「迷いましたね…。」 「おう。」 「困りましたねぇ......。」 「ま──ね。」 「…悟浄、あなた帰り道探す気ないでしょう。」 「当ったりぃ〜〜〜。」 悟浄と八戒は、道に迷っていた。 現在居る場所がどこかと言うと、ジャングルの真っ只中である。 ジャングル? 熱帯雨林というには一寸語弊があるだろう。 けれども、悟浄と八戒が知っている単語の中で、一番近いのがその言葉であった。 とある温泉郷を出て、山脈沿いに三日ばかり街道を走った。 温泉での思いも寄らない長逗留に、やや焦り気味の三蔵が、突然、山越えを決断したのだ。 ジープも通れない、獣道に毛の生えたような(獣だけに毛は生えている)山道を、三蔵一行 は踏破する事になった。 地図に寄れば、それほど標高の高い山では無いし、距離的にもさほどの事は無いはずであ ったが、生憎地図には無い深い谷に出くわして時間を取られてしまった。 結局、山を越える前に日が落ちてしまい、山中での野宿と相成ってしまったのである。 どうやらこの山脈は、火山帯であったらしい。 温泉郷があるくらいだから当然と言えば当然だろう。 何所と無く硫黄臭い空気に、鼻が犬並みに敏感な悟空はぐったりとしている。 携帯食料と水の残量も心もとないため、夕食の後、悟浄と八戒は辺りを探索に出たのであった。 「まったく、こんな所に足を踏み入れたりするから…」 そう、こんなところ。 野営地から5分ほど歩いた所に、岩肌に囲まれるような緑の繁る森があった。 植物が生えているなら、水も手に入るかもしれないし、何か食料になるものが生えている かもしれないと言ったのは悟浄である。 八戒もその意見には賛成だったが、近づいてみれば思ったより深い森にいささか躊躇したのだ。 「あまり奥に行くと迷子になるって、言ったじゃないですか。」 森に入った途端、悟浄はこっちこっちと八戒の手を引っ張り、奥へ奥へと導いていった。 水の気配がするとか、果物の匂いがするとか、いかにも尤もな理由をつけては、更に奥へ と足を踏み入れて行ったのだ。 で、結果がこれである。 「どうするんです、もう。」 当然、八戒は不機嫌である。 悟浄の魂胆が見え見えだと言うのも理由の一つだが、周りの様子がいかにも胡散臭いほど 奇妙なのだ。 全てが、大きい。 植物が、全て常軌を逸した大きさなのである。 足元にカーペットのように分厚く生えている杉苔はまだ良い。 けれども、その隣に生えているゼニ苔ときたら、まるで干からびたスライムのようにべろ んと伸び、羊歯の葉などはそれ一枚で屋根になりそうなほどなのだ。 「コロボックルな気分?いや〜〜、メルヘンだねぇ〜。」 悟浄はそんな些細な事は気にもならないらしい。 羊歯の葉の裏にぶつぶつと並んでいる胞子だって、掌で転がせそうなサイズだと言うのに。 大きいだけならまだ良い。夜目でよくは解らないが、どうやら色彩も尋常では無いようだ。 「悟浄...植物だけなら良いですけど、それにあわせて虫や動物まで大きかったら どうするんです?」 てんとう虫とかモンシロチョウならビッグサイズで出てきても、まあ、それはそれなりに可 愛いのかもしれないが、蜘蛛や蟷螂だったら一寸困る。どうに見てもこちらが被捕食者では ないか。 「ん〜〜、生き物の気配はしねぇから、大丈夫じゃねぇ?」 「仲間を呼ばないで下さいね。」 大型サイズの色変わり害虫。すなわち、ビッグアカゴキブリ。 頭の上を見上げれば、畳ほどもある葉っぱに邪魔されて星空も見えないから、方位を調べ る事も出来ない。 それで現在、この方向感覚を失わせるほどに大きな植物に囲まれて、二人は立ち往生して いると言う訳なのだ。 「ま、朝になりゃ明るくなるから、帰る方向もわかるだろうって。