「あ!プロだ。プロが来た!」 なんだか重装備のおじさんが大声で叫んだ。 (さすが有名スポットなんだなぁ。プロが来てるんだ・・・。) 僕は辺りをキョロキョロと見回す。 (でもそれっぽい人なんていないぞ。(^-^;) 周りはどう見ても観光客らしき人、アベックそしてハイアマチュアのカメラマンの列。 大声を上げたおじさんの方に訝しげな視線を送ってみる・・・目と目が合う・・・。 「ね!プロなんでしょ?」 「はぁ???僕のことですか?全然違いますよ!」 (何をどう見たら僕がプロに見えるのだ???(^-^;) 「だってすごいレンズ使ってるじゃない。」 「あ〜これですか。はずみで買ってしまっただけですよ。(笑)」 (確かにこのレンズは目立つけどなぁ。(^-^;) とおじさんの機材に目を向けると・・・ ブロニカの中判カメラにジッツオの三脚。 「おじさんの方がよっぽどプロの機材じゃないですか!」 「私はただの写真好きだよ。(笑)」 この奇妙な二人の会話にいつしか観光客がとりまき始めた。 (というか、このおじさん声がデカ過ぎ。(^-^;) 「プロの方なんですか?」 「違います!プロはこの人の方です!(^-^;」 「プロの方なんですか?」 「プロはそっちの若い方だよ(笑)」 これはもう完全に掛け合い漫才のノリである。(笑) とその時、丘の上にある樹の側に一人の若者がはしゃぎながらおどけた仕草で歩いていった。 「もうちょっと情緒のある歩き方なら被写体にしてあげるのに。」 僕は笑いながらその姿につぶやいた。 「よし!私が被写体になる。悪いが君このシャッターを切ってくれ。」 「本当に?いいですけど。」 そしておじさんは威勢良く丘を登って行った。 (おー!なんだかわからん流れだが中判に初めて触れる絶好の機会だぞ!(^-^) ) 僕はドキドキしながらファインダーを覗き込む。 (やっぱりこれは僕のカメラとは別次元だ。このクリアな像。ピントのヤマがきっちりわかる! いつかこんなカメラを使ってみたい!) 僕はおじさんが樹の側に来るのをじっと待った・・・。が・・・来ない。来ない。来ない。 しばらくすると 「お〜い!撮れたかぁ?」と訊きながらおじさんは丘を降りてきた。 「ダメ〜!画角に入ってないよ〜!もっと近づかなきゃダメです!」 「そうかそうか!もう一回行くぞ〜!」 そばで様子を見ていた観光客達も大笑い。 「今日は焼けないかもなぁ。」 丘から降りてきたおじさんがポツリとつぶやく。 「確かに夕焼けにはなりそうもないですね。でも残照がありますよ。」 「残照か。そうかそれはあるかもしれないな。いやプロが言うんだから間違いない!」 (だからプロじゃないってば。(^-^;) 残照とは太陽が沈みきった後に空が染まる現象で、その色合いは夕焼けよりも劇的なものが多い。 今日は内心確信があった。太陽が沈んでいった真逆の方向、つまり東の空に浮かぶ雲がうっすらと赤く 染まっているのをこの時確認していたからだ。 「プロを信じてもう少し待つとするか。」 (意外にしつこいな。このおじさん。(^-^;) おじさんは旭川在住らしい。この辺りはよく撮影に来ていて、今度個展を開くんだと言って招待状を一枚僕に差し出した。 「暇があったら来てくれよ。誰も来てくれなかったら淋しいし。(笑)」 「え?いいんですか?必ず行きます!」 (今、このこぼれ話を書きながら思い出した。「必ず行きます!」なんて調子いいこと言っておいて多忙で行ってない・・・。(^-^;) 写真の話をあれこれしながらいつ来るともわからない残照の時を僕達は待った。 プルルルッ・・・プルルルッ・・・ 突然おじさんの携帯電話が鳴った。 「・・・おおそうか。着いたか。じゃあ切り上げて帰るよ・・・」 短い会話を終え、おじさんは残念そうに切り出した。 「今日東京から親戚が来てるんだ。残念だが切り上げるよ。」 「そうですか。残念ですね。でもおじさんはいつでもまた撮りに来れるじゃないですか。」 「そうだな。また日を改めて来るとしよう。私の分まで撮ってくれ。」 「残照になるかどうかも怪しいもんですよ。(笑)」 おじさんは機材の撤収を進めながら、何度か名残惜しげに空を見上げる。そして全ての機材を車に積み終えると 「それでは健闘を祈る!」 「またどこかでお会いしましょう!」 軽く手を振り、おじさんの車を見送った。 「さてと・・・本当に染まるかな・・・」 辺りはもう夕暮れとは言えないくらいの明るさになってきた。先ほどまでいたはずの観光客の一団もいつの間にかいなくなっている。 僕はファインダーを再度確認し、ただじっと空の色が変わる瞬間を信じて待ち続けた。美瑛のように山に囲まれた 土地では日没からかなり時間をおいて残照が出る。いや出るはず・・・。 「今日はダメかなぁ・・・」 もうあきらめかけたその時、ゆっくりと空に赤みが差してきた。 「来た!」 僕はほぼ等間隔でシャッターを切り続ける。 ロゼワインを空にこぼしたような綺麗なピンクから、やがて搾り立てのオレンジのような色合いに 刻々と変化してゆく。 完熟のオレンジ色から夕闇に変わるまでほんの数分。 最後のワンカットを撮りきると空は完全な夜の顔になっていた。 「おじさん・・・。綺麗な残照だったよ。」 そう小声で言って、僕は帰り支度を始めた。 |
撮影データ | |
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Body | Canon EOS-55 |
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Lens | Canon EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM 400mm付近 |
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Exposure | 絞り優先AE F16 |
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Film | FUJICHROME PROVIA100F(RDP3) ISO 100 |
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Filter | Kenko MC UV |
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etc | 三脚使用 |
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