陽は傾き、やがて辺りを赤く染め始める。 水田に赤く反射した空があまりにも奇麗で、私は反射的に車を脇道に滑り込ませた。 狭い畦道では三脚を立てるスペースは無さそうである。手ブレギリギリのシャッタースピードしか 出ないがそれもいたしかたない。慎重にシャッターを切っていく。とその時。 「そんなとこで何してんだー?」 一瞬ドキリとして後ろを振り返る。 私の車の前に軽トラが一台。運転席から麦藁帽のおじさんがこちらに話しかけてきた。 「あ!邪魔ですよね?すぐどけますからー。」 私はあわてて車の方に引き返そうとすると 「邪魔にはなんねーけど、うちの田んぼで何してるんだ?」 「勝手にお邪魔してすいません。夕日が奇麗だったので写真を撮らせてもらってました。」 私はペコリと頭を下げ、丁重に謝罪する。悪気は無くとも勝手に入っているのだから私は立派な不審者だ。 「こんな暗くなってるのに写るのか?もっと明るい時に来れば良かったのに。」 私が写真を撮っているだけだとわかるとおじさんは人なつっこい笑顔を見せてくれた。私はホッとした。その笑顔は無言の了解を頂けたということであろう。 「そうですね。ちょっと暗いですね。」 私も笑いながら答えた。 (おじさん違うんだなぁ。この光だからこそ僕は車を止めたんだよ。) だけどおじさんにとってそんなことはどうでもいいことだろう。 おじさんはどうやら水田の水位調整に来たらしい。なにやら水門の辺りで作業を始めた。すると水位が下がってやや地面がむき出しになって いた辺りに水がじわりじわりと迫ってきた。それは音もなく不規則なラインを描きながら。 (この景色も明日は違う景色になるんだな。) そう思った瞬間、僕はもう一度シャッターを切った。 数分もすると残照に赤く染まった空が真四角の水鏡に映っていた。 |
撮影データ | |
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Body | Canon EOS-55 |
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Lens | SIGMA 17-35mm F2.8-4EX 17mm付近 |
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Exposure | 評価測光 絞り優先 F16 1/6 +0.5 |
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Film | FUJICHROME PROVIA100F(RDP3) ISO 100 |
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Filter | |
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etc | 手持ち |
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