とりあえず今晩は、 ここで過ごそうぜ。何とかなるって。」 八戒は、思い切り盛大な溜め息をつく事で、腹立ちを宥める事しか出来なかった。 「そうと決まれば、もう少しマシな所を探そうぜ。ここじゃ寝るにしても、 地面が湿っぽすぎるだろ。」 悟浄はそう言って八戒の手を取ると、夜目のあまり利かない八戒を先導して、森の中を歩 き始めた。 「それにしても、暑いな。何だってんだ?」 森に入った辺りから気が着いていたが、この場所は酷く気温が高い。 「この辺は火山帯じゃないですか。何でか解りませんが、この一体だけ凄く地熱が高いん ですよ。植物が大きいのも、多分それが理由の一つじゃないかと思います。」 暖かいから、大きくなって色も変わると言う訳では無いだろう。 地形の影響とか、火山ガスの影響とか、あるいはそれらにプラスして負の波動の影響もあ るのかもしれない。世の中、信じられない現象は結構あるものなのだから。 「お、あそこなんかイイんじゃねぇ?」 斜面を登るようにして、少し高い所に出た二人は、狭い空き地の少し先に木がまばらに生 えている林を見つけた。 直径50センチほどの真っ直ぐな幹が地面から伸び、それぞれの木の間隔が結構あるうえ に下草が生えていないので、積もった落ち葉も乾いているようだ。 「そうですね、そうしましょうか。」 八戒は、左手で傍らの草ともいえない大きさの植物を押しのけながら、あっさりと同意した。 「あれ?」 一枚の葉を、暖簾のように潜り抜けたとき、八戒がふと足を止めた。 「ナニ?どうした、八戒。」 悟浄が振り返って、怪訝そうに尋ねた。 「ほら、あれ。」 八戒は、葉の付け根を指差して、少しばかり嬉しそうに言った。 「見えますか?花が咲いているでしょう。ほら、そこのところ。」 「あ?......ああ、ホントだ。」 真っ直ぐに伸びた一本の茎。そこからたくさんの大きな葉が茂っているが、その葉の付け 根に赤い塊が見えた。 「ラーメンのどんぶり位、でかいな。」 「…......ユニークな比喩ですね。悟空並みに。」 八戒は呆れたように、けれども意外に機嫌よく、手を伸ばして花びらを一枚そっと千切り 取った。 「ああ、やっぱり。これ、鳳仙花です。」 「ホーセンカ?」 「ええ。さっきから気が着いていたんですが、この場所に生えている植物って、本当に色 いろなんです。普通だったらこんな山の中には生えないような品種もありました。園芸 種に近いものや、熱帯の植物まで。これじゃ、まるで巨人の温室ですね。」 ────イエティ・ガーデン? もう少し標高が高くて、雪山だったりしたら、その可能性もあるかもしれない。 「それに、随分成長が早いみたいです。大きいだけじゃなくて、成長のサイクルも 早いんですね。」 鳳仙花の花をじっと見ていると、少しずつだが萎れてきているようだ。 下の方の花は既に花びらを落として、緑色の種が出来つつある。 八戒は、面白そうにそう言って、花びらを指先で玩んだ。白い指先が紅色に染まる。 「これ、染まるんですよ。孤児院の女の子達がこれで爪を染めて遊んでいました。」 「へえ。」 そう言って、悟浄は頭上の大きな葉を折り取った。 高くそびえた木々の間から、夜空が垣間見える。 月の光が直接届くわけでは無いが、十六夜の月のお陰で空全体が紺色に明るい。 悟浄は、自分も手を伸ばして鳳仙花の花びらを一枚摘み取った。 夜空の優しい明るさで、二人の周囲はぼんやりと明るい。互いの表情も、僅かながら目に 見えるようになった。 「ちょっと、貸してみ。」 八戒に倣って、悟浄は花びらを指先で揉むと、彼の左手を取って爪先にその汁を擦りつけた。 左手の薬指。 夜に浮かび上がる白い指先に、その紅は良く映える。 