日常 ある日、一通の電子メールが私のもとに届いた。 「お元気ですか?」 文面はただそれだけ。差出人の名前もなければ宛名もない。私はこの奇妙なメールをどうしようか考えた。悪戯であるかもしれないし、そうでないかもしれない。あるいは、間違えて送られてきたのかもしれない。考え始めればキリがない。 私はふと笑みをこぼした。メールサービスを始めたとき、私はこんな日を夢見ていたような気がする。まるで、ドラマか小説のワン・シーンのような一コマ。けれど、現実にはそうじゃない。私はただ、思案気に画面をみているだけだったのだから。 しばらくして私はマウスを扱うと「返信」を選択した。それから、いつになく慎重にキーボードを選んでいく。 「私は元気です」 私はそれだけを書きこむと送信ボタンを押した。簡単だ。今ごろはもう、私の言葉達が届いているのに違いない。私は妙にドキドキした。もしかしたら、今、この瞬間にもすでに読んでいるかもしれない。 そう考えていると早速受信マークがついた。私は急いで手紙を受取ってその封を切った。 「ありがとう」 今度の手紙にはそう書いてあった。ああ、なんと不思議な響きだろう。しばらく聞いていなかった一言のように思う。言葉とはこんなにも美しいものだったのか。私はそう思った。一体何が私にそう感じさせたのか、それは全くわからない。けれども、「彼」を私はステキだと思ったのだ。 それが為に私はすぐに返事ができなかった。「ありがとう」の言葉 を越える今の私を表現する一言を考えなければならなかったから。それでも、その何かを考えている一日、それは幸せだった。 私はすくなからず彼に感謝した。私の日常は少しずつ変わりつづけていくのだ。それが私には非常に嬉しかったのだ。繰り返される日常に含まれた非日常。彼は、私を十分に満足させてくれたわけである。 いつまでも終わることのない手紙の交換。小さな幸せの取引。 私のメールボックスは、今日も空っぽである。 あとがき この物語はある、サイトに投稿した作品で、1000字以内という規定の元で書きました。1000字というのは以外と厳しいものです。短すぎる…。しかも、今回は僕の思想じみたものを表現してみよう、ってなわけで、かなりわかりにくいと思います。な、なんのことはないものがたりですけどね…。僕としてはもっとわかりにくい物語も書いたことがありますが、それはまた後日投稿させていただくこととしましょう。 |
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1999.12.09