LastSurvivor(11)
第一章 脱出
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国境警備船の襲撃から約1週間が経過した。襲撃以来なぜか船酔いがなくなり、特にこれと言った問題もなく、船は順調に進んでいた。国境警備船が追跡してくる様子もなく、あと2日ほどで大陸に着く、というところまで船は進んでいた。
警備船の襲撃によって船の一部が破損したが、被害に特に深刻な所はなく、壁の穴などを補強したり窓ガラスを張り替える程度の修復で済んだ。計器や船の性能にも問題はない。水や燃料が漏れることもなく、とりあえず一安心だった。
航海は順調に進んでいたが、強いてひとつ問題を挙げるとすると、さすがに出発して丸一週間もずっと船の上にいると「ヒマ」。
船酔いが再発してはまずいので本を読んだりすることは出来ないし、外に出たところで周囲は見渡す限りの水平線。これといってやることがないのはつらい。クリシアはクリシアで本を読んだり、薬を引っ張り出して手入れしているので話しもできない。ミシガンは操縦席で計器とにらめっこだ。
うーむ。何かやることは無いか。ここ一週間、なんどこのことを考えたかは分からないが、とにかくヒマだった。とはいえ、あと2日あまりで大陸まで着くのだから、それまでの辛抱だ。大陸での新生活を考えると、なんだかワクワクしてくる。
ヒマを持て余しているうちに、空がだんだんと暗くなっていった。俺とクリシアは夕食の支度をはじめる。フルーツや野菜といった生鮮食品が尽きてきたため、塩漬け肉や缶詰などの保存食が中心になる。今日はフンパツして塩漬け肉を焼いてステーキを作った。
食事の時間が、船の上では一番の楽しみだ。3人で雑談や今後の計画などを話しながら 楽しく食事をする。
で、今日も楽しく食卓を3人で囲んでいたのた。食事をしながらもミシガンがこんな話題を出した。
「…いよいよ、あさって…、実質あと32時間ぐらいで大陸に着く計算だけど、大陸に着いたら最初に何をしたい?」
うーむ。どうだろう。とりあえずまずはミシガンの叔父さんと連絡をとるところからだろうか?
「私はまず、どこでもいいからセロウェ政府が国外移住を禁止していることを伝えたいな。」
クリシアが俺より先に口を開いた。そこに、ミシガンの突っ込みが入る。
「それはやめた方が言いと思う。」
「え?どうして?」
ミシガンがちょっとまじめな顔になった。
「そうしたい気持ちはわかるけど、仮にそのことが大陸各国の政府に伝わったとしたら、その政府はどういう対応をとると思う?セロウェに圧力をかけると思わないか?」
…たしかに。そうなるとセロウェに残っている俺達の両親や他の住民に負担がかかる。最悪の場合、武力行使か、食料の供給を断たれてしまうかもしれない。
「でも、私達がこのことを伝えなきゃ、セロウェの状態はいつまでたっても変わらないわよ?」
「それはそうだ。いずれこのことは伝える必要があるだろうけど、実行するにはある程度時間が要る。どちらにしろ、そのときはセロウェが崩壊する時だろうけど…。人口がこれ以上減れば、セロウェはもう国として成り立たなくなってしまうかも知れないしね。」
…セロウェの崩壊…か。まぁ、いっそのことあんな腐った国は無くなってしまうほうがいいのかも知れないが…。
だんだんと夜もふけてきて、そろそろ眠くなってきた。ミシガンは着疲れが溜まっていたのだろうか、船を自動操縦にしてすでに眠っていた。クリシアも本をよみながら、うつらうつらしていた。俺はとりあえず、洗面所に行って、歯を磨き始めた。歯磨きとはいえ、
水の無駄遣いは禁物だ。海の上ではも何事にも節水が基本なのである。
歯を磨きながら、洗面所の窓からボーっと外を眺める。当然、外は真っ暗で何も見えない。ただエンジンの音と海の音が聞こえるだけだったが、なんとなく窓の外を眺めていた。
すると…。
「あれ…?おかしいな。なんだろう、あの光は…。」
はるか遠くにぼおっと光が見える。一瞬、国境警備船かと思ったが、どうも違うらしい。それは一点にとどまっていて、動いているような気配はない。目を凝らしてみてみると、いくつかの小さな光の集合体らしきものだった。
その光をじーっと凝視していると、やがてその光は消えてしまった。何かに隠れたような気もするが…。
(なんだ…?)
外の様子を探ろうとして、窓に顔を近づけたその時に、俺は窓に自分の顔を思いっきりぶつけてしまった。
…いや、別にすっ転んだわけではない。なぜか船が急に止まったからだ。
「…なんだ?おかしいな…?」
妙な状況に気がついてミシガンとクリシアも起きたようだ。ミシガンは計器をまず確認していた。俺は歯ブラシを口に突っ込んだままミシガンの近くへ歩いていった。
「いったいなにがあったんだ、ミシガン?」
「…いや、分からない。まだ燃料は十分にあるし、エンジンも正常に動いている。…どうしたんだろう?」
ミシガンが計器や操作盤をチェックしている後ろで、クリシアがぼそりと言った。
「ねぇ、なんか木みたいなものが見えない?」
その言葉に俺とミシガンは慌てて顔をあげて、正面の窓から外を見た。…確かに、何か木のようなものが見える。…ということは…。
「陸地…か?」
俺は食い入るようにして窓から外を眺めた。木は一本ではない。500メートルぐらい離れたところに、いくつもの木々が立ち並んでいた。そして、船はどうやら、砂浜に流れ着いたらしかった。
ミシガンは、しばらく呆然としていた。多分、ミシガンの目にも同じ光景がうつっているのだろう。しばらくして、ミシガンがこう言った。
「あ…そうか、強制加速をしたときの距離を計算に入れるの忘れてた…。」
………………。
万能のミシガンがとんでもないところでボケを披露してくれた。
「じゃあ、もう大陸に着いたってこと?!」
「ああ、そういうことだ。いや、強制加速でこんなにも時間が短縮されるとは思ってもみなかったなぁ…。」
おいおい、ミシガン。大丈夫か…?…ま、とにかく俺達はついに大陸に到達した、ということか。いよいよ新天地に足を踏み入れることになるのか…!
「ね、ねぇ、ちょっと船から降りてみようよ!」
クリシアの提案に俺とミシガンも頷く。
「よし、記念すべき大陸帰還の第一歩を踏み出そうか!」
俺達は船から下りる準備に取りかかった。
第一章 脱出 完
第2章につづきます。
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