LastSurvivor(2)
第一章 脱出
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あれは4月27日のことだった。窓の外のあわただしい人々の声で、俺は目を覚ました。
「…何の騒ぎだ?」
部屋の窓からはすぐに島の港が見える。人々はそこに集まっていた。何やらセロウェ本島からの連絡船が来て、その周りに人々が集まっているのだが、その表情が尋常ではない。
一体何が起こったのだろうか?
窓からパジャマを着たままで身を乗り出して様子を見ていると、人ごみの中にクリシアとミシガンの姿が見えた。向こうもすぐにこっちに気づいたようで、早く来い、というような仕草をしていた。とりあえずパジャマの上に無理やりシャツとジャケットを着て、ズボンを履いて部屋から出た。
階段を降りて廊下を歩きながら、それぞれの部屋をのぞいたが、父親と母親の姿はない。 すでにあの人ごみの中に混じっているのだろうか。
ただならぬ予感を感じた俺は足早に廊下を通り抜け、靴をつっかけて玄関から外へ飛び出した。
人ごみは玄関のすぐ近くにまで迫っていた。やはり人々の表情は普通ではない。すぐ近くに隣のおじさんがいたが、鬼気迫る表情のためとても様子を聞き出せそうになかった。いつもは絶対あんな表情をしたりしないのに…。
状況を一刻も早く知りたくなった俺は、人ごみをかきわけ、さっきクリシアとミシガンのいたところへと向かった。
「トレイス、ここだ!」
ミシガンの声が近くから聞こえた。振り返ると、ミシガンとクリシアは人ごみから少し外れたところで俺を待っていた。
「一体何の騒ぎなんだ?」
開口一番、俺は尋ねた。
「ああ、大変なことになった。」
そう言ったミシガンの表情もやはり深刻だった。
「どうしよう、あと10日間も持つかしら…。」
クリシアのその半ば独り言のような言葉で、なんとなく状況が読めた。今日は月の最終日曜日で、大陸からの連絡船が物資をセロウェに届にくる日だ。つまり、あと10日ってことは…。
「ひょっとして、連絡船の到着が遅れるのか?」
その俺の言葉にミシガンは深くうなずいた。
「ああ、そうだ。途中の航路で連絡船が大嵐に巻き込まれたらしくて、食料の到着が10日ぐらい遅れるらしいんだ…。」
さらにクリシアが口をはさんだ。
「その関係でセロウェ本島から緊急に食料の補給が来たの。…でも、この量じゃ持って 2〜3日じゃないかしら…。」
…成る程、この人ごみは食料の配給を待つ人たちだったのか…。…じゃあ、俺ものんびりしていられないじゃないか!もらいに行かないと!
180度振り返ってセロウェ本島の連絡船に続く列に加わろうとしたとき、
「あ、トレイスの分ならもうもらってあるよ。」
ミシガンが紙袋を差し出した。
「…そ、そうか、悪いな。」
紙袋を受け取り、その中をのぞいてみた。…成る程、これじゃたしかに10日は持たない…。
「…ひどいなこれは…。俺達にこれっぽっちの食料であと10日も我慢しろって言うのか?」
俺達みたいにある程度裕福(自分で言うのも難だが)な家なら、少しは備蓄があるからまだいいが、普通の人たちはどうなるのだろうか。もちろん多少の備蓄はあるだろうが、
島の風習として月最後の土曜日の晩は盛大な夕食で残っている食材をほぼ使い切ってしまう家がほとんどだ。以前にも何度か連絡船の到着が遅れたことはあったが、その時は早いうちに連絡があったのでそれほどの混乱もなくて済んでいた。しかし、今回のように連絡船の到着日になってからでは話が違いすぎる。数日後 |