静かな静かな夜。
「ん、」
ベッドの隣で寝返りを打つ同居人。
今日はいい天気だった。
それと同居人の寝返りとどう関係するかといえば・・・。



「今日は、何か予定ありますか?」
「ないけど、どして?」
「手伝って欲しいんですけど」
いたって爽やかな朝、八戒のにっこりと拒否不可能な笑顔で言われては、断ることもできない。
「何を?」
「さしあたっては、庭の草むしりです。あとは、僕の指示に従ってください」
麦わら帽子にタオルという、子供のようないでたちでぶちぶちと伸び放題の草をむしってゆく。
その間に八戒は、布団を干したり、クローゼットの中から服を取り出し、洗濯したものをこれ
また干してゆく。
「何してんの?」
「衣替えです」
手渡された濡れた服。
物干しにかけるのを手伝えと言っているのだろうか?
「いつもは一人で大変なんですけれど、今日は悟浄がいるから大助かりです」
「草むしりが?」
「草をバカにしては駄目ですよ。指を切ったり、汁が服につくとシミになったりしますし」
「そんなもんなんだ」
「季節が巡れば、また着られるように洗濯しなければならないし」
「ふうん」
「太陽に干すと日光消毒になります。
 しまいっぱなしの衣類には防虫剤の匂いが染み付いてますし」
「それは、嫌だ」
「でしょ、はい」
微笑まれて渡されれば、素直に受け取ってしまうしかない。
八戒の干したものを見よう見まねで、手の中のものを干してみる。
意外と重労働だ。
一人暮らしの時も確かにやっていたような気はするが、ごくごく最小限なものだった。
水を含んだ布は、ずしりと重く肩にのしかかる。
それを物干しにかけ、形を整える。
干し終わった物干しは、洗濯物がはたはたと風になびいて一仕事を終えた充実感を
悟浄に与えた。
それからも大変。
開いたクローゼットの中を拭き、防虫剤の入れ替え。
部屋は手際よく掃除機をかける。
ひと時もじっとしていない八戒。
「一休みしようぜ」
と声をかけても、
「悟浄は休んでいてください、コーヒー淹れてありますから」
と、黙々と何かをしている。
日が傾きかけると、干したものを取り込む。
あんなに重かった洗濯物が、からりと乾いて軽くなっているのが不思議だ。
「いつも八戒ってこんなことしてるんだ」
取り込んだ洗濯物をたたむその背中を眺めて言うと、
「今日は、悟浄が手伝ってくれたから、いつも以上のことができました」
と笑う。
それからは、夕食に後片付けに風呂。
寝室に悟浄が入った時には、八戒は夢の国に住人だった。



