星蒼矢さんの作品です。
歴史上のある出来事をベースに忠実に書いたそうなんですが
なにが元なのかわかりますか?
わかった方は掲示板かメールに書いてね〜。


  幻の玉座

 今より、遥かに昔。人々に神々の力があった時代のできごとである。
「ザナス。この国はどうなるだろうか…?」
「わかりませぬ。あの落ちついた先王と、かの摂政トバ殿がなくなられてからこの国の政は乱れる一方です」
  彼らはときおり、遥か西方より学問を学んだ巧妙な高司祭の元で学業を治めた帰り道にこのような会話をしていた。
 一人は王族の男アルス。もう一人は高級貴族のザナスである。彼らはともに学業に励んだ級友であった。
「ザナス。どうだろう?俺と共にこの国を治めぬか?」
「この国を?…ですか?」
「そうだ。前王であった父はルサイド家の人形も同然だった。それに母レイも形だけ女王を名乗ってはいるが、実際にはルサイド家の長、ディルがその実権の全てを握っている」
  ザナスは考えこんだ。しかも、かのルサイド家は確かに有能だが彼らに国の未来を任せるにはいささか問題がありすぎたのだ。
「今、我々が学んでいることはなんだ?遠くに異国の地ではすでに人々は天子たる王の元に集い、神より授かった地と民によって政を成していると聞くではないか。それが考えてみろ、今ルサイド家が行っていることは彼ら自身の私利私欲のための政ではないか」
「しかし、いずれにしろ、容易ではありますまい。しかし、アルス殿がそこまでお考えな ら、このザナスお力になりましょうぞ」
 翌朝、宮廷から出廷の知らせが入り、二人は円卓の間に座していた。
「しかし…」
  アルスは今回の出廷の理由がディルの息子であるルディーへの官位の授与の公表であると知って半ば呆れていたのである。ルディーが無能者でないことは重々承知していた。しか し、彼に与えられる宗位という高さは頂けないのである。位は餐・宗・朝・将・士の順で 高いから彼の位はかなりのものである。
「ルディーは有能だが、国を背負う器ではない」
  それが、アルスとザナスに共通する結論だった。
「ザナス。この国を支えるに良き人が一人いる。是非とも君に紹介したいんだが…」
「父トバは確かにルサイドの出身ではあるが、もっと広い目で世の中を見ていた。遠く異国の政を学び、この国の将来を憂えていたようだ。私は、そんな父の意思を継ぎたい…」
  ルディーが宗の位を受けてから数ヶ月後、アルスとザナスはかの聖人トバの息子シャーク との密会を繰り返していた。
「シャークどのが王になられればなんと良いことか…」
  二人はそう考えていた。が、それがまた容易でないこともわかっていた。
  第一に現在の女王が退位した後に、ルサイド家はほぼ間違いなくルサイド家に血の深いドラクを国王に推すに違いない。もし、王族とルサイド家の血が途絶えなければ、ルサイド家、一家による政は数年代に及んで繰り返されることになるはずである。ルサイド家のねらいがそこにあることは明白だった。
 二人は例によってシャークとの密会の帰り道にそのことについて話していた。
「くっ」
  しかし、二人の会話が僅かにとぎれたまさにその時、アルスの袖を一本の矢がかすめた。
「黒塗りの…。暗殺者か?」
と、半刻と間を置かずに三人の黒装束が闇の中に踊り出た。
「ルサイドのものか」
  ザナスは剣を抜きつつそう尋ねた。もとより、答えがあるはずがない。
「ザナス。これは手ごわいぞ。死ぬなよ…」
  音もなく、まさしく音もなく刺客は切りかかった。力量でも、数でもアルス達は分が悪いと見て良い。
「ザナス!」
   アルスが叫ぶとザナスは頷いた。それを合図にアルスが一人に切りかかる。敵はそれを受け止めもう一人がアルスを狙う。最後の一人がザナスの相手だった。ザナスは目の前に切りかかる敵の攻撃を受け流すと体制を崩した敵の足を払って走りだした。
 一方アルスは後ろから切りかかるタイミングにあわせて半ばさばきながら身を屈めた。 勢いあまった後ろの敵とよろめいた前の敵とが互いにぶつかり合っている。アルスもその場を走り去った。
「深追いはしてこないか…」
  アルスはふと、足をとめた。彼らが何故追ってこないのか。その理由に思い立ったからだ。
「まさか…」
  それからしばらくした後、二人は崩れ落ちるシャークの邸宅を見ていた。あの刺客はつま り、念押のための足止めであったのだ…。
「俺は、俺はこの手でこの国を変える。これ以上ルサイド家の好きにさせるわけにはいかぬ」
  アルス若干十七歳の決意であった。


  二年後…。

「いいか、よろしく頼むぞ」
  アルスは明日の献物の日をその日に定めた。そのためにルサイド家に密偵であるネイアを送った。幾人かの刺客もつけた。この二年間の全てがここに収斂され、今後の全てが、ここ、この日からはじまるのである。
 そして、彼らは献物の席へと登場することになる。この日は異国の品を王に献上する日であってほぼ一同が席についていた。
 今回の献上者はかのルディーである。それが目標だった。
「ふぅ…ふぅ…」
  物陰に隠れて機をうかがっていた兵は自らの心臓が弾けてしまいそうなのを感じていた。 献上のために彼が膝をついた瞬間がチャンスだった。刻一刻と時は過ぎ、兵が手に汗がじ っとりと流れた…。
 彼は自らの手で国をかえて行くことの重大さに、身体が震えるのを感じていた。そして、 ある意味で、自らの運命を呪いさえしたものである。
「今だ…」
  アルスが心中で呟いたとき。後ろの物陰で音がした。例の兵が胸を押さえて倒れている…。 全員の視線がそこに集まった。
「覚悟!」
  アルスはその一刹那をのがさじと自らの剣をルディーに向けた。
 アルスのルディー殺害の事件はたちまちの内に王都中に広まった。ルサイド家の横暴に 内心反対していた者にとってこれは吉報であった。そして、事件の翌日ルディーの父であり、ルサイド家の長、ディルが自宅に火を放って自害したことでルサイド家は滅亡した。
 それに伴って翌朝、アルスの母、女王レイは退位し、かわってアルスの叔父であるザク レイドが国王となった。同時にアルスは摂政王子の位についたのである。
「ザナスよ。これからは俺達の時代だ。俺達が新しい国を作って行くのだ。道のりは楽ではなさそうだが、共に歩もう…」
  かくして、この国の新たな歴史が刻まれたのである。

あとがき

 短くまとめるのに苦労しましたし、今回はこれを書くのに随分勉強しました。
 この物語はあるものをベースに、というか、ほとんどそのも のを忠実に描いた。
  もし、これを読んで僕が何を描いたのかおわかりになりましたら、 [sshibata@po.across.or.jp]の星蒼矢までご一報のほどを…。
  では、ご意見、ご感想も、おまちしております。ヒントは「歴史」です。



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2000.04.16


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