習慣―――――めそ様


「っぎゃあああぁぁぁぁっっっ!!」

 突然の庵の悲鳴に、俺は慌てて脱衣所から飛び出した。
 怯えの混じった、聞いたことのない悲鳴に、何があったのか不安になる。

「どうした庵っ!」
 リビングに飛び込むと、庵が抱きついてきた。
「京っ、さくらが、さくらがっっ」

 それだけ言うと、腰が抜けたのか、しゃがみ込んでしまった。
 さくらに何があったというのだろう。庵が腰を抜かすくらいだから……。

 まさかな…。
 俺はさくらがいる台所へ向かった。
 台所に恐る恐る足を踏み入れると、さくらが俺を見て一声鳴いた。
 いつもと変わらない様子に、一体庵は何を見たのだろうと思って近付く。 

 その時、さくらが誇らしげに何かを見せてきた。
 黒茶色の、大きくて足が6本あって触角がある、何か。

 これは、一般の家庭で最も嫌われ、繁殖力も強く、
古代からずっと地球上に生息していると言われている、
虫と書くより、蟲と書きたくなるような、害虫の中の害虫。
 キング・オブ・害虫、ゴキブリ様だった。

「ゴキブリ…?」
 その大きさ、艶、形、油の乗り、どれをとってもゴキブリの王様としか
言いようがないくらいデカイ。
 あれだ、クワガタならオオクワガタ、バッタならトノサマバッタ。
とにかくそんなヤツ。

 庵はこれを見て腰を抜かしたらしい。

「散歩に行っていてな……帰って来た気配がしたから玄関を開けてやったら……」
 これを咥えて帰ってきたのだという。

 そういやなんかのテレビで言ってたな。猫は捕らえた獲物を飼い主に見せるって。
んで、誉めてもらおうとするんだと。
 でも、さすがにこんなの咥えて帰ってきたら、誉めらんねーよなあ。
 んなことよりも。

「大丈夫かよ、お前」
 まだ顔色が悪い。
 あーんなに可愛がってたさくらにも、触ろうとしない。

 いつもなら、散歩から帰って来たら必ず背を撫でてくれる庵が、今日に限って触れ
ようとしないもんだから、さくらも不思議がっている。

 それに庵が気付いた。
 撫でてやろうと手を伸ばし、さくらがそれに気付いて近付くと。
 恐る恐る撫でた。
 だからさくらもいつものように、庵の手の甲を舐める。

 ……舐める…?
「……………あ」
 更に顔色の悪くなった庵が、洗面所に向かって駆け出した。

 情事の後で、何でゴキブリが嫌いなのか庵に聞いてみた。
 まあ、好きな奴もいないだろーけど。

「……八神家にはあんな生き物いなかった」
 だろーなぁ。庵の妹、体弱いし。
 ゴキブリなんて病原菌の塊みたいなのって、問答無用で排除されてたんだな。
 きっとハエとか蚊とかもいないんだろーな。

「だいたい何であんな生き物がこの世に存在しているんだ。
あんなの、百害あって一利なしじゃないか」
 確かに。
 きっと、この日本の大部分の人間が庵と同じこと考えてるんだろう。

 そんなことを考えていたら、庵がぎゅっと俺にしがみついてきた。
「庵……?」
 いつもなら絶対にこんなことしない。
 嬉しいけど不思議に思っていたら。

「…あれが夢に出てくるかもしれないから……」
 あー、そういうこと。
 夢に出てくるのも嫌だなんて、可愛い〜〜〜〜vv

「なら出てこないように、俺が守ってやるよ」
「ん…」
 俺の胸に頭を預けるように擦り寄ってくる庵がもー、めちゃくちゃ可愛くて。
 ぎゅっと抱きしめてやれば、庵は安心したように目を閉じた。