形の良い爪が、紅色に、一つだけ。 そして、悟浄は徐に顔を俯け、薬指の付け根にキスを落とした。 紅色の爪は、ルビーの輝きには遠く及ばないが、濡れたように光って美しい。 この薬指に、宝石のエンゲージリングが輝く事は無いだろうけれど、気持はキスに篭めて その場所に落とす。刻印のように。 八戒は、一瞬くすぐったそうに身を竦めるが、次の瞬間、悪戯っぽそうに笑って、悟浄の 手から指を取り返した。 「touch me not」 「…...え?」 「鳳仙花の英語名ですよ。『触らないで』って。」 八戒は楽しそうに、クスクスと笑って言った。 「何で、触るなっつうのが名前なんだ?」 悟浄の言葉に、八戒は鳳仙花の茎の、下の方を指差した。 根元近くの花は、既に実になっている。ラグビーボールくらいの大きさのそれは、薄茶色 がかった緑で固い毛で覆われていた。 「その種に触ってみてください。」 悟浄は怪訝な顔をしながらも、言われたとおりに手を伸ばし、種にポンと掌を置いた。 パンッ!...パチ、パチ、パチ... 「テッ!イテテッ!」 種を包んでいた苞が、一瞬で捲くれ上がって中身が弾け跳んだ。 黒い小さな種(普通サイズなら)が悟浄の顔面に凄い勢いでぶつかって来たのだ。 この場合、種一つがピンポン球くらいはあったので、パチパチと言うよりは、ゴンゴンと かボコボコと言う方が正しいかもしれない。 「ね?触ると痛いですよって。そう言う意味です。」 八戒は、人の悪い笑みでしゃあしゃあと言ってのけた。 「…コノヤロ。」 そういう事は口で言え、と名前の意味を身を持って体験させられた悟浄は、いきなり八戒 の胸倉を掴んだ。おデコが少しばかり赤い。 「仕返し!」 悟浄は胸倉を掴んで引き寄せた八戒の身体を、両腕の中に閉じ込めて抱き締めると、いき なり深く唇を合わせた。 「んっ!......ご......」 そのまま、熱く深く求めて、息継ぎの暇も与えないほど長く口内を蹂躙すると、腕の中の 身体が重みを増した。 「種にとっちゃ、触ってくれってことだろ。触ってもらって、弾けて、種を飛ばしたいん じゃねえの?」 濃厚なキスの後で、悟浄がからかうように言った。 「触るな、なんて名前、嫌よ嫌よも好きのうちって意味だぜ。ホントは触って貰って、 弾けて気持ちよくなりたいのさ。実はお前も、そうなんだろ。」 返事も出来ずに呼吸を整えている八戒の、膝が砕けた身体を、悟浄は軽々と抱き上げて歩 き出した。 先ほど見つけた林の中へ、すたすたと入ってゆく。八戒は、意外にも大人しく身体を預け ていた。 「…スゲェ。」 林を形作る木々を間近に見たとき、悟浄は思わず口に出して呟いた。 「これ…...竹ですか。」 林は竹林であった。大人が腕を伸ばして一抱えはある幹は、綺麗な緑色で節がある。 つやつやと磨かれたような竹の肌は、空高く繁る葉の隙間を、忍びやかに抜けてくる月光 に照らされて、鏡のように輝いていた。 悟浄はそっと、竹の落ち葉の上に八戒を下ろした。カサカサとよく乾いて積もった落ち葉 の褥は、香ばしく柔らかい。八戒は落ち葉の一枚を手にとって言った。 「竹の葉にしては、随分柔らかいですね。こんなに大きいのに。ちょっと和紙みたいな 手触りですよ。」 「上等じゃねぇの。」 これならぐっすりと眠れるかもしれない。 辺りは薄っすらと暖かく、風邪を引く事も無さそうだ。 「迷子になっても、こんなイイとこ見つかったんだから、いいだろ?」 「迷子...は、わざとでしょう?」 二人きりになりたかった悟浄の下心はお見通しだ。 「ま、ね。準備は万端。」 悟浄は、ズボンのポケットを上から軽く叩いた。 何が入っているかは、言わずもがなである。 