EDENes
第3章 WWM
と高校生
(1)

作者様
禍因 さん
掲載日
2000.09.16

 

『─────では次のニュースです。今日午後0時30分、K県の高校で発砲事件がありました。事件があったのはK市の公立高校で、犯人の男は生徒に対して発砲。これにより同高校の女子生徒1名が死亡、男子生徒1名が重傷を負いました。また、男から奪い取った拳銃を3名の男子生徒が誤射し、更に男子生徒1名が意識不明の重体となっています。 男は高校の男性職員によって取り押さえられ、障害並びに銃刀法違反の現行犯で逮捕されました。K県警は被害者の証言と、これまでに目撃されたWWMのエージェントのリストに男と顔が合致するものがあることを確認したことにより、男をエージェントと推定していますが、WWMのエージェントが何故日本の公立高校で発砲したのかはまだ分かってい ません』
『まあ、死亡者1名ってことでテロ行為とは思えないんですよね。元々WWMというのはエージェントの能力が非常に高い事で有名でしたから、リストに載っているほどのエージェントが何故一般人にとり抑えられたのかという所にも疑問を感じるわけですが……それにしても何で高校なんでしょうかね?』
『一応私の考えとしてはですね、今までWWMというのは必ずと言っていい程人の多い場所を狙ってきたわけですよ。そう考えると案外平日の高校というのはWWMにとっては狙い目かもしれないということなんですね。ただ、今S田さんが言った通り何でWWMのエージェントともあろうものが、言い方は悪いですけどたった1人しか殺せなかったのか。 何で一般人に取り押さえられたのか。となると本当にWWMなのか怪しいですよね』
『そうですよね。それよりもこの拳銃を誤射した男子生徒というのがなんだか恐ろしいですよね。まあこの事件は警察の今後の捜査を待つしかないかもしれません。ではここで一旦お知らせ、その後はスポーツです』

 

「─────本当に『神威』の存在を知っていたんだな?」
「はい。母さんが残った『神威』を今でも抑えているとも言ってました」
「そうか……真奈が……」
「『神威』を知っているのは俺と、お前と、WWMと、本当に今も生きているなら真奈と。 それだけだ。お前を襲ったのは間違いなくWWMだろう。……真奈の選択は正しかったようだな」
「選択?」
「お前を俺のところに送ってきた事だ。実戦剣術をお前に教えておいて正解だったな。……しかし腕に1発食らっただけで貧血とは情けない」
「いや……最近体脂肪率が上がってて……体を絞ってまして……」
「全く、危うく『神威』が発動したから助かったが……本当ならお前はWWMにさらわれてるぞ」
「はあ……気を付けます」
「それで……その後『神威』はどうなんだ?新たに何か発現したのか?」
「いえ、何も……ただ……」
「ただ、何だ」
「……何となく、気分が高揚しているような気が……」
「『神威』には麻薬性があるとでも……?」
「いえ、そういうものではなくて……こう、清々しさのようなものを感じるんです」
「ふむ……まあ『神威』については我々は無知も同然だからな。これからどの様に発現していくのか見当も付かん。─────お前は今の状態ではいられなくなるかもしれん」
「そのような事……母さんに『神威』を与えられたときから覚悟の上です」
「……そんな責任を代々担ってきたのだ。血というのも時として残酷だな」
「俺は桐嶋の血を呪ったことはありませんよ」
「今まではな。だがこれからどうなるかは分からんだろう?」
「………」

「取り敢えず、これからはこれを持っていろ」
「……? これは?」
「わが的場家に伝わる霊刀、阿修羅(アスラ)だ。刀に込められた霊力によって決して刃こぼれする事のない刀だと言われている。……真剣を持てぱ、お前ならWWMを退けるく らいの事はできるだろう……」
「………」

 

「バーナード。ムラサメが逮捕されたそうだな」
「は、そうであります」
「ムラサメほどの男がどうしたんだ?」
「は、ムラサメさんは今回の任務の後はバカンスの予定だったらしく、日本に到着してすぐに任務に就いたため……」
「時差ポケか」
「は、そうであります」
「阿呆が……相手を見くびるからそうなる。貴様も肝に銘じておけよ」
「は、お言葉ですが自分はそのようなことは当然だと思っております」
「だんだん忘れていくものだよ。そういう事は……」
「しかも実弾を使ったらしいな」
「は、自分は命令通り麻酔弾を渡したのですが『急所は撃たないから大丈夫だ』と言って……」
「阿呆が……麻酔禅を胸にでも撃っておけば一発で終わったものを……。それで、『神威』 の少年は?」
「は、ムラサメさんに高校の周囲を囲めるよう命令されて自分は校門前で待機していたのですが警察が来てしまったため撤退しました。そのため的場冬夜は確保できていません」
「全く、油断大敵とはまさにこのことだな。大方1人で十分と踏んだんだろう。元々単独行動が好きな奴だったからな。まあ、一緒にいたのが貴様ら新人ばかりだったということもあるかもしれんが」
「は、申し訳ありません」
「貴様が気にする必要はない。貴様らへの命令を誤ったムラサメが悪いのだ。やつにはせいぜい1人で檻から逃げてきてもらおう」
「は……」
「(しかしいくら油断に油断を重ねたにしてもあのムラサメがあんなヘマをやる……。と すると『神威』の発動に少なからず動揺したと考えるべきか……?アレが目覚めたとなると攻め方を少し考えないといけないな……)」

