センチメンタル・グラフティ 〜真奈美編〜(8)
第十ニ話 栗林公園の日溜り
しばらく八島の山頂を散歩してから僕達は山を降りた。
「ねぇ、おなか減らない?」
「いえ、私は…。でもあなたは減ったみたいですね。それじゃあ、お昼にしましょうか」
そう言うわけで僕達は麓の四国村にあるうどんやに入ることにした。ここは雑誌なんかでも紹介している手打ちうどんの有名な店らしい。なんでも遠くから来る人もいるらしいと
か…。
「やっぱり讃岐のうどんは美味しいよ。真奈美はいいなぁ。毎日こんな美味しいものが食べられて」
「そうですか?私は東京に行きたいです…」
「はは、僕が会いに来るっていうのじゃだめ?」
僕は笑って答えた。彼女はそれを聞くと顔を赤くして沈黙してしまった。事実僕はまたここへ来たいと思っていた。
「でも、やっぱり讃岐のうどんは美味しいよ」
沈黙がほんの少し気まずくなったから僕は話題を変えた。
「あ、お口の周りにつゆが…」
「え?」
僕は彼女に言われて慌ててハンカチでそれを拭いた。さすがに少しカッコ悪いぞ…。
「あ、あんまり美味しいからさ」
「ふふふ。なんだか子供みたい」
やはり彼女の笑顔が一番だと僕は思った。
うどん屋を出てから僕達は四国の民族的な歴史がまとめてあると言う四国村を散策して栗林に向かった。
「相変わらず、大きな公園だよな」
「そうですね。ここには動物園もあるし。静だから私もよく休みに来るんですよ」
ここはいくつかの池があり、それを囲むように沢山の松の木がある。それもすごく綺麗に手入れされている。栗林と言うほどに昔は栗の木が多かったらしい。
「ふふ。お前達。今日はご機嫌みたいね」
ふと見ると日溜りに集まった小鳥に真奈美が話しかけていた。今日は彼女もご機嫌のよう だ。
「どうしたの?お腹がすいているの?まってて。今、ご飯を持ってくるから」
彼女が鳥達にそういうと彼女は気づいたように僕のほうを振返った。
「いいよ。一緒に行こう」
僕がそういうと彼女は嬉しそうに歩き出していた。
「この子達にはいつも励まされてるんです。私が寂しかったり、悲しかったりすると、いつもこの子達がそばにいてくれて。だから私、なにか恩返しがしたいんです。さっき、あなたが教えてくれたこと。私にできることを考えてみようと思います」
彼女は小鳥に餌をあげながら僕にそう話してくれた。
「うん。応援してる。それじゃ、もうすぐ閉園だから、このまま真奈美の家まで送ってく よ」
「え?そんな悪いです」
ここの閉園は五時だ。いくら真奈美の家の庭の入り口が近いと言って、そこから彼女の家まではいくらか距離がある。きっと家につく前に暗くなるだろう。それに…
「僕、明日には帰るから、今日は少しでも真奈美と一緒にいたいから。それとも迷惑かな?」
「そんな、迷惑だなんて…」
案の定真奈美の家につく前に辺りはすっかり暗くなってしまった。いくら真奈美の家の庭であるにしろ、僕が散々通った道であるにしろ、山道であることに変わりはない。
まして明かりの一つも持ってないからさすがに危なっかしい。
「大丈夫…」
「は、はい…」
尋ねると彼女は少し怯えた声で返事を返した。
「きゃっ」
その矢先。足元にあった石にでもつまずいたのだろう。彼女はバランスを崩してその場に転びかけた。
「大丈夫」
僕は彼女を支えると再び尋ねた。
「はい…」
再び同じような返事が返ってくる。あまり大丈夫ではないらしい。僕は思いきって彼女の手を握った。
「………」
怒られるかと少し不安もあったが彼女は何も言わなかった。
「あ、あの…、暗いので、手を離さないで下さいね…」
それからは得に危ないところもなく彼女の家にたどり着けた。
「あの、ありがあとうございました。明日、見送りに行きますから…。あの…、今度はいつ会えますか…?」
彼女は消え入りそうな声で僕に尋ねた…。
「ご、ごめんなさい…」
「いいよ。大丈夫。また電話でもするから…。それじゃ、またね」
第十三話 旅立ち
昼の人でごった返している高松の駅に真奈美は僕を見送りに来てくれた。
「私、ずっと鳥になれたら良いと思ってたんです。そしたら、自由に空を飛べるから。で も、私はあなたや他の皆に迷惑をかけてばかりで、助けられてばかりで…。そんな私に教えてくれたのはあなたでした。私にも人が飛ぶことの手助けはできるんだって。誰かの役に立てるんだって」
真奈美はホームで僕にそう話してくれた。
「僕は、、真奈美だって飛ぶ方の人間になれると思うよ。僕はいつも真奈美の優しさに助けられてるんだから」
僕は心底そう思っていた。
「あなたが私に翼をくれました。あれから考えたんですよ。私ができること。だから、今度来るとき、それを見てくださいね…」
僕はうなずいた。真奈美はあのとき僕との約束をちゃんと果たしたんだから、今度は僕が彼女との約束を守る番だ。
「そして私、決めたんです。もう、泣き虫は卒業するって。これ以上、あなたに迷惑掛けたくないから…」
真奈美…。
「でも、ごめんなさい。今日だけは、まだ、泣き虫のままで…」
プラットホームにアナウンスが入って僕は列車に乗り込んだ。窓越しに真奈美が立ってい る。僕は彼女の懸命に涙をこらえるその顔を目に焼き付けた。あの時いえなかった「さよなら」を、僕はまだ言わないでいいと思った…。
「ほう…。やっぱり彼女とは何やらあったんやな…」
列車が駅を離れ真奈美が見えなくなったところで後ろから声がした。関西のしゃべり方だ …。
「か、夏穂…?」
「たんなる友達とちゃうんか?」
さすがに返す言葉がない…。
「なんて、関西弁の迫力思い知ったか!」
確かに迫力はあるし、なんといっても夏穂の口から出る言葉だ…。
「って、鎌かけたのにその同様振りは…?」
「いや、突然だったからびっくりして…」
「ふぅ〜ん。本当かな?ま、いいや。ねね、このまま大阪まできなよ。お好み焼きやいて あげるから」
彼女の言葉を聞きながら僕は大阪での滞在の計算を頭の中でしていた。
完
あとがき
さてさて。やあっとピリオドが打てた。今回は完全に企画物。苦労しました。一種の挑戦ですか…?途中で怪我もして「完」が打てたときには感動!感動!
とりあえず、はぐま祭も終わって暇になります。また、小説でも書きますかね。夏休み明けにまたコンクールがあるはずだから。あと、空手もやんないと。
今回はあくまでセンチのストーリにこだわって書きましたが、次回は是非とも真奈美をオリジナル(?)で書いて見たいです。それでは恒例のスペシャルサンクス。忘れてはいけないのが真奈美嬢。
センチという素晴らしいゲームを提供してくださった皆様にも本当に感謝しています。 これまでの僕の作品の肥やしとなってきた沢山の面白い物語とそれを想像された偉大な
方々へ、どうもありがとうございました。
それでは、また別の作品でお会いしましょう。(できたらね) Feeling Heartを聞きながら
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