柔らかな落ち葉の上で、まるで隔離されたような不可思議な空間で、二人は暫らく互いを 見つめ合って口付けを交わした。 悟浄の指先が器用に動き、ふと気が着けば八戒の衣服は全て剥ぎ取られ、辺りに散乱して いる。素肌に触れる落ち葉の感触までもが、目覚め始めた官能をより早く燃え上がらせる ようで、八戒は切なげに眉を顰めた。 煽り立てるその表情に、悟浄は衣服を脱ぐ間も惜しいと、上半身だけ裸になり、ジーンズ は前を開けるだけに留める。 何かあったら(無いとは思うが)自分が時間稼ぎをするつもりなのだ。 「何か、ココ。天然のラブホみたいジャン。」 「え?」 頬を薄紅に染めて、それでも八戒は訝しげな表情をして見せた。 「そこ、見てみろよ。」 悟浄が指差すのは、傍らに立つ一本の竹。八戒が怪訝そうに見つめれば、磨き抜かれたよ うなその幹は、そんな八戒の表情も綺麗に映し出す。 「ちょっと、鏡張り気分。」 確かに少し曲面ではあるが、月明かりに照らされた二人の姿を、竹は余す所無く映している。 「あっ!...ちょっと、悟浄。それはっ...」 初めて気が着いた八戒は、さすがにそれは嫌だと身を捩る。 「イイだろ。誰もいねぇし...」 ここは、隔離されたエデンかもしれない。八戒はふと、そう思った。 静かに身体の力を抜いて、そっと眼を瞑る。 誰も居ない空間に、さらさらと気持の良い音が流れていた。 「…雨の音...みたいですね。」 「え?......ああ...」 サラサラ、シャラシャラ...、サラサラ... 「何の...音だ?」 悟浄は動きを止めて、耳を欹てた。 遠いような近いような、高いような低いような、時折止まってはまた続く音楽のようなリズム。 「竹の、落ち葉の音でしょう。」 「竹の...落ち葉?...こんなに、たくさんかよ。」 「ここは成長のサイクルが早いんですよ。竹は、春、筍が出るころに葉を落とすんです。 新しく出る筍に、栄養を上げちゃうんで葉が落ちるらしいです。だから、その時期の 事を『竹の秋』って言うんですよ。」 八戒は、どこか夢見るようにおっとりと話した。 雨に似た音で、八戒がどこか心を痛めているのではと懸念した悟浄は、その表情に安心した。 「大丈夫だよな。」 悟浄の言葉に、八戒の方は何のことだろうと一瞬首を傾げたが、すぐにその意図する所を 理解したのか、ふんわりと笑って言った。 「ええ、優しい音ですよね。」 優しい、雨に似た音。雨を思い出させる、綺麗な音。 似てはいるけれど、それは冷たい雨では無いし、何より今は、悟浄がここに居るから。 八戒の瞳が、そう雄弁に語っていた。その横顔を、いくつもの竹の幹がたくさんの角度か ら映し出し、悟浄はその真実に心から嬉しくなった。 エデンの園で、慈しみ合い愛し合い、睦みあって互いを育む人類の祖先のように。 二人は互いの存在を、身体と心で確かめ合って何時までも抱き合っていた。 ────あ? 寒いわけでは無いのに、どこか肌が寂しい。 八戒は、ゆっくりと覚醒する意識の中で、何か物足りないものを覚えた。 いつも、目が覚めた時に感じる、熱い肌の温度と腕の重み。 愛し合って迎えた目覚めの瞬間、いつも真っ先に感じる悟浄が、今は傍に居ないのだと言 うことに八戒は気付いた。 昨晩、この竹の落ち葉の褥で、二人は心ゆくまで愛し合った。 その疲れと暖かさに誘われて、そのまま眠りについたところまでは、おぼろげながら覚え ている。悟浄は、緩やかに八戒の身体に腕を回していた筈だ。 「…...悟浄?」 恐る恐る、そっとその名を唇に乗せて、八戒は静かに身を起こした。 生まれたままの姿で、何一つ身に纏っていない。 辺りはもうすっかり明るくなり、朝に日差しが木漏れ日になってあたりに降り注いでいる。 「悟浄?」 