手紙 あなたに会いたくて 〜真奈美編〜
この物語はセガサターン用ゲームソフト、センチメンタルグラフティーに題材しています。
「前略。久しぶりだね。元気にしてた?俺はずっと元気だったよ。覚えてるかな?中学校のとき同じクラスだった…。突然の手紙で驚いたかな?最近奇妙な出来事があって、それで突然手紙を書いたんだ。きっと、きっと真奈美ならそれがなんだか解ってくれると俺は信じてる。きっと、近い内に会いに行くと思うけど、そんときはよろしくね」
真奈美はいくつか束になった手紙を胸に抱きしめて灰色の空を見上げていた。梅雨のずっと重い雲が重苦しくのしかかっては悲しい雨を降らせていた。
「私、泣き虫は卒業したいのに…」
三ヶ月ほど前、突然あの少年が訪ねてきた。ほんの短い間だったが、そのわずかな時間が真奈美の中の凍りついた時を充分に溶かした。そして、その翌日その手紙は届いた。
「彼はわかってくれた…」
純粋にそのことを嬉しく思った。
「覚えていますか、初めて会ったあの日のことを。あの、思い出を。あなたに、会いたい …」
差出人の名前も住所もないあんな手紙を彼はわかってくれたのだ。そして、会いに来てく れた。
それから、月に何回か手紙が来るようになった。あのとき、彼がプリントを持ってくるのを楽しみにしていたように、彼女は彼からの手紙を楽しみにしていた。
「でも、あなたはずっと遠い…。私なんかが手の届かないくらい遠い」
手紙が来るたびに彼の屈託のない笑顔を思い浮かべて真奈美は自分に翼があることを願っ た。
「私の中であなたがだんだんと薄くなっていくのが怖い…。でも、あなたの負担になるな ら、いっそ…。でも、私にはできない。もう一度、もう一度あの人に会って、そして、決めよう」
彼女は強く唇を噛むと机に向かった。窓の外に日の光はない…。
「今日も、高松は冷たい雨が降っています。季節のかわり目ですが、おかわりありませんか?私は、あなたが会いに来てくれたあの日から、ずいぶん調子もいいのです。でも、この冷たい雨は私には強すぎます…。もし、良ければまた、会いに来てくださいね。もし、
ご迷惑でなければ。私はいつもあなたを探してます…。真奈美」
あれから一ヶ月がたってカレンダーが七月をさしてもあいかわらず、雨は降っていた。真奈美は一人机に泣いていた。彼女が書いたあの手紙を最後に彼から何の連絡も来なかった
…。あの手紙を書いてから丁度一ヶ月がつ。そして…。
「すみません。真奈美さんいらっしゃいますか?」
「あら、あなたは真奈美様のお友達の方で…」
「ええ、で、真奈美さんはいらっしゃいますか?」
その日、リュックを背負った少年が傘を片手に杉原家の前に立っていた。それに対応しているのは家政婦である。
「それが、今朝方お出かけになったきり何の連絡もないのです。私も随分と心配で」
「あ、ありがとうございました」
少年は家政婦の話しを最後まで聞かずにそこを飛び出していた。
「真奈美!」
「………」
少年は声をかけた。自分は彼女を待たせすぎたのだ。彼女は振り向いてくれるだろうか…。
「え?ど、どうしてここに?」
「もちろん、真奈美に会うためにさ」
そこは女木島の山頂にある展望台だ。霧雨の中でぼんやりと真奈美がたちあがるのが見えた。
「ど、どうしてですか?もう会えないのかと、あなたには迷惑なんだと思ってたのに…」
「そんなことない。迷惑だなんて、そんなことないよ…」
少年は彼女の元へと歩み寄った。
「ごめん。気づいてやれなくて。真奈美があんなに悩んでるとは思わなかったんだ。ごめん。俺、甘えてたんだ。手紙っていう方法で真奈美に会えるから、実際に会えない自分を、
会いに行けない自分を誤魔化してたんだ。この一ヶ月、真奈美に会うためだけにお金貯めて、やっとここまで来たんだよ…」
彼女は何も言わずに彼の胸元に飛び込んだ。もはや、何も言うことはなかった。彼は、またしてもわかってくれた。そして、答えに導いてくれたのだ。
何よりも、彼のこのぬくもりがそれを示してくれる。
「どうして、ここだと解ったんですか…?」
真奈美は彼の胸の中で確かめた。
「ここは真奈美のお気に入りだって知ってたから。それに,今日のこの場所は…」
ここは初めてピッチちゃんに出会った場所。 今日は初めてピッチちゃんと出会った日。 そして、はじめてあなたをみつけた日…。
あとがき
あとがきです。というか、むしろ「いいわけ」です。今回の作品は「センチ」を中心に
かければと思ったのですが、何せ、構想十五分。製作一時間の大作(爆)です。随分と欠陥があるかと思いますが、大目にみた上で厳しい感想が貰えると嬉しいです…。
|