰を抱いたまま。
 膝立ちになると。
 一点に体重がかかって。
 八神の中。 
 奥深くまで灼熱の杭が進む。
「あっ、あっ、…ああっん…っく…ふ、…く・さなっ…ぎぃ!」
 必死で自分に抱きついて。
 仰け反る。
 首筋に接吻け、耳に移行して。
 囁く。
 
「なあ、名前で呼べよ」
 
 この腕の中に。
 堕ちて来い。
 自身をきつく握って。
 イかせないように。
 強く強く。
 男としての機能がダメになってしまうほどに。
 きつく。
「あっあああっ!! イタ…イッ……手…ぇ…はなし…って!!」
 握ったまま。
 爪で先端を激しく抉れば。
「やあっああぁぁぁぁ――――ッ!! ああっ、あっ…あああっ…」 
 息も絶え絶えに喘ぐ。
「名前で呼べよ」
 でないと。
 イかせてやらない。
 そう。
 告げると。
 琥珀の瞳が見つめてきた。
 涙を払うように何度もまばたきをして。
 やがて。
「きょ…お……きょ、…きょうっ………もう、…許して…」
 今、彼を支配しているのは紛れもなく自分。
 オロチの気配が消え去った。

 八神を完全に手に入れた。

 
 
 夜が明ける。
 月は消えて、太陽が。
 けれど。
 まだ解放などしてやらない。
 あの夜は。
 オロチを払うための儀式。
 この朝は。
 八神を屠るための儀式。
 
 じゃら。
 鎖が鳴く。
 蛇のように腕に絡まる鎖が。
 ベッドのポールに。
 体内には。
 玩具。
 腕は拘束されたまま。
 ヴィィン……。
 羽虫の羽のような音が。
「ああっ……ハッ…ハァッ…ンッ」
 誤魔化すことも。
 無視することもできない快楽。
 草薙は。
 八神を見ているだけ。
 触れることも。
 自慰をすることも。
 ない。

 ただ。
 快楽に溺れ。
 堕ちていく八神を。
 楽しそうに眺めている。
「…もうっ……いやぁ……だっ……助け…」 
 夕べからずっと。
 快楽を与えられ続け。
 悲鳴も喘ぎも抑えられずに。
 涙を流し。
 草薙の名を呼び。
 精を吐き出して。
 意識を失う。
 それの繰り返し。
 やっと、全てを手に入れた。
 
 この瞬間から。
八神は草薙だけの物。


 どちらを選ぶのか。
 選ばれることを祈ったりしない。
 自分以外。
 絶対に選ばせない。
 選択肢は。
 一つしか許さない。
 自分だけを望め。

 
 これからは。
 夜も昼も。
 草薙が支配する。
 
 眠りも目覚めも。
 草薙のためだけに。

 自分のためだけに生きていろ。



END

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<めそさんのコメント>

 うーんと…。
 救われてないんじゃ…。 
 …もう何も言うまい!!!
 強いて言うなら、「名前を呼ぶ」ことが、「選ぶ」っつーことだったんです。

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しらす:狂宴の続きでーーーすvvvvvきゃーーーーー!!京様ーー!!!
参りました。なんて私好みな京様なんでしょうvvv
「自分だけのために生きていろ。」なんて、キャーーーーvvvとか言っちゃいましたよ!!
(すいません、時間ないんです!!)