心細さにそっと辺りを窺う。 辺りには悟浄の姿どころかその服も、八戒の衣類さえもが無くなっていて、ただたくさん の竹の幹だけが、裸で所在無く座る八戒の姿を映し出している。 「どこです?…悟浄。」 どうしていいやら解らずにいる八戒の耳に、遠くから元気の良い声が近づいてきた。 「八戒〜〜〜!どこ〜〜?」 悟空の声だ。 朝になって、帰ってこない二人を探しに来てくれたのだろう。けれども。 ────ちょ、ちょっと、待ってくださいっ。 今、この場に来られたら、何をどう言って誤魔化せばいいというのだろう。 一糸纏わぬ姿で、辺りには身に付けるものも無い。 大きな葉っぱの一枚でもあれば、それこそ原住民のように一部分だけでも隠せるのに、 この竹林には下草の一株さえない。 「八戒〜〜!......こっちの方で、声がしたと思うんだけど...」 どうやら、耳の良い悟空は、先ほどの八戒の呟きを聞き取ったようである。 「竹が邪魔で、先がよく見えねぇよぅ。多分、こっちだぞ、三蔵。」 ────三蔵も、一緒なんですかっ! 冗談じゃない。 八戒は、必死の思いで辺りを見回した。 「八戒〜〜!」 「…あ、はい。ここです、悟空。」 悟空が声のする方に眼をやって、そこに見た物は。 竹の落ち葉を山のようにかき寄せて、そこから首だけをちょこんと出している八戒の姿で あった。 「…...ナニ...やってんの?...八戒?」 八戒だよな、と幾分腰が引け気味になりながらも、悟空はゆっくりと近づいてきた。 その手には、腕の太さほどもあるバナナを房ごと抱きかかえている。 「あ…おはようございます。そのバナナ、見つけたんですか?」 かなり間抜けな状況で、それでも言葉がいつも通りなのが八戒だ。 が、結構シュールな光景ではある。 「え?...ああ、ええと......うん。アッチの森で見つけた。林檎もあったぞ。八戒食べる?」 ────林檎…食べなくても、充分恥ずかしいです。 思わず下を向いてしまう八戒である。 「てめぇ、ナニやってやがる。」 後から現れた三蔵が、どうにも呆れたと言う声音で言った。 「あ、そうだよ。八戒、それナニ?落ち葉風呂?」 確かに、ぬくぬくと暖かいけれど。 「それに、悟浄は?」 そう、未だに悟浄は姿を見せない。それに気が着いた八戒は、無性に腹が立ってきた。 ─────人をこんな所に、こんな格好で放置しておいて! 怒りと恥ずかしさで真っ赤になった八戒は、声もでない。 「あれ?......今、何か聞こえた。」 ふいに、悟空が辺りをキョロキョロと見まわして言った。 「…......ぃ…...ここ…...ぉ…」 つられて辺りを見回した三蔵と八戒だが、悟浄の姿は見当たらない。 「ああ〜〜〜っ!あそこだっ!」 悟空が大声を上げて指差したのは、遥か頭上であった。 成長の早い竹林だった。 一晩の内に、二人の褥の真下で生まれた筍が、見る見るうち生長して一本の竹になってい たのであった。 悟浄はジーンズだけは脱がずに居た。丁度そのジーンズの中に、筍の穂先が潜り込んで、 そのまま上へ上へと育ったのだろう。 前は開けっ放しだったので、悟浄の筍が仲間を呼んだのかもしれない。 悟浄は、前を全開にした格好で、ジーンズごと空高く吊り上げられていたのであった。 大切な息子の付け根に、ジーンズが食い込んで声も出せないほど痛かったらしい。 二人の衣服も、何本もの若竹の先端に引っ掛かって、空高く翻っていた。 その後、無事地上に救出された悟浄が、三蔵から特大のハリセンを喰らい、衣服を取って もらって身支度を済ませた八戒が、悟空からたくさんの質問を受けた事は言うまでも無い。 悟浄が、八戒から一月近くお預けを喰らったと言う事も。 *END* |