黄色や赤に輝く電球が、夜の暗闇を色とりどりに染めていく。
にぎやかにお囃子や太鼓の音が寺の境内に響きわたる。
     
結局、一匹もすくえなかったね。
星矢って見かけによらず不器用だったんだ。
そんなふうにいつまでもぶつぶつ言わないでよね。
いくら紙が弱かったって言っても取れなかったのは本当の事だし。
     
ほら、すぐそんなふうにむくれる。
     
金魚すくいは金魚が水面に浮いてきたところを狙わなきゃ
駄目だって、さっき隣にいた男の子が言ってただろ。
あんな小さい子に言われてムキになるところを見ると、
星矢もまだまだ子供ってことかな。
     
もう一度やるって?
     
だめだよ。どうせまたすくえっこないんだから。
…止めるだけ無駄みたいだね。
     
あ、待ってよ星矢。お財布持ってるのは僕なんだよ。
そう言うと、先を急ぐように星矢が僕の腕を引っ張っていく。
そんなに意気込まなくってもいいよ。まだ店は終わらないから。
僕の言葉は星矢には届かなかったのか、返事がない。
しばらくそうやって歩いていると、さっきとは違う店を見つけて
星矢が無言で僕に手を突き出す。
     
あのね。せめてものを言ってよ。
     
ほんとにもう一回だけだよ。
他にもやりたいものや買いたいものがあるんだから、
お金は大切に使わないとね。すぐに無くなるよ。
     
解ってるって?…本当に?
     
あ、それと小さい子たちを押し退けたりしないでよね。
恥ずかしいから。
ついでに星矢シャツの袖折ったほうがいいよ。
なんでって?水浸しになってることに気がついてないの?
さっき金魚掬うのに夢中で、手元まで注意してなかったみたいだし。
ほら、星矢あれなんてどう?動きが鈍いよ。すくえそうじゃないか。
…何でそうやって僕を睨むのさ。うるさいって?
いいよ、じゃあ黙ってる。
     
そのかわりすくえなかったらあざ笑ってやるからね。
     
金魚が泳ぐたび、水面がきらきらと光を反射しながら揺れる。 
少しまぶしくて僕はそこから目をそらすと、僕のすぐ後ろを
笑い声が通り過ぎていった。
ふとつられて振り向くと、お父さんらしい人に赤い服を着た
女の子がじゃれついている。
楽しそうだね。ころころとまるで子犬のように笑ってる。
少し視線をずらすと、今度は小さな赤ちゃんを抱いた若い
女の人が、隣の男の人とよりそうようにして歩いている。
あの子のお父さんとお母さんかな。
そんな事を考えながら、再び視線を走らせる。
若い人、年老いた人、まだ小さな子…。
     
 みんな幸せそうだね。
 みんな笑ってるね。
 よかったね。
     
僕たちのやって来たことは少しは役に立っているのかな。
そんなふうに考えてないと、負けそうになる自分が嫌になる。
     
ふいにパンッと何か冷たいもので後頭部を軽く殴られた。
慌てて僕は振り向くと星矢が立っていた。
星矢? どうしたの?
僕は星矢の手元を見ると、やっぱり金魚は見当たらない。  
あ、やっぱり掬えなかったんだ。
そのかわり、水風船が握られている。
さっき僕を殴ったのはそれだね。
どうりで弾力性があるなって思ったよ。
その風船をパンッパンッと空中に投げながら、
星矢が視線で歩こうという。
     
どうしたの、星矢。何不機嫌になってるのさ。
ばーかって。どうして?僕何かした?
     
僕の前を歩いている星矢は、振り向こうとしないけれど
それ以上足を早める様子もない。
結局する事もなく、ただ僕達は歩いていた。
     
金魚。唐突に星矢が口を開く。え?と僕は聞き返す。
金魚四匹とれたけど、隣の奴とこれと交換した。
そう言いながら星矢が僕にさっきの水風船を指し示す。
どうして?僕がそう尋ねると、星矢が振り返って
少し淋しそうに笑っていった。
     
どうせ飼えないもんな。
     
僕は立ち止まる。そうだね。まだ飼えないね。
面倒見る人、いないと死んでしまうかもしれないし。
     
でもいつか飼いたいな。
金魚だけじゃなくって犬とか猫とか…。
僕がそう言うと、絶対そうしようぜ、と星矢が答えてくれた。
     
ごめんねといいかけて僕は黙る。
こんなこと言うときっと星矢は怒るから。
あやまるなって。
僕が何か悪いことをした訳じゃないんだからってきっと言うよ。
だけど、やっぱり僕は心の中でつぶやいてしまう。
     
心配かけて、ごめんね。
弱音はいて、ごめんね。
     
でもどうせ飼うなら大型犬のほうにしようと言う星矢の背中に
僕は小さく告げる。
     
がんばろうね。
ああ、と星矢がうなずいた。
     
     
*END*
     
     


この話は個人誌10「海の時間」で書いたものです。
(在庫あるよ〜よろしく〜!(^^;))
めずらしく星矢と瞬だけの本なのですが、その中でも
この話が一番気に入っています。
瞬の一人称だけの話なのですが、私にしては珍しい
書き方だし、かなり出来がいいのでは…と言う感じで。
う〜ん、自己満足。(笑)
じつは、これも元ネタあり!です。m(_ _;)m
中島みゆき様の曲で その名もずばり「金魚」。
少しはひねりなさい、私;
歌詞も、今回の話そのものです。一度聞いてみて下さいね。 
歌い方も、子供をイメージした感じでせつないの。
ただ、飼えない理由はもちろん聖闘士だからではなく
「旅暮らし」っていうのが本当の歌詞ですけど。
でもやっぱり、こうやって夜の祭りに出かけたり
露店をめぐってなんだかんだするのは、年少組の星矢と瞬
ならではって気がします。
      
      

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