昼はずっと動きっぱなしで、疲れているはずなのに、一定時間経つと寝返りをうつ。
「眠れないのか?」
そっと声をかけた。
ぴくっと大きく体が跳ね、
「もしかして起こしてしまいました?」
体を反転させて、瑞々しい碧の瞳が悟浄を見つめる。
「偶然、目が覚めただけ」
八戒を気づかい、冗談めかして悟浄はウインクした。
慣れない仕事を任せた悟浄こそ、疲れているだろうに、こうして優しく気づかうその行為が
八戒には嬉しかった。
「何かあった?」
遠慮がちに聞いてくる。
何でもありません・・・といえば、悟浄が傷つく。
言動は粗野なのにそこへいたるプロセスは繊細。
八戒は驚かさないよう、そっと白い腕を伸ばし、悟浄の首に巻きつける。
体を伸ばし、男らしいその唇に自らの唇を重ねた。
「八戒?これってお誘い?」
「悟浄の好きにとってください」
「疲れているんだろ?」
「僕も動物ですから」
悟浄の紅い髪を一房手に取り、口付ける。
「何だよ、動物って」
笑いながら、簡単にころんと体を反転させられる。
艶やかな紅いの髪が、背後の窓から見える月を染める。
「んっ」
手品のようにすばやく夜具の前をはだけられ、悟浄と肌を合わせるようになってからさらに
敏感になった両胸の尖りを含まれる。
悟浄の唇で硬くなっていくのが分かった。
始めはくすぐったくて、それからやがて得も言われぬ甘い痺れが背をじんわりと上っていく。
それから、悟浄は八戒の腹の傷を癒すように口付けてくれた。
悟浄の頬の傷と同じ、いつまでたっても治ることのない傷。
それはまだ、自分の中で踏ん切りがついてない証拠。
悟浄は何も言わず、全身全霊で八戒を愛してくれる。
「あっ」
傷あとに意識を飛ばしているうちに悟浄は、八戒の膝裏に手を差し入れ、鳥が翼を広げるよう
に左右に開いた。
目前に濡れ始めた細身の八戒。
節くれだった悟浄の指が添えられ、熱い口腔に含まれた。
器用な舌先が、八戒を舐めあげる。
「あ、・・・・あ、・・・んん」
気持ちいいポイントを攻めると、甘い声が八戒の薄桃に染まる唇から漏れた。
声をかみ殺そうと、白く細い腕が口元に伸びているが、悟浄の容赦なく優しい愛撫がそれを
阻止する。
悟浄の口に含みきれなかった蜜を指でぬぐい、奥で密かに咲き乱れるのを待つ蕾に塗りつける。
「はっ」
たっぷりと蜜を絡ませた悟浄の指が、まだ硬い八戒の蕾に差し込まれた。
始めは抵抗が激しかったが、すぐにも悟浄の指を締め付けるまでに解けている。
出し入れのリズムに合わせ、何かを求めるように白い手がシーツを掻く。
「あぁ、・・・・は、はぁ」
のけぞる白いのど、シーツに乱れる八戒の髪。
犬がミルクを飲むような濡れた音と、八戒の漏らす吐息が静かな部屋に響く。
目蓋が薄く開き、潤んで濃い碧の瞳が悟浄を惹きつける。
「あ、ご、・・悟浄っ、も、・・・・・もぅ」
息も絶え絶えで、切ない声が八戒から発せられ、ほどなく悟浄の口の中で果てた。
はぁはぁと胸で息をしている八戒を見つめながら、悟浄は口中のものを飲み込んだ。
先ほどからの八戒の痴態に、熱くなった悟浄を取り出し、待ちわびる開かれた蕾にあてがい
一気に貫く。
「ああ、」
ぬめる八戒が悟浄を熱く包み込む。
ぐっと白い腕が悟浄の背に回され、抱きついてくる。
密着度が高くなり、いっそう奥へと突き進む悟浄に八戒は、甘いため息で答えた。
角度を変え、強さを速度を変えるたびに絡みつく八戒は貪欲で、悟浄を楽しませる。
もっと長くいたいのに、それはあっけなく訪れた。
「八戒っ」
ぐいぐいと突き上げ、絶頂を示し始めた悟浄に強くしがみついて、その時を待つ。
「!」
悟浄が体内で弾けた。
荒い息をつく悟浄を強く抱きしめ、八戒もまた頂上を極める。
「八戒、大丈夫か?」
「ええ」
お互いが荒い息の中、深く繋がりあったまま、見詰め合う。
「これで眠れる?」
「はい」
「そっか、よかった」
「悟浄、ありがとうございます」
心底ほっとした悟浄の様子に笑みがこぼれる。
「眠れなかった理由が分かりましたから、もう大丈夫です」
「?」
「雨です」
「雨?今夜は月夜だぜ?」
「うーんと正確には、天気ではありません」
「?」
首を傾げる悟浄。
「聞こえませんか?ぽたん、ぽたんって」
「?・・・・・・蛇口!」
きっちり締めたはずの水道から落ちる水滴が雨音に聞こえて寝付けなかった。
でも、今はその音が聞こえても悟浄がいる。
大きな腕で抱きしめられれば、怖くない。 「オレも白状するかな」
「何です?」
「オレも同じ音で起きました」
「え?」
「ま、オレの場合、この音とセットなのは女の喘ぎ声だけどな」
それは、幼い頃の悟浄の兄とその母の・・・。
「お互いの安眠のために、明日、交換しないとな」
「そうですね」
微笑あって、軽く音を立ててキスを交わす。
ゆっくりと二人は結び合った体を解き、寄り添って目を閉じた。
明日も今日のように晴れるといいと願いながら。





*END*






いつも側にいなくても、本当に必要な時に解ってくれる事が大切なんですよね。
何気なく過ごす日常という時間も、そんな「必要」な時間のひとつになって
行くんだろうなぁと思います。《結花》


真浜ゆりさまのサイト 《無罪也。》



《言の葉あそび》