END

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<めそさんのコメント>

 ゴキブリすら京庵のラブラブ材料にする俺に乾杯!!!
 もう、女を捨ててるよ。(泣)
 最初は、トカゲにしようかと思ってたけど、
トカゲを怖がる庵さんもねぇ(だってオロチって蛇じゃん)。 
 と思って、ゴキブリにしました。
(でも夢に出てくるのを怖がるのもどうかと…いや、確かに私も出てきたら嫌だけど)
 それと、京は風呂から上がって服を着ていたときに、庵さんの悲鳴を聞いたんですよ。
 って最後に説明するな。ぬうぅ。
 ビバ! 京庵!!(もうヤケ)


最後に

 次の日庵さんはきっと、嫌がるさくらを押さえつけ、ムリヤリ歯磨きしたんでしょ
うな。
 ところで今、夕焼けがめちゃめちゃ綺麗です。
 夕焼けと庵さん……想像するととてもイイ〜〜〜vvvv

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しらす:………〜〜〜〜〜〜っ!!!(庵の可愛さに声にならない声)。
ビバ、さくら!!!!そして、ゴッキー様!!!!!
デカイのは勘弁だけど、普通サイズなら、見なれているので(それってどーよ…)
見るだけなら大丈夫です!!
幼虫系のほうが苦手です、私!!マジで夢に見ます!!
っていうか、夢になんか見たら死にます。
よし、さくら!!ゴキ様捕まえておいで!!なんなら、家にでも!!

 

続・習慣

 

 学校帰り、さくらに出会った。

「待て、お前その口に咥えてるモンを寄越せ」
 ああ? 猫相手に何カツアゲしてんだ、だと?
 カツアゲじゃねぇ! 

 こいつ最近いーっつもゴキブリ咥えて帰ってくるんだよ!!
 庵はゴキブリが嫌い、というか、ゴキブリを怖がるから、
こんなん持って帰らせたら、また悲鳴上げて腰抜かすじゃねーか!!

 だからいつも俺がこうやって、愛する庵のために処分してやってんだ。
 だけどこいつはそんなこと知らないから、獲物を横取りする敵としか思ってねぇ。
 くそーっ、これだから人間の言葉が分からない奴は困るんだ。

「ああ、待てっ!! それ持って帰んな!!」
 俺を無視して素通りしようとしたさくらの前に立ちはだかる。

 さくらが耳を伏せて、敵意をあらわした。
 ちょっと殺気入ってる。……こいつもしかして庵に惚れてんじゃねーだろーなー。
 いくらお前でも、いや、お前だからこそ庵は渡せねぇ。
 さくらが身を低くして跳びかかる態勢に入った。
 やる気かよ…。おもしれぇ、やってやろーじゃねーか!!

「いくぜ!!」
 

 今日も何とか俺が勝ったぜ。

 猫相手に何とか、ってのも間抜けだけどな。
 でも仕方ねーじゃん。庵はさくらを大切にしてるし、怪我させたら絶対悲しむ。
 だから、怪我させないように細心の注意を払って戦ってんだぜ?
 KОFで戦うより分が悪い。

 それにこいつ、並みの猫じゃねーんだよ。
 まだ子猫のくせしやがって、ここら一帯のボスだし(しかもメスなんだよ!)。
 最近俺と毎日戦ってるから、また腕上げてやがるし。

 ま、何回やっても、俺が勝つけどな。
 じゃ、家に帰るか。

 帰って来た俺を迎えたのは、庵の怒鳴り声だった。
「貴様あれだけ言っても分からんのか!!」
 な…なにが?
「公園の中をバイクで突っ切るな―――――っっっ!!」

END

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<めそさんのコメント>

 庵さんは何も知らずに平和に日々を過ごしている。
 けれどその裏で京の血の滲むような(実際血の滲んでいる)戦いがある。
 庵のために頑張ってんのに、怒られる京が可哀想…。
 でも自業自得っス。
 公園の中バイクで突っ切ったら怒られるに決まってます。

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しらす:(内なるしらす:…ちっ!さくら、なんとか京の目をかいくぐるのだ!!)
いやあ、ダーリンの心、ハニー知らずですね。
ん?語呂が悪い。(そこはたいした問題じゃない)