 

「おー、眺めのいいところだなあ。……なのに君はとっても場違いなシケた顔」
「うるせーな。ベッドの上で夏休みに突入なんて最悪じゃねーか。そりゃシケた顔にもなるっつーの」
  ……まあ、生きていただけラッキーなんだけど。 あのとき裕嗣に当たってしまった弾丸は左側の背中を直撃していた。誰もがこれは助からないと考えていたのだが辛うじて弾が心臓から逸れていたので一命を取り止めたのである。一命を取り止めたのであるが、その代償として最低1か月の入院生活を余儀なくされてしまったのである。今日は入院生活4日目の日曜日。
「あ、これ、昨日できた新曲。聴いといて」
「新曲って言われても俺はあと1か月はドラム叩けないんだぞ」
「まあまあ、入院してる間にイメージ膨らませといてよ。それに、たまにはお前に歌詞も書いてもらいたいんだよ」
「……マジかよ」 そう言って見舞い客、佐々木試樹は裕目に1枚のMDを千渡した。青いMDに張られた ラベルには「タイトル未定」と少々癖のある字で書かれている。どうやら本気で裕議に歌 詞を書かせるつもりらしい。 「柳に書かせりゃいいじゃん」 「アイツが言い出したんだよ。たまには他の奴が書くのもおもしろいんじゃないかってさ」 「じゃお前が書けよ」 「俺が歌詞書けないの、こないだのでわかったっしょ?」 「まあ、な……」 試樹は文化祭の前に作った曲に詞を付けられず、結局その曲は未だに発表されていない のだ。ボーカルの柳が付けた詞によって取り敢えず現段階では完成しているが裕目の怪我 によって夏休みに計画されていたライプは中止になる可能性もあり、日の目を見るのはい つになるのか……。 「亜姫と綾は?」 「断られた。それにあいつらは多分無理だよ。ウチのバンドで詞が害けそうなのって柳か お前だけなんだよな」 亜姫はギター、紅一点の綾はベース、そして誠樹がギター担当。これに柳と裕最が加わ って鈴鳴高校最強とも噂されるバンド、LORELEY(ローレライ)となるのだ。 LORELEY自体は裕最と誠樹が中学校時代から組んでいたバンドで、高校に入って すぐに軽音部で残りの3人と出会って新たに結成されたのが今のLORELEYである。 結成3か月でステージに立ち、オリジナル曲もそのとき既に2曲あり、圧倒的な演奏力と 歌唱力で他のバンドを圧倒し、l年生ながら既に最強と呼ぱれるほどの驚異的なバンドだ。 ちなみに亜姫というのは男で、本名だ。女のような名前だが意外に本人は気に入っている らしい。ただよく「姫ちゃん」と呼ぱれるのが酷く腹が立つのだそうだ。まあ、本人もき れいな顔をしていて、結構ヴィジュアル系な人なので仕方のないことかもしれないが。 「…一分かった。考えとく」 「そう言ってくれると助かるよ。そんじやな」 「なんだ。もう掃んのかよ」 「ハハハ。さっさと掃ってギターの練習でもしてるよ」 誠樹は今は裕目の偶室のドアの前でもう1度軽く手を振って出ていった。 背中の怪我のせいでろくに体を動かす事もできず、上体を起こすのも辛いためゲームも できないので退屈極まりない。誠樹の訪間はまさに退屈凌ぎにはもってこいだったのだが、 まさか10分にも満たない滞在時間で掃ってしまうとは……。友達甲斐のない男である。 今日から一般病棟に移されたのだが、まさかl日中ベッドの上で寝転がっている事がこ れほど退屈だとは恩わなかった。せっかくの個室なのだが、体も動かせず客もいないので は返って退屈さに拍車を掛けているようでもある。確かに景色はいい。窓の外には青く澄 


続く


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