誕生―――――めそ様


 最近さくらが怪我をして帰ってくることが多くなった。
 どうやらケンカをしているらしい。

 心配する俺を他所に、京はさくらが外で鬱憤を晴らしてくるので、
いたずらが減ったと喜んでいた。
 さくらもだいぶ大きくなった。それでも子猫と呼べる程の大きさなのだが。
 もうそろそろ良い頃だろうと、表に出すことを許してみた。

 その翌日。
 血だらけとはいかないまでも、あちこちに傷をつくって帰って来た。
 いったいどこの猫だ、俺のさくらを傷付けるとは。

 京が学校から帰って来た。さくらは散歩に行っている。
「おい庵。帰りにさくら見たんだけどさぁ」
 それがどうした。散歩に行っているんだから、見かけてもおかしくはないだろう。
 そう言い返せば。

「いやぁ、なんか他の猫に囲まれてたぜ」
 なんだと!?

「何故それを先に言わんのだぁぁ!!」
 俺はボーッとしている京の腕を掴み、部屋から飛び出した。

「何で俺までついてかなきゃいけねーの?」
 うるさい。さっさとついてくればいいんだ!
 階段を一段とばしでかけ降りる。京はそんな俺に驚きつつも、
きちんとついて来ていた。

「どこで見たんだ?」
「そこの公園」
 公園? なんでそんなところに寄ったんだ?
 そう訊ねれば。

「そこの公園、近道なんだよ」
 近道…。しかし京はバイクで登校していたはず…。
 まさか公園の中をバイクで突っ切ってるんじゃないだろうな…。

「お前まさか、ここをバイクで突っ切ってなどいないだろうな」
「え? いや……あはははははははは(汗)」
 突っ切ってるんだな!? そうなんだな!!
 草薙家は一体どういう教育をしているんだ!!

「そ、それよりほら、あそこ」
 慌てて話題を変えようとする京に、俺はわざと乗ってやる。
 あとでしっかりと常識を教え込んでやるから覚悟しておけ。

 着いた先で見たものは、確かにたくさんの猫。
 だがしかし、その半数が大怪我をしてのびていた。

「なんだ、これは」
 思わず呟いた。
 そんなことより、さくらは!?
 辺りを見まわすと、見なれた真っ黒な猫がいた。
 さくらだ。別の猫と戦っているらしい。

「どっちが勝つかな」
 何をのんきなことを言っている。早くなんとかせねば!
 走って近付いた時、さくらが大きく跳んだ。
 自分より一回りも二回りも大きな野良猫に向かう姿は、無謀でしかない。

 俺は遅かったと思わずその場に座りこんだ。
 だが、俺も京も、まさかその後あんなことが起きるとは思ってもみなかった。

「うそ・・・」
 京が呟いた。
 俺は言葉も出ない。
 

 跳んできたさくらに反撃をしようとしたのか、野良猫が態勢を整えた。
 そして、確かにさくらは反撃された。小さな体が後方に飛んで。 
 地面に叩きつけられる瞬間、さくらは身を翻し、見事に着地した。

 しかしそれだけではなかった。着地した瞬間、猛スピードで走りだし、
野良猫の首に噛みついたのだ。

 当然野良猫は抵抗を試みるが、さくらは離れない。それどころか余計に
噛みついて、野良猫に悲鳴を上げさせる。
 暫くしてさくらが離れると、野良猫は耳を伏せて逃げ出した。

 その見事なこと。
 たった3分のできごとだった。

「さくら…?」
 バカみたいにボーッとしていた俺は、ようやく思い出したように桜の名を呼んだ。
 さくらは俺に気付くと、甘えるような声で擦り寄ってくる。その体は、傷だらけ
だった。

 その体を抱き上げて、辺りを見まわせば。
 先ほどまで気絶していたはずの野良猫たちが、さくらを見ていた。

 その視線。
 新たなリーダーを歓迎するような……、尊敬と期待の眼差し。
 まさか。
 京もそれに気付いたのか、変な顔をしていた。

「なあ、まさかこいつ…この辺のボスとか……」
 俺が不安に思っていたことをサラリと口にする。

 子猫のくせに、この辺のボスだなど。
 メス猫なのに、この辺のどんな猫より強いなど。

「京…貴様のせいだ」
 毎日毎日、貴様とケンカをしていたせいだ。
 その声が聞こえなかったのか、京はのんきにこう言った。

「いやー、こんだけ強いと嫁の貰い手がねーんじゃねぇ?」

 こ…この男……。
「貴様のせいだぁぁぁぁぁぁぁっ!! この馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!
(怒)」
 俺が何に怒っているか分からず唖然としていた京に、俺の裏参百拾壱式 析爪櫛が
綺麗に決まった。

END

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<めそさんのコメント>

 最強猫誕生。しかも子猫でメス猫。
 そして庵さんが親バカ。京は人としてどうかと……。
 もちろんバイク乗ったまま突っ切ってます。
 このあと京は人としての常識を叩きこまれたんでしょうねぇ。

最後に 
 さくらは庵さんにはご主人様として懐いてます。でも京は遊び相手でしかない……。

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しらす:さくら、あねさん〜〜v庵はもっとこう、上品で優雅なメスに育ってほしかったんですねv
いやしかし、ちょーーーっとだけ庵のせいでも…。(げフ)
ことごとく期待を裏切り、ボスとなったさくらに拍手!(すな!)