山頂の風(後編) そんなことがあって、すぐに元に戻れるはずもなかった…。みんなの中を妙に重苦しい空気が流れて、正直にいうとオレは息苦しかった。 オレは後悔してた。はっきり言うとオレは言いすぎたんだ。もっと別の言い方があったかもしれない。 「ね、拓郎君、起きてる?」 その夜寝つけないオレに声をかけたのは沙雪だった。 「ああ」 「散歩、行かない?」 そういうわけでオレは抜け出した。ほかの連中は一応寝てるらしい。少なくとも寝ているようには見せている。 「わりぃな」 バンガローの外にでるとオレはぼんやりと誤った。 「ん?」 「昼間の事…。なんか、オレ言いすぎたかな?」 「そんなこと、ないよ…」 月明かりが綺麗だった。虫の鳴き声が夏を感じさせてくれる。そこへ降り注ぐ月の光は白くて、ひんやり冷たくて、気持ち良くて、どこか不思議な輝きだった。 「ごめん」 今度あやまったのは沙雪だった。 「ね、待っててくれたんでしょ?」 オレは答えなかった。 「昼間、カッコ良かったぞ」 「ばぁか」 沙雪の声に少し恥ずかしくなってオレは照れ隠しにそう言った。虫の鳴き声に混じって川の音が聞こえる。それは、すごく、とても、綺麗だった。 「前に、海で溺れたの覚えてる?」 「ああ」 なんだか沙雪の声が違って聞こえる。胸がドキドキした。 「あの時、私すごく心配した。もう二度と会えないかと思った…。けどね、そのあとの拓郎がすごく元気で、私安心した…」 オレはただ聞いていた。オレは、本当に知っているのか?彼女の気持ちを…? 「でもね、がんばってたんだって、初めて知った。いつもいつもずっと、がんばってたんだって…」 そうかもしんねーよな。オレは頑張ってたかもしんねー。けど、それは…。 見えなきゃ見えないで良かったかもしれない…。オレはなるべく沙雪のそばにいようとした。困ったことがあったらいつでも助けてやりたいと思ってた。その困ったことが恋愛であったとしても、オレは助けてやりたい…と思った…。 「言っとくけど、無理しなくてもいいんだぜ?」 けど、結局気持ちは割り切れなかったのかもしれない…。 「無理なんかじゃないよ。今日、初めて、わかったんだ…」 「そっか…」 良助と夏実はきっと上手く行くだろう!よっしゃ!明日はみんなで川に泳ぎに行こう!
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